宝塚月組のトップスターとして活躍し、本年7月惜しまれつつ退団した月城かなとの退団後初コンサートとなる、月城かなと1st Concert『de ja Vu』が梅田芸術劇場メインホール公演を駆け抜け、KAAT神奈川芸術劇場 〈ホール〉で上演中だ(12月1日まで)。
どこかクラシックで気品ある美貌の男役であり、「男装の麗人」という言葉をストレートに想起させてきた月城かなとが、七夕の夜に宝塚歌劇団から飛翔して4ヶ月あまり、という時点で開催されたこのファーストコンサートは、宝塚時代『フリューゲル─君がくれた翼』や『Rain on Neptune』など、数々の月城主演作品で振付を担当した港ゆりかが、構成・演出・振付を手がけ、2人のシンガーと6人のダンサー井出恵理子、湊陽奈、吉田繭、井上真由子、西尾真由子、五十嵐耕司、砂塚健斗、馬場亮成と共に、どこか懐かしく、新しい月城かなとの「いま」を、ジャズ、ポップス、ミュージカルなど多彩なジャンルの楽曲で紡いでいくノンストップのステージとなっている。
様々な意味を持つ「de ja Vu」という言葉だが、おそらく最も一般的なのは「はじめて出会う事柄や、人や、場所であるはずなのに、どこかで見たような、知っているような気がする=既視感」という意味合いではないだろうか。そこには理屈で説明できない運命やミステリアスなイメージも伴われてもいて、巧まずして知らない世界の扉が開いていくような、不思議な感覚を持つ言葉だ。
そんな言葉をタイトルに冠された月城かなと1st Concert『de ja Vu』に接して最も感じたのは、月城がナチュラルに、自然体に「宝塚歌劇団男役トップスター月城かなと」から一人の表現者「月城かなと」へと変化していく「いま」だった。
ここにもまた深い意味があると感じられる映像からスタートしたコンサートの冒頭に歌われたのは「ムーンライト伝説」。言わずと知れた大ヒットアニメーション『セーラームーン』の主題歌で、舞浜アンフィシアターで上演された『Rain on Neptune』のショーパートで、月城が歌いはじめた刹那、劇場内の温度が上がったような感覚を引き出したほどの盛り上がりを見せた楽曲だ。ここでの月城はマント捌きも鮮やかに、男役の「de ja Vu」をまとっていて、どこか甘酸っぱいような感覚を覚える。
けれども、そこからの展開はまさに月城の「いま」が舞台の隅々に横溢するものになった。ニューヨークへ旅した月城が大きな感動を受けたと聞くブロードウェイミュージカルのナンバーを含めたミュージカルメドレーで、よりすぐりのシンガーとダンサーが集ったコンサートメンバーと共に歌い踊る月城は、笑顔も歌声もダンスもすべてが自然体で、ファンタジーとリアルが絶妙にブレンドされた姿を示していた。それがつまりは宝塚退団後4ヶ月~5ヶ月に向かう月城の「いま」なのだろう。過度に変わろうとも、変わるまいともしない、そのナチュラルな世界観が心地いい。
それが顕著に表れたのが、宝塚退団公演『Eternal Voice─消え残る想い─』の主題歌「Eternal Voice」の歌唱で、直近の記憶が鮮やかな楽曲でありながらも発声がより柔らかになっていて、どこか違う曲にも聞こえたのには驚かされた。そこには音楽監督の玉麻尚一による新たなアレンジの力も多いにあっただろうが、やはり月城本人が日々重ねている研鑽や、新しい環境がもたらすもの、いまの月城が歌う「Eternal Voice」になっていることが感じられる。おそらく半年先、1年先にもう一度この曲を歌ったとしたら、またきっと新しい歌唱が聞けるのではないか、そんな期待も自然に膨らんでいく。
そして、このコンサートが改めて示してくれているのが、月城の優れた芝居心に裏打ちされた歌唱の見事さだ。大阪梅田芸術劇場公演ではジャズギタリストの横田明紀男と、神奈川KAAT芸術劇場公演ではヴァイオリニスト・作曲家の川井郁子と、この曲をギターと?ヴァイオリンと?との新鮮な感銘もあったコラボレーションの自在さはもちろん、有名ポップスの数々で、月城が楽曲の世界観をステージに描いていく様には、まるで一篇のドラマを観る想いがする。殊にシャンソンの名曲を歌った場面で繰り広げられたドラマティックは全体の白眉で、歌で演じる力の確かさには感嘆するばかり。前述した共演者たちとのステージング、美術の伊藤雅子、照明の柏倉淳一のスタッフワークにも力を得た、演出・振付の港ゆりかの構成としても最も優れた場面で、ここに大きな鉱脈があると感じられる月城のこれからの歩みにも更に大きな期待が高まった。
だからコンサートのクライマックスがミュージカル映画『The Greatest Showman』の主題歌「This Is Me」に至ることの満足感にもまた大きなものがあった。「これが私のあるべき姿、これが私」と高らかに歌われるこの楽曲ほど、月城かなとの「いま」をステージに具現したこの1st Concert『de ja Vu』に相応しいものはないとさえ思え、ステージの仲間たちと弾ける笑顔が眩しかった。
新たな日々を積み重ねて自然に変化していく自分を応援してくれる人たちと共有したい、という趣旨の思いを語り、ファーストコンサートをできるだけ早い時期に開催したいと申し入れたと聞く月城の願いが、このコンサートの色を決めていた。ここには「いま」しかない月城かなとがいるのだ。それを共に感じることのできる、これは貴重なステージになった。
敢えて変わろうとするのではなく、ナチュラルに重ねていく月城の、その時々の「いま」にはどんな出会いが待っているのだろう。ほかのシャンソンも聞きたいし、緻密な台詞劇も、もちろんミュージカルも観てみたい。そうした一つひとつの出会い、ここから続く月城の「いま」を観続けていきたいと感じさせる、和やかで豊かなコンサートだった。幸いにして公演には抽選とはなるが若干の当日券、更にライブ配信、ライブビューイングも用意されている。それらの機会を掴んで是非「いましかない月城かなと」表現者月城かなとの「いま」を多くの人に体感して欲しい。
【取材・文・撮影/橘涼香】
【公演情報】
月城かなと1st Concert『de ja Vu』
■構成・演出・振付:港ゆりか
■音楽監督:玉麻尚一
■出演:月城かなと
井出恵理子、湊陽奈、吉田繭、井上真由子、
西尾真由子、五十嵐耕司、砂塚健斗、馬場亮成
Special guest
大阪公演 横田明紀男(11月21日、22日)
神奈川公演 川井郁子(11月29日)
■期間・場所:
2024/11/21(木)~2024/11/24(日)
大阪・梅田芸術劇場メインホール ※公演終了
2024/11/29(金)~12/1(日)
神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場〈ホール〉
■料金:S席12,000円 A席8,000円 椅子付立見席5,500円 (全席指定・税込)
★ライブ配信情報
[1] 11月30日(土)16:30 公演 アフタートークショー付き 《登壇者:月城かなと、港ゆりか》
[2] 12月 1 日(日)12:30 公演 大千穐楽 ※アーカイブ配信なし
【視聴方法】
・PIA LIVE STREAM(ぴあ)
・Rakuten TV
【配信チケット料金(税込)】
●ライブ配信視聴券:各4,500円
●ライブ配信視聴券(公演プログラム郵送サービス付き):各7,000円 ※送料別途必要 数量限定予定枚数に達し次第販売終了
※公演プログラムは各公演会場、及びネット販売実施。販売価格:2,500円(税込)
★ライブビューイング情報
【会場】全国各地の映画館
【日時】11月30日(土)16:30 公演 アフタートークショー付き 《登壇者:月城かなと、港ゆりか》
【チケット料金】5,200円(全席指定・税込)
※3歳以上有料/3歳未満も座席が必要な場合は有料。