「現在でしか、自分たちでしか、この場所でしか表現できないこと」を芯に据え、文学性とポップカルチャーが見事に共存した唯一無二の作品を発表し続けている劇団「悪い芝居」。新作は、思うようにいかない若者たちを描く群像劇だ。
「大きな物語があるというよりも、それぞれのスケッチが続く作品になりそう。勢いやエネルギーを舞台上に詰め込んで、お客さんの目の前にその人物がいることを見せる。原点回帰というか、僕らが初期の頃にやっていた作風に近いと思います」
本作は、山崎が尊敬している、芸術家・岡本太郎の影響を受けているという。
「登場人物は、渋谷駅にある巨大壁画『明日の神話』の前で路上生活をしていた若者たち。岡本さんは“幸せ”という言葉を嫌い、“歓喜”という言葉で表現しているのですが、路上生活をする彼らがなぜ“歓喜”に満ちているのか。そんなピュアな情景がつくれたらいいなと思っています」
劇団メンバーに加え、劇団史上初の大規模オーディションを勝ち抜いた個性豊かな出演者も見どころのひとつ。
「一番の選考基準は、とにかく僕ら“悪い芝居”の作品に出たいと思ってくれているかどうか。多少の演技力は考慮したものの、キャリアやネームバリューなどは完全に脳味噌から排除しました。その人だから生まれるストーリーに期待して、当初の想定よりも多い人数に出演してもらいます。統率されたダンスやすごい大立ち回りがあるわけではないんですが、17人の“集団芸”で魅せたいですね」
劇場は、前回公演『今日もしんでるあいしてる』に続き、2度目の本多劇場だ。
「若い頃に思い描いていた想定より、ここに辿り着くのに時間がかかってしまいましたけど、すごく好きな劇場です。ダイレクトに自分たちの生声でエネルギーが伝わりつつ、繊細なやりとりも伝わる丁度良いサイズの劇場。居心地がいいです」
観客へのメッセージを求めると、山崎は言った。
「岡本太郎さんは自分の作品が展示された時点で、それをどう受け取ってもいいみたいなことを仰っている。感動してもいいし、無視してもいいし、蹴飛ばすなら蹴飛ばしてもいい、と。僕もそんな演劇をつくりたい。劇場公演に加え、配信も予定しているので、この作品に触れて、何かを体感しにきていただきたいですね。演劇は燃費も悪いし、効率も悪いメディアですが、やっぱり必要だなと僕は思うので」
(取材・文:五月女菜穂)
プロフィール
山崎 彬(やまざき・あきら)
1982年12月10日生まれ、奈良県出身。2004年、京都にて劇団「悪い芝居」を旗揚げし、全公演で作・演出・出演をしている。『駄々の塊です』(2011年度佐藤佐吉賞最優秀作品賞・優秀脚本賞など受賞/第56回岸田國士戯曲賞最終選考ノミネート)、『メロメロたち』(第24回OMS戯曲賞大賞受賞)など、脚本家としても注目されている。ちなみに劇団の由来は「悪いけど芝居させてください」の略。
公演情報
悪い芝居 vol.28 愛しのボカン
日:2022年3月18日(金)~21日(月・祝) 場:下北沢 本多劇場
料:一般6,500円 U25[25歳以下]4,500円 高校生以下3,500円(全席指定・税込)
HP:http://waruishibai.jp/bokanmylove/
問:悪い芝居
mail:bokanmylove@waruishibai.jp