“怒涛のジェットコースター大娯楽エンターテインメント”として愛され続ける『CLUB SEVEN』最新作『CLUB SEVEN another place II』が有楽町よみうりホールで上演中だ(14日まで。のち、10月24日~25日大阪・サンケイホールブリーゼで上演)。
『CLUB SEVEN』は脚本・構成・演出・振付を担う玉野和紀が、2003年5月の初演以来創り続けている舞台の醍醐味を全て詰め込んだエンターテインメントショー。ソング&ダンス、芝居、タップ、ミュージカル、スケッチと呼ばれるショートコントストーリー、そして『CLUB SEVEN』の一大ページェントとして、既に代名詞的存在に育っている怒涛の五十音順ヒットメドレーなど、LIVEならではの、LIVEでしか体験できないノンストップステージだ。
初演から作品を支えてきた“レジェンド”メンバーと呼ばれる吉野圭吾、東山義久、西村直人を軸に、毎回新たなキャストを迎えて続いて来た舞台は、昨年の前回公演で『CLUB SEVEN another place』と題されて、多くの歴史を重ねてきたシアタークリエからところを有楽町よみうりホールへと移したが、シアター1010やウェスタ川越での公演と同様に、作品の核となる楽しさと輝きは変わることなく、人が頑張る姿こそが究極の醍醐味を生む『CLUB SEVEN』の力強さと楽しさを改めて示してくれた。
今回の上演はサブタイトルに「another place II」と付けられた、同じ有楽町よみうりホールでの上演で、レジェンドメンバーに加え、原田優一、北翔海莉、妃海風の強力な『CLUB SEVEN』経験者たちと、初参加となる内海啓貴と蒼木陣が揃い、お馴染みの場面、また旬の話題も取り入れたSpecialなノンストップステージが展開されている。
耳に馴染んだオープニングナンバーが鳴り響き、扉が開いてバックサスのなかキャストたちのシルエットが浮かび上がった瞬間から、もうそこは『CLUB SEVEN』の世界だ。ダンス、歌、タップに心躍り、2パターンが用意されたスケッチの芝居に笑って、笑って、ミュージカルで少しホロっとしたのも束の間、そうでしたよね、そう来ますよね?というこれぞ『CLUB SEVEN』の展開が待っている。
今回特に顕著に進化したのを感じる、厚みのある美しい男声コーラスに聞き惚れて、もうこれだけでショー作品としてはありあまるほどのボリュームだと感じる1幕が終わると、休憩を挟んだ2幕は遂に全101曲という、三桁の大台に乗せた五十音順ヒットメドレーが繰り広げられていく。玉野が常に世の中にアンテナを張り続けていることがよくわかる新しい披露曲もあれば、大定番となっている曲もちゃんとあって、新たな風と曲がかかっただけで拍手したくなる曲とのバランスがとても良い。誤解を恐れずに言えば、あまりにも馬鹿馬鹿しいからこそ可笑しみに溢れるシーンもあれば、ちょっと滑っているシーンもあるし、「説明しなくてもわかるよ!と」いう今回の陣容だからこそできる必殺技もあって息つく暇もない気持ちになっていく。
そうして揃いのCLUB SEVEN Tシャツって2色あったっけ?と思うほど、明確に色が変わっていく、つまりは個々それぞれの汗のかき方でTシャツが色を変えていく様を見ながら、いつしか涙腺があやしくなってくる。ここにあるのはいつも、人ってこんなにひたむきになれるんだ、というアナログのぬくもりに溢れた温かさだ。それは玉野が信じるエンターテインメントの力に他ならないし、全てを出し切って弾けるキャストたちが共に信じているものに違いない。だから客席にいてさえも『CLUB SEVEN』を体感したあとは必ず心地よい疲労感に包まれる。そして実は顔も名前も知らない隣席の誰かに「お疲れ様でした!」と声をかけたくなるのだ。
もちろんどんな舞台でも「最後のピースは観客だ」と創り手や、キャストの方々は言ってくれるし、確かに観る者がいなかったら舞台作品は商業ベースであるなしに関わらず成立しない。それでもこの『CLUB SEVEN』の「観た」ではなく「体感した」という言葉しか使えない感覚は、特別なものだ。
そんな世界を生み出し続けている玉野和紀は、めっきり少なくなったショーステージを日本のエンターテイメントから絶やしてはいけない、という強い使命感を内に秘めながら、あくまでも少年のように舞台を駆け回っている。この人の頭のなかはどうなっているんだろう?は、観客はもちろん共に舞台を創るキャストからも頻繁に出る言葉だが、玉野にとって汲めども尽きぬ創作への情熱にはおそらく、常人が遊んでいる時に等しい無邪気さがあるのだと思う。自らを「CLUB SEVEN部長」と名乗るのは、このステージを部活動と捉えている証で、つまりひと言で言えば天才の仕事に他ならず、今後も様々なアイディアを披露し続けて欲しい。
“レジェンド”メンバーの吉野圭吾は、主戦場のミュージカル界では「怪演」とも呼びたい個性を発揮し続けていて、吉野が演じることで役柄自体が途方もなく大きくなる吉野マジックを駆使する存在。だが、この『CLUB SEVEN』に於いては、その「怪演」ぶりを存分に披露しつつ、スッキリと美しい二枚目の顔も見せてくれるのが貴重だし、とぼけた味わいのなかにも人間味があふれ出る多面体の魅力が今回も十二分に光っている。俳優としてまだまだ様々な可能性があることを感じさせて、なにもかもが味わい深く大きい。
同じく“レジェンド”メンバーの東山義久は、踊りの神様に愛された人だが、近年舞台俳優としての幅を着実に広げていて、新たな役柄のいずれでも観る者を納得させる力量を披露しているのが頼もしい。今回もスターダンサーに相応しい活躍から、定番の面白キャラクターまでを受け持っていたが、現在は怪我の為出演場面を絞っている。もどかしさもあることだろうが、踊っている時のスター性は言うまでもなく、立っているだけで、そこに存在するだけで絵になり、空気を変える余人に代えがたい人だからこそ、決して無理をせず回復第一に臨んで欲しいし、柔軟に対応している『CLUB SEVEN』メンバーにも敬意を表したい。
もう一人、玉野の文字通りの片腕である西村直人も、西村にしか演じられない人気キャラクターを多く持っていて、出て来ただけで口角が緩んでしまう名シーンがいくつもあるが、やはりこの『CLUB SEVEN』の舞台では、笑いのオーラでけむに巻いている二の線の顔がふいに現れる瞬間があって、カッコいいな…と目を引かれることもしばしば。どこまでが決まっていて、どこからがアドリブなのかが判然としないほど自然な台詞も更に深まっていて、任せて安心の存在感に磨きがかかっている。
彼らと同じくらい『CLUB SEVEN』キャリアがあると感じさせる原田優一は、実は2010年、2017年、2023年公演の出演を経た、これが4回目の登場というのがちょっと信じがたいほどだが、更に信じがたいのが「つい数日前までボブ・クルーでしたよね?!」と確認したくなる『ジャージー・ボーイズ』千秋楽からこの舞台への間隔がないことで、まさに超人的出演。それでいて舞台姿を自由気ままに感じさせる余裕には恐れ入るし、一転して物語世界を十二分に届けるソロ歌唱の充実にも感嘆。怖いものなしの俳優として進化を続けている。
『CLUB SEVEN』初登場の内海啓貴は、前述したように今回の舞台で特に際立って感じられたコーラスの厚みに大きく貢献している歌唱力を武器に、あくまでも真摯に舞台に臨んでいる様が新風を吹かせている。非常に初々しさのある舞台ぶりで、近年はミュージカル作品で若手のリーダー的存在として活躍することも多くなっている人だけに、新たな魅力を見た思いがする。『CLUB SEVEN』としては当たり前の、ドレス姿も美しく見せて、俳優・内海啓貴にとってこれは貴重な経験になったことだろう。ますますの進化を楽しみにしている。
もうひとりの初参加蒼木陣は、抜群の身体能力を発揮する場面も用意されていて、百戦錬磨感満載のキャスト陣のなか、体当たりの熱演が清々しい。公演に向けたインタビューでも語られていたように玉野と親子になるシーンがあり、非常にしっくりと馴染んでいる上に、繊細な演技力も感じられ、やはり『CLUB SEVEN』はやることが膨大な分、俳優の持てる能力が一気に前に出てくる利点があり、ここで輝いた魅力をさらに次の舞台につなげていって欲しい。
彼ら男性キャストのなか、女性キャストが2名というのも、僅かな例外はあるものの『CLUB SEVEN』が長く守っている伝統だが、なかでも近年準レギュラーの趣が出て来たのが北翔海莉。元宝塚歌劇団星組トップスターだが、人を喜ばせたい、常に新たな自分を観て欲しいというエンターティナーとしての飽くなき挑戦心に、玉野と相通じるものを感じる。当然の帰結として『CLUB SEVEN』との相性が極めてよく、今回も数多あるキャラクターを演じ分けて大活躍。出自を活かしたシーンから、そこまでしますか?の振り切ったシーンまで大いに場を盛り上げた。
その宝塚時代に北翔の相手役として、星組トップ娘役を務めた妃海風が揃ったのが今回の上演の話題のひとつ。純ヒロインから、力強い役柄までを演じ分けられる人で、妃海ならではのシーンから、二人がいるからこそできるシーンもあり様々な顔を見せてくれている。某アイドルに扮するシーンは必見だし、「コンビを組んで10年の記念の年」と北翔がいみじくも語ったように、宝塚歌劇団を卒業してからも個々に活躍の幅を広げている二人が揃うと、コンビ感がたくまずして発揮されるのがなんとも微笑ましく嬉しい光景だった。
そんな『CLUB SEVEN』WORLDに2年続けて包まれた有楽町よみうりホール。時期は未定ながら再開発の声も聞こえてくるが、例え将来どこに行ったとしても『CLUB SEVEN』は『CLUB SEVEN』。逆転の発想でミニマムにすることも、大きく広げることも可能だと思うし、まるで自分も一緒に走ったかのような高揚感のなかで、次に玉野が何を観せてくれるのかに、早くもワクワクする。だからこそまずは是非、いまここにしかない『CLUB SEVEN another place II』の世界を、多くの人に体感して欲しい。
(取材・文・撮影/橘涼香)
公演情報
『CLUB SEVEN another place II』
脚本・構成・演出・振付◇玉野和紀
出演◇玉野和紀 / 吉野圭吾 / 東山義久 / 西村直人 /
原田優一 / 内海啓貴 / 蒼木陣 /
北翔海莉 / 妃海風
10月4日(土)〜14日(火)東京・有楽町よみうりホール
10月24日(金)・25日(土)大阪・サンケイホールブリーゼ