【公演レポート】LUCKUP produce シリーズ作品 第2弾『マテリアルパレード』

舞台公演やイベントの企画・製作・プロデュースを活発に行っている「LUCKUP」による、プロデュースシリーズ作品第2弾となる『マテリアルパレード』が、中野のザ・ポケットで上演中だ(20日まで)。

『マテリアルパレード』は作・演出の長谷川太郎による書き下ろしのオリジナル作品。
非常に作りこまれた世界観を構築しつつ、根幹の部分では日本のどこかで起きていると言われても不思議ではない問題も内包する、良い意味で非常に貪欲な舞台が展開されている。

【STORY】

紛争孤児だったケイトは、ある組織に拾われた。
世界維持機構【マテリアル】
世界のパワーバランスを維持するために秘密裏に動く影の巨大組織。
人命救助、破壊工作など作戦遂行のために最も効率的かつ効果的な手段をとるため、善悪の基準はない。

ケイトは、その実行部隊として活動しながら、生き別れた妹アキナを探していた。
今回のミッションは、とある地方都市の市長の護衛。
都市開発を巡り、反対住民からの殺害予告があったという。
「その程度の護衛をなぜマテリアルに?」
ケイトはまだ知らなかった。
都市に隠された闇。
そこに潜む禁忌の存在。

そして、これが世界の命運を分ける戦いになることを。

舞台は、総勢20名のキャストが複雑に絡み合っていくことになる、「マテリアル」をはじめとしたいくつものチームに属して進行していく。

そこには明らかに旧約聖書の『創世記』に登場するアダムとイヴの息子たち、人類最初の殺人の加害者と被害者とされている「カインとアベル」からとられたであろう名や、輪廻転生を示唆するネーミングも登場していて、多くの役名に日本人と同じ姓名がつけられているものの、では未来の日本なのか?とはおそらく違う、独自の世界観の中で紡がれていく。と言っても、その日本の姓名が浮くほど世界は遠く離れていず、自然保護と都市開発に揺れる都市や、古い因習を守りながら、独自の文化と約束事のなかで暮らしている村社会といった、現実感のある設定が織り込まれていて、現実とフィクションの間で絶妙な距離がとられている。

そんな世界のなかで、謎解き、アクション、二転三転する展開がたたみかけるがごとくに続き、誰が味方で誰が敵なのかも、一瞬にしてひるがえっていく内容がスリリングだ。

何より驚いたのが、ザ・ポケットの凝縮された空間に、おさまりきれないほどダイナミックなアクションの数々を多く含んだ作品のなかで躍動する20人の俳優たち一人ひとりに、きちんと役名があり、作品のなかに生きる役割りがあることだった。これは俳優たちにとって非常に大きなやり甲斐につながることだろうし、作品全体はもちろんだが、特定の誰かを応援して客席に座っている観客にとっても、見応えたっぷりの作劇に違いない。

やはりこれは、この舞台にも俳優として参加している齋藤貴裕が代表を務めるLUCKUP produceならではの、役者目線が作品に生きている証だろうし、その要請に応えた作・演出の長谷川太郎の、多くの要素を描き分ける力量にも感心した。

舞台奥の高みをはじめ、舞台面に段差をつけて、異なる場所の話が同時進行したり、ここに!?と驚くような場所に引き込まれたりという、照井旅詩の美術や、神林裕介の映像効果の力と、それらを巧みに使った長谷川の演出も面白く、休憩なしノンストップの舞台を飽きさせないスタッフワークも力強い。

その世界で躍動する俳優陣は、アクションがはじめてというというメンバーも含まれていたというのが、にわかに信じがたいほどよく動き、舞台を疾走していく姿に途切れないスピード感がある。

ケイトの松本旭平は、冒頭から過酷な過去を抱えていることがわかる、昏さを秘めた立ち姿で惹きつける。全体が群像劇の作りのなかで、きちんと視線を集めていて、彼が生き別れになった妹を探しているという、作品全体のなかで次々と起こる事件とは別に、骨太に描かれるドラマ性を支えていた。

ケイトを見守り、ある時は叱咤し、厳しいことも敢えて言ってくれるメンバーに扮した面々、小早川俊輔の兄貴分的な居住まいとメンバーをよく見ている視線の配り方の魅力、室将也が醸し出すなんとも頼もしいリーダーらしさ、岩本晟夢の役柄にあるドラマ性を支えた表現力、川口飛雄我の冷静ななかにある癒し感と、それぞれのキャラクターがよく立っている。

彼らが都市開発を推進しようとした為に環境保護団体から脅迫を受けている市長の護衛に行くことで物語が動いていく作劇にあって、その都市計画反対派の指示で行動しているグループのなかにいる、アキナの小貫莉奈の抜群のプロポーションと、果敢に活動しながら心もとなさを折々に露呈させる表情が非常に魅力的だった。関係性は登場人物たちの認識より早く客席に見えてくる作りなこともあり、繊細な演技に見応えがある。

同じチームの上地慶の最後の最後まで本心がどこにあるのかわからない在り様、横田陽介のミステリアスとアグレッシブの同居、浜口望海の意外な展開を支える怪演と言いたい豪快な演技と、それぞれがメリハリに優れる。

彼ら両チームのクライアントでありターゲットでもある市長役の鎌田亜由美が、ただ職務を全うしているだけではない不安感を伝えれば、その市長を支えるポジションの齋藤貴裕は、この世界観を創りたいと構想したプロデュース側でもあるだけに、眼鏡を効果的に使った仕草ひとつから奥深い。

ここに絡んでくる、目的が容易に読めない役どころを薮正紘が少ない動きで魅せるし、都市計画に純粋な反対運動を続ける中根大、彼をマークする警官コンビ新井裕士卯野壮馬のトリオは、作品にホッと一息をつけさせる存在。この設定は実はかなり難しいと思うが、出過ぎず引き過ぎずの造形が効果的だった。

そして、あたかも横溝正史が好んで描いた世界に登場するような、独自の因習のなかで動いている人々、早乙女じょうじ、湊竜也、オオダイラ隆生は、三人で共にいる舞台面から見える力関係が、それぞれの言葉と行動で揺れる様が登場する度に色を変えていく面白さがある。さらに、作品のキーパーソン鈴木歩己が、さすがの存在感で場を引き締め、鈴木翔陽の都市の人々とは明らかに違う素朴さと併せて大きなアクセントになっていた。

総じて、「それが神でも悪魔でも 要るなら守る 要らなきゃ壊す」というキャッチコピーに相応しく、誰もが自分が信じるものに対して忠実に疾走する姿から「諦めない」という、泥臭いまでに誠実なテーマが伝わる、パワー溢れた作品になっている。

(取材・文・撮影/橘涼香)

LUCKUP produce 『マテリアルパレード』

公演期間
2023年8月9日 (水) ~2023年8月20日 (日)

会場
中野 ザ・ポケット

出演
松本旭平
小貫莉奈

早乙女じょうじ
上地慶
齋藤貴裕
小早川俊輔
室将也
岩本晟夢
湊竜也

浜口望海
中根大
オオダイラ隆生
横田陽介
新井裕士
卯野壮馬
薮正紘
鈴木翔陽
川口飛雄我

鎌田亜由美
鈴木歩己

河内大和【声のみの出演】

スタッフ
作・演出:⻑⾕川太郎(少年社中/dopeⒶdope/森の太郎)
楽曲提供:たんしょそら
舞台監督:森脇洋平
美術:照井旅詩
照明:松⽥桂⼀
⾳響:⼤倉栄⼈(劇団わ)
⾳響効果:那須佳瑛
舞台映像:神林裕介
映像オペレーター:久田幸恵
アクション指導:森⼤
アクションアシスタント:高見彩己子
宣伝美術:藤尾勘太郎
W E B:中山省吾(STUDIO45.TOKYO)
写真:金丸 圭
ビジュアルヘアメイク:Kazumi Nanbu KANNA
収録:TWO-FACE
宣伝動画:富田喜助
キャスティング:今橋叔⼦(株式会社MSI JAPANエージェンシー/HITEC)
⼩道具製作:⻄澤佳就(Team NAIWA!)
プロデューサー:吉⽥千尋
制作:LUCKUP

【協力】(五十音順)
朝劇明大前 enchante イトーカンパニー ウイントアーツ
エイジアプロモーション FIP合同会社 えりオフィス オスカープロモーション 株式会社ENA ENTERTAINMENT  KIMONO inc. 劇団6番シード
シス・カンパニー STAR☆JACKS スターレイプロダクション 舞夢プロ 有限会社ニュース 吉本興業株式会社

【後援】
カンフェティ

【企画・製作】
株式会社LUCKUP

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