座付き作家、演出家。本田誠人への想いを込めて紡ぎ上げる新作 5つのストーリーとそれを繋ぐピアノと唄声。そしてコーヒーの香り。

座付き作家、演出家。本田誠人への想いを込めて紡ぎ上げる新作 5つのストーリーとそれを繋ぐピアノと唄声。そしてコーヒーの香り。

 舞台芸術学院の同期だった男性5人で旗揚げしてから四半世紀と少し。人気の劇団へと成長したペテカンの新作は、コロナ感染症の影響で中止を余儀なくされた公演のいわばリベンジ公演。だがこの間にペテカンはとても大切な人を病で亡くしている。それが旗揚げメンバーの1人であり、脚本・演出を担当していた本田誠人だ。劇団主宰の濱田龍司によれば、作品の準備中に散々本田と話し合ったものの、公演断念に伴ってそこから先は作業が進んでいなかったのだという。そろそろ演劇の状況も元の軌道に戻りつつある昨今。今は亡き本田への想いとともにペテカンはこの作品に取り組むという。劇団員の濱田と添野豪、そして歌とピアノで参加するシンガーソングライターの井上侑、この3人に話を聞いた。

―――この『ピアニッシモ』は、昨年1月に惜しくも亡くなられた劇団の座付き作家であり演出家、本田誠人さんが原案で、ペテカンが脚本・演出になっていますが。

濱田「本当は2020年の7月に上演予定で準備していた作品でした。しかしコロナ禍の影響で5月くらいに中止を決断したので、作品の構想は本田と話していたけれど、まだ台本にはなっていなかったんです。彼が亡くなった後に1本コント公演をやり、その後のことを皆で話し合った結果、この作品に向かい合うのが1番いいとなりました。5話のショートストーリーによるオムニバスですが、そのうち3話はもともと本田の書き下ろしがあったからそれを手直しして。そして新たに新作を2本、僕と添野が書いたんです」

添野「僕はそれまで(脚本を)書いたことがないので、不安一杯の中でやってます」

濱田「それは僕も同じ(笑)」

添野「シアタートップスは演劇の聖地みたいな。少なくともペテカンにとっては特別な劇場なのに、ペテカンのメンバーとしては新人の僕にはおこがましいと思うんですよ。初めてだしね。でも本田さんのメモに、二人芝居をするなら僕に演って欲しいというタイトルがあって。それがきっかけになってます」

濱田「そんな経緯があって(添野)豪ちゃんが手を挙げて。もう1本は旗揚げ当時のメンバーを絡めた作品を僕が書いています。これもタイトルだけあったんですけれど」

―――濱田さんも初めて脚本を書かれるんですね。

濱田「そもそも本田が好き勝手に書く。つまり作品の責任者で、僕はそれをどうやって成功させるかの段取りを考える責任者。もう旗揚げの頃からそうやってきましたから」

―――そんな5本の物語で構成される舞台ですか。

濱田「ええ、そして物語の間に、侑ちゃん(井上)が担当する弾き語りと物語が入ります」

―――「そこにあるのは椅子と机とピアノとコーヒー」とあります。

濱田「場所がカフェで僕がそこのマスター。そして侑ちゃんが奥さんですね。そして彼女のピアノ弾き語りが入り、僕達2人がオムニバスを繋いでいきます」

井上「オリジナルとカバーを交えますが、ストーリーにも絡んだ形になりますね」

―――井上さんとペテカンさんのお付き合いは、どんなきっかけですか。

井上「以前、柳家喬太郎師匠の新作落語を舞台化した『ハンバーグができるまで』で音楽を担当しました。でもそれ以前から一緒にラジオ番組をもう6年くらいやってます。ペテカンさんを知ったきっかけは、以前私を担当したマネージャーが、面白い劇団があるからと言うので観に行って、それからずっと観客でした」

濱田「井上さんから番組の話をもらった時、本田を中心に構成からといわれたのですが、丁度彼の病気がわかった頃で、ちょっと本田がやるのは難しいので、じゃあ僕がやったら良いという話になったんです」

―――じゃあ下地はできていたんですね。

濱田「侑ちゃんのピアノを本田がとても気に入って、一緒に音楽や舞台を創りたいといっていたんです。できる限りシンガーソングライター、井上侑の良さを壊さないようにしていきたいと思います」

―――作品の為のオリジナル作品ですが、モチーフはどんなものになるのでしょう。

井上「曲を書くときに、そこに込められる想いや言葉があるとメロディに活かすことができます。頂いた歌詞や想いに反応しています」

―――言霊反応型、でしょうか

井上「それは初めて言われました(笑)。私は児童合唱団を子供の頃から高校までやっていて、当時の先生が美しいメロディを持っていらっしゃる方だったので、ミサ曲からポップス・映画音楽まで色々な曲を歌ってきました。ピアノものんびり幼稚園からやってましたね。歌手には子供の頃からなりたかったんです。それで高校を出て音楽学校に入り……真面目に勉強したか疑問ですけれど(笑)」

―――さて今回の劇場は復活したシアタートップスです。ペテカンにとっては思い入れの強い劇場ですね。

濱田「ええ、劇場のさよなら公演にも参加しましたし。でも戻ってくることになったのもある意味運命的で、トップス復活の話が出たとき、劇場担当になる人と話す機会があって『ペテカンさんと言えばトップスじゃないですか、どうですか?』と言われて。それに本田が大好きな劇場で、閉めた後しばらくはその前を通るのさえ嫌がって、迂回していたくらいです。1番喜んでいるかも知れないし、自分も出させろと思っているでしょうね。

―――客演陣も充実したメンバーですね。

濱田「山口良一さんは11年前の『青に白』に出ていただいて以来、何度も参加頂いていて、ご自身で”ペテカンシニア部”と名乗って頂いて公演をやったこともあります。実に気さくな方だし自宅も近くて(笑)。世界3大いい人の1人です」

―――“3大いい人”?

濱田「ガンジー、マザー・テレサ、山口良一」

―――そりゃ凄い(笑)

濱田「大人の麦茶の宮原奨伍くんもだいぶ下の世代ですが、『彼のことを知る旅に出る』のワークショップを受けに来てくれた時、凄くいいので本当は本田がやるはずだった主役に大抜擢したんです。それからですね。他の客演陣もみんな本田のことは知っていて、ペテカンに関わって頂いたことのある方々ばかりです」

―――こうしてお話をうかがっていると、本田さんへの追悼の意味合いが強いですね。

濱田「むちゃくちゃあります。謳ってはいませんけれど、本当の意味での追悼公演は今回かも知れません」

―――ではそれぞれのメッセージを最後に頂きましょう。

添野「ペテカンは本田さんへの想いを積んでいるけど、彼を知らない人もいるわけですから、僕は純粋に1人の役者として演じられるかどうか、頑張りたいですね」

井上「ペテカンの舞台で私自身が笑いと涙が同時にこみ上げる体験をしました。だから私が惹かれたのと同じ想いが観客の皆さんもできるよう、緊張と恐縮をしすぎずに精一杯務めたいですね。楽しんでください」

濱田「ペテカンは演劇という敷居をグッと低くして楽しんでもらえるようなお芝居を目標にしています。コロナ、戦争、経済の不安など暗い話題がある中で時間を作ってきて下さる皆さんがリラックスして楽しめる時間にしたいです。もう気取らずにフラッときて、そこにある何でもないことを見つけてニヤッとして欲しいです」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

濱田龍司(はまだ・りゅうじ)
宮城県出身。ペテカン主宰。1995年に作・演出の故・本田誠人のほか、舞台芸術学院演劇科の同期生と共にペテカンを旗揚げ。以降全公演に出演する。外部公演にも積極的に客演するほか、テレビドラマへも進出。また今回音楽担当として参加する井上侑とのラジオ番組「井上侑と劇団ペテカンの月曜日からOKONBANWA!!」(K-mix 静岡エフエム放送)でも構成・出演を担当している。

添野 豪(そえの・ごう)
東京都出身。お笑い芸人の坂本ちゃんとコンビ「アルカリ三世」として、TVバラエティ「進ぬ!電波少年」の「電波少年的インターポール」などに出演。その後、役者として2004年から野田秀樹作品を上演するユニット「アシカツ」にて主宰・演出・役者として活躍。その他いくつもの劇団に参加し、2015年にペテカンへ初出演。2017年に劇団員となる。旗揚げ以降初の男性劇団員の入団として“オールドルーキー”の異名を持つ。

井上 侑(いのうえ・ゆう)
愛媛県・松山生まれの東京育ち。子供の頃から合唱団で歌に親しみ、高校卒業後音楽学校で本格的に音楽を学ぶ。ストリートライブやライブハウスで歌い続け、2010年にカワサキストリートミュージックバトルⅢ(KSMB III)において、最年少グランプリに輝く。さらにリリースした曲がFM各曲でパワープレイされるなど、根強い人気が浸透している。またK-mix 静岡エフエム放送 「井上侑と劇団ペテカンの月曜日からOKONBANWA!!」・「ゆうとぴか」(落語家・蝶花楼桃花との共演)、FM愛媛「井上侑、しらすらじお」にてラジオパーソナリティとしても活躍している。

公演情報

ペテカン vol.42
『ピアニッシモ』

日:2022年9月14日(水)~19日(月・祝)
場:新宿シアタートップス
料:前売4,500円  当日5,000円
  U-25[25歳以下]前売2,800円  当日3,300円
  ※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://www.petekan.com
問:ペテカン
  mail:office@petekan.com

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