愛すべきファンタジーのホチキス流任侠活劇 劇団ホチキス『妻らない極道たち』

1997年の旗揚げ以来、老若男女問わず多くの人が楽しめる大衆性の強いエンターテインメントを創造し続ける劇団ホチキスの記念すべき第50回本公演『妻らない極道たち』が東京・こくみん共済coopホール/スペースゼロで上演中だ(6日まで。のち4月20日名古屋・メニコンシアターAoiで上演)。

『妻らない極道たち』は、劇団代表で、劇作家・演出家の米山和仁が書き下ろすオリジナル作品の数々で活動を続ける劇団ホチキスの代表作。極道の妻が結婚相談所を開いた!?というユニークな着想から紡がれる物語世界が、2014年の初演、2018年の再演といずれも好評を博してきた。今回の上演は新キャストを迎えて更にパワーアップ。劇団ホチキスが提唱する「観客をとことん楽しませるための演劇的冒険にあふれた」舞台が展開されている。

STORY
舞台は港町。任侠一家「権藤組」組長の妻・権藤良子(小玉久仁子)は、病死した夫の代わりに、女組長として「権藤組」をしきっていた。ある日良子の古くからの 友人、野菊あけみ(山内優花)の運営するスナック「スナックあけみ」が経営危機に陥ってしまう。良子は、権藤組組員の榎本英雄(雷太)、土橋大(石川雷蔵)、最上健太(校條拳太朗)を従えて、スナックの経営再建に乗り出すことに。様々なアイディアが出されるなか、最上が、婚活支援事業に多額の助成金が出る事を発見。架空の結婚相談所を設立し、助成金をだまし取る作戦を思いつく。だが、良子はなんと本当に結婚相談所を開くと言い出した!こうして、極道が運営する内装はどう見てもスナックの結婚相談所が動き出す。面倒な依頼主。権藤組のライバル組織「梅沢組」の陰謀。暗躍する結婚詐欺師に港町の猫事情などが絡み合い、事態は思わぬ方向に転がりはじめる。良子は、そして権藤組はこの最大の危機を乗り越える事ができるのか!?

役名のあるキャスト総勢16人が入り乱れる舞台は、映像での人物紹介を取り入れながらテンポよく進んで行く。特に感じるのはその映像効果の巧みさで、基本的には「スナックあけみ」の店内が作りこまれている舞台面は、様々に映し出される映像よって極自然にあらゆる場所へと変化していき、芝居の流れが途切れることがない。一方で、今時学芸会でもこのセットは使わないかも……と感じるほどデフォルメされた「書き割り」的な装置も飛び出して、両者が決して唐突にならず作品のなかで共存していることに驚かされもする。とにかく舞台がカラフルで楽しく、個性豊かなキャストの面々のどこかまんがチックな動きが、その趣をどんどん高めていく。

そんな世界観のなかで繰り広げられるのは「弱気を助け、強気をくじく任侠道を生きるやくざたち」の義理人情に篤い物語だ。正直はじまってしばらくは、やくざの面々があまりにカッコよいだけでなく愛嬌にも溢れていて、やくざ稼業をこんなに素敵に描いちゃって大丈夫なのかな…という一抹の不安を覚えたほどだ。だが後半になるにつれて、実はシビアでシリアスな状況も巻き起こっていつつ、そう来たか!?というある種のぶっ飛び展開が待ち受けていて、思わず大笑いしながらなんの杞憂もなく「ホチキス流任侠活劇」を受け取ることができた。ここに描かれているのは人と人との絆の尊さをエンターティメントにくるんで届けてくれる、愛すべきファンタジーで、効果的に織り込まれる音楽も、大胆な照明もその感覚を強めてくれた。

とは言え「だからもうなんでもありなんです」とファンタジーに寄りかかっていないところが、米山和仁脚本のウェルメイドな部分で、例えばスナックには当然あるだろうカラオケや、防犯システムなどが、たたみかける物語展開で意外な効果を発揮したり、「権藤組」「梅沢組」「スナックあけみ」等々、それぞれのグループで動いていた登場人物たちが、一気に関わりを持ってきたり、という所謂伏線の回収が絶妙。どの役柄にもきちんと意味があり、存在意義がある舞台で、躍動する俳優たちのやりがいにはさぞ大きなものがあるだろうし、彼らひとり一人の身体能力が高く、台詞だけでなく動きの面白さが随所に発揮されて、舞台を弾ませていた。

中でも権藤組組員・榎本英雄の雷太が、不器用なまでに真っ直ぐ仁義を通す一方で、瑞々しい喜怒哀楽も併せ持つ英雄を豊かな表情で柔軟に演じている。涼しい面立ちと抜群のスタイルという舞台の中心に相応しいビジュアル力に秀でた人だから、スッキリと立っていれば抜群の二枚目俳優なのに、そこまでする?!というレベルに思い切って整った顔立ちを崩したり、アニメーションのような動きを見せるのがなんとも言えぬ可笑しみも生む。表現の幅が広い俳優としての強みにますます磨きがかかってきた。

英雄の弟分、土橋大の石川雷蔵はフライヤーや扮装ビジュアルの強面ぶりとはひと味違う、難しいことを考えるよりも、組長や兄貴の役に立ちたいという猪突猛進ぶりが前に出た役作りが爽やか。一方「権藤組」の知恵袋・最上健太の校條拳太朗は、常にパソコンを駆使して次々と振りかかる難題に答えを導き出していく様に、決して嫌味にならないインテリジェンスをにじませてクール。そういう人がこんなに地道な行動をするんだ、という意外性が生むギャップの面白さも良く出ていて、英雄を含めた個性の異なる三人組の在り様が楽しい。

語学教師・御子柴聖子の太田夢莉は群像劇のなかでも、所謂ヒロインポジションに当たる役柄でありつつ、思い込んだらとことん突き進む様で笑わせてくれるのは、太田があくまでも大真面目に演じているからこそ。演出の面白さも正面から受け止める一途さが光った。

「梅沢組」では、参謀・佐久間保の山﨑雅志が、出てきただけで空気を変える不穏な雰囲気を笑顔のなかにも漂わせているのがいいし、組の中枢・梅沢亮介の塩崎こうせいは、衣裳などのこしらえは立派だが、とあるオタク気質が噴出する様が、後々重要なキーになる役柄のヌケ感を効果的に演じて爆笑を誘う。

海道猛の松本祐一は、激変するビジュアルの作り込みに注目を。婚活中のヒロインの友人、羽田頼子の内村理沙も「極道の妻が開く結婚相談所」というそもそもの設定を、役の変遷によってよく生かしている。梅沢の愛人・小泉エリカの伊達香苗の、この人を中心に観たらサスペンスだなと感じる大きなドラマを抱える役柄を、笑いの要素も手放さずに体当たりで演じる様が小気味いい。

「スナックあけみ」のママ野菊あけみの山内優花は、要所要所で決めるポーズが抜群に愛らしく目を引くし、パパの野菊幸三の齋藤陽介も、十分面白く演じながらも過度に笑いを取りにこない真摯さが、いまの時代のこうした役どころの理にかなっている。ジジイの梅澤裕介とビビアンの松本稽古が「説明しないと観客にわからない!」と自己ツッコミを入れつつ、踊れる強みを生かして、種明かしをされた後からは、俊敏な動きで役柄をちゃんと納得させているのも頼もしい。

また、全く別次元にいるようでいて、徐々に核心に入ってくる越川俊哉の野口オリジナルは、調子が良すぎて胡散臭いと観客には徹底して知らせながら、舞台で絡む人々には全く別の顔を見せる役作りで魅せるし、それこそ一人全く別のカテゴリーにいる、刑事・桐生のぼるの山本洋輔が、アウトローが主人公のドラマのなかでは往々にしてありがちの、警察が道化的な存在になることを、的確な塩梅で踏みとどまる演技が巧み。組員などの様々な役柄で活躍する加島三起也望月陽翔矢野哲平も舞台を縦横無尽に駆け回っている。

そして、その極道の妻でいまは「権藤組」組長の権藤良子の小玉久仁子は、徹底的に色濃い演技で舞台全体を牽引しつつ、作り込んだヘアメイクの中で尚、ふとした瞬間に透き通ったような表情を見せるのが深い味わいを残している。この展開を力技でねじ伏せる小玉がいるからこそ、こうした物語が生み出されるのだろう、劇団ホチキスの顔としての迫力十分だった。

そんな笑いと、ホロリとさせるペーソスと、あっと驚かされる大胆な展開のバランスがいい、劇団ホチキスの代表作と呼ばれる理由がよくわかる作品が、劇団の生まれ故郷の名古屋でも上演されることが嬉しく、劇団ホチキスにしかない楽しさがあるなと改めて感じさせてくれる公演で、作品が、そしてもちろん劇団が、更に弾んでいくことを期待したい舞台だった。

取材・文・撮影/橘涼香

公演情報

劇団ホチキス第50回本公演「妻らない極道たち」

■日程:
【東京公演】
2025年4月2日 (水) 〜 6日 (日)
こくみん共済 coop ホール(全労済ホール)/スペース・ゼロ
【名古屋公演】
2025年4月20日 (日)
メニコン シアターAoi

■スタッフ
脚本・演出:米山和仁
総合アートディレクター:小玉久仁子

■出演:
雷太

石川雷蔵、太田夢莉、山﨑雅志、山内優花、齋藤陽介、松本稽古、野口オリジナル、梅澤裕介(梅棒)、塩崎こうせい、松本 祐一、伊達香苗(MCR)、内村理沙、山本洋輔

校條拳太朗、小玉久仁子

【アンサンブル】加島三起也、望月陽翔、矢野哲平

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