【稽古場レポート】「この世界で、正しさを選ぶ勇気を問う。」 朗読劇『また、桜の国で』が私たちに遺すもの

【稽古場レポート】「この世界で、正しさを選ぶ勇気を問う。」 朗読劇『また、桜の国で』が私たちに遺すもの

「その友情は、国境を越えて──。」
第二次世界大戦下のポーランドを舞台に、日本人外交官・棚倉慎と、時代に翻弄されながらも希望を求め続けた若者たちの物語が始まる。
ISSEI主演、吉村卓也が脚本・演出を手掛ける Tie Works 最新作・朗読劇『また、桜の国で』。
8月27日(水)〜31日(日)、東京・IMM THEATERにて上演。

第二次世界大戦の影が世界を覆う時代――。
ナチス・ドイツに蹂躙され、自由を奪われたポーランドの地で、日本人外務書記生・棚倉慎(ISSEI)が目にするのは、抗い続ける人々の息遣いと、国境や民族を越えて結ばれる青年たちの絆。
銃声と緊張が交錯する日々の中で、誰もが葛藤し、必死に「生きる意味」を探し続ける――。

いよいよ開幕を目前に控えた稽古場は、熱気と緊張感に包まれていた。
扉を開けた瞬間、目の前に広がったのは、稽古場とは思えないほど精巧に組まれたステージセット。本番さながらの光景に、息を呑む。
キャストたちは、その舞台空間を縦横無尽に使い、動きと台詞を重ねながら作品の輪郭を立ち上げていく。
今作は“読む”だけでは終わらない――ストレートプレイの緊張感と朗読劇の表現力が交錯する、異色の稽古場だった。
通し稽古では、演出の吉村氏が一切流れを止めず、静かな指示だけでキャストを導き、物語の核心を確かな熱量で築き上げていた。

ISSEIが演じるのは、赴任したばかりの日本人外交官・棚倉慎。
人懐っこく誠実で、どこに行っても自然と人を惹きつける好青年。その穏やかな佇まいと優しさが、危うい時代に芽生える友情を一層際立たせる。
稽古が進むたびに、台本を片時も手放さず細部まで役を磨き上げるISSEIの姿勢と、「もっと棚倉を生きたい」という熱が、物語の核心に迫っていく。
その集中と熱意が稽古場の空気を震わせ、見守るスタッフさえ息を呑む瞬間が幾度もあった。
戦争の渦に飲み込まれていく物語の中で、彼が本番でどこまでその想いを昇華させるのか――期待は高まる一方だ。

ユダヤ系ポーランド人のカメラマン・ヤンを演じるのは、京典和玖。
棚倉にとって、異国の地・ポーランドで最初にできた友人であり、時に道しるべのような存在だ。
記者として現場を駆け回るヤンは、的確で冷静な判断力を持つ一方、ユダヤ系であるがゆえに常に危うさと隣り合わせの日々を生きている。
そんな彼が、同じ境遇を抱えるハーフの日本人・棚倉にだけ見せる本音――その脆さや痛みが、京典のどこか憂いを帯びた眼差しに不思議な説得力を与えている。

日本に深い敬意と友情を抱く、極東青年会のリーダー・イエジを演じるのは、杉本琢弥と新納 直(Wキャスト)。
親を失った孤児たちを支え、仲間のために身を挺して奔走するその姿は、時代の荒波に抗いながらも信念を貫くリーダーそのものだ。
杉本と新納が放つ真っ直ぐな眼差しと熱のこもった芝居は、観る者の胸を揺さぶり、「この男なら、棚倉が心から協力したのも当然だ」と納得させられる。

そんなある日、棚倉の前に現れるのが、アメリカ人記者・レイ(宮武 颯〈WILD BLUE〉/木村聖哉)。
出会った瞬間から挑発的で、何かと突っかかってくるかと思えば、ふとした瞬間に核心を突く忠告を投げかけてくる――その揺れ動く態度に、棚倉の心は次第に引き寄せられていく。
しかし、二人の間には簡単には口にできない“秘密”が横たわっていた。
物語が進むにつれ、その関係性が絡み合い、交わされる言葉や視線が切なさを増していく。
Wキャストによって描かれる、まったく異なるレイの表情と空気感も大きな見どころだ。

棚倉の赴任先であるワルシャワ日本大使館には、長年この地で尽力してきた酒匂大使(阿部亮平)と、書記官の織田寅之助(松田大輔)がいる。
織田は周囲から“トラちゃん”と親しまれる陽気な人物で、マジェナ(鶴嶋乃愛)からも信頼を寄せられている。

大使館の空気は穏やかで、そこに流れる時間はどこか懐かしいほど温かい――戦火が忍び寄る前の、あの平和な日常の尊さを思わず胸に刻みたくなる。
しかし、戦況が悪化する中で疲弊し、政治家として成すべきことはすべて終えた――そう悟ったかのような諦念が漂う。
その姿は、逆に棚倉の心に炎を灯し、彼を大きな決断へと突き動かしていく。

そして、その人間模様の節目を、セルゲイ役の阿南健治が歴史の目撃者のような存在感で見届け、物語を静かに、しかし確かに進めていく。
彼は何者なのか――。その謎めいた存在感が、物語に奥行きを与えている。

やがて棚倉は、イエジ率いる極東青年団、そしてハーニャ(高本彩花)、マジェナたちとともに、否応なく戦いの渦へと巻き込まれていく。
ほのかな愛情や小さな希望、そして何より人間の尊厳や友情を守ろうと必死にもがく彼らの姿は、胸を熱く揺さぶる。

今回は台本を手にしながらも、対面での芝居を重ねることで、目線ひとつ、呼吸ひとつにまで魂が宿る演技が見どころだ。
さらにステージ全体を縦横無尽に使い、場面転換もテンポよく展開されるため、従来の朗読劇とは一線を画す、まったく新しい表現空間が生まれている。

そして劇中、ピアノ生演奏で響くショパン『革命のエチュード』が、物語の緊張感を一気に高め、観客の感情を燃え上がらせる。
この舞台は、戦争の恐ろしさを描くだけではない。混沌の時代を必死に生き、守りたいもののために立ち上がった人々の“魂の記録”を、確かに感じさせてくれる。

稽古の合間、ISSEIは静かな口調で、手応えと決意を語ってくれた。

ISSEI「今回の作品は朗読劇ですが、動きもあるので一言で言うとすごく大変です。正直、まだまだ力不足で悔しさもありますが、早く周りの皆さんに追いつきたい一心で必死に取り組んでいます。まずは目の前の事をひとつずつ整理して、この朗読劇を通して大きなテーマをしっかりお客様に届けられるようにしたいです。台本を読むことに集中しすぎると、お芝居が難しくなるのが自分の課題だと感じています。今は自分の事で精一杯ですが、本番までには共演者の皆さんともっとコミュニケーションをとって、一緒に良い作品をつくりたいです。
終戦80周年の今年、この役を通して、21歳の自分だからこそ伝えられる思いや戦争の記憶を未来へつなげていけたらと思っています。劇場でお待ちしております」

尚、日替わりアフタートークなども決定。詳細は公式サイトまで。 

(取材:カンフェティ/写真:谷中理音)

【公演情報】

朗読劇「また、桜の国で」
原作:須賀しのぶ 「また、桜の国で」(祥伝社刊)
脚本・演出:吉村 卓也
音楽:TAKE(FLOW)

2025年8月27日 (水) 〜 2025年8月31日 (日)
会場:IMM THEATER
出演:
ISSEI
宮武 颯(WILD BLUE)/木村 聖哉 ※Wキャスト
杉本 琢弥/新納 直 ※Wキャスト
京典 和玖
鶴嶋 乃愛
高本 彩花
松田 大輔(東京ダイナマイト)
阿部 亮平
阿南 健治 ほか

チケット料金
S席 (A~H列):¥11,000、A席(I~U列):¥9,000 ※当日券:各券種+¥500

<公演スケジュール>
8月27日(水) 19:00
8月28日(木) 19:00
8月29日(金) 14:00/19:00
8月30日(土) 13:00/17:00
8月31日(日) 12:00/16:00

【宮武 颯(WILD BLUE)出演回】
8月
28日(木) 19:00
29日(金) 19:00
30日(土) 13:00 / 17:00
【木村 聖哉出演回】
8月
27日(水) 19:00
29日(金) 14:00
31日(日) 12:00 / 16:00
【杉本 琢弥出演回】
8月
27日(水) 19:00
28日(木) 19:00
29日(金) 14:00 / 19:00
【新納 直出演回】
8月
30日(土) 13:00 / 17:00
31日(日) 12:00 / 16:00

▼アフタートークについて
終演後、約10分~15分を予定しております。
【アフタートークスケジュール】
8月27日(水)19:00公演
ISSEI
木村 聖哉
杉本 琢弥
鶴嶋 乃愛

8月28日(木)19:00公演
須賀しのぶ
宮武 颯(WILD BLUE)
杉本 琢弥
吉村 卓也

8月29日(金)19:00公演
ISSEI
宮武 颯(WILD BLUE)
京典 和玖
高本 彩花

MC:樽見ありがてぇ

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