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ミュージカル『昭和元禄落語心中』の制作発表が2025年1月31日(金)に都内で開催され、山崎育三郎、明日海りお、古川雄大の3名が登壇した。
高座に屏風、メクリ、提灯と落語の世界が広がる会場に、出囃子の中登場した3名。
山崎の台本にない粋な計らいから会見は始まった。
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山崎 「本日はこの寒い中、足をお運びいただき誠にありがとうございます。ここで一席。(『野ざらし』を披露)台本にないことをさせていただきました。今日は皆様に楽しんでいただけたらと思っておりまして、最後までこの『昭和元禄落語心中』というミュージカルの魅力をお伝えできればなと思っています。このあとの古川くんに大きなプレッシャーを(笑)。何か雄大からもあればいいなと思っております。よろしくお願いします」
明日海「みよ吉役を演じます明日海りおです。本日はお忙しい中お集まりくださいまして本当にありがとうございます。私も一席と思ったんですけど落語家の役ではないのでちょっと今日は失礼させていただいて、古川君にバトンタッチしたいと思います」
山崎 「日本舞踊でもいいですよ。(手拍子で囃し立てる。)」
明日海「(即興で舞う)止めてもらっていいですか(笑)。本日はよろしくお願いいたします」
古川 「古川雄大でございます。本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。ここで一席。(『死神』の一節を披露)よろしくお願いします。」
ーーどんな気持ちで作品に向かっているのでしょうか。
山崎 「今から7年前にNHKのドラマ『昭和元禄落語心中』に出させていただきまして、その撮影がこれまで携わったドラマの中で、最も苦しい、つらい作品でした。当時、助六という役を演じる以外に、古典落語を9演目覚えなければならず、クランクインする直前までミュージカル『モーツァルト!』に出演していましたので、『モーツァルト!』舞台袖でも古典落語を唱えて覚えるというのをずっとやっていました。ギリギリの状態でクランクインして、落語家として始まり、本当に苦しかったんですが、この『昭和元禄落語心中』は、作品自体が役者をその世界にいざなってくれる、引き上げてくれるエネルギーを持った作品で、自分がどうこうしなくても作品の世界が自分を助六にしてくれる感覚があって、それは僕の中ですごく大きなことでした。落語を覚えてエキストラ300名の前で落語を披露したときに、これをいつか舞台にしたいという思いが心の中に生まれました。その思いを持って7年経つんですけれど、ちょうどこのお二人と作品を作るという話になったときに、日本でこの八雲を演じられるのはミュージカルでは雄大しかいないと思って、八雲役は雄大だ!と。そうしたら明日海さんのみよ吉が自分の中ですぐにイメージが湧いて、絶対素敵になるだろうと思って提案させていただきました。僕は『昭和元禄落語心中』をやりたいんだ!という思いにお二人も賛同してくださって、この企画がスタートしました。とにかくもう思いがたくさん…いいんですか?まだしゃべって」
明日海・古川 「大丈夫です」
山崎 「(古川に)話しましたよね?何年も前に」
古川 「僕は新しいものを作っていきたいというお話をもともと聞いていたので、やっと実現するんだなという思いですね。同じ事務所の3人でできるっていうのは僕にとっても大きいことですし、事務所にとっても大きなことになるんじゃないかなと期待しています。落語だったり漫画、アニメ、和物ということで、日本の要素がふんだんに詰め込まれているので、日本オリジナルを作ってここから世界に発信していく、そこに携われるのはすごく嬉しいですし、育三郎さんの思いも聞いていたので、力になれたらなという思いです」
明日海「初めて育様(山崎)と一緒に取材を受けたときに「うちの事務所は雄大もいるから一緒にミュージカルやりましょうよ」って仰っていただいて、夢のようだけどまさかないだろうななんて思っていたら、数年経って動き出して、私もご一緒させていただけるということだったので、本当に夢のような稽古期間を過ごしております。この『昭和元禄落語心中』を、私は上演が決まってから、原作の漫画やアニメも見させていただいたんですけど、全然違う魅力の人の惹きつけ方で、全然違う落語をされる助六さんと菊比古(八雲)さんというのが、育様と古川さんにぴったりで。稽古場にいてもお二人が挑まれていく姿がお二人ともそれぞれ本当に素敵で…。本当にお二人にピタッとはまった作品だなと感じています」
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ーー山崎さんと明日海さんは同い年?
明日海「そうなんです」
山崎 「同級生です」
ーー古川さんは?
山崎 「1個下です」
古川 「2個です。学年でいうと2個違います。いつも1個って言われるんですけど2個です」
山崎 「年齢は1個しか違わない…」
古川 「学年でいうと2個違うのでだいぶ違う…」
山崎 「すごい先輩のようにしてくるので」
古川 「2個上は高1と高3ですごい差じゃないですか」
明日海「いつもこうなるんです(笑)いつもこのくだりがある(笑)」
山崎 「僕は井上芳雄さんの方の世代にくくられがちなんですけど、世代としてはこっち(古川)なんですよ。(古川は)すごく上のようにしてくるので…」
古川 「それを僕がいないところで言うので、弁解ができないんですよ。2個上は全然違うんだよって」
山崎 「いいじゃない、1歳しか変わらないっ」
古川 「高1と高3は全然違いますよ」
山崎 「こだわるね~(笑)」
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ーーお三方が揃ってご出演、しかも通しの役があってというのは初めてですか?
山崎 「初めてですね。雄大くんとはミュージカル『モーツァルト!』でWキャストで、『エリザベート』でもトート、宝塚の『エリザベート』では明日海さんもトート」
ーーということはトートが3人ということですよね!?
山崎 「トート3人ですね。さっき『死神』やりましたけども、死神は3人ともやっているという(笑)」
ーー今日はお衣装がとても美しいですが、明日海さんのお衣装を見たお二人の印象は?
山崎 「僕らの役は、三角関係になっていくんですけど、みよ吉という役がすごく色っぽくて、魅力的で今まで見たことがない明日海さんです。本当に素敵です」
古川 「にじみ出る色気がみよ吉の説得力を増していると思うので、ただでさえ色気があるんですけど、みよ吉を演じられるときはさらに増してますね。自然に引き込まれています」
ーー色気といえば、古川さんが演じられる八雲は、菊比古から八雲になっていくという重要な要素になってくると思いますが、今日の背中がちょっと曲がった感じのお姿を見ていて、「あぁ、八雲だな」と感じました。
古川 「わりと伸ばしていたつもりだったんですけど(笑)、まだ曲がってました?八雲は踊りによるしなやかさだったり、彼独特の性格からにじみ出る色気があります。それを助六が気づいてくれて、後押ししてくれるというのが今回しっかり描かれていますね」
ーー育三郎さんの助六はどうですか?
山崎 「昨日、ちょうど1幕の通し稽古をしまして、全貌が見えたというのがあって。(明日海に)いかがでした?」
明日海「ドラマの育様を拝見させていただいているので、その助六がそこに生きてるという感じで、(山崎に)楽しいですよね?演じてらっしゃるとき」
山崎 「楽しいです」
明日海「本当に自由自在で、お歌の時も、落語の時も、ほかのお役の方と絡んでらっしゃる時も、本当に生き生きされていて、育様だけはいつ初日でも大丈夫です」
山崎 「まだ2幕通してません(笑)」
明日海「そっか(笑)早く見ていただきたいという気持ちでいっぱいです。すごい優しいんですよ、助六さん」
山崎 「助六さんは優しいね」
明日海「みよ吉は助六に優しいなって思いすぎたらいけないので、気を付けています」
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ーー落語をミュージカルにという発想はどこからきたのでしょうか?
山崎 「まずミュージカルをやらせていただく中で、ブロードウェイのチームともご一緒させていただいて。スタッフの皆さん海外からいらっしゃって、その時によく言われるのが、「僕たちの作品をやってくれるのは嬉しいんだけど君たちは日本の作品は作らないのか」ということでした。それは僕もそう思いますし、僕ら日本人だからこそできる作品っていうのを作りたかったところもありました。落語をしゃべっていて、落語と歌を歌うということはすごく似ているというか、共通するものがあると僕は思っていて。音楽が流れて歌いだすと、細い糸がずっとつながっていくように、気持ちが途切れないように…と歌を歌っていくんですけど、落語の場合は、一度しゃべり始めたら、その緊張感や時に早くしゃべってみたり、引いてみたり、大きい声出してみたり、小さい声だしてみたり…。これはすごく音楽的で、長く落語をしゃべっているのと歌を歌っているのは同じような感覚になるなと。このときに落語から歌に導入するときに自然に行くんじゃないかと思いました。この作品の中にも落語のシーンから音楽に行くというのももちろんありますし、二人の関係を音楽で表現する場面もあるので、『昭和元禄落語心中』と音楽がマッチするなというのは実感しています。そして音楽は今回小澤(時史)さんという作曲家の方に作っていただいて、本当に素晴らしいです。子役の二人が僕らの少年時代を演じていて、子役から僕らに入れ替わるというシーンも歌うんですけど、昨日見ていてウルっときたもんね」
古川 「きましたね。決して泣かせるシーンには作っていないんですけど、曲が自然にそこに持って行ってくれるというか…」
山崎 「歌も結構多いです」
ーー曲は多めなんですね。
山崎 「結構歌いますね」
古川 「そうですね。全体的なボリュームでいうと多いほうですね。大ナンバーを育三郎さんは歌われますもんね」
ーー明日海さんは歌ってみてどんな感じでしょうか?
明日海「たくさんナンバーがあるんですけど、全部演歌や和風かといわれるとそうではなくて、ノリのいいナンバーがあったり、タンゴっぽいアレンジがあったり、あとはお祭りみたいなテンポのものもあります。私は小唄だったり、演歌っぽく聞こえるような歌を歌わせていただいているので、それを研究しているところです」
山崎 「この3人がメインで話が進んでいくので、例えば海外の作品のようにイエスorノーみたいな部分じゃない、日本人ならではの繊細な“こう思っているけど言えない歯がゆさ”みたいなものがメロディーになって、すごく哀愁のある楽曲ができています。今回アンサンブルのみんながすごいパワフルで、この大舞台で華やかに『昭和元禄落語心中』が伝わるようなシーンを小池修一郎先生が作ってくださっているので、その振り幅がすごくあって、大劇場でも楽しめる『昭和元禄落語心中』になっていますね」
ーー原作が10巻ありますので、どの部分がミュージカル化するのかというのは、見てのお楽しみになってくるかと思うんですけれども…
山崎 「そうなんですよ。そこをギュッとしなきゃいけなくて、昨日も初めて通した1幕は、『レ・ミゼラブル』より長かったです(笑)。大作になってしまいましたね。やっぱりあれだけの物語をギュッとしますので、お稽古で詰めていかないといけないところです。でも音楽とともに落語のように流れていくのでとっても良くできています。楽しみでございます」
ーー古川さんは落語をご覧になったそうですね。
古川 「(立川)志の輔師匠の『志の輔らくご』を見させていただきました。話を聞く3時間というのは初めての体験で、少し不安で見に行ったんですけど、1幕終わって1時間50分くらい経っていたんですが、一瞬で終わりました。これまでどの舞台を見てもそんな感覚はなく、初めての体験をしました。体感が秒だというのをすごく感じて、あの真っ暗な空間で、頭の中で自分でドラマを展開していきながら最高のパフォーマンスを見れるというのが、生で見る落語のベストなんだなと感じました。すごくいい経験をさせていただいて、その後なんと対談までさせていただいきました。貴重なお話をさせていただいて、その対談がパンフレットに載るので、ぜひ来てくださる方はパンフレットを買っていただきたいなと思います」
ーー明日海さんは落語にどんなイメージがありますか?
明日海「私は子供のころに初めて修学旅行で落語を聞きまして、みんなと楽しかったという思い出です。宝塚歌劇団では、『なみだ橋えがお橋』という、いろいろな落語を組み合わせたとっても面白いコメディの作品に出させていただいて、『人情噺文七元結』の文七を演じたこともあり、落語は身近なものではありました。でも、落語家さんがどんな思いでやっているかなど感情的な部分に触れる機会はなかったので、古川さんの対談を通して私も読ませていただきたいなと思いましたし、何よりこうやって近くで助六さん、八雲さんの落語への思いを感じながら生きる役で幸せだなと思っております」
ーー助六と八雲の関係性をどのように演じようと思っていますか?
山崎 「二人の間に流れている親友でも家族でも恋人でもないもっと深い魂のつながりを感じておりまして。そのあたりは雄大とも昔からミュージカル界で戦ってきた仲で、プライベートでもこのあいだ一緒にゴルフ行って…」
古川 「そうですね、連れて行っていただきました」
山崎 「やめて、そういう連れて行っていただきましたって。1歳しか変わらないんだから」
古川 「学年でいうと2個違う。高1と高3は違う」
山崎 「同世代だって」
明日海「もうわかりました~!(笑)」
山崎 「この二人の積み重ねた関係性というところからこの役に入れているので、お芝居の中でお別れするシーンもあったりするんですけど、毎回そこでグッときて泣けちゃうような感覚が昨日もあったよね?」
古川 「このシーン、グッとくるなと薄々思って、我慢しながらやっていたんですけど、昨日通してグッと来ちゃったんですよね。「あ、やべ」ってなったんですけど、それを堪えて八雲としてパッと助六を見たらいっくん(山崎)もちょっとウルウルされていて、その瞬間で二人の関係性というのが見えて、今は別れだけどまたいつか一緒にやろうというお互いへの励ましを感じました」
山崎 「子役たちも出てくるので、子供の時からの積み重ねというのがお客様にもちゃんと伝わりますし、何か言葉でも言い表せないくらいの二人のつながり、魂のつながりみたいなものを感じなきゃいけないなと思っていますね」
ーー原作の雲田はるこ先生はお稽古の時点でタオル必須で泣いていたというのをSNSに書かれていましたが、いかがですか?
山崎 「雲田先生にこの『昭和元禄落語心中』という作品を作っていただいて、僕はドラマから携わらせていただいて、本当にこの作品が大好きで。これをどうにかミュージカル化したいっていう思いを雲田先生が受け入れてくださって、一緒に同じ思いでこの作品に挑んでくださっているのも本当に嬉しいですし、先生の期待を超えるようなミュージカル『昭和元禄落語心中』があるんだっていうのを見せないと、という思いでみんな頑張っています」
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ーーほかのキャストの皆様も大変豪華で個性豊かな方々ばかりですね。
山崎 「七代目八雲役の(中村)梅雀さんは僕らの師匠で、いろいろなことを教えていただいています。江戸弁だったり所作だったり、お着物も梅雀さんは一人で着替えられるんですよ。そういう姿とかも見せていただいて、まさに師匠というような関係性を築いております。(黒羽)麻璃央くんはいかがですか?」
古川 「何度もご一緒させてもらっていますが、彼らしい与太郎をしっかり作ってくれています。周りに素晴らしい方が揃っていて、とても安心できるので、胸を借りて自由にやれたらなと」
山崎 「与太郎は『エリザベート』でいうとルキーニのような、どこかストーリーテラーな感じなので、すごく大事な存在ですね」
ーー小夏はいかがでしょうか?
明日海「助六とみよ吉の間に生まれる娘の小夏を水谷果穂ちゃんが演じてくれています。ミュージカル初挑戦なのですが、本当に純粋な感性で、ピュアな状態で一生懸命お芝居に向かう姿というのは、小夏の熱さと冷静さの両方を持っているところにリンクしていて、プラス、彼女のピュアな魅力が重なって、私たちも刺激をいただいているなと思います」
山崎 「果穂ちゃんは素敵ですね。新しいミュージカル女優が誕生したって言っていいくらい本当にいい声で、歌声もセリフもすごく通る声で、助六とみよ吉の間に生まれた子どもとして、小夏として、本当に魅力的に演じてくれています」
ーー師匠に続いてずっと面倒を見てくれている松田役の金井勇太さんはいかがでしょうか?
山崎 「松田さんもいい味出してますね。金井さんはミュージカル『トッツィー』という作品で親友の役でそれ以来です。金井さんもミュージカル2作目なんですけど、金井さんはこの松田という役を本当に魅力的に演じてくださっていて、松田さんと与太郎でストーリーテラーのようにお客様にこの物語を伝えていく役割なんですが、今まで原作にもドラマにもない、新しい松田を作ってくださっていて、お茶目でチャーミングな松田さんになっています」
ーーそれでは、ご覧になっているお客様にメッセージをお願いいたします。
山崎 「僕は1998年、12歳の頃に小椋佳さんにオーディションで選んでいただきまして。ミュージカルデビューしました。その小椋さんが日本のオリジナルミュージカルを作りたいという思いでスタートしたチームで、ゼロからミュージカルを作るというもの見て育ち、自分の原点になっています。20代はいろんな作品出演して、ブロードウェイやロンドン、ウィーンミュージカルに立たせていただきましたが、自分の中ではいつかオリジナルミュージカルを日本でやりたい、そして日本人の自分たちが演じる作品で海外にも持っていきたい、その夢を持ってずっとやってきました。ようやく2025年この夢が叶い、第一歩となりました。ミュージカル界に新しい風が吹くような作品になっております。ぜひ皆さん、この日本初のミュージカルを楽しみにしてください。劇場でお待ちしております」
明日海「オリジナルミュージカル『昭和元禄落語心中』ですが、本当に原作ファンの方、落語ファンの方、ミュージカルは初めてという方にも必ず楽しんでいいただける作品になること間違いなしだと思っております。素晴らしい先輩方と演出の小池先生にもお世話になっておりますので、ご一緒させていただける機会に感謝しております。繊細なドラマ、役どころではありますので、丁寧に丁寧に描き出していって、素敵なみよ吉になれるよう頑張ります」
古川 「昨日一幕を通しまして、あまりこんなことを言うタイプじゃないんですが、面白いんですよね。見せかけの面白いんじゃなく、本当ににじみ出る面白いなんですよ。それは原作のパワーが強いのはもちろんあるんですけど、天才小池修一郎先生、そして天才小澤さん、そしてそれを歌うのが日本を代表するスターのお二人ということで、いろいろな魅力が詰まっている作品だと思いますし、日本ならではのものに仕上がると思いますので、ここから世界に向けての第一歩、初演をぜひ皆様に観劇していただきたいなと思います。それくらいパワーのある作品だと思いますので、この機会を逃さないでください。よろしくお願いいたします」
質疑応答
ーーそれぞれの役の人物像をどのようにとらえているか。演じる上で大切にしたいことはあるか。
山崎 「助六は本来の自分に一番近いなと思うところがあります。助六はすごく前向きで、ポジティブで、自分は観客のために落語をやっているんだ、そして落語は時代とともに変化しなきゃいけないんだという思いを持った役です。僕も、時代とともにエンターテイメントが変わっていくには…と思っていますし、すごく助六の言葉には救われる部分があります。なので助六をパワフルに、エネルギッシュに、男臭く、人間臭く、泥臭く生きたいなと思っております。ただひとつ違うのは、不潔なところかなと。「臭い!」って言われるシーンがあるんですけど、そういうのはちょっと苦手なので、今日もボサボサなんですけど、僕自身はすごく綺麗ですね」
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明日海「みよ吉はお二人といろいろ起こるんですけども、私が感じているのは、みよ吉にもすごくかわいらしい面があって、一途であって、でも本当に覚悟を持った腹が据わったところがある女性だなと思います。そして今の時代にはそぐわない表現だと思うんですが、女のだめな部分、脆い部分っていうのがすごく味になっていて、すごく魅力的にそれが映えている女性だなと思っています。舞台版では辰巳芸者風情な、ちょっときっぷのいい感じを小池先生が強めに描かれていますので、私自身も試行錯誤しながら挑戦させていただいております」
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古川 「八雲はですね、元々踊りをやっていまして。足の怪我で踊りができなくなってしまい、縁あって七代目八雲に弟子入りすることになって落語と出会うんですけど、その日同時に天才助六とも出会い、葛藤しながら落語の魅力に魅了されていきます。すごくクールでちょっとプライドが高くて、ちょっと影のある感じ。すごくストイックで黙々と稽古をする真面目すぎる役ですね。彼独特の色気を助六に気づいてもらって後押しされながらみよ吉と恋愛することで、自分ならではの自分にしかできない落語を見つけていくっていう役どころです。いろんな人に動かされて、いろんな人に憧れて嫉妬したり、いろんな人の影響を受けて落語を背負ってしまうという役なので、みなさんのお力をお借りして作っていけたらなと感じています。年代や足を怪我している設定だったりとか、江戸っ子のしゃべり方だったりとか、そんな技術的な難しさはあるんですが、それをちゃんと体に染み込ませることをまずやって、しっかりと深い部分を作ってフラットに舞台に立てたらなと思います」
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ーー落語は話芸、ミュージカルとは対極にある側の舞台で難しそうな組み合わせだと思うが、なぜここに至ったのか。
山崎 「僕は落語自体を音楽的に捉えていて、落語をしゃべっているとメロディーをしゃべっているように言葉のうねりがあることが音楽とすごくリンクするなと思っていて。実際に落語をしゃべりながら音楽になっていくという場面があるんですけど、すごく音楽にリンクしているんですね。日本でミュージカルをやる上で、日本語でしゃべるむずかしさを痛感しておりまして、英語だと1つの音符に対して言葉がたくさん詰まっているので、そこのグルーヴ感とかリズム感とか伝えたい情報というのが、日本語だと英語の3分の1くらいになってしまうこともあるんですね。僕も出演していた『レ・ミゼラブル』の♪民衆の歌 でいうと英語は「Do you hear the people sing」、日本語は「戦う者の」じゃないですか。もっと細かく言うと、何の意味にもなっていない「た・た・か」という3つの音、これが英語だと「Do you hear」、「あなたは聞こえるか」と3音で伝えられるんですね。これをどう日本語にするかという作業がとても難しい。でも今作は日本語で全部作っているので、日本語の言葉に合わせてメロディーラインを作ったりとか、日本の和の音楽を流してそこに言葉を乗せるというのは、とてもスムーズにいっています。落語の世界とか日本の世界観の中で言葉を乗せて伝えるというのは、海外のものから作るよりもうまく言葉を乗せられるというのはあると思います」
ーーオーケストラに日本の楽器は含まれるのか。
山崎 「キャラクターによって使う楽器も変わっていまして、助六だったらロックサウンドな楽曲で彼のエネルギッシュな部分を表現したりとか、八雲の場合だと繊細なのでバラードで楽器も少なめで弦楽器だったり、みよ吉は和楽器だったり、いろんな楽器が出てきますね。和だけではなく役によって楽器も変えていたりもします」
ーー“出る”ではなく“作る”にいたった経緯は。
山崎 「原点がオリジナルミュージカルだったってところもあり、稽古場でも楽曲ができあがったとか、台本が出来上がったけどそれを直しながら作っていくとか、そうやってひとつひとつ積みあがっていくのを見てきたというのは、自分の原点ではありました。ただ学生時代に『レ・ミゼラブル』という作品に出会って、この世界で子役から大人になってスタートするんですけども、いまから15年以上前、20代前半のころに『サ・ビ・タ』という韓国のオリジナルミュージカルに出演したことがありまして、その作品が韓国のオリジナルミュージカルの世界への第一号ということでした。そのときに役者もスタッフのみなさんも声を揃えて言うのは、「僕たちはもちろんブロードウェイ、ロンドン、ウィーンの作品も好きだけども、この国のオリジナルミュージカルを世界に出したいんだ」ということで、それがすごく衝撃的で、すごいなと。日本だとブロードウェイの大作に出たいね、みたいな会話にはなるんだけども、日本オリジナルを世界に出そうよっていう話題にはどうしてもなってなかった。そういうところから、自分がいつかやりたいって言ったときに人が集まってきてもらうために、これだけの皆様に支えられて実現するまでは、自分を高めていくんだって思いでやってきました。なので、このタイミングで自分が昔思ったことを実現できたことがすごく嬉しいですね。そこがひとつ原点ではあります」
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(文・写真:カンフェティ)
公演情報
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ミュージカル『昭和元禄落語心中』
■日程・場所
<東京公演>東急シアターオーブ
2月28日(金)~3月22日(土)
<大阪公演>フェスティバルホール
3月29日(土)~4月7日(月)
<福岡公演>福岡市民ホール・大ホール
4月14日(月)~4月23日(水)
■スタッフ
原作:雲田はるこ「昭和元禄落語心中」(講談社「BE•LOVE」)
脚本・演出:小池修一郎(宝塚歌劇団)
企画:山崎育三郎
■キャスト
山崎育三郎、明日海りお、古川雄大
黒羽麻璃央、水谷果穂、金井勇太、中村梅雀 他