俳優がただただカラオケを歌い回すイベントです! 珍しい? 俳優によるカラオケ発表会! 俳優の選曲と歌声に注目!

俳優がただただカラオケを歌い回すイベントです! 珍しい? 俳優によるカラオケ発表会! 俳優の選曲と歌声に注目!

 俳優たちによる『カラオケ発表会』!? 9月10日に一日限りでおこなわれるこの企画を立てたのは、演劇集団キャラメルボックスの多田直人。ステージに立つ俳優だからこそ、楽しめるカラオケがある。なぜコンサートでもリサイタルでもなくカラオケにこだわるのか。その企画の遍歴や、描く未来から、多田直人の俳優観も見え隠れする。

カラオケには、親密感と特別感の両方がある

───なぜ『カラオケ発表会』の企画を?

 「僕は歌が好きで、コロナ禍前は俳優たちとよくカラオケに行っていたんです。そこで『役者のカラオケって力があるな、言葉を磨く仕事だから歌にも魅力がこもるのかな』と感じて、自分だけ聞いてるのはもったいないなと思っていました。
 あと、僕はずっとオフ会に憧れていて、2018年にカラオケオフ会をやったんですよ。自分でパーティールームを予約して、40人くらい呼んで、僕が歌える曲を全部リストに書き出して一人ひとりに配って『どうぞ入れてください』って。2時間歌いっぱなしだったけど、僕も楽しかったしお客さんも楽しんでいただけた感じがあった。第2回オフ会の時には劇団員2人にも一緒に歌ってもらいました。2019年にはカラオケ機材のあるライブハウスを予約して、俳優によるカラオケ発表会も企画しました。そして今回の『Sing by Actor!』です!」

───副題は「俳優によるカラオケ発表会」です。俳優がカラオケを歌うことの面白さをどんなところに感じていますか?

 「どんな歌を歌うのかとか、カラオケになると声が変わる人とか普段喋ってるところのギャップとかが楽しんでもらえるんじゃないかな。やっぱり『カラオケ発表会』だということが1つのポイントで、身内とカラオケしている感覚と、何十人もの前で歌っている感覚では緊張感が少し違う。そこでの役者の立ち振舞いの微妙な感じが面白い。ちょっと戸惑っていたり、緊張していたり、楽しく歌っていたり……そういう波動が、劇場よりも少し閉じられた空間の親密さによって伝わりやすくなる。楽しさもより伝わって、一体感もうまれる。発表会なので普段よりドレッシーな格好でおこなう予定です。親密感と特別感の両方があって、これはけっこう良いところに目を付けた企画なんじゃないかなと自分では思っています(笑)」

昼はキャラメルボックス、夜はミュージカル俳優

───出演者が、昼は7名、夜は6名。それぞれの違いは?

 「昼の部はキャラメルボックスのメンバーで固めました。渡邊安理と関根翔太は第2回カラオケオフ会と第1回カラオケ発表会にも出てくれて、左東広之は劇団内でユニットを組まされていたので歌声も知っています。あとは歌わせたら楽しそうな林貴子、森めぐみ、原田樹里を集めました。
 夜の部は、僕が劇団以外の公演で出会ったなかで主にミュージカルで活躍している方をお呼びしています。なかでもちょっと異色なのが潮みか。彼女は劇団悪い芝居の看板俳優で、なんと昔ハモネプ(「全国ハモネプリーグ」フジテレビ)に出たことがあるそうなんです。10代の頃に歌手を目指してグループを組んで、ハモネプの決勝に3~4回出場したという……それを聞いて『だったら歌ってよ~!』とお願いしました。小寺利光さんも遠山さやかさんも歌が素晴らしいですし、ミュージカルカンパニー イッツフォーリーズの澤田美紀さんと、遠山さんの紹介で同じくイッツフォーリーズの大塚庸介さんにも出ていただけるので楽しみです。歌のクオリティは夜の部の方が高いでしょうね(笑)。きっとぜんぜん違う雰囲気になると思います」

───ミュージカルとカラオケも違いますしね。

 「違うでしょうね。ミュージカルの方がポップスを歌った時にどんな感じになるのかも楽しい。しかもそれぞれの選曲が面白いんですよ。個性が出ますね」

───選曲はどのように決めているんですか?

 「選曲の候補をもらいますが、それは僕しか知らないんですよ。その場で好きな曲を選んでもらって、テーブルの上に置いたパネルから曲を入力します。曲の間にはちょっとおしゃべりしたりして……カラオケとまったく同じですね。せっかく人数がいるので、デュエットしたり、みんなで歌ったり、リクエストコーナーを設けたりはしたいです。
ちなみに僕の選曲は、青春時代に聞いていた曲が多くなりそうですね。やっぱり自分の中に染み込んでいますから。中学・高校の時にずっと聞いていたイエモン(THE YELLOW MONKEY)とか、親の影響でよく知っているCHAGE and ASKAとか。選曲ってその人の歴史が垣間見えるので、それもまた楽しみです」

次はカラオケだけじゃなく、絵画展も⁉

───オフ会から始まった企画が、発表会にまで進化したんですね。俳優である多田さんにとって、オフ会やカラオケ企画はどのような位置づけなんでしょうか?

 「始めにオフ会に憧れたのも『お客様とお話してみたかった』という思いがあったからです。日頃応援してくださっている方々にこちらからもお返しがしたかった。お客様同士の間でも、おこがましいですが僕をきっかけにして話が弾んだりとなにか交流があればいいなとも思っていました。そもそも僕は自分が幸せになるために俳優やっているので、あまりガチガチに役者のイメージを守ってプライベートを出さないようにしたりせず、お客様と交流したりする方がお互いに楽しくいられるんじゃないかなと。基本的には、自分が幸せになる方向にフラフラといってるだけなんですよね(笑)」

───多田さんの所属する演劇集団キャラメルボックスも、お客様にオープンな印象があります。

 「それ、よく言われるんですよ! 『キャラメルボックスってお客様に対してサービス精神があるよね』って。でも実は、具体的には他の劇団ほど行動はしていないんです。イベントやSNSでの発信はすごく少ない劇団です。それでも他の劇団に比べて負けないなと思えるのは、一人ひとりの劇団員がお客様のことをものすごく考えている。その深さみたいなものは、もしかしたら伝わっているのかもしれないです」

───しかも多田さんは、キャラメルボックスだけでなく青年団にも所属していて、一人芝居をしたりと、さまざまな演劇に取り組んでいます。その多田さんが「楽しそう」と惹かれるポイントとは?

 「まず僕が『楽しいな』と感じることを語弊を恐れずに言うと、主宰者になった時かもしれないですね。イベントの企画をしたり、稽古場での運営をまわしたり、MCをしたりと、いかにみんなが気持ちよく滞りなくいられるかに快感を感じるのかも。さらにお客さんが『楽しかった』と言ってくださると、ものすごく達成感があってまたやりたくなるんですよね」

───今回のカラオケ発表会でも、プロモ―ションや動画コメント撮影など、すべて自分でおこなっていると聞きました……!

 「いろいろできたらいいなって思うんですよ。デザインにも憧れがあるし、最近いろんな人がSNSで動画をあげているのを見て、動画編集ができる人はすごいなって思うし、自分もできたらいいなと挑戦しています。その積み重ねがあるからというわけではないですが、カラオケの次は『俳優による絵画展』を開催したいなと考えているんですよ」

───絵画展! 作品をつくるんですか!?

 「それぞれ絵を描いて、会場を借りて展示する。パソコンでも手描きでもいいし、粘土の作品や短い動画もいいですね」

俳優が『自分ごと』にしていくことが面白い

───俳優の方の、演技以外の面が観られるのはファンとしては嬉しいなと思います。

 「そうですね、やっぱりギャップは面白い。そういう思いが企画にも繋がっているのにはある衝撃的な経験があって……僕はハイバイという劇団が好きで、ハイバイの劇団員が短い脚本を書いて演出するという公演があったんです。その時『俳優が演じるだけじゃなくて、書いたり演出したりすることでそれぞれの色が出るんだな』って思いました。あまりに面白かったのでハイバイ主宰の岩井秀人さんに『僕もやってもいいですか?』とお願いして許可をもらって、キャラメルボックスの劇団員にやってもらったことがあったんです。その時に、ただ面白いだけじゃなく、俳優のみんなが作品を『自分ごと』にしてくれるのがすごく嬉しかった。俳優って台本に書かれたことをやるので、『自分ごと』にして作品に責任を持つことがすごく難しい。でも脚本を書いたり演出したりすることで、たかだか20分くらいの作品だとしても『私はどういうふうに見せたいんだろう?』『この台詞はこれでいいのかな?』と、一人ひとりが自分事にしてくれることが嬉しいし面白いんです。
 カラオケ発表会の場合も、歌を歌っている時間はその俳優のものだし、なんの曲を選ぶのかもその俳優のセンス。そういった『自分ごと感』があることで、みんな腹の下の方がポッと燃えている感じがある。その姿をちょっと遠目から眺めている時が嬉しいですね。……もしかして、裏で糸を引いている感じが好きなのかも(笑)」

───これからも様々な企画に取り組まれたいとのことですが、いずれの展望はありますか?

 「ゆくゆくは自分の周りだけじゃなく、もっと広く演劇界を巻き込みたいですね。文化祭みたいになるといいのかも。バンドやったり……『多田フェス』『多田SONIC』みたいな(笑)。これをやったことで俳優としての良い経歴になるわけではないと思いますが、ただ楽しいことをやっていきたいんですよ。舞台上の俳優としての姿だけでなく、人として一人ひとりの俳優を好きになってもらえたら嬉しい。そうすると、俳優とお客さんの距離がぐっと近づく気がしています」

───俳優という仕事がもっと身近に感じられるようになるかも。それにはカラオケという親密さのある企画がいいんでしょうね。

 「そうなんです。俳優ってそんなに特別な仕事じゃないんです。ただ、言葉や感情を扱う仕事なので、人前で歌ったり表現することには長けている。だからこそ、俳優たちとカラオケに来たような気持ちで過ごしてもらえると、楽しいんじゃないかなと思っています」

(取材・文:河野桃子)

プロフィール

多田直人(ただ・なおと)
1983年12月17日生まれ、北海道釧路市出身。桐朋学園短期大学部芸術家演劇専攻を経て、演劇集団キャラメルボ ックスに2004年入団。同劇団で上演した『無伴奏ソナタ』、『鍵泥棒のメソッド』、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、『アルジャーノンに花束を』で主演を務める。外部への客演も多数。

公演情報

Sing by Actor! ~俳優によるカラオケ発表会~

日:2022年9月10日(土)13:00/17:00開演
  ※開場は開演の30分前
場:新宿@YOANI Live Station
料:6,000円(全席自由・整理番号付・ドリンク代別・税込)
問:カンフェティSBA制作室
  mail:otoiawase@confetti-web.com

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