堂本「芳雄くんの出し(※次のスケジュールの為退出時間が決まっていること)があるので、手短かに…」
井上「それ、バラすのやめてもらっていいですか?」
堂本「生放送なんでしょ?」
井上「夜なんで大丈夫です。あと僕のせいで羽田になったわけじゃないんで」
堂本「そう思ったのよ」
井上「違いますよ!」
堂本「羽田でやるっていうことは芳雄くんどこか地方に行くのかなって」
井上「いやいや、すぐ飛び立つわけじゃないので大丈夫です。僕のせいじゃないんで、ゆっくり喋ってください」
堂本「そうですね。じゃぁまず、自分の生い立ちから説明したいと……」
井上「それは長いですよ。僕、出しがあるんで」

音月桂の表現を借りれば「夫婦漫才」のようにはじまった、ミュージカル『ナイツ・テイル -騎士物語-』ARENA LIVEの製作発表会見冒頭の、堂本光一と井上芳雄の掛け合いから、度々「家族のよう」と表現されたカンパニーの絆があふれ出ているようだった。
ミュージカル『ナイツ・テイル -騎士物語-』は、2000年に当時の帝劇最年少座長として『MILLENNIUM SHOCK』に主演し、以降『SHOCK』シリーズを磨き上げ、現在の『Endless SHOCK』に至る、約四半世紀続いた前人未到の上演記録を打ち立てた堂本光一。同じく2000年に帝劇で上演されたミュージカル『エリザベート』東宝版初演のルドルフ皇太子役で鮮烈なデビューを飾り、一躍注目を集めて以来、ミュージカル界のトップランナーとして走り続ける井上芳雄が、奇跡のタッグを組んで2018年に帝国劇場で世界初演されたオリジナルミュージカル。
ロイヤルシェイクスピアカンパニーの名誉アソシエイトディレクターであり、日本では『レ・ミゼラブル』日本初演の潤色・演出、近年では『千と千尋の神隠し』初の舞台化を大成功に導いたジョン・ケアード脚本・演出によるこの作品は、世界最高の劇作家シェイクスピア最後の戯曲「二人の貴公子」(ジョン・フレッチャー共作)を基に現代の息吹を加えて紡がれたもので、ジョンの脚本・演出、ポール・ゴードンの作詞・作曲、日本語脚本・歌詞の今井麻緒子をはじめとしたクリエイティブチームが、テーベの騎士アーサイトの堂本、同じくパラモンの井上を中心に、音月桂、上白石萌音、島田歌穂、岸祐二、大澄賢也という、実力派カンパニーの魅力を存分に生かしたオリジナルミュージカルとなった。
更にコロナ禍がはじまった2020年、当時考えられる限りの工夫を凝らして開催されたシンフォニックコンサートバージョンを経て、そのコンサート版で生まれた新曲も盛り込んだ『ナイツ・テイル』の完成形とも言える再演が2021年帝劇と、大阪・梅田芸術劇場、福岡・博多座で実現し、作品は熟成を重ねてきた。
そんなミュージカル『ナイツ・テイル -騎士物語-』が、生まれ故郷である帝劇が再開発のための休館を迎えた2025年、帝劇の3倍以上のキャパシティ、各回6,000人を迎える東京ガーデンシアターでの「ARENA LIVE」バージョン(8月2日~10日、全12回公演)として上演されることが決定。堂本、井上をはじめ、初演以来不動のキャストとして作品に生きるアテネ大公の妹エミーリアの音月桂、牢番の娘の上白石萌音、アマゾネスの女王ヒポリタの島田歌穂、森のダンス指導者ジェロルドとテーベの王でアーサイトとパラモンの伯父クリオンを二役で演じる大澄賢也、そして新キャストとしてアテネ大公シーシアスを演じる宮川浩のメインキャスト陣と、ジョン・ケアード、今井麻緒子が、6月3日羽田空港ターミナルビルで行われた製作発表会見に出席。多くの取材陣と抽選で選ばれた幸運な300人のオーディエンスが見守るなか、新たなARENA LIVE バージョンへの意気込みを語る会見が、登壇者の挨拶からスタートした。

ジョン「ここに来られてとても嬉しいです。『ナイツ・テイル』を再び日本のお客様に披露することを光栄に思っています。私は若い頃にシャイクスピアカンパニーで色々なシェイクスピア作品を上演したのですが、この作品はちょっと時代遅れな部分が難しいとされていました。ですから今回これをやるにあたって、いまの時代にも耐えられる作品にしようと書き直しました。そこには三つの大きなテーマがあります。戦争は悪、環境保護、社会における女性の地位の向上です。いまはこれまで以上にこの三つのテーマが大事なんじゃないかなと思っていますので、この時期にこの作品をまたやれることをとても嬉しく思っています。それに加えて、僕の大好きなこの7人の役者たちと再び仕事ができることをすごく嬉しく思います。40年前にこの2人(島田と宮川)と一緒に仕事をしています。でもそんなに歳をとって見えないでしょう?40年仕事をし続けているのに。その時点で生まれていなかったという人もこの中にいるんですよ、誰とは言いませんが(笑)。どうもありがとう」
今井「この作品は私にとってすでに外国で出来上がったものを翻訳してやるというのではなく、ミュージカルを一から創るということをクリエイティブとして初めて経験した作品だったので、とても思い入れが深いです。皆を見ていると、創り上げていた時のことが蘇ってくるので、またこうして再びできること嬉しく思っています」
堂本「またこのメンバーで『ナイツ・テイル』ができることを本当に嬉しく思っております。若干1名岸さんがいらっしゃいませんが、宮川さんよろしくお願いします。帝国劇場が一旦閉じて、この作品も帝国劇場から始まった作品ですし、こうやって作品を通じて、5年後、6年後になるのかわかりませんけれども(新帝劇へ)つないで行くという意味もあると思うんです。そういった形ができるのを嬉しく思いますし、この作品はやればやるほど色々な発見がある。やっていてずっと発見し続けられる作品なんですよね。ですから今回6,000人規模のお客様が入る中でやらせていただくということですが、まだ正直僕らもどういった形になるのか、わかっていない部分が多いんです。でもまたジョンについていけることを本当に嬉しく思いますし、そこで自分自身も驚くこと、中では悩むこともあるかもしれませんが、そういった環境に自分が入れることをとても楽しみにしております」
井上「僕もまたこの『ナイツ・テイル』という作品に再会できたことを、心から嬉しく思います。本編を最後にやった時に、これでセットも破棄するという話でしたし、もうやることはないのかなと、一応お別れした気持ちでいたんです。でもまたARENA LIVEバージョンということで、形を変えて、思いがけない再会が続くのは本当に幸せなことだなと。それだけこの作品が可能性というか、力を持ってるということだなとも思います。光一くんと出会った作品でもありますし、他の皆さんとも出会った、そして宮川さんが入ってくださって、また新しい出会いもあるでしょうし、色々な意味でとても楽しみにしています。あと個人的に今日嬉しいなと思ったのは、初演の製作発表の時に確か萌音ちゃんパネルだったんですよ。なんかスケジュールが合わなかったんだよね?あの時」
上白石「今日は立体で」
井上「立体の萌音ちゃんがいて嬉しいなと思います」
音月「皆様もいまご覧になったと思いますが、光一さんと芳雄さんの夫婦漫才のような雰囲気を、今回もこうして序盤から見ることができてとても幸せです。 2018年の初演のときに、ジョンや麻緒子さんが家族のようなカンパニーを創り上げてくださって、それがコンサートになったり、また再演させていただいたりで、皆さんの絆もすごく深まっているので、こんな温かい現場でまた新しい作品を生み出せる気がしていて、とても楽しみです。今日は羽田で製作発表をさせていただくと聞いて、この作品がいずれ世界に羽ばたくんじゃないかなと思うと……」
井上「そうしたら成田でやった方がいいんじゃないですか?まあ、羽田からも行けますけど、いまはね(笑)」
音月桂「ありがとうございます。そんな期待もちょっと胸にもって、それも楽しみにしています」
上白石「(背中も見せて)立体です(笑)。初演がもう7年前で。私はまだ成人したばかりで、右も左も分からないところから、偉大な先輩方の背中を追ってなんとか1公演ずつ重ねて参りました。公演がない期間も気づいたら歌を口ずさんでしまうくらい自分の一部ですし、コンサートバージョンや再演を重ねる中で、役に出会い直すたびに奥深さとか難しさを感じて、いつも初心に帰るような気持ちでおります。初演のときは芳雄さんと親子のようだと言われておりましたが、ちゃんと恋人に見えるように頑張って大人になりたいと思っております」
島田「ジョン・ケアードさんとは約40年前『レ・ミゼラブル』の初演で初めてご一緒させていただき、その後『ベガーズオペラ』という作品、そしてこの『ナイツ・テイル』と三作ご一緒させていただいたんですけれども、とにかく毎回お稽古で、いつも感動や発見をたくさんいただいてきたんです。特にやはりこの『ナイツ・テイル』の初演の時、1からオリジナルを創っていくという、ジョンの現場が毎日新鮮で楽しくて、そういう時間を共有させていただけたことは本当に宝物でした。そして今回また再びこの『ナイツ・テイル』でご一緒できるということ。そしてこの素晴らしい皆様と一緒に舞台に立てることがとても嬉しくて。今までにないスケールの公演なので一体ジョンがどんなことを考えているのか、どんな“ジョンマジック”が起きるのか、それを心から楽しみにしております」
宮川「新キャストというよりも代打という感じできました(笑)。今日はどうして俺がここにいるのかという気持ちで、さっきから何を喋ればいいのかもわからないんです。本番にも出ていないし、コンサートにも出ていないし、台本を一生懸命読んで、映像をいっぱい見て、今勉強中でございます。なので、今は不安しかないんですが、島田さんもおっしゃったように、ジョンとは40年前に『レ・ミゼラブル』でご一緒して『十二夜』ではケイちゃん(音月)とご一緒していますので、頼ります!皆様もどうぞよろしくお願いします」
大澄「初演が2018年なので、もう7年経ちましたけれども、その時が僕とジョンの出会いで。それから『ナイツ・テイル』ももちろんなんですが、『ジェーン・エア』『千と千尋の神隠し』など、毎年のようにジョンと仕事をさせていただき、この7年間は役者としても成長させてもらえたと思って、ジョンには本当に感謝しております。自分事なんですが今年巳年の年男で、赤いちゃんちゃんこなんですね。厄年って悪い意味に考えがちなんですけれども、芸能の世界ではいい役がつく、いい作品や役柄に出会える、そういう年でもあると言われています。まさにこの『ナイツ・テイル』ARENA LIVEというのが僕にとっては、一つの区切りと言いますか。新たな次へのスタートの舞台になるのではないかと、すごくわくわく期待しております。今回は振り付けのアシスタントとしても、サポートをしたいと思っていますので、みんなと一緒にまた新たな『ナイツ・テイル』を作っていきたいと思います」
ここで、舞台セットを手がける松井るみから届いた、出来上がったばかりというイメージ図が、登壇者後ろのスクリーンに映し出された。東京ガーデンシアターのアリーナにうっそうとしげる森が現れる、神秘的な舞台に大スクリーンも設置される美術コンセプトについて、ジョン・ケアードが解説をはじめ、キャストたちからも次々に感想や質問が飛ぶ展開になった。

ジョン「るみさんにお願いしたのは、とにかくたくさん自然を取り入れて欲しいということです。これはARENA LIVE バージョンなんですけれども、芝居をしやすいようなセットが必要で、役者たちにはずっと舞台の上に立ち続けていただこうと思っています。東京フィルハーモニー交響楽団が後ろにいるんですけれども、ものすごく大きな音が奏でられると思います。オーケストラだけではなくて、和楽器も今回は8人いるので、普通のミュージカルの劇場ではできないような音を出していただく。でも、それを取り巻く環境は自然なものにして、観客があたかも森の中にいるかのような環境を作りたいなと思い、こういう選択をしました。スクリーンにはいまここで演技をしている人たちのライブストリームが流れることもあるし、後ろの横長のものにはイメージや、セットの一部としての映像を使うこともできると考えています」
堂本「どれだけの台詞を覚えるのかな?が気になりますよね。本当にジョンって演劇を創る上で、とにかく出演者みんなが演じているところを見続けられる、ステージ上にみんながずっといるという形をと、初演の時も言っていて、それをみんなで大反対したんだよね(笑)」
井上「大反対っていうのは(笑)、でもハケられるようになったんだよね」
堂本「まあ今回はARENA LIVEという形だから。数年前にやったコンサートバージョンはコロナ禍だったから、やれることがすごく制限されている部分もあったと思うんだけど、今回はこの大空間のみんなで、ステージ上で歌っている人を見て、一緒に楽しむというような形がもしかしたらあるのかもしれない」
井上「思った以上に、しっかり世界観がわかるセットがあるんだな、という気はするね」
堂本「確かに。実際問題として帝劇でやっていた時よりも、ある意味リアルですよね」
井上「あ、そうですよね」
堂本「だって、フレームの木でしたもんね」
ジョン「今回の方がそういう意味ではナチュラルかも」
井上「本編全部やるってことにはならないですよね?それだけがちょっと気になる」
堂本「(オーディエンスからの大拍手を受けて)そうなるとチケット代も変わってくると思うんですよ(笑)」
ジョン「最初にコンサートバージョンをやった時にはコロナだったから、ああいう形になってしまったというのはあるんです。劇場が閉まってしまったりして、普通のショーがやりづらい。それならコンサートをやろうと思っても、みんなが一人ひとりガラスの箱に入っていて、お互いが触れられないんですよ。観客席もひとつ置きで、半分しか入れることができなかった。隣同士に座ってはいけないという状況だったので。でもこのショーを死んだ状態にしたくはないから、なんとか生き続けさせようとして、ああいうコンサートをやりました。でもそれはそれですごく面白いなと思ったんですね。ストーリーの伝え方に関しても、オリジナルとはちょっと違っていて。だから大きなスケールでもう1回やってもいいかなと。でもュージカルの姿と違うのは、この音の大きさだと思います。だからひとつも欠けることなく全部の音楽はやります。ただ音がとても大きい。そして振付も全部欠けることなくやりますし(オーディエンスから大きな拍手)、殺陣も全部やります。宮川さん大丈夫ですか?戦いますけど」
宮川「頑張るしかない!」
井上「楽しみですよね。思った以上に、ほぼ本編になるんじゃないのかな、これ」
堂本「そうだね、参ったな(笑)」

式次第がむしろ必要ないようにさえ感じられる会話が続くなか、メディアからの質疑応答がはじまった。
──ジョン・ケアードさんに質問させてください。今回はARENA LIVEバージョンでありつつ本編の要素もあるものになりそうとのことですが、帝国劇場で行われた公演と違う点、またARENA LIVEために脚本演出を再構成されるにあたって、大事にされた点を教えてください。
ジョン「この脚本を書くにあたって注意したことというのは、それぞれのキャラクターがそのキャラクターの視点から物語を語るという書き方をしていることです。ミュージカルバージョンではシェイクスピアオリジナルのものから取った、シェイクスピアの台詞が多いんですけれども今回は違う。台詞を大幅にカットして、その代わりにキャラクターがそのポイントで、何が起きているかを説明して、次の歌へと導入するという構成になっています」
──『ナイツ・テイル』という作品は日本、英国、米国のスタッフがタッグを組んで作り上げたオリジナルミュージカルですが、改めてこの作品を立ち上げた際にご苦労されたことや、思い出に残っているエピソードをお聞かせください。
ジョン「困難はなくただただ楽しかったです。ポールと仕事をしていて、いつも楽しいなと思うのは、私が送った脚本に対して彼が音楽的にどういう答えを出してくるかを見ることなんですが、このミュージカル『ナイツ・テイル』については、何故誕生したのか、そこが面白いんですよ。まず光一さんと芳雄さんという二人がいて、この二人が一緒に何かをやりたいと。で、二人の男性が主役の物語を探すことが本当に難しかったんです。男女の二人が主役というものはとても多いのですが、男性二人が主役というのは結構珍しい。ですから色々な物語や小説をリサーチしていて、最後にシェイクスピアの「二人の貴公子」がいいと思って、希望を持って読み始めたんですが、読み終えた時にあまりにオールドファッション、特に女性の扱いについて性差別的なことがあるなと。でもだったら書き直せばいいじゃないかと、シェイクスピアのためにやってあげました(笑)。ジョン・フレッチャーとの共著だったんですが、ジョヴァンニ・ボッカッチョの「Teseida」ジェフリー・チョーサーの「騎士の物語」などからの引用もあって、元々ぐちゃぐちゃだったから(笑)、現代に於いては絶対に上演されていない。ですからそれが難しいと言えば難しい点でしたが、アイディアを書いてポールに送ったら、ボールが音楽で命を吹き込んでくれたのです。いくつかの音楽に関しては、彼が生涯において書いたベストのものじゃないかな、というようなものがあります」
──上演時間はどのくらいになりますか?また休憩はあるのでしょうか?
ジョン「この人たちがどれだけゆっくり演じるか、ということにも関わってきますが(笑)、2時間30分程度で休憩はありません。二人がちょっと話す、息抜きのような10分間はありますが、休憩ではないです。なぜそういう10分がいるかというと、オーケストラの人たちが休まなきゃいけないので」
井上「その会話の部分が伸びる可能性もありますよね」
堂本「俺らがしゃべっちゃうとね、長くなっちゃうから」
ジョン「短く、短くして下さいね(笑)」
──休憩なし2時間半と聞いて、堂本さん、井上さんいかがですか?
堂本「どうなんでしょうね。我々は別に休憩要らないんですよ」
井上「そうなんですか?お風呂入らなくて大丈夫ですか?」
堂本「いやいやいや、そこないない(笑)」
井上「ないですよね(笑)」
堂本「ジョンがおっしゃったように、オーケストラの皆さんが休憩入れないといけないけど、2時間半に凝縮されたね」
井上「ただお客様にとっては、ちょっとお尻もむずむずしてくる感じもあると思うんだけど」
堂本「一番いい時間だよね、普通コンサートは休憩ないからね」
井上「あ、そうか。そうそう、コンサート、ARENA LIVEだ、忘れてた(笑)」
堂本「忘れないで(笑)。LIVEとして一番いい時間になるといいですよね」
──初演から出演なさっているキャストの皆さん、具体的な場面でも、ミュージカルナンバーでも結構ですので、どのようなところに魅力を感じていらっしゃるのか教えてください。

堂本「先ほどもちょっと言ったんですが、やればやるほど常に発見がある作品なんですよ。シェイクスピアのそのままだと、さっきジョンがおっしゃったように絶対に上演されないような内容だったりすると思うんですが、そこをジョンが逆手に取って描いた作品が、いかに名誉とか、そういったものにこだわることが、いまの時代においては滑稽に見えるか、それを男たちが真剣にやることによって、くすっと笑って終わる、という形になるところがすごくバランスよく描かれていると思うんですよね。 やっぱり初演の時というのはなかなか自分たちもその辺を読み取れなかったところがあったと思うんです。だからやればやるほどすごく面白いことを書いてるなとか、僕らが真剣にやることによってお客さんが笑うんだなとか。実際、やってみて初めて、なんでそこで笑うんですか?みたいなこともあったんです。そうしたやっている側もやりながら気づかされる作品で、そこがすごく面白いなといつも思います」
井上「ジョンの作品はいつもそうなんですけど、台本を読んだ時点では、結構真剣な話というか、シェイクスピアだし伝説ではないですけれども、神話もちょっと出てくるような話なんだな、と思ってやると、すごいコメディに仕上がっている。僕たちは真剣にやっているけど、それが面白いという本当の意味でのコメディの楽しさがあるなと思います。後は音楽。やっぱりコンサートバージョンをやった時に思ったんですけど、音楽だけでも成立するくらい魅力的な曲をゴードンさんが書いてくださっていて、それが今回オーケストラでも奏でられるので、その音楽の強さも魅力のひとつかなと思います」
音月「お二人がおっしゃった通りだなと思いますし、私は結構セット転換も好きで、あまり暗転で切れるようなことなく、物語の流れと並行して出演者たちもそこにいながら、お客様に次はこうですよ、と届けていくタイプの転換の仕方、場面の動きに奥行きがあります。今回盆はないそうですが、オーケストラの皆様の音楽とキャストそれぞれの個性が輝く、素敵な転換の舞台になっていくのを期待しています」
上白石「いまケイさんと全くと同じことを言おうとしていて(音月に)好き!」
音月「私も!」
上白石「その他には、やっぱりキャラクターそれぞれに愛情を注いで作られていて、どのキャラクターもとても魅力的で、騎士のお二人がいて、お姫様や王様、女王様がいたり、森の人たちがいたり、色々な身分や境遇の人たちが出てくるんです。その一見出会わなそうな人たちが様々な縁から巡り合い絡み合って行くところに、物語の妙、面白さがあるなと思っています。私も自分のキャラクターを掘り下げて、また色々な方々を見て、たくさんの感情を発見したいと思います」
島田「皆さんが私の申し上げたかったことは全部言ってくださいました。でも重厚な脚本と、素晴らしい音楽と、そしてジョンの流れるような、1ページ1ページめくるごとに宝箱が開いていくような、そんな素敵な演出の舞台に立てる時間が本当に夢のようでした。あとはやはり和楽器を取り入れて、それが絶妙に絡み合っている、本当に独特で神秘的な世界だったなと思います。あとは光一さん、芳雄さんお二人の素敵なコンビネーション。そこを中心に私たちも幸せな時間を共有させていただけたなと思います」
大澄「本当にたくさんあるんですけれども、自分にとってはもう一択、光一くんと踊れること。やっぱり光一くんと一緒の舞台でステップを合わせて踊れるというのは幸せなことで。踊りって言葉もないんですけど、目線を合わせながら踊る時に、何かを感じ合える人とそうでない、という微妙なところがあるんですけれども、光一くんはステップの中に包容力があると言いますか、そういうものを感じさせてくれる踊り手だなと僕は思っているので、一緒に踊っていてすごく楽しいです。このARENA LIVEでも踊れるのかな?」
堂本「振りは変えるんですか?」
大澄「もちろんオリジナルを踏襲しながら、演出によってどう変えていくかを楽しみにしていて下さい。僕がジョンにリクエストしたのは、光一くんとエミーリア(音月)のナンバーに、女性のダンサーをガッとつけようかな?と。そうしたらすごく面白いんじゃないかなと言っています」
──光一さん、芳雄さん、萌音さんお三方はアーティストとして大きな会場でのパフォーマンス、コンサートなどのご経験がおありになりますが、今回この作品を6,000人の観客に向けて届けるにあたって、何を大切にされたいですか?
堂本「まだ見えていない部分が多くて。例えば前回コロナ禍でやったコンサートはオーケストラホールだったので、自然と声が響いてしまう会場だったんですよね。そうするとやっぱり喋っている言葉とか歌っている歌の台詞とかが聞き取りづらいという、音楽監督の方からのご指導があったんです。じゃあこの大きな会場になった時に、その辺はどうなるんだろうという不安は正直あるんですよ。すごく子音を立てて喋らなきゃいけないのかなとか」
井上「そうだね、あれ大変だったよね」
堂本「そうそう。そういう経験もありながらなので、じゃあ今回がどういう感じになるのか。僕も東京ガーデンシアターには初めて立たせていただくんですけど、どういうバランスの中で自分もやっていけばいいのかなというのは、立ってみないとわからないところがありますね。ただ、比べられるものじゃないかなという気はしています。自分たちがやっている、LIVEでのステージとは。手を振ったりするわけでもないでしょうし。まぁ、普段から俺はあんまり手を振らないんですけど(会場笑い)。いずれにしても楽しみです」
井上「ARENA LIVE バージョンとは言え、ミュージカルに関連するものでこれだけの規模でやることって実はあまりないと思うんですよ。だからそういう意味でも、誰も見たことのない貴重な体験になると思います。僕は東京ガーデンシアターに立たせてもらったことがあるんですけど、形としてはシアター型と言うんでしょうか、ホールやアリーナというよりは結構劇場の形をした大きな会場なので、そういう意味では僕たちが劇場でやってきたことも、多少大きくすれば行けるんじゃないかなと思います。あとはもう単純にたくさんの人に見られるのは嬉しいことなので、人に見られたくてこの仕事やってますので(会場笑)、人数が増えることでテンションが上がって、僕は手を振ってしまうかもしれないので(笑)その時はちょっと振り返していただければ嬉しいなと思います」
上白石「リハーサルはこれからなんですが、私は完全に演劇の稽古に入る気持ちでいまおりまして、しっかり稽古を重ねて、ジョンには色々な劇場にこれまで連れて行っていただいているのですが、いつもおっしゃるのは『一番条件が悪い席、一番見づらくて遠いお客様にしっかり届くようにやりなさい』ということなので、6,000人のどなたも置いていくことがないように、しっかり隅々まで行き渡るような表現を探したいなと思います。東京ガーデンシアターは私も立たせていただいたことあるんですが、楽屋がとても過ごしやすいです。(井上に)お風呂ってありましたっけ?」
井上「そこはシャワーで我慢してもらえると」
上白石「浴槽はちょっとないかもしれませんが」
堂本「そうか~」
井上「いや、浴槽があることがあまりないでしょう」
上白石「そこだけ、我慢していただきましたら……」
堂本「俺、ひとつ萌音ちゃんにお願いが」
上白石「私ですか?」
堂本「忘れもしないんですけど、コンサートバージョンを以前やった時に、ジョンが『今回はこういう形の構成だから、みんな台本を持って読みながらお客さんに伝えていきましょう』っていう演出スタイルを取ってくださってたんです。でも萌音ちゃんを見たら台本持たずに喋ってるんですよ。それがきっかけで誰も台本持たなくなったので、本当お願いしますよ」
上白石「異議あり!」
堂本「えっ?異議あり?」
上白石「私じゃないです、それ。えっ?私ですか?全然そんな記憶ないです」
堂本「いやいや、やっぱり上白石萌音違うなって、あの時思ってたんだもん」
上白石「え~私ですか?」
井上「確かにみんな持たなかった。光一くんが最後まで抵抗してた気がする(笑)」
堂本「萌音ちゃんきっかけだったと思うんだよな。萌音ちゃんが持ってないから、みんな持たない方がいいよね、みたいになった記憶があるんだよな」
上白石「……ごめんなさい……でも、私もずっとこの会見中思ってたんです。誰かが言い始めて台本持たなくなったんだよな、コンサートバージョンって、と……私??」
井上「ジョン、今回どうなんですか?どういうスタイルで、僕たちはどれぐらい覚えてくればいいっていうか……すみません、こんなところでね、裏でやれよっていう話しをしてますけれど(笑)」
ジョン「覚えなくていいって言っているんだけど、結局覚えてくるのはあなたたちじゃないですか(笑)。2~3週間稽古していると、身体に入ってきちゃうんですよね」
堂本「あ~頑張ろう」
上白石「お二人が台本を手放さない限り、私はずっと持ってやります!」
堂本「一番大変なのは宮川さんだよ、本当に1から覚えなきゃいけないんだから」
宮川「俺だけ持つ?(笑)」
井上「殺陣の時持てないですよ?(笑)」
宮川「殺陣もちょっとカットしていただいて」
ジョン「片手に台本、片手に刀で大丈夫です」
宮川「ありがとうございます!」
──この作品のことでなくても構いませんので、俳優の皆様ジョン・ケアードさんとの作品での印象的なエピソードをお聞かせ下さい。
堂本「ケイちゃんが最初に言っていたと思いますが、本当に家族のような空気を創られていたのは幸せなことです。あとやっぱり間近でジョンが作品を創り上げていく過程というか、そういったものを見られるのは、本当に刺激的で勉強になることでした。もうひとつ、僕は不安になった時に一度ジョンに訊いたことがあるんです。演出をするにあたって僕がジョンの考えにそぐわないこともあると思う。その場合にジョンはどうするんですかと。そうしたら『僕はもう光一とやることを決めたんだから、光一ができないわけないんだよ、あなたはできるんだから、僕は一緒にやっているんだよ』というふうにおっしゃってくれたことが、すごく印象に残っています。だからもちろんその気持ちに応えていかなきゃいけない、っていうのもありましたし、“ジョンマジック”という言葉が出ていますけれども、それはやっている僕らが一番感じられることで。だからジョンの魔法に今回もかけられて、その魔法が解けないように成長できたらいいなと思っています」

井上「みんなそれぞれジョンから学んだことや、言ってもらったことがあると思うし、僕もいっぱいあるんですけど、さっきも話に出たジョンの演出は、舞台上にずっとキャストがいてハケないこと多いんです。僕は何故ハケないんですか?と訊いたことがあって。そうしたら、『お客さんとして観ていた時に、舞台上にいた人がいなくなったらすごく気になるだろう。1回ハケて出てきたら赤ちゃんを抱いているという展開があるけれども、ハケている間に何があったんだ?とそっちが気になってしまう。それよりは舞台上で全てを、例えばスカーフを巻いていて、それをくるっと抱っこしたら赤ちゃんになっているとか、全部をお客さんと一緒に共有するのがいいんだ、そう思うんだ』というのを聞いて、それはすごく素敵だなと思ったので、それを聞いて以来、僕はハケないことへの文句はできるだけ言わないようにしています」
音月「2021年だったでしょうか?再演をさせていただいた時に、やはりコロナ禍で大阪公演の初日から一週間くらい、開幕が遅くなって開けられなかった時があったんです。その時にもリモートでそれぞれの部屋と『みんな今どう?元気?』みたいなコミュニケーションを一生懸命とってくださったのがすごく印象的で。やっぱりあの時って世界的にもですし、役者として劇場の幕が開けられないというのは、ここまで積み重ねてきたお稽古などがありますから、どうしても気持ちが落ちがちだったんです。でもそういう時にもやはり家族のようにというか、皆が支え合って乗り越えてきた、何か強いものが私たちの中に生まれたので、今回も特にお二人は立ち回りもあるので、ハケられないって大変だと思うんですけど、今お話を聞いて、そういう意図があるんだなと思うと、舞台での居方もすごく考えますし、お客様の没入感と言いますか。この世界に皆様を引っ張っていけるような演技ができたらいいなというのを改めて感じました」
──いまのお話を聞かれて、ジョンさんはこのカンパニーでの印象に残るエピソードはございますか?
ジョン「この話を聞いているのが僕にとってとても面白いです。日本で演劇の仕事をやっていて難しいなと思うのが、皆さんがスターであることのプレッシャー、完璧でなくてはいけない、観客にすごい印象を与えないといけないということなんです。それって孤独じゃないですか、スター故の孤独がある。イギリスやアメリカで演劇の仕事をする時は、スターであろうとアンサンブルであろうとまるっきり同じ扱い、常に対等なんです。日本での目上の人を敬うということは、色々な面に於いて素晴らしいことなんですが、でもそれにはやっぱりネガティブな要素もある。役者たちが家族のようであればあるほど、お互いを支え合える。スターが舞台を歩く時もアンサンブルが愛を持って周りから支えてくれたら、それは心強いことだからパフォーマンスも良くなる。なぜならサポートがありますから。それは役者だけではなく、スタッフ、ミュージシャン、僕も含まれています。だからスペシャルでありたくない。みんなが家族の一員で、そのことによっていいものができる。だからどんな人の意見でも大事だと僕は思っています。劇場においては馬鹿なアイディアというのは存在しないし、誰もが意見を言っていい。『あ、いいね、そのアイディア、それ僕のアイディアにしちゃおう』と(笑)。そうすると、みんな僕がやったと思うでしょう?実は皆様のアイディアなんです」
──宮川さん『レ・ミゼラブル』での何かエピソードはございますか?
宮川「なにせ40年前のことですから、僕が21か22ぐらいの、この世界に入って初めてお会いした演出家がジョンだったので、ちょっと失礼ですけれども、お父さんのように思っております。当時大学生の僕に向かって「君は『レ・ミゼラブル』に就職したんだよ」と言ってくださったのを本当に昨日のことのように覚えているんですけど、随分前ですね。それから40年、この世界でこうやって居させていただけているのは、本当にジョンのおかげだと思っております」
──ジョンさん、ご一緒に『千と千尋の神隠し』を創られ、今回のARENA LIVEにもスタッフとして入っていらっしゃる音響の山本浩一さんは今年のオリヴィエ賞にノミネートされました。こうした素晴らしい才能を持った方々が集まる秘訣のようなものはありますか?
ジョン「演出家が一番の力を発揮できるのは、誰と一緒に仕事をするかを選べるところだと思うんです。セット、照明、音響、指揮者等々を、このプロダクションにはどの才能がいいだろうと考えながら選ぶことができる。それで才能ある方たちに自由にやってくださいと言える。例え演出家が良くても役者が良くなければ、美術デザイナーが、舞台にとって何が良いデザインかを知らなければ良い作品にはなりません。だから演出家ってある意味議長みたいなものなんです。この人たちを信頼して仕事を任せられるからリラックスできるし、常に尊敬の念を持っていることで、またこの人と仕事をしたいと思ってもらえる。ただ、その人が忙しくて駄目だと言われることもあるわけですから、色々な貯金というか、貯めたものがあって、この人がダメだったらこの人という選択肢を多く持っていようとしています」
その後オーディエンスからの和やかな質問もあって、驚くほど示唆に富む話や、カンパニーの絆が巧まずしてこぼれ出る会話が続いた会見は時間となり、フォトセッションのあとキャストたちによる囲み取材も行われた。
そこでは、入浴好きの堂本が『千と千尋の神隠し』ロンドン公演の浴槽のセットに誰よりも最初に入ったというエピソードや、帝劇が最後のコンサートを終え、もう入れなくなるという直前、堂本と井上が二人で最後のお別れに行き、楽屋の畳も全部剥がされ、廃墟のようになっている帝劇を見て、本当に終わりなんだなと最も感傷的になった、という帝劇と切っても切れない縁を持つ大スター同士の秘話も披露。そうした時間を経て、井上が「ひとつ確実に言えるのは今まで見たことのないミュージカルコンサート、ARENA LIVEになるでしょうし、新しい体験になることは確かだと思うので、楽しみに来ていただければ嬉しいなと思います」と。堂本が「企画を聞いた時から本当にワクワクしていたものが積み重なった製作発表で、みんなと再会できて話を聞いてると、ワクワクがどんどん増幅していっている気がするので、今日はとてもいい時間でした。『ナイツ・テイル』の世界を、また皆さんにお届けできることを楽しみにしております」とそれぞれ挨拶。12回公演で75,000人を動員予定の、かつてないスケールで行われるミュージカル『ナイツ・テイル -騎士物語-』ARENA LIVEへの期待が高まる時間となっていた。
取材・文・撮影/橘涼香
公演データ
ミュージカル『ナイツ・テイル -騎士物語-』ARENA LIVE
8月2日~10日 東京ガーデンシアター
(7月6日チケット一般発売)
脚本・演出◇ジョン・ケアード
作詞・作曲◇ポール・ゴードン
日本語脚本・作詞◇今井麻緒子
原作◇ジョヴァンニ・ボッカッチョ[Teseida]
ジェフリー・チョーサー[騎士の物語]
ジョン・フレッチャー/ウィリアム・シェイクスピア[二人の貴公子]
出演◇堂本光一 井上芳雄
音月桂 上白石萌音 島田歌穂 宮川浩 大澄賢也
松野乃知/穴井豪 岩下貴史 大山五十和 Seiga 西口晴乃亮 石井亜早実 遠藤令 酒井比那 塩川ちひろ 知念紗耶 富田亜希
植木達也 神田恭兵 小西のりゆき 茶谷健太 照井裕隆 中井智彦 広瀬斗史輝 本田大河
青山郁代 岩瀬光世 咲花莉帆 田中真由 堤梨菜 原梓 藤咲みどり 水野貴以
邦楽
武田朋子(篠笛・能管)小濱明人(尺八)織江 響(津軽三味線)松橋礼香(津軽三味線)
三浦公規(太鼓)内藤哲郎(太鼓)/石川 直(太鼓)日野一輝(太鼓)
【お問い合わせ】TEL.0570-00-7777(ナビダイヤル)東宝テレザーブ