1年前から変化した劇団「ゴジゲン」、新しい一歩を踏み出す “帰り道”のような目的のない時間を、丁寧に描きたい

1年前から変化した劇団「ゴジゲン」、新しい一歩を踏み出す “帰り道”のような目的のない時間を、丁寧に描きたい

 30代も半ばとなった劇団「ゴジゲン」のメンバー6人にとって、ここ数年は仕事やプライベートなど様々な場面で迷いながら選択してきた時期だった。作・演出をつとめる松居大悟が「みんな辞めちゃうんじゃないか」と不安を抱え、なんとか繋ぎ止めようと2021年2月からYouTube生配信「ゴジゲンのゴジtube」がスタートした。それがこの1年で大きな変化をもたらし、「もうこの先辞めることはないだろう」と確信するに至る。
 今年5月には第18回公演『かえりにち』で下北沢、北九州、京都ツアーを企画中。新たな一歩を踏み出すゴジゲンより、松居と、俳優の東迎昂史郎に話を聞いた。

これからのゴジゲンは、作りたい芝居をやる団体へ

──『かえりにち』はタイトルから決まったそうですが、どんな舞台になりそうですか?

松居「最近は思うところあって、“意味のない時間”がテーマなんです。演劇に込めた思いがうまく届かなかったり、コロナ禍で“明るくしよう、コメディを作ろう”としていたことが求められていないんじゃないかと思うことがあって。見落としてしまいそうな感覚や時間を丁寧に描こうということが最近の興味になっています。作品としては、具象舞台の会話劇になる予定です。チラシで、赤い服を着てなにかを運んでるのはヒガシ(東迎)だよ」

東迎「え、俺なんですか(笑)?」

松居「そう。このイラストは“片付けをしている”というキーワードで描いてもらったんです。もともとは“帰り道”についての劇をやりたかったんですよ。たとえば観劇だって、行きはタイムスケジュールを気にしたり、席がどのくらい埋まっているのかとか、どういう劇なのかなって考える。でも帰り道は、劇の余韻で歩いたりしていて、あまり記憶に残らないんですよね。仕事も何もない日も飲み会もそう。そんな目的のない時間が良いなと最近思うようになったんですよ。
 だから、ゴジゲンがここ数年やっていたパワーで走るような舞台はもうやらないかな。前回公演の『朱春(すばる)』(2021年4月)の時には『もうこういうのは最後だね』と言いながらやっていたんですよ」

──それから1年でどんな心境の変化が……?

松居「コロナ禍にゴジゲンでYouTubeを始めたことが大きいですね。それまでは稽古と公演の2ヶ月だけ一緒にいる関係だったので、作る過程や劇中でワイワイと話し合うことで会えなかった時間を取り戻すようなところもあった」

東迎「6人の空気感がそのまま舞台に反映されていましたよね。でも前回の『朱春』の時には、実際の僕たちの関係ではなく、作品として、物語として、存在している感覚があった。ちょっと違う段階にきたなと思いました」

松居「その時はね、もしかしたら皆がゴジゲンを辞めるんじゃないかという不安が大きかったんですよ。皆が結婚したり子どもが生まれたりして、状況が変わってきた。だから“みんな、辞めないでくれよ”という思いがあったんですよ」

東迎「そうだったんだ(笑)」

松居「だから皆と繋がっていたくてYouTubeを始めたんだけど、やってみると、YouTubeによってかつてないほどゴジゲンが密になった気がしているんです。毎週話すし、よくLINEするようになりました。一年経って、もうみんな辞めないだろうなという気がしてる。個人的にようやく劇団員に依存せずにいられそうです。好きにやろうという感覚ですね。もう皆の武器も苦手なことも知っているという楽しみもあります。
 あと演劇の飛距離もなんとなく感覚でつかめるようになった。仲の良い僕たちの姿を舞台に乗せるのではなく、今作りたい芝居を劇団メンバーでやってみることが目的になるんじゃないかな。だから次の『かえりにち』は新しい一歩ですね」

YouTubeを1年やって起きた、僕たちの変化

──YouTube開設がゴジゲンに影響したんですね。

松居「そうです。ある日ね、泣きそうになったことがあって……メンバーが一人ずつYouTubeの配信を担当しているんですが、どうしても都合でできない時に『じゃあ俺やるわ』とか『○○変わって』『オッケー。了解』というやりとりがあるんです。それが嬉しかった。何気ないことかもしれないけれど、劇団なんだなって思う。みんなで収録に参加したり、終わった後に『お疲れ』って言い合うのって、当たり前だけど当たり前じゃない。しかも馴れ合いでなく意識を高く持ってやっている。それぞれ僕の知らないところで仕事を頑張っていて、そのうえで定期的に会って自然に喋っているのが嬉しくて。1年前まであった“僕がなんとかして劇団員をつなぎ止めなきゃ”という気持ちがなくなっていったんですよ」

東迎「YouTubeはやって良かったですよ。僕はもともと前のめりで、松居さんが『YouTubeやろうよ』と言った時も嬉しかったんです。始めてみると結構大変で、慣れない編集を稽古期間中にやったりもしていましたけど、YouTubeがあることで僕は頑張れた。少ないけれど見てくれる人がいて、毎回コメントをくれる人がいる。すごくベタな言い方ですけど、そういう誰かがいてくれることで頑張れるんだなぁと実感しました」

松居「始めた頃は、YouTubeと演劇は真逆な気がしてちょっと怖かったんですけどね。演劇は足を運んで高いお金を払って観て跡形もなく消えて記憶しか残らない高コストのもの。YouTubeはいつでもタダで観れてずっと残る。真逆すぎてすごく食い合わせが悪いんじゃないかなと不安だったんです。劇団公演を観にきてくれる方はYouTubeを求めてないような気もしていました。だからYouTubeでは演劇ではなくて“こんな6人がゴジゲンですよ”というスタンスなんですよね。たぶん今YouTubeを観てくれている半分くらいは、まだ観劇したことはないと思います」

東迎「毎回コメントをくれる方で“まだゴジゲンを観てないから今度の『かえりにち』が楽しみ”と書いてくださったりもしていて、すごく嬉しいですね」

松居「ただこれまでは稽古場で皆と『こういうテーマでどう思う?』とか話し合ったことをもとにエチュードで作って、それから台本に起こしていっていたんですが、今回は最初から台本を書けたらなって。どうなるかわかりませんが(笑)」

迷って、辞めて、また戻ってくる時間は絶対に無駄じゃない

──実は今回のインタビューは、松居さんが東迎さんを相手に指名したそうですね?

東迎「2人でインタビューを受けるのは初めてですよね。なんでですか?」

松居「ヒガシが腹をくくった気がして話したかった。最近“役者をやっていくぞ!”と決めたような感じがする。今回出演してくれる神谷(大輔)くんも一度役者を辞めて、でもまた再開するって連絡くれた。演劇を続けるのか迷って道を戻っていたようなヤツが、強い一歩を踏み出してくれることってすごく嬉しいんですよね」

東迎「たしかにフワッとしていました。年に1回のゴジゲン本公演に参加してるだけで“役者をしているんだ”と自分に思い聞かせていたんですよね。でも少しずつお芝居を勉強して楽しくなってきたし、最近は事務所に入って、やっと“役者として頑張ろう”という気持ちが芽生えてきています」

松居「迷って、辞めて、また再開したりする時間って絶対に無駄じゃない。再開が遅いなんてことは絶対ない。むしろ、1回辞めているからこそ強いことはある。無駄なことなんてないということを、無駄なことをやる演劇で見せたいです。それに30代という思春期でもなければオジサンでもない中途半端だからこそできる演劇があるはず。『かえりにち』は勇気を持って一歩を踏み出したような劇になると思います」

──では逆に、東迎さんから見た松居さんの変化は?

東迎「僕にとってずっと憧れの存在なのでその思いで見ちゃうんですけど……最近は映像作品で、短いスパンでいろんな表現をしていてどんどん密度が濃くなって、引き出しの多さを感じます。松居さんの奥には何があるんだろうって期待してしまう。底知れないんですよね。偉そうな言い方になっちゃうんですが、すごいなって思います」

松居「偉いよね、俺。頑張ってると思う……って自分を褒めないと自分を見失ってしまう(笑)。最近は人に会えないから、ただ闇雲に頑張って、立ち止まると家で一人で泣きそうになるから」

東迎「メンバー同士で褒めないですもんね。でも最近の松居さんの活躍は僕の親戚や友達も気にして連絡くれるんですよ。『テレビ見たよ』とか」

松居「えっ、そうなの?! 本当に?」

東迎「はい。でも松居さんに、そういうこと言われたって報告するのも気持ち悪いから、自分の中だけでとどめてますけど(笑)」

松居「そうなんだ、嬉しい」

東迎「自分も頑張ろうと思えますしね。松居さんが劇団メンバーに頼ってくれている部分については応えなきゃいけないと思っています。松居さんからはなにか面白いものが出てくるってワクワクしているので、楽しみです」

(取材・文&撮影:河野桃子)

プロフィール

松居大悟(まつい・だいご)
 1985年11月2日生まれ。福岡県出身。2008年、慶應義塾大学在学中にゴジゲンを結成し、全作品の作・演出・出演をつとめる。劇団公演以外の舞台にJ-WAVE30周年×ゴジゲン10周年記念公演『みみばしる』作・演出(2019年)、PARCOPRODUCE『Birdland』演出(2021年)など。
 映画監督としても活動し、主な作品に映画『くれなずめ』『アイスと雨音』『アズミ・ハルコは行方不明』『私たちのハァハァ』『君が君で君だ』、TVドラマ『バイプレイヤーズ』シリーズなど。2011年よりConfettiで心理テスト連載中。監督・脚本を手掛けた映画『ちょっと思い出しただけ』公開中。

東迎昂史郎(ひがしむかい・こうしろう)
 1987年9月30日生まれ。沖縄県出身。ジャッキーチェンのような役者を夢見て、石垣島から上京。円演劇研究所専攻科を卒業後、ゴジゲンの本公演に多数参加。2017年7月よりゴジゲンの正式メンバーとなる。
 ゴジゲン以外の主な舞台出演は、青山円劇カウンシル『リリオム』(2012年)、新国立劇場『おどくみ』(2011年)、東京グローブ座『0号室の客~帰ってきた男~』(2010年)、劇団ビオトープ『恋の骨折り損』(2010年)など。ほか、NHK『戦争童画集 ~75年目のショートストーリー~』、テレビ朝日系列年の瀬ドラマ『平成ばしる』などに出演。2022年の映画『ちょっと思い出しただけ』、短編映画『サウネ』出演予定。

公演情報

ゴジゲン第18回公演『かえりにち』

日:2022年4月20日(水)~29日(金・祝)
場:下北沢 ザ・スズナリ
  ※他、北九州・京都公演あり
料:3,800円
  U-22[22歳以下]2,200円 ※要年齢確認証提示
 (全席指定・税込)
HP:http://5-jigen.com/
問:ゴジゲン mail:info@5-jigen.com

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