事実を追体験し楽しい事へとみんなで向かうLive演劇がさらにバージョンアップ! 「祭りは楽しいから歌うんだ!」再び立ち上がるための音楽劇が開催

事実を追体験し楽しい事へとみんなで向かうLive演劇がさらにバージョンアップ! 「祭りは楽しいから歌うんだ!」再び立ち上がるための音楽劇が開催

 主宰のキムラ真を中心に物語を【笑って、泣いて、歌って、踊る=祭り】で表現する「FREAKAL」(フリーカル)という独自の舞台ジャンルを築き上げたナイスコンプレックス。2018年初演の『YAhHoo!!!!』が大幅にバージョンアップして4度目の上演となる。物語の舞台は東日本大震災による原発事故の影響で、2万人を超える町民が強制避難を余儀なくされた福島県浪江町。
 震災で命を落とした動物たちは妖怪となって楽しく暮らしていたが、11年が経ち、避難指示が解除されても人間たちは戻ってこない。「村が愉しくなれば」とお祭りを開催するのだが……。
 妖怪になってまでも人間の帰りを待つ動物達と、戻ろうにも戻れない人間の心情。ひかれ合う情の中で見えない壁の超えた先にあるものとは? ナイコンが歌と祭りと演劇で届ける復音劇(フリーカル)。主宰のキムラ真、そしてメインキャストの丈に舞台への意気込みを聞いた。

―――本作は2018年に初のオリジナル音楽劇として誕生しました。翌19年には「フリーカル」のジャンルとして再演し、21年には福島県いわき市でも上演しました。実際の出来事をモチーフにしながらも、ファンタジー表現を組み込んだ「リアルファンタジー」として、幅広い年齢層から高く評価された作品です。創作のきっかけとなったことはありますか?

キムラ「僕は宮城県亘理郡荒浜町という、仙台と浪江町の間くらいの場所で育ち、震災では実家が津波に押し流されました。あの日から11年が経ち、これまで、東京の人がニュースや文献を参考にしながら、震災を題材とした演劇を上演してきましたが、そのほとんどが『悲しい』という視点に基づいていました。でも現地の人達に話を聞いていると、悲しい話がほとんど出てこない。勿論、大変ではあったけれども、皆さん『どうやったら頑張れるんだべ?』という前向きな話をしているんです。日常を取り戻すためにはただ悲しみに暮れて待っていても何も始まらない。動かなければという事を現地の皆さんは痛感されたのではないかと思います。
 だから僕は現地の人達の声を反映させた物語を創りたかった。それに誰もが楽しめる音楽、決してうまい人だけが歌うのではなく、子供からお年寄りまで楽しめる音楽劇にしようと思い『フリーカル』という独自のジャンルを作りました。『復活』と『復興』を音楽と演劇で表現するという意味から『復音劇』という言い方もしています」

―――報道ではあまり伝えられない地元ならではの声を反映されたそうですね。また取り残され死んでいった動物たちを妖怪として描いたのはなぜでしょうか。

キムラ「浪江町に出入りする福島の土建屋さんに直接話を聞いてみたりもしましたが、営業を再開した居酒屋に入って誰に話を聞くのではなく、黙って周囲の会話に耳を傾けたこともありました。取材というと本音を引き出しにくいこともあるので、敢えて自然体で交わされる会話にヒントを得ることが多かったですね。そうやって聞いたものを自分の言葉に変えて脚本を作っていきました。また登場人物の仕事やお店も実際に浪江町にあったものから着想を得ています。
 色んな事情から浪江町に取り残された動物たちは餓死や事故死など悲しい結末を迎えていますが、物語では妖怪に姿を変えて、人間を恨むのではなく、帰りを待っているという設定にしました。
 牛や豚、鶏などの家畜も日頃から農家の人達に大切に育てられてきました。でも震災が起きて人間は泣く泣く街を離れなければならなかった。動物というよりも同じ生き物として、もしその理由を知る事ができたならば、怒りや憎しみだけではない、別の感情があったかもしれないと。それに動物たちを妖怪というフィルターを通すことで子供達も感情移入できるし、何よりも人間と動物の間にある愛を描きたいと思いました」

―――丈さんは本作への出演は初ですが、物語をどのように受け止めましたか?

丈「11年という月日が経つなかで、途中にはオリンピックもありましたし、近年はコロナ禍、戦争と色んな事が起こる中で、震災自体が風化しているなと感じました。でも決して忘れてはいけないんですよ。失った命や時間であったり、そこから立ち上がってきた経緯であったり。
 あと僕自身、犬が大好きなんです。帰宅するのを待ち望んでいたかのように喜んでくれる光景をいつも見ているので、動物が人を待ち続ける思いもすごく分かるんですね。言葉は伝わらなくても、表情や声のトーンで感じ取ってくれる。
 なのでこういうテーマの作品に出させてもらえるのはすごく光栄ですし、とてもやりがいを感じています。最初題名だけを聞いた時はインターネット関係の作品?とも思いましたが(笑)、すごくいい形で裏切ってくれました。
 僕が演じるペットショップの主人は保健所に動物を引き取りに行っている時に被災して、強制的に避難させられてしまい、残してきた動物達に対して罪悪感を持っている人物です。一本気がありどこか昔気質がある人で、動物に対する愛情があるからこその反応だと思いますが、物語の柱になる役だと思っているので、そういう気持ちを全面に出して演じることができればと思います」

―――今回で4度目の上演となりますが、これまでから進化したポイントは?

キムラ「年数を重ねることで、当然主演の2人の年齢も上がっていることもありますが、浪江町の今の状況を反映させた台詞にしています。4年前と比べて街は賑わいを取り戻しつつある一方で、元々いた人達がまだ戻ってきていない。既に違う土地で新しい暮らしを始めた人もいるでしょう。でも何か理由があれば戻るきっかけになるかもしれない。それがお祭りです。
 コロナ禍で一変してしまいましたが、お祭りは毎年あるじゃないですか。街の外に出た人達もその日に合わせて帰ってくる。だからこの公演も毎年続けようと思いました。
 主演の3人も回を重ねるごとに芝居に深みが増していますし、彼らのファンの方が新しいお客さんを連れてきてくれるのは大変有難い事です。4回目の今年のテーマを挙げるとするならば、『YAhHoo!!!!』という芝居を通してより多くの人に浪江町を知ってもらうことでしょうか。
 知ってもらい、発信してもらう。その為に今年は東京公演に集中して発信に注力したいと思います。その上で継続上演を続けていって、お祭りのように文化レベルまで押し上げたいです。そしていつかは浪江町に定着させて、『あれ? 今年はこないの?』とまで言われるようになりたいですね。これまで浪江町にはお芝居をできる場所がなかったのですが、最近、海沿いの場所にイベント会場が出来て、そこで音楽ライブができるようになりました。だとすれば、この『YAhHoo!!!!』を音楽だけでもストーリーが分かるように仕上げて、従来のアクトバージョンと2本柱に出来ないだろうかと。当然すぐというわけにはいきませんが、いつか浪江町の体制が整った時にすぐできるように、再来年を視野にライブバージョンも創っていこうと思います。今年はそのための布石としたいですね」

―――最後に読者にメッセージをお願い致します。

丈「コロナ禍であり、戦争であり、混沌の時代を私達は生きていますが、どちらにせよ時が来たら立ち直って再び歩き出さないといけない。そういう意味ではこの作品は普遍的なテーマだと言えます。決して風化ではなく、今起こっている全ての事象に通じると思うんです。だからこそ多くの方に観てもらいたい舞台です」

キムラ「毎年やってきて来年もやる予定ですが、コロナ禍では不透明な状況でもあります。逆に言えば、来年急に浪江町に人が増えたら、もう僕らが公演をする必要もないかもしれないし、開演していきなりハッピーエンドに終わるかもしれない。それは心の中では願っていることかもしれないけども、今年は今年の楽しみがあるので、これまで観てくださった方には勿論、その方には是非大切な人を連れてきて欲しいなと思います。沢山あるエンターテインメントの1つですが、何か特別なものにして頂けたら、そして“ヤッホー村”で開かれるお祭りを一緒に盛り上げる一員になっていただけたらと思います。皆様のご来場を心からお待ちしています」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

丈(じょう)
 1966年1月29日生まれ。東京都出身。1980年、15歳の時に大衆演劇の梅沢武生劇団で初舞台を踏む。以後、個性派俳優として、テレビ、映画、舞台と活動の場を広げてゆく。1985年に劇団JOE Companyを旗揚げし、途中休止するも、2003年にプロデュースユニットとして復活させる。ひとり芝居やプロデュース公演、落語とのジョイントや音楽活動などアクティブに活動。現在は劇団システムのLAPITA☆SHIPも旗揚げし主宰。
 俳優以外に、劇作家、演出家、プロデューサーとしての顔を持ち、その創り出す作品は、ユニークな発想と緻密な構成力、そして大胆な演出で独自の世界観を構築し、多くの観客から支持を受けて高い評価を得ている。また近年映画界にも進出し、『7NANA』、『いちばん逢いたいひと』の2つの映画監督作品の公開が控えている。

キムラ真(きむら・まこと)
 1981年7月17日生まれ。宮城県出身。北海道釧路教育大学演劇部出身。2007 年ナイスコンプレックスを旗揚げ。脚本・演出・役者の他にも、外部企画の脚本・演出・CM監督なども務める。その特徴としては、劇場という空間における創造力と想像力の融合を実現し、演劇性を持ったエンターテインメントを提示している。
 主な活動内容としては、ナイスコンプレックス全作品執筆、ほぼ全作品の演出。『極上文學』シリーズ演出、舞台『ペルソナ3』シリーズ演出、『チャージマン研!』演出、SOUND THEATER『チア男子』、『xxxHOLiC』、『夏目友人帳』演出、『それいけ!アンパンマン』ミュージカル演出、テレビ・CM構成作家、ディレクター、監督など多数。

公演情報

ナイスコンプレックスN34
フリーカル「YAhHoo!!!!」2022

日:2022年5月11日(水)~15日(日)
場:あうるすぽっと
料:Nシート[前方席・お土産付]10,000円
  S席(お土産付)8,000円
  S席(お土産なし)6,500円
  A席4,800円 B席3,500円
  (全席指定・税込)
HP:http://naikon.jp
問:ナイスコンプレックス
  mail:info@naikon.jp

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