9月22日(日祝)、23日(月祝)かめありリリオホールにて、第五回かつしか文学賞大賞作品『博志の一週間』が上演される。『かつしか文学賞』は、東京都葛飾区が推進している文化芸術創造事業の一環として2012年にスタートした企画で、大賞を受賞した作品が舞台化される「街と芸術」のプロジェクトだ。
本作は「第五回かつしか文学賞」として、“葛飾区を舞台に、そこに暮らす人々の心のふれあい”を題材とした小説を募集し、応募総数149作品の中から大賞に輝いた、桜川碧・作『博志の一週間』を舞台化するもの。
脚本に数々の演劇賞を受賞しているシライケイタ、監修には舞台やドラマなどでは欠かせない存在の佐藤B作、演出に劇団や作品イベントなど多くの企画プロデュースを支える永井寛孝という布陣で、昨年の12月から準備が進められてきた。今回は本番まで一週間を切った稽古場をレポートする。
「稽古はステージで行っております」通常、稽古は広めの会議室などで行われているため、驚きながら稽古場に到着すると、大道具が組まれたステージに出演者が揃い準備運動を初めていた。スタッフは「怪我のないように」と声をかけ、常にフォローしている。
そう、本作の出演者は舞台経験問わずオーディションで抜擢された皆さまで、早くからステージに慣れるための配慮として最近の稽古は本番のステージ上で繰り返し行われていた。なんて贅沢な空間だろう、それが第一印象だ。
この日に披露されたのは、本番のように最初から最後まで通して演じる“通し稽古”で、オープニングから出演者たちが歌い踊り弾けていた。
演出の永井氏が、照明のタイミングや舞台転換を客席からマイクで案内しながら進行していく。稽古では明るいステージも本番は暗くなるため、暗転中の作業をそれぞれが身体で覚えないといけないのだ。
途中、ここで誰が小道具を出すのか、そんな検討タイムになると『自分が持っていけま~す』と役者自ら名乗り出るなど積極的な場面も。
物語は、主人公・博志が不治の病かもしれないという精密検査待ち“心配の一週間”を描いていく。誰にでも起きそうで、孤独な博志の自身との向き合い方にチクリとくる観客もいるかもしれない。ただ博志と同様に、人との触れあいで前向きになれるのだと、改めてシンプルなメッセージを感じることもできるだろう。撮影をしながらホロリと涙がこぼれてしまった。
あらすじを読むと、ちょっと暗い物語かな?と思いがちだが、配役がまた絶妙で個性豊かなキャラクターが次々と登場し、コミカルな動きに加え随所に歌と踊りを取り入れテンポよく進んで飽きさせない。役者は素人ばかりとのことだが、一流スタッフ達に磨かれ、稽古からもエネルギーが伝わってきた。
22人の老若男女が全身全霊で挑む本作は、元気を貰えるに違いない。芸術の秋の第一段として、ぜひ劇場で体感して欲しい。
稽古の合間に演出の永井氏に話を聞いたので紹介したい。
――本番までカウントダウンの時期ですが今の手応えをお聞かせください。
稽古場では立体的な舞台は組めてないので、ここではっきりと立体的な舞台があって、出入りも含めて慣れていただくのが今の段階です。この後に音楽が入ってきて、ピンマイクも使ったりしますので、初めてつけられる方もいらっしゃるし、それも含めて、まず慣れてもらうことですね。
それと照明さんが入ってきますので、明かりが入って今までできていた転換とか動きがどのぐらいスムーズにいくのか。ここで(出演者は)もっと芝居への気持ちが高まっていけばいいなと思っています。
――企画は5回目ですが、この企画ならではの醍醐味などお聞かせください。
毎回オーディションで、たくさんの方に来ていただいています。実はこのイメージでキャスティングしたんだけど、いざ始まってみると、ん?ちょっと違うぞっていう、こっちの役の方がいいかもなって変更したことも過去にはありましたね(笑)
毎回そうですけど、(役を固定した)そういう募集の仕方をしてないので、この企画に参加していただけますか?という募集なので「この役でなきゃやりません」って方はいらっしゃらないんです。
そしてノッて演じていただけるように持っていく。 お互いに分かり合って頑張ろうね、 楽しんでいこうよ!って。
――エネルギー交換をしている印象も受けました。
そうですね、お互いにそれぞれ違った人生を生きてきて、一筋縄ではいかない人たちが集まって若い子から60、70代のいろんな会社の役職だった方も含めて参加されています。
そういう人生経験豊かな方々と演劇という手段で1つになるってことを楽しめるようにしないとつまんないですよね。我慢してやることはないので、みんながノッてやってほしいし、その姿をお客さまが観て楽しんでもらいたい。それが1番の目標ですね。
――会社の人間関係とは違い、年齢層に幅のある共同作業はなかなか体験できないことですよね。
だから面白いんですよね。横一線ですから誰が偉くもなんともなくて、ここでは同じですから。いいものを作ろうねってことで1つになれる。肩書きは関係ない世界。肩書を聞いちゃうとね、こんなキャリアな人に僕なんかがと何も言えなくなっちゃう(笑)。
今回、今までのキャスティングで1番男性が多いんです。また酒の好きな親父さんが多いもんだから、稽古が終わると飲みに行くっていうのがあって(笑)それがよく転がるように持っていけたらなと思います。会社と違いみんなバラバラだからこそ、いろんなことを腹を割って話せたりできる、そういう効果はあると思いますね。
オジ様たちが本当に頑張ってますよ!舞台は階段がけっこうあるので、これから筋肉痛が出ると思いますけどね(笑)
――見どころをお聞かせください。
やっぱり歌と踊りが楽しめるんじゃないかと思います。もちろんお芝居の部分が肝心です。そのお芝居の部分が、いわゆるプロの芝居とは違います。でもアマチュアらしいってことではなくて、いい意味で新鮮なお芝居ができれば、そこを目指していきたいと思っています。
今回は主人公が、最初にお医者さんから気になる腫瘍がありますよ、と聞かされるところから始まって、それから再検査までの1週間、今まで出会った人たちともう1度会ってみたり語って気持ちがどういう変化していくのか。生きるって何なんだろう、命って何なんだろうって考えざるを得ないことになります。それはもう万人共通のことで、みんな死にます。同じ時代に出会えること、生きていることは結構すごいことなんだよねって、もう1度新鮮に向き合って捉え直してもらえる機会になればと思います。
(取材:谷中理音)
公演概要
第5回かつしか文学賞 大賞作品『博志の一週間』
日:2024年9月22日(日・祝)・23日(月・振休)
場:かめありリリオホール
料:一般2,000円 高校生以下1,000円(全席指定・税込)
問:かめありリリオホール チケットセンター
tel.03-5680-3333
【あらすじ】
中島博志、七十歳。家族と離れ、路上生活を経験し、現在は柴又にある生活困窮者のための支援施設で働いている。波乱万丈な人生を経て、ようやく穏やかな日常を過ごしていた博志だが、ある日健康診断で肝臓に怪しい影が見つかる。精密検査は一週間後。生きた心地のしない一週間をどう過ごせばいいのか分からない博志は、心の中に住んでいる寅さんと会話をしながら自分自身と向き合っていく。
運命の日に向けてカウントダウンするように、会いたい人に会い、心ゆくまで話し、命について考える一週間を過ごす博志。やがて、本当に大切なものは何か、大切な人は誰なのかということに、気づいていく。