【公演レポート】舞台「プロパガンダゲーム」

【公演レポート】舞台「プロパガンダゲーム」

君たちには、この戦争を正しいと思わせてほしい
そのための手段は問わない

大手広告代理店〈電央堂〉の就職試験を勝ち上がった大学生8人に課せられた最終選考課題は、宣伝によって仮想国家の国民を「戦争」に導けるかどうかを競う〈プロパガンダゲーム〉だった……という、斬新な発想で展開される舞台『プロパガンダゲーム』が新宿のサンモールスタジオで上演中だ(28日まで)。

『プロバガンダゲーム』は2016年電子書籍として出版され、初登場で Kindle ランキング2位に躍り出たのち、全面改稿を経て2017年に双葉文庫から出版された根本総一郎の小説を原作に、「劇団5454」を主宰する春陽漁介が脚本・演出を手掛けた舞台だ。

原作が国民を戦争賛成に導く【政府チーム】と、戦争反対を訴える【レジスタンスチーム】両方のチーム視点で描かれることから、この舞台もレジスタンスチーム視点の「side:Resistance」と、政府チーム視点の「side:Government」の2バージョンを回替わりで上演する形態がとられていて、それぞれの回に、各チームの面々の本音や思いが深く描かれていくのが興味深い。

その中で「side:Resistance」の初日を前に公開ゲネプロが行われ、謎に包まれていた作品が全容を表した。

舞台は窓ガラスのようにも見えるアクリル板の向こうとこちらに分けられているだけでなく、壁や天井に戦争をするか否かが問われる、仮想国家パレット国が保有するキャンバス島が、隣国のイーゼル国から攻められるのではないか?というもともとの設定に対する両国の情報や、プロパガンダゲームの進め方に必要な単語が様々に書き込まれている。この文字情報は、劇中でもライトで浮かび上がるなどの方法で理解を助けてくれるが、できれば少し早めに着席して、何が書かれているかを注目しておくのも非常に面白いと思う。

そこからいよいよ物語がはじまる。
最終選考に現れる学生たちが、一人、また一人と舞台に出てくる冒頭がとても自然で、キャストの顔がよく見える演出が効果的だ。説明を待つ時間のそれぞれの言動からも既にキャラクターの片鱗が見えてくる。

そこから最終選考の進め方、チーム分けへと進んでいくのだが、〈電央堂〉のマーケティング局の局⻑渡部役の窪田道聡の威圧感たっぷりの存在感。

人事部の⽯川役の榊木並のビジネスライクで無駄のない動きと話し方。人事部の山野役の森島縁の難しいですよね、大変ですよね、と四方八方に気を配る在り方と、〈電央堂〉メンバーに扮する三人が、それぞれの個性を的確に表しながら交わす台詞が、如何にも説明という雰囲気を全く感じさせないのが効果的で、すんなりとドラマに入っていくことができる。

「side:Resistance 」のこの日は、レジスタンスチームに属した今井貴也役の白又敦、国友幹夫役の白柏寿大、越智小夜香役の出口亜梨沙、樫本成美役の高嶋菜七が中心になってドラマが進んでいく。

政府チームのメンバー後藤正志役の松島勇之介、椎名瑞樹役の松田昇大、香坂優花役の宮崎理奈、織笠藍役の及川詩乃は、ガラス越しに見える舞台奥にいて、あくまでもレジスタンスチームから見えるそれぞれのチームの広報タイムや、国民の気持ちをあおっていく扇動アクションでの言動が見えてくる形なのだが、それ以外にも実は様々な役割をしていて、その様子も同時に見ることができるのが舞台作品ならでは。自分で視点を決められる観劇の自由度がより感じられる。

そのなかでも、ここは絶対に観て欲しい、聞いて欲しいというポイントでは役者が舞台中央で話す、またライトが絞られるなど、演出の春陽の誘導も効果的で、戦争をするかしないか、というあまりにも大きな決断をゲームとして行っていく作品世界の重さも手放していない姿勢に好感を持った。

その中で、やはり「レジスタンスチーム」でやがて広報官になっていく樫本成美役の高嶋菜七の、戦争はどんな理由があってもしてはいけないものだ、という信念を強く表した硬質な演技と、舞台に登場した瞬間から磊落な性格なことをきちんと表していた今井貴也役の白又敦が、信念と勝敗との間で対立していく様が、緊迫感を呼んでいく。

男女平等にも強くこだわり、ある意味融通が利かない樫本を高嶋が引き絞られた弦のように演じれば、とにかく今はこのゲームに如何にして勝つかだろう?との現実的な考え方をしている今井の白又が、苛立ちを露わにしていくことで、ゲームの趨勢も刻々と変わっていく。終盤政府チームの広報が怒涛のように進む際の、白又の追い詰められた表情にこちらもどんどんレジスタンスチームの感情に引っ張られていくのを感じた。

そんな二人の争いを絶妙に止める越智小夜香役の出口亜梨沙の、一歩引いた冷静さが物語展開にとって大事な鍵になっているし、最も分析力に長けている国友幹夫役の白柏寿大が、次々に起きる出来事に揺れるレジスタンスチームを、優れた分析力で何度も立て直していく、チームのなかで一見穏やかなようでいて、実はエンジンになっていく様を確かに表現していた。

一方政府チームは広報官になる椎名瑞樹役の松田昇大が、レジスタンス視点で見るこのバージョンでは、最も大きな壁に見えてきて、椎名の感情でなくデータで訴える戦略が、やはり後半の展開に大きく関与してくる。

香坂優花役の宮崎理奈は、一転して情に訴えてくる政府チームの扇動の巧みさを表しているし、織笠藍役の及川詩乃はこのバージョンでは藍役としての出番こそそこまで多くないなかでもきちんと存在感を発揮。更に最後まで注目して欲しい後藤正志役の松島勇之介が、この人誰だった?にならないのは俳優の力量の賜物。彼らの心情やドラマが深く描かれる「side:Government 」に期待が募った。

特にこのバージョンでは〈電央堂〉人事部⽯川の榊木並の、あくまでも事務的な口調を崩さず、取り付く島もない振る舞いのなかで、事態の推移を全て見通している演技が強いアクセントになっていて、この人を観る日も作りたいと思ったほど。感情を乗せずに話す台詞回しの活舌の良さも貴重だった。

全体に「side:Resistance 」を観たら、すぐにでも「side:Government 」が観たくなるし、結末を知ってから、じゃあこの人はここで何をしていたか?を確かめたくもなる、リピート必至の脚本・演出の春陽の作りが絶妙。

負荷の高い要求に応えたキャスト陣も素晴らしく、SNSが発達し、それこそマーケティング戦略によって、自分と同じ趣味嗜好、同じ意見のコミュニティーにどんどん誘導され、あたかもそれが世界の全てかに錯覚してしまう。

都合の悪いニュースは全て「フェイク」だと言い切っても、そのコミュニティーのなかでは賛同と称賛しか起こらない、何が真実かを見極めることが刻々と難しさを増している現代で、マーケティングによって「戦争」という大きな決断さえもが、コントロールできるというリアルに深く切り込んだ根本総一郎の原作世界を、エンターテイメントあふれる「演劇」として届けたカンパニーに拍手を贈りたい。いまだからこそ多くの人に観て欲しい舞台だ。

(取材・文・撮影/橘涼香)

舞台「プロパガンダゲーム」

公演期間:2022年8月11日 (木・祝) ~2022年8月28日 (日)
会場:サンモールスタジオ
STORY
君たちには、この戦争を正しいと思わせてほしい
そのための手段は問わない
広告代理店の最終入社試験に訪れた8人の大学生。
最終課題は、国民を戦争に導けるかどうかを競うゲームだった。
【政府チーム】と【レジスタンスチーム】に分かれた学生たちは
国民に対して宣伝を使った情報戦を繰り広げていく。

脚本・演出: 春陽漁介(劇団5454)
原作: 根本聡一郎(『プロパガンダゲーム』(双葉文庫))
出演
side:Government: 松島勇之介 、松田昇大、宮崎理奈、及川詩乃
side:Resistance: 白又敦 、白柏寿大、出口亜梨沙 、高嶋菜七
窪田道聡 / 榊木並 / 森島縁

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