【公演レポート】舞台『青の炎』主演:北村諒

【公演レポート】舞台『青の炎』主演:北村諒

怒りの炎は、理性や良心を燃やし尽くしてしまうのか

貴志祐介によるミステリー小説『青の炎』が発売から23年の時を経て初舞台化。
かつては二宮和也主演の実写映画も公開されている本作の舞台版に、豪華キャストが生身の芝居で挑む。“17才の完全犯罪”というキャッチコピーで知られる本作で、17才の主人公・櫛森秀一を演じるのは2.5次元舞台でも活躍する北村諒

端正なビジュアルはどことなく浮世離れした雰囲気も感じさせるが、そんな彼が演じる、ありふれた日常を過ごしながらも人の道から外れていく17才の苦悩とは――。

STORY

秀一は湘南の高校に通う17歳。女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹の三人暮らし。
その平和な生活を乱す闖入者がいた。
警察も法律も及ばす話し合いも成立しない相手を秀一は自ら殺害することを決意する。

初の“舞台化”

原作のミステリー小説『青の炎』は、1999年に貴志祐介により発表された日本ミステリー史に残る名作。2003年には蜷川幸雄が演出を務め、二宮和也主演で実写映画が公開されているが、23年の時を経てこの度、初の“舞台化”となる。

“17才の完全犯罪”というキャッチコピーがよく目に入る。筆者は恥ずかしながら原作小説未読だったため、サイコパスな若者がゲーム感覚で警察に捕まらないように殺人をするのだろうか……などと思ってしまった。しかし、蓋を開けてみれば、舞台上にいるのは、頭脳明晰で、元来は理性的な、あまりにも等身大の“17才”であった。

主人公の櫛森秀一(演・北村諒)は母と妹と暮らす、ごく普通の高校2年生だ。ロードレーサーで学校に通い、部活は美術部だが幽霊部員。クラスメイトから酒を買うなど悪い一面もあるが、基本的には友達・家族想いで周囲に慕われ、思いを寄せてくれるかわいいクラスメイトすらいる。そんな何不自由ない彼の日常が、1人の男によって壊される。

その男の名は曾根隆司(演・村田洋二郎)。秀一の母親・友子(演・田中良子)の元再婚相手で、秀一とは血が繋がっていないし、今はもう家族ですらない。そんな男が自宅に転がり込み、我が物顔で母をこき使い、妹の遥香(演・松永有紗)に近づこうとする。秀一のストレスは限界値を迎え、いつしか「曾根さえいなければ……」と思うようになってしまう。沸々と“青い炎”――怒り、そして殺意が、彼の心に芽生え始める。

北村の演じる秀一は、端正な顔立ちも相まって、非常にクールで理知的に見える。
実際に秀一は初めから曾根を殺そうと思ったわけではなく、離婚調停の際に世話になった弁護士の加納を頼るという過程も経ている。しかし彼は“17才”なのだ。

曾根を家から追い出すには、世帯主である母・友子が行動を起こさないことにはどうにもならない。しかし友子は曾根への情を捨てきれないのか、復讐を恐れているのか、煮え切らない態度を見せる。

田中が演じる友子の悲壮感は、母として、女性としての苦悩を感じさせた。一方で、曾根を演じる村田はヒール役に徹しており、これがのちに発覚する、とある事実のショックを増幅させている。

舞台上で初めて秀一が普通の“17才”ではないと感じたのは、彼が自宅に盗聴器を仕掛ける場面だ。母と曾根の会話を盗聴した秀一は、妹・遥香が曾根の実子であることを知ってしまう。松永有紗演じる天真爛漫な遥香は、ピンと張りつめた本作の空気を唯一和ませてくれる存在で、そんな妹を大切に思う秀一の気持ちは非常によく理解できた。

家族を壊されない為に、“17才”の少年はついに行動を起こすことを決意する。

それは非常に緻密な計画で、少年法(当時)の適用を免れるためのタイムリミットすら計算の内であった。少しずつ昏い眼差しに変わっていく秀一の様子を気にかけつつも、明るく彼に接するのは、クラスメイトの福原紀子(演・飯窪春菜)だ。

秀一に想いを寄せている紀子は何かにつけ彼にちょっかいをかけ、秀一自身もまんざらではない様子。聡い一面も持ち合わせ、いち早く秀一の変化や、事件の違和感に気づく、本作のキーパーソンでもある。零れ落ちそうな大きな瞳は、常に秀一をまっすぐに見つめており、映画版ではハロー・プロジェクトの大先輩である松浦亜弥が演じていたこの役を、飯窪が万感の思いで演じているのも伝わってきた。

四方八方から

今作の大きな見所は、キャストが1度も袖にはけないという演出だ。
ステージを張り出して180度以上が観客席から見えるという環境に加え、紗幕の後ろにもキャストが常駐している。

約2時間、緊張の糸がピンと張りつめた中での芝居は、異常な空気感を漂わせている。
秀一が事を起こすシーンでも、他キャストと観客が、四方八方から彼をじっと見つめていることになる――それはまるで、完全犯罪など成しえないのだということなのだろうか。

また、小説原作をいう点を生かした映像演出も素晴らしく、紗幕に浮かんでは消えていくキーワードが、観客の脳裏にこびりついていく。

また、2時間ずっと秀一役としてステージにいる北村に対し、他キャストは兼ね役があるのも面白いポイントだ。

その為なのだろうか、秀一だけがよくある水色の制服を身に纏っており、他キャストの衣装は制服のリボンに至るまで白で統一されている。

特に、石岡拓也役の田中涼星は、大門剛という別のクラスメイトも演じ分けており、暴力的で粗雑な石岡に対し、繊細で優しい大門はまるで真逆のキャラクターで、田中の演技の幅に驚かされる人も多いのではないだろうか。

また、後半で出てくる山本英司役の荒木健太朗も、前半ではクラスメイトの役などで登場する。
人好きのする笑顔はどの場面でも目立ちはするが、警部補の山本として登場する場面はやはり貫禄が違うと感じた。

柔和な口調で秀一を追い詰めていくその様に、秀一に感情移入をすると胸が苦しくなってしまう。

家族を守りたい――
その一心で行動した“17才の完全犯罪”は果たしてどのような結末を迎えるのか。
1度胸のうちに灯ってしまった“青の炎”を消すことは、果たして出来ないのだろうか。

観終わった後、様々な「たられば」が頭をよぎってしまう作品だ。
ぜひ劇場で、秀一の一挙一動を、固唾を呑んで見守ってほしい。

文・写真:通崎千穂(SrotaStage)

舞台「青の炎」

◆原作:貴志祐介『青の炎』(角川文庫)
◆公演日程:2022年10月28日(金)~11月6日(日)
◆会場:こくみん共済coopホール/スペース・ゼロ
◆チケット金額:S席9,800円(税込)/A席 7,800円(税込)
◆脚本:月森 葵
◆演出:加古臨王
◆主催・企画:舞台「青の炎」製作委員会
◆制作:Office ENDLESS
◆提携:こくみん共済coopホール/スペース・ゼロ
◆キャスト
櫛森秀一:北村 諒/福原紀子:飯窪春菜/石岡拓也:田中涼星/櫛森遥香:松永有紗/櫛森友子:田中良子
曾根隆司:村田洋二郎/山本英司:荒木健太朗

◆公式サイト:https://officeendless.com/sp/aonohonoo_stage/
◆公式Twitter:@aonohono_stage
ハッシュタグ:#舞台青の炎
Ⓒ舞台「青の炎」製作委員会

リポートカテゴリの最新記事