約15年ぶりに劇団員のみで贈る本公演は、都会を生きる人々の群像劇 「自分の居場所や存在価値を見失いがちな、今だからこそ」

 緻密なプロットと、生々しく存在する人物の交差で見せる群像劇を得意とするKAKUTA。主宰であり、脚本と演出を手がける桑原裕子が今回描くのは“都会を生きる、ワケありの人々”だ。

 「ある失踪事件が軸になります。自分が愛する人を消失した者たち、あるいは自分が相手にとって消失されてしまった者たちの物語。孤独だけれど、たくましく生きている “ノライヌ” たちが、出会いと別れを通じて、自分自身の価値と向き合っていく。そんなお話になりそうです」

 本作は、直接的にコロナ禍の現状を描いているわけではないが、このコロナ禍で桑原が感じたことをベースにおいて描かれているそうだ。

 「人と触れ合うことができなくなったぶん、あらゆる情報を得なくてはと皆どこか切迫している気がして。『正しく生きなくては』という重みに押し潰され、張り詰めていた糸がプツンと切れてしまう感覚を感じている人が多いと思うんです。自分の居場所や存在価値を見失いがちになってしまう今だからこそ、『常に正しく生きなくてもいい』と、『自分がダメなわけじゃない、みんないろいろあるよね』と思えるような作品をつくりたい」

 本公演は、およそ15年ぶりに劇団員のみで贈る公演となるという。その心境や目指すものを尋ねてみると。

 「コロナの影響で公演が中止になったし、公演ができたとしても、感染対策ですごく神経を使った一年でした。まだしばらくはこの状況が続くでしょうから、その中で何ができるかを考えた時に、まずは自分たちで責任を持てることをしようと思って。劇団は本来規模を大きくしていくことを目指すものですが、今回は、自分たちだけでやってみようと思ったんです。コロナでなければ、こうはなっていなかった。コロナを逆手にとって、『いいこともあったね』と思えるようにやりたいです」

 劇団員でつくる作品だからこその、新たな挑戦もある。

 「比喩的にも直接的にも犬が出てきます。KAKUTA は今までそういう逸脱の仕方はしてこなかったし、お客さんの想像力を借りる部分も多いと思います。劇団員のみで無茶できる分、ここ最近の公演よりも、“全員野球”感の強い公演になると思います」

 最後に桑原が語った言葉からは、苦しい状況下を生き抜こうとする“ノライヌ”のような、強い意思を感じた。

 「自分たちなりの演劇の愛し方を見つけていけたら、この局面を乗り越える手綱みたいなものが見つかる気がしています」


(取材・文:五月女菜穂 撮影:相川博昭)

“忘れられない夏の思い出”を教えてください

桑原裕子さん
「毎年8月まるっと母方の田舎福島で過ごす夏休み。最初の2週間はカブトムシ取り、残り2週間はギンヤンマ獲り。近所の娯楽施設はプールしかなく、おにぎりひとつ持って毎日出かけ、友だちはいないから監視員のおじちゃんと事務室で昼ご飯。めったに通らない車を数えるひとり遊び。退屈しのぎの選挙カー応援。祖母と喧嘩して家出しアオダイショウに出くわしてすぐに帰ったこと。祖母の手作りの浴衣があじさい模様で嬉しかったこと。従姉妹の大人の漫画を盗み読むスリル。太鼓の音以外は音楽のない盆踊り大会。10分に1回しかあがらない超絶ゆっくりな花火大会。
 何もなく、けれどすべてがあった夏の思い出」

プロフィール

桑原裕子(くわばら・ゆうこ)
 東京都出身。劇団KAKUTA主宰。作・演出を兼ね、俳優としては、結成以後全本公演に出演。近年の出演作に白井晃演出『ペール・ギュント』、福原充則 作・演出『俺節』、舞台『忘れてもらえないの歌』、松尾スズキ総合演出『シブヤデアイマショウ』など。俳優業の他に、ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』の潤色・演出ほか、映画、テレビドラマ、ゲームシナリオ、エッセイ執筆など、幅広く活動。
 2009年『甘い丘』が平成21年度(64回)文化庁芸術祭新人賞、『痕跡(あとあと)』が第18 回鶴屋南北戯曲賞、2018 年『荒れ野』が第5回ハヤカワ悲劇喜劇賞、第70回読売文学賞戯曲・シナリオ部門を受賞。2019年桑原原作・KAKUTA 上演作品『ひとよ』が白井和彌監督で映画化。2018年度より、穂の国とよはし芸術劇場PLAT の芸術文化アドバイザーを務める。

公演情報

KAKUTA 第30回公演『或る、ノライヌ』

日:2021年9月25日(土)~10月5日(火)
  ※他、愛知公演あり
場:すみだパークシアター倉
料:一般4,500円 サービスデー4,200円
  U25[25歳以下]3,000円
  ※U25はJ-Stage Naviのみ取扱
 (全席指定・税込)
HP:https://www.kakuta.tv/norainu/
問:KAKUTA / Monkey Biz tel.090-6031-1996

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