大部恭平が主宰を務める「おぶちゃ」の8周年記念公演は、大部が初めておぶちゃの主演を担い、西野亮廣による三人芝居『グッド・コマーシャル』を四人芝居に改訂した『魔法使いのパレード』を上演する。
演出は川本成、共演に堤下敦とおぶちゃメンバーの柳下大、瀬口美乃という顔ぶれが揃い、大部の地元・横浜の赤レンガ倉庫で上演される。初日まで1週間を切ったタイミングで、稽古場取材と大部、堤下へのインタビューを行った。
<大部・堤下インタビュー>
――本番までわずかですが、手応えはいかがでしょう。
大部「前半は堤下さんとのシーンが多いんですが、そこがどんどん楽しくなっています。読み合わせの時点で、「テレビで見ていたツッコミを自分が浴びている!」という衝撃と新鮮さがありました。稽古内外でのやり取りを通して、いい意味で遠慮がなくなってきているので、本番ではもっと呼吸を合わせていきたいです。」
堤下「今回は四人という少人数でのお芝居。本番になったらもっと広い空間になることを意識しつつの稽古です。客席がコの字型なので、その見せ方をまたブラッシュアップして、最高のものをお届けする準備が整ってきたと思います。」
――『グッド・コマーシャル』を知っている方もいれば今回初めて観る方もいると思いますが、舞台ならではの見どころはどこになりますか?
大部「今回、新たに書き換えや書き足しがされている部分もあります。その中でもファンタジーに対する作り手の姿勢について、西野さん自身の経験や思いがさらに深く乗っていると感じるので、お芝居に限らず、表現が好きならどこか刺さるんじゃないかと。原作を知っている人も知らない人も新鮮に楽しめる作品になっていると思いますね。」
――堤下さんから見て、主宰・主演としての大部さんはいかがでしょう。
堤下「ひたむきさや頑張る姿勢が、西野の『グッド・コマーシャル』にすごくハマっていると思います。僕は『グッド・コマーシャル』を前にもやったことがあるんですが、今回は西野が大部くんに当てて書いている台詞や表現があって、すごくリンクしていると思います。主宰も主演も、他のこともいろいろやるのは相当大変だと思うけど、私の想像を超える人間・役者・主宰です。ちょっと気持ちの悪い表現になるけど、大部という人間を1秒でも早く見てほしいし、長く見てほしいですね。」
――稽古場エピソードがあったらお聞きしたいです。
堤下「広くて明るくて環境も整っていますね。ただ、近くのコンビニでコーヒーを買う時にガムシロップをもらおうとしたら外国人店員さんに「太るよ」と言われてちょっと嫌ですね。あと、この稽古場泥棒が出るんですよ。コーヒーを買った時にもらえるクーポンや僕が買っておいてあるのど飴が盗まれてて……。」
大部「それ僕じゃないですか(笑)! ちゃんと断ってからもらってますからね。」
堤下「「いただきま~す」って、ふざけたムービーが送られてきました。」
大部「多分、聞きたかった稽古場エピソードと違いますよね(笑)。」
堤下「小道具などが全部揃ったのもあるけど、みんなより集中していて、気が引き締まっていく気はしています。あと、四人の芝居なので、チームワークも強くなってきた。本番に向けてすごくいい稽古ができていると感じます。」
大部「あと、今回僕が主演なので、普段自分がやっていることをいろいろなスタッフさんたちにお願いしています。僕からすると新鮮で、おぶちゃの現場っていう感じがいい意味でしないというか、不思議な感覚ですね。」
堤下「僕は初めておぶちゃに参加していますが、稽古が12時から17時というフレックス(?)なのも初めて。役者やスタッフの体を大事にしたスケジュールだと思います。主宰がいいんでしょうね。」
大部「今の、太字でお願いします!」
堤下「「泥棒」と「いい主宰」が太字ね(笑)。」
――お二人のお気に入り、注目シーンがあったら教えてください。
大部「今回の脚本では役のディティールが少し僕に近づいていて、重なるところがあります。その立場の葛藤みたいなものを書いてもらっているので、実感を持って伝えられると感じます。あと、僕はずっと板の上にいるので頑張ります!」
堤下「三人芝居が四人になって、瀬口さんの役が初めて入りました。『グッド・コマーシャル』の原作に書かれていない、主役のバックボーンが深掘りされているのも今回の見どころ。原作やこれまでの公演を知っている方も、「こいつにはこんな背景があったのか」と楽しく見られると思います。」
――まだ悩んでいる方をお誘いするなら何を伝えますか?
大部「堤下さんが舞台でツッコミ役、しかもそれを書いたのが西野さんという機会は滅多にないと思います。本当にライブのような感覚なので、生で浴びてほしいです。僕自身がおぶちゃで真ん中に立つのも初めてですし、(柳下)大くん、(瀬口)美乃も僕らをまくる勢いで出てくる。さらに、コの字型なのでどの席からでも近さを感じられると思います。あと、赤レンガ倉庫という場所もいいですよね。公演期間中はビールのイベント(オクトーバーフェスと)をやっているようなので、舞台と合わせて楽しんでいただけたら嬉しいです。」
――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
堤下「さっきの質問と矛盾するけど、来なくてもいいです。時間とお金を使うことなので、無理しなくていい。でも、迷っている方や興味を持ってくださっている方がいたらぜひ来ていただきたいですね。エンタメって贅沢品だけど、何か豊かになったり、自分の人生に影響を与えたりします。この記事を読んでくださっていることも運命だと思うので、「堤下がこんなことを言っているから見てみよう」と思っていただけたら。見ていただいたら必ず何か変える自信があります。」
大部「おぶちゃとしても、今年最大の挑戦となっていると感じます。企画を決め、気付いたら成さん、西野さん、堤下さんという偉大な先輩たちに力を貸してもらい、地元・横浜で主演を務めます。ビールや観光ついでに遊びに来ていただけたら嬉しいです。」
<稽古場レポート>
この日は原作・脚本の西野と稽古場スポンサーの方々も見学に入った中で、返し稽古が行われた。冒頭からシーンを区切ってSEのきっかけやセリフ、動きの細部を確認し、その後シーン通しを行なって精度を高めていく。
冒頭からしばらくは大部と堤下の掛け合いで物語が進んでいくが、「死にたいと思っている男」を演じる大部と、人質をとって立てこもり事件を起こした犯人・堤下の目的のすれ違い、噛み合っているようで噛み合わないやり取りがコミカルで面白い。どこかとぼけた大部に切れ味鋭いツッコミを入れつつ振り回される堤下の姿に、スタッフや稽古場スポンサー、西野からも度々笑いが起きていた。
川本からはセリフや動き、小道具の扱いについて細かく修正が。キャラクターの心情の変化を丁寧に紐解いて共通認識を作っていく。
シーン毎の合間に挟まる小休憩中も、脚本を持ってセリフや掛け合いの確認を行い、丁寧に詰めていっているのが印象的だった。また、休憩中の芝居を見ている川本や西野も時折「こうした方がいいかも」「今の面白かった」と声をかけ、和気藹々とした雰囲気でブラッシュアップを重ねていく。
中盤、大部と堤下のやり取りに柳下が加わると、掛け合いの勢いとテンポ感はさらにアップ。犯人と人質、交渉人という立場で、それぞれの目的が複雑に絡み合ってコミカルながら緊張感のある展開が繰り広げられる。冷静に考えるとバカバカしいことに対して、三人が大真面目に、全力で向き合って苦労している様子が熱く、なぜかグッとくる。
問題が一つ解決したかと思うと次の問題が出てくるワンシチュエーションコメディらしい面白さと、登場人物一人ひとりが抱える事情、人間関係の奥行きが魅力の本作。稽古中、キャスト陣の芝居に何度も笑い声を上げていた西野も、稽古終わりに「すごく楽しみです!」と笑顔を見せていた。
それぞれのシーンが繋がり、衣装や照明が加わった時にまた一段階熱量が上がるのではないかと、公演本番への期待が高まる。
(撮影・文 吉田沙奈)
【公演情報】
おぶちゃ8周年記念公演『魔法使いのパレード』
公演期間:2025年10月2日(木)~10月7日(火)
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール(神奈川県 横浜市中区 新港 一丁目1番1号)
脚本/西野亮廣
演出/川本成
出演/大部恭平 堤下敦 柳下大 瀬口美乃
声の出演/富田 翔 萩原 成哉
【チケット】
SS席/9,900円
S席/7,700円
A席/5,500円
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