約10年ぶりの再演で深まる“姉妹の距離”『夕顔』が描き出す、不器用で温かな再生の物語

2026年5月22日(金)栃木県総合文化センター・サブホールを皮切りに、日穏-bion-第19回公演『夕顔』が上演される。
日穏-bion-(ビオン)とは、役者・脚本家として活動する岩瀬顕子が企画・脚本、たんじだいごが演出を手掛けるプロデュース劇団。社会的問題を背景に盛り込みながらも、笑って泣けて、観終わった後に心がじんわり温かくなる作風を特徴とし、男女問わずあらゆる世代から支持を得ている。

今作の『夕顔』は2017年初演、およそ10年ぶりの再演となる。
物語は、栃木県でかんぴょう農家を営む川上家の長女・夕子(岩瀬顕子)と、三女・苺子(菊池友華)、夏の収穫期作業で集まった隣人たちを中心に展開。そこに何年も音沙汰のなかった次女・夏実(山本南伊)が突然姿を現したことで浮彫になる、姉妹たちの確執と葛藤、再生を描いていく。
初演からほぼオリジナルキャストが顔をそろえた貴重な稽古場をレポートする。


この日公開されたのは第2場。登場人物達の背景や人間関係がわかる重要なシーンだ。
稽古初期にも関わらず、立稽古が行われていた。

隣人の主婦・麗愛(なかじま愛子)は、役場の職員・亀山(宮内勇輝)に聞かれてもいないのに突然帰ってきた次女・夏美と姉妹たち川上家の秘密を語っている。


都会の空気をまとった夏美は、故郷の人間関係に構わず入り込みかき回す活発な性格、しかも麗愛の夫・吾郎(平野貴大)と幼なじみで過去に何かあったようで面白くないらしい。田舎あるある事情通といった風情にクスリとしてしまう。

そんなピリッとした空気を一瞬で笑いに変えるのが日穏作品の準レギュラー・剣持直明氏。彼が演じる地域おこし協力隊員・星野のキャラクターに安心してしまう観客も多いことだろう。お馴染みの剣持劇場は今作では無いとのことだが、おおらかな三女・苺子、夕子を心配しているかんぴょう問屋の俊介(増澤ノゾム)とともに、ほのぼの担当として注目したい。

会話劇が繰り広げられ隣人たちが増えた時、演出のたんじだいご氏から位置確認の声がかかった。
前回を振り返りつつもブラッシュアップ、出はけとそれぞれの位置を決めていく。特に夕子と夏美との距離感は心の距離そのものといった感じだ。

岩瀬氏が演じる夕子は長女として家庭の事情を背負い生きてきた。今更自分を変えられない、みんなの仲間に入りたいけど知らんぷり、素直になれないちょっとこじらせた夕子を淡々と演じている。このシーンでセリフは少なかったが孤独を抱えた夕子の様子が胸に刺さった。
その孤独をさらに印象付ける為なのか、ここでもたんじ氏の声がかかり、効果的な位置を探っている姿が印象的だった。2026年度版の『夕顔』はどう変化するのだろう。

物語はここから地域イベント開催に向けて進んでいく。姉妹たちの行く末はぜひ劇場で。


稽古の合間に岩瀬氏とたんじ氏に話を聞くことができた。

――2017年ぶりの再演ですが、おなじみのメンバーが揃っている印象です。

岩瀬「1人だけ変わって、あとはみんなオリジナルメンバーなので本読みもすごく楽しかったです。ただ9年の月日が流れてはいるので、当時の年齢設定をそのままにするのかとか、確認事項は色々しました」

たんじ「それこそコロナが大きかったから過去の話をする時に、それはどこかで入れなきゃいけないんだろうなと。テーマ自体は普遍的な人間の話ですけど、コネタがね(笑)」

岩瀬「そうそう、初演時は栃木県の魅力度ランキングが46位だったんですよ。それが去年は39位に上がってて(笑)そのあたりのネタは変化しています」

――作劇のきっかけなどをお聞かせください。

岩瀬「私の故郷が宇都宮で、初めて栃木公演をやろうと決めた時、じゃあ栃木の話題を入れた物語にしようと。栃木といえば、私たち世代は“かんぴょう”だったんですよ。今は苺とか餃子ですけど、なんといってもかんぴょうが国内産の99パーセントを担っていて」

――夕顔がかんぴょうの原料とは知りませんでした。

岩瀬「そう、そうでしょ。知らないんですよ。東京に来て、かんぴょうが何でできているか知らない人たちが多すぎることに、ちょっと驚いて。これはとちぎ未来大使としてはちゃんと伝えなきゃなと。
それでかんぴょう農家を舞台にして、栃木県出身の俳優さん4人と共に初演をやりました。
今回、栃木公演に関して言うと、会場の総合文化センターが35周年記念ということで主催事業ということになり、せっかくなら栃木の話題で、この作品は9年前にやったきりだったからやろうと決まりました」

――たんじさんに伺いますが、2026年版の演出として意識していることは?

たんじ「この作品に関わらず再演をする時に、初演の時から何年経ってるからここは変えないとねといつも話します。その都度、その間にこんなことがあったんだなってことを色々振り返るので、時代を感じることはありますよね。
実は、剣持さんに初めて出演していただいた記念すべき作品です。剣持さんはうちの作品ではほぼ標準語を喋っていません。ネイティブな栃木弁を喋るキャラが確立されていますね」

岩瀬「今回は剣持劇場はないんですけどね」

たんじ「剣持劇場は『星の砂』から始まりました。剣持さんと出会ったことは創作的にもすごく大きいと思いますよね」

――台本を拝見しますと、夕子さんの登場は比較的少ないですが、とても印象に残りました。

岩瀬「セリフにもありますが、夕子は女捨ててるみたいなところがあって、そこが次女の夏実との対比になっています。次女は華やかなのに対して、長女はずっと地元に根付いて農業を続けている、問いかけないと喋らないタイプです。今はまだ探ってますけど、もうちょっと、とっつきにくい感じのキャラクターにできたらと思っています。
この歳になって、姉妹やお母さん云々の話はどうなのかと思いましたが、でも姉妹っていくつになっても変わらないと思ったりね」

たんじ「親のことが絡んだ姉妹関係って、1番最初に経験する人間関係ですよね。岩瀬の書く話はほぼ家族の話がメインにあって、最終的にはみんないろんなものを抱えているけれど、そこを乗り越えて生きていく、ということが描かれています」

――そして今年ならではの部分としては、林ゆうきさんによる音楽もポイントですね。

たんじ「そうですね。「オミソ」「月の海」に引き続き、林さんがオリジナル曲を作ってくださいました。テーマに合わせたメインの曲をベースに、いろんな形に変化させながら音楽でひとつの世界を作っていただいているので、初演とはまた違った印象になると思っています」

岩瀬「曲が変わるだけで随分イメージが変わりますよね。今放送中の日曜劇場『GIFT』も林さんが音楽を担当されています。そんな売れっ子の林さんに、今回もオリジナル曲を書いていただけたことを、本当にありがたく思っています」

――最後にメッセージをお願いいたします。

たんじ「皆それぞれ生きてく上で四苦八苦して、痛みや悔しさを抱えていますよね。でもそれがあるから喜びもある。日穏の作品は、その中でもどこかでホッとして、観終わった後、ちょっと前向きになってもらえたらいいなという思いで作っています」

岩瀬「笑えて泣けて、そしてある意味とてもわかりやすいお芝居なので、これまであまり演劇をご覧になったことがない方にも楽しんでいただける作品だと思います。何より、出演している役者陣が本当に素晴らしいので、それだけでも十分に見応えがあります。ぜひぜひ劇場に足を運んでいただいて、かんぴょうが何から出来ているかも知っていただけたら嬉しいです。また、アフタートークには林ゆうきさんにお越しいただく回や、かんぴょうをお配りする日もありますので、お楽しみに!お待ちしています!」

取材:谷中理音

公演概要

日穏-bion-第19回公演『夕顔』
出演:岩瀬顕子、剣持直明(劇団だるま座)、増澤ノゾム、平野貴大、なかじま愛子(張ち切れパンダ)、山本南伊、宮内勇輝、菊池友華(劇団だるま座)、たんじだいご

宇都宮公演:2026年5月22日(金)・23日(土)
劇場:栃木県総合文化センターサブホール
公益財団法人とちぎ未来づくり財団主催・一般社団法人とちぎ映画演劇文化協議会共催

東京公演:2026年5月27日(水)~31日(日)
劇場:赤坂RED/THEATER

あらすじ
栃木県でかんぴょう農家を営む川上家の長女・夕子。夏の収穫期には、三女・苺子や隣人たちがやってきて作業を手伝うのが恒例となっている。そこに何年も音沙汰のなかった次女・夏実が突然姿を現す。久しぶりの再会を喜ぶ苺子たちとは裏腹に、夕子だけは夏実と目を合わせようとしなかった・・・。
後継者不足に悩む栃木のかんぴょう農家を舞台に、たくさんの笑いと涙を織り交ぜながら温かく描く人情物語。

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