【インタビュー】MMJプロデュース公演第ニ弾 舞台「ト音」

『ト音』は、劇団5454 が2013年に初演し、劇作家協会の第19回新人戯曲賞の最終選考に選ばれ、2015年・2019年と劇団5454にて3度上演されている他にも、高校演劇を中心に全国で上演され続けており、多様な世代に受け入れられている人気作。

今回MMJプロデュース により、2024年6月13日(木)~18日(火) 紀伊國屋ホールにて、舞台『ト音』が上演される。

STORY

東京都内の公立高校に通う、新聞部の藤と秋生。
教師たちしか読まない校内新聞に嘆いている2人は、生徒たちの足を止めるべく、教師たちの「嘘」を記事にし始める。
一方で、保健室通いの秀才長谷川は、音への興味から固有振動数の共鳴で物体の破壊を試みていた。
ある事件から意気投合した3人は、「嘘の破壊」に乗り出すが、その先に待っていたのは、嘘と願うような真実だった。

先日、出演者の菊池修司松田昇大と脚本/演出の春陽漁介(劇団5454)に3人の関係性や役どころについて取材したが、今回はより作品について深掘りすべく春陽漁介とプロデューサーである MMJ 宮寺加奈に今作に込める想いを伺った。

ーーーーMMJプロデュース と劇団5454さんのタッグは、2022年に上演された舞台「プロパガンダゲーム」に続く第二弾ですが、前作の反響はいかがでしたか?

春陽:驚くほどの反響をいただきました。当然、原作の面白さを演劇で昇華するんだ!という意気込みで作っていましたが、会話劇を初めて観ます、というお客様も多い中、どれほど楽しんでいただけるかの不安はあったわけで……。公演が進むうち、各キャラクターを愛してくださっていたのはもちろん、作品のテーマもしっかりと持ち帰ってくださっているのを感じ、すごく嬉しかったですね。
それはキャスト・スタッフ皆さんが、宮寺さんや僕の要望に全力で応えてくれた結果でもあり、お客様にも関係者にも感謝の尽きない公演でした。

宮寺:想像以上の反響をいただき、ありがたい限りです。面白い作品だと確信を持ってはいましたが、お客さまに、攻めた内容の実験的な舞台を受け入れていただけるか不安はありました。公演期間が長かったのもあり、お客さまの口コミの力に助けられながら、後半になるにつれてどんどん席が埋まっていて、最後は客席に入れないほど当日券に並んでいただいて。とても幸せな公演でしたし、今後の作品づくりへの自信にも繋がりました。
公演が終わった後も、SNSで定期的に感想を見かけたり、最後はBlu-rayまで発売できたりと、本当に皆さまからたくさん応援いただいた作品でした。いつか再演やりたいですね…

ーーーー前回は小説「プロパガンダゲーム」の舞台化でしたが、今回、劇団5454にて過去3回上演されている『ト音』をなぜ上演しようと思ったのですか?

宮寺:初めて演劇を観る方が、これからも舞台を観てみたいと思える作品をつくりたいと思っているのですが、『ト音』はその力がある作品だと思っています。私自身、最初の舞台への興味は2.5次元舞台で、そこから5454さんに出会って、舞台の楽しさを広げていただいたんです。
派手なことは何もないですが、初めて『ト音』を観た時の、あの濃密な2時間の衝撃をいまだに鮮明に覚えていて、5454さんと再びご一緒できるとなった時に、今こそ『ト音』だ!と。舞台を『ト音』が本当に大好きで、個人的にもう一回観たいと思ったのも大きいです。

ーーーー『ト音』を上演したいと聞いたとき、どう思われましたか?

春陽:大丈夫ですか……?というが最初の気持ちです。自信のある作品ながら、オリジナル作品が商業的に厳しいことは痛いほどわかっているので。ただ、昨今の原作ありきの公演に悔しさは感じていますし、間口の広い『ト音』ならば期待出来ると思いました。何より、宮寺さんが『ト音』を上演したい、という熱意が嬉しかったですね。


ーーーー初演が2013年。そこから劇団5454にて2度再演。劇団以外でも高校演劇にて多く上演されておりますが、初演から10年以上経った今でも『ト音』が上演され続ける理由は何だと思いますか?

宮寺:作品に出てくる登場人物や出来事と、お客さんの持っている体験が近いというのはあると思います。舞台って、お客さん側の想像力なども大切だと思っているのですが、『ト音』は、そういう先生いるわーとか、ああいう同級生いたわーとか、そういう共感を観ながら自然にたくさんできるのは大きいと思います。すぐに世界観に没入できる。言い方が正しいかわからないですが、舞台が初めての方でもとても観やすいと思っています。
そして、先生含め、どの登場人物にも、ちゃんと物語があるのも魅力です。どの登場人物にも感情移入ができて、その登場人物から『ト音』を語れるというか。何度観ても発見があって、それに自分の経験値に合わせて見える物語の奥行きが変わるので、長年愛されているんだと思います。単純に面白いですよね。

ーーーー先日のインタビューで「『ト音』の完成版を目指したい」とお話されていましたが、稽古開始されて今作についてどのような期待がありますか?また、今回のキャストさんでの『ト音』いかがですか?

春陽:変わらず、完成版になる期待でいっぱいです。初演の頃は学生の気持ちを軸に書いていたところから、見守る大人への目線が増えていったのですが、改めて「子どもと大人の狭間」という心を描く作品として整えることが出来たと思います。それは、今回集まってくださったキャストさんの力だと感じます。
藤役の松田さんとは、『プロパガンダゲーム』に続き二度目ということで、以前よりも深くまでコミュニケーション取れていて、松田さんが持つ繊細な心の機微が、藤の楽しさや不安に深みを持たせてくれています。
秋生(あきお)役の菊池さんは、目的地を捉える力がありつつ、相手役と一緒に進む意識が素晴らしいです。感情的なシーンもありますが、そこまでの積み重ねを重要視してくれるので秋生の説得力が凄まじいですね。
長江さん演じる千葉ですが、『ト音』において一番難しい役かもしれないと思っているんです。嘘がなくて、周りを楽しませて、空気が読めなくてetc…僕が思う「こんな友達いたらいいな」の凝縮キャラ。器用な長江さんと共に、不器用な男を作っていく作業がとても楽しいです。
佐藤さんが作ってくれている長谷川は、もう驚くほどに長谷川さん。ちょっとキツくて、知的好奇心満載で、可愛くて。細かな芝居にもエネルギーがあり、作品内の様々な情報に説得力を持たせてくれます。
五味(ごみ)役の久ヶ沢さんは、とても優しくて、お茶目で、愛らしい方。厳し過ぎる五味先生の内面には、こんな優しさが詰まっているんだなぁ、と発見ばかりで、稽古する度に五味先生を好きになっています。
川本さん演じる坂内(ばんない)先生は、愛が大きくて、それが大袈裟に見えることもあって、たまにしっとり悩んで、でも変わらなくて。人間の様々な側面を見せてくれるキャラクターに仕上げてくれています。
そして、劇団5454の窪田演じる古谷、榊演じる江角、森島演じる安達、及川演じる戸井(どい)も、作品への親和性高く『ト音』をグレードアップさせてくれていて、本番が楽しみで仕方ありません。

ーーーー今作のテーマである『嘘』。初演と今で、世の中的にも変わったところもあるかと思います。今改めてこのテーマについてどう思いますか?

春陽:初演の当時は、自分を守ろうとしたり、大きく見せようとしたり、というような愚かさみたいな扱いをしていたように思うのですが、今改めて考えると繋がりを求めての言動のように感じます。人とより良い関係を育む為には、多少嘘が必要なときもありますから。
一方で、ネットなどでの嘘はもう救いようがないですよね。嘘でもなんでも、View数上げれば儲かるわけですから。もはや本当のことがわからなくなっている世の中だからこそ『ト音』では、目の前の相手とどのような関係を持つのか、という点においての嘘をお客様と一緒に考えたいなと思っています。

ーーーー6~18歳の方を無料招待(席数限定)や、託児サービス無料・座席エリアの公開など、観劇のハードルを下げる施策を色々と実施されておりますが、どんな方に見ていただきたいですか?

宮寺:演劇をまだ観たことない人、あまり馴染みがない人に観ていただきたいです。舞台好きな人が、友達だったり家族だったり、一緒に観に行こうと気軽に誘えるようになったらいいなと思っています。デート先の選択肢に舞台観劇を入れたいと思っていて、気軽に観に行ける環境をつくりたいです。

ーーーー春陽さんは公演を作られる際に、どんな方に届けたいや、見終わった後どう感じ取ってほしいなど、観客に込める想いはありますか?

春陽:どう感じて欲しい、という具体的なことはないのですが、お客様と共に考えられる時間にしたいという想いは強いです。テーマに対して、物語上はこういう判断、こういう解釈、などと作るわけですが、あくまで一つの結論として出すだけで、お客様それぞれの価値観によって当然違う解釈や結論があります。むしろ、僕らでは辿りつかなかった解釈、結論を持ってくれる方もいて、それがすごく楽しいです。
5454が扱うのは日常的なテーマであることが多いので、観劇後に、何気なく過ぎ去ってしまっていた事象に興味が向いたり、思考が働いたり、という体験を生み出せたら嬉しいですね。そういう意味では、考えることが好きな人には相性の良い作風なのかもしれません。

ーーーー宮寺さんは、これまで春陽さん・劇団5454さんの作品に触れた後、日常の視点が変わった。と思った瞬間はありますか?

宮寺:自分の日常を大切に感じることができるし、周りの人に優しくなれるんですよね。本当に、劇団名の通り心を洗い流してくれるんです。劇場から出たとき、いつもより空が綺麗に見えます。これは本当に体験して欲しいです。
あとは、ゾロ目の数字を見たらエンシェルナンバーを検索する習慣ができました(2014年『カタロゴス〜「数」についての短編集〜』を見た後から)。

ーーーー観客として見る側から、一緒に制作していく立場になりましたが、今作『ト音』をどんな作品にしていきたいですか?

宮寺:素直に、観てよかった、楽しかった、面白かった!と思ってもらいたいです。欲を言えば、お客さまの心のどこかにずっと残る作品になったら嬉しいです。そして、日常のふとした瞬間に登場人物のことを思い出してくれたりしたら…とても嬉しいですね。そして、キャストの皆さんにも、スタッフの皆さんにも、やってよかったと思ってもらえることが目標です。
私自身、舞台制作歴は長くないので他と比べることは難しいのですが、5454さんの現場は、すごい対話が多いんです。役者同士も、演出の春陽さんとも。役者の皆さんは大変だと思いますが、その分、ぎゅっと詰まった作品になっていると思います。たくさんのお客さまに観ていただきたいです。

ーーーーそして、劇団5454からは脚本演出の春陽さん以外にも、森島縁さん・榊木並さん・窪田道聡さん・及川詩乃さんが舞台となる公立高校の教員役として出演。制作面や宣伝美術でも劇団5454スタッフが参加いたしますが、劇団5454の魅力はどこだと思いますか?

宮寺:魅力…多すぎます…。5454さんは、とにかく良い人の集まりです。優しすぎて怖いぐらいです。裏に隠された闇深い一面を持ってるんじゃないのかっていうぐらい…。そして、作品にも、人にも、とても丁寧に向き合ってくださる心強い存在です。春陽さん含めキャストの皆さんは稽古場の雰囲気づくりとか、他のキャストさんとのコミュニケーションとか、みんなが良い状態で作品づくりができるように気を配ってくださって、制作面でも宣伝美術面でも、作品に対しての理解度が高いといいますか、作品の芯をしっかりお客さまに伝えてくださって、細部含めトータルプロデュースで作品をお届けできるのが魅力の1つだと思っています。
…全部私がやらないといけない仕事なんですけどね…甘えまくっているので反省しています。そして、作品は絶対面白いので、作品をたくさんの人に届けることに集中できるのも魅力です。

春陽:ありがたいお言葉です。演劇って稽古期間が長いわけですが、1,2ヶ月も何やってるんだろう、って思う方もいますよね。俳優が台詞覚えて、演出家がプラン伝えて、って程度だったら1,2週間でもなんとかなる気もするんです。でも稽古場って、キャスト、スタッフそれぞれのアイディアを持ち寄る場所であって、それを受けて話し合ったり、何度もシーンを繰り返したり、何がベストかを探し続けます。それをしないと、みんなの視点が一致せず、作品の面白さを発揮出来なかったり、お客様を迷わせてしまったり。
だから稽古場の雰囲気ってすごく大事ですよね。誰もが気になったことを言える環境じゃないと、作品のクオリティは随分下がります。劇団5454が大勢で関わらせてもらうことで、稽古場での足踏みを減らせると思いますし、制作面とも連携が取りやすくなることでお客様の満足度も上げたいという気持ちです。あと、優しさが怖いって気持ちすごく分かります。不思議ですよね。良いテーマだと思いました。

ーーーー最後に読者の方へメッセージをお願いします。

春陽:『ト音』は、今までもたくさんの出会いを作ってくれた作品です。今回、初めてお会いする方もたくさんいらっしゃるわけで、ワクワクしています。
また、過去の『ト音』を観てくださった方にも、ぜひ最新版を観ていただきたいです。当時よりも確実にレベルアップしているはずです。青春物語であり、ミステリーでもあり、サスペンスでもある今作。演劇を見慣れている方もストレートプレイに馴染みのない方も演劇を観たことない方にも、幅広く楽しんでいただける作品です。どうか観てください。

宮寺:本当に多くの人に見ていただきたいです。春陽さんの仰る通り、『ト音』ファンの方も、演劇が初めましての方も、どんな方にも楽しんでいただける作品になっています。演劇は生で体験する面白さ多くあるので、是非いらっしゃれる方は劇場でご観劇いただけたら嬉しいです。お待ちしております!

MMJプロデュース公演第ニ弾 舞台「ト音」

公演期間:2024年6月13日 (木) 〜 2024年6月18日 (火)
会場:紀伊國屋ホール

出演
菊池修司 松田昇大 長江崚行 佐藤日向
窪田道聡 榊木並 森島縁 及川詩乃
川本成 久ヶ沢徹

スタッフ
脚本・演出:春陽漁介(劇団5454)
音楽:Shinichiro Ozawa
美術:愛知康子
照明:安永瞬
音響:游也(stray sound)
衣裳:曽根原未彩
ヘアメイク:瀬戸口清香
演出助手:柴田ありす
舞台監督:北島康伸
票券:野田紅貴(カンフェティ)
宣伝美術:横山真理乃
制作:堀萌々子・仁科穂乃花
プロデューサー:宮寺加奈
企画製作:メディアミックス・ジャパン

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