GORCH BROTHERS PRESENTS 『極めてやわらかい道』が、3月20日(木・祝)〜3月30日(日) 本多劇場にて上演される。
【STORY】
「気持ちって何や?こんな柔らかいものに名前なんてあるか?」
2011年秋、福岡市内。
むかいの木造アパートの隙間から、十年間、姫を見守り続ける男たち。
この国の兵士として、姫の好きな人になりきって監視に励む、
尾崎豊、ブラッド・ピット、坂本龍馬、ダルメシアン。
姫を守ると言っても、干渉はしない。
それがこの国のルール。
ただただ、姫のことを知りたい一心で、
監視、尾行、盗聴、ゴミ回収しながら見守るだけ。
「ストーカーではない。兵士です。」
ある日、この国に4人の来訪者。
姫の彼氏、中津留。
その借金を取り立てに来た、星と友枝。
そして尾崎の兄、幸雄。
姫を思っているだけのはずなのに、
どうしてか、この国が崩れていく─
彼らは変態じゃない。ほんの少し恋の仕方を知らないだけ。
不器用すぎる男たちの純粋すぎて歪な恋の物語。
『極めてやわらかい道』は、2018年公開の池松壮亮主演映画『君が君で君だ』の原作としても知られている作品で、2011年にゴジゲン第11回公演として駅前劇場にて初演。
2018年に、ゴジゲン第15回公演『君が君で君で君を君を君を』としてリブートもされている、松居大悟の渾身作。
「気持ちって何や?こんな柔らかいものに名前なんてあるか?」の言葉に象徴される、一人の女性を向かいの木造アパートから見守り続ける、ほんの少し恋の仕方を知らない男たちが示す愛情と狂気紙一重の、純粋過ぎるが故に歪んだ恋模様が描かれていく。
そんな作品を今回は、これまで松居大悟の演出助手として数々の作品を共にしてきた川名幸宏が潤色・演出。
この機会を得てやりたい作品はこの『極めてやわらかい道』一択だったと言い切る川名が、思いの詰まった信頼のおける役者たちを集めたカンパニーが集う稽古場を訪ねた。
当日は乾燥しきっていた首都圏に久々だったみぞれ交じりの雨が降りしきっていて、外からの陽ざしに影響を受けないせいもあったと思うが、照明の関係で全体がどこか黄色っぽく見える稽古場の雰囲気が、窓を段ボールで覆った木造アパートの一室というシチュエーションそのもののように感じられ、簡易な稽古場用のセットも不思議にリアルだ。
その中で繰り広げられているのは、彼らが「国」と称するこの部屋が、如何にして構成されていったのかが明らかになっていく回想シーンだ。
「姫」と呼ばれている愛する女性を見守る「兵士」である彼らは、「姫」の好きな対象に自分を同化させていて、尾崎豊(鳥越裕貴)、ブラッド・ピット(多和田任益)、坂本龍馬(荒井敦史)、ダルメシアン(長友郁真)が、次々と「兵士」になっていく。
その加わり方・加え方にも、尋常ではない法則があって、ふと我に返ると相当恐ろしい展開なのだが、役者たちの熱気と演出の川名のあくまでも穏やかな口調が相まって、どこかでまるで一種の部活動のような青春物語にも感じられるのは、演劇という形態が持つ、映像とは明らかに異なるリアルの置き所故だろう。
尾崎豊の鳥越裕貴の、鬱屈したものをうちに秘めていると感じられる芝居と、ブラッド・ピットの多和田任益の良く通る声と陽性なものがある佇まいの対比が、「国」ができあがる過程を浮かび上がらせる。
そこに坂本龍馬の荒井敦史が加わる過程で、「どうしてこの状況になっているのか?を情報として伝えられるように」という川名の指示があって、役者たちの台詞の話し方、言葉の立たせ方もみるみる変わっていく。
更にダルメシアンの長友郁真が連れてこられる場面では、長友が殴られるシーンがあるのだが、殴る方も殴られる方もアクションとリアクションが抜群に上手く、本当に殴ったのかと錯覚させられるほどで、観ていても心拍数が上がっていく。
川名が歩み寄って、客席からの見え方を考え、顔や身体の向きを丁寧に調整していく様はあくまで和やかで、むしろホッとさせられる。
川名の演出は一つひとつの動きに対してとても細かく、彼がこの作品の世界観を如何に大切にしているかがあふれ出るようだ。
とは言っても役者の動きを、例えるならば「ここで三歩出て」というような型に嵌めることはせず、役者同士のその場のやりとりから起きていくこと、その化学反応を丁寧にすくいあげているのが印象的。
役者たちも真剣に演出意図を聞いていつつ、体現していく過程ではきちんと自分に落とし込んでいくから決して個性が殺されることがない。
一方で、段ボールで覆った窓の隙間から「姫」の部屋を見守っている形での台詞は「覗いている時も、何かしらで客席方向を向いて台詞を話すように」など、役に入り込んでいるだろう役者の心理を尊重しつつ、観客に物語や台詞を届けるための俯瞰を指示しているのがテクニカルで、場面がよりくっきりとしてくるのが感じられた。
この日は場面から場面への転換で、誰がどう動くか?という確認稽古もされていて、時が戻り、また進んでいくイメージが早回しのように描かれて、これもまた演劇ならでは。
尾崎の兄・志村幸雄の永島敬三が不意に「国」を訪ねてくるシーンからの転換や、「姫」が現在付き合っている彼氏である中津留宗太の灰塚宗史が、どう「兵士」たちと関わっていくか、などの場面も稽古され、場面に入る為に待機している灰塚と借金取りの部下・友枝修の長南洸生にカメラを向けると、気づいた灰塚がピースサインを送ってくれるなど、場面の緊迫さとは裏腹に稽古場の雰囲気は常に明るく前向き。
ひとつの場面、シチュエーションごとに各セクションとの確認を丁寧にしていく川名の演出が緻密で、見学時間には出番のなかった借金取り・星知輝の本折最強さとしが、自席で真剣に稽古の様子を見つめ、また台本に目を落としている表情も印象に残った。
こうした細かな積み重ねによって、不器用すぎる男たちの恋模様が、本多劇場でどう花開くのか。
きっとまだまだ進化していくだろう作品の完成への期待が高まる稽古場見学だった。
(取材・文・撮影/橘涼香)
GORCH BROTHERS PRESENTS『極めてやわらかい道』
公演期間:2025年3月20日 (木・祝) 〜 2025年3月30日 (日)
会場:本多劇場
「気持ちって何や?こんな柔らかいものに名前なんてあるか?」
むかいの木造アパートの隙間から、十年間、姫を見守り続ける兵士たち。
ある来訪を境に、彼らの国が崩れていく―
彼らは変態じゃない。ほんの少し恋の仕方を知らないだけ。
不器用すぎる男たちの純粋すぎて歪な恋の物語。
出演
鳥越裕貴
多和田任益
荒井敦史
長友郁真
灰塚宗史
長南洸生
永島敬三
本折最強さとし
スウィング:松尾敢太郎
スタッフ
作:松居大悟
潤色・演出:川名幸宏
美術:小野まりの
照明:松本大介
音響:加藤 温
舞台監督:赤坂有紀子
演出助手:サカナ
衣裳:小泉美都
ヘアメイク:白石有梨奈
宣伝美術:平崎絵理
宣伝写真:須田卓馬
WEB:佐々木一美
票券:田村美紀
制作:吉田夢唯
プロデューサー:山田紗綾
主催:ゴーチ・ブラザーズ