2011年に代表のAzuki、副代表の岡田奏が旗揚げしたteamキーチェーン。オリジナル作品を創造し続ける彼女らの本公演「雨、晴れる」が2023年5月、すみだパークシアター倉にて上演。
18回目となる本作は、いたってどこにでもある下町の居酒屋が舞台のセクシャルマイノリティを題材としたものだ。
舞台上は、こじんまりとしたカウンターと座敷のある店内。白石家の生活居住を2階にし、店外は細道があるだけのワンシチュエーションのセットとなっている。
大雨降りしきる中、白石蒼依（演・三澤康平）が身体と心の性のずれを家族に告白、いわばLGBTQ＋を題材としたときの核心に迫るシーンから物語は始まる。
時は経ち、居酒屋「日和」に1人のアルバイトがやってくる。世間知らずで少し抜け目はあるが、まっすぐで素直な谷原彩月（演・伊藤萌々香）だ。
この「日和」には連日、個性的な常連で賑わっている。酒屋のドラ息子である藤崎武瑠（演・神谷康太）、近所のオカマバーのママであるみどり（演・岡田奏）と店員のチャコ（演・岩出清志郎）、何度も不妊治療を続ける紺野泰久（演・熊野仁）・紺野藍（演・森川梢）夫妻、離婚調停と親権争い最中の赤木裕子（演・北澤友梨枝）、店員に片思い中でアピールが欠かせないきなこ（演・川口知夏）、そして記者として働く桃井圭吾（演・マナベペンギン）。
彼らはクスりと笑ってしまうようなワードや仕草が印象的で、観劇するものの心を解きほぐしてくれる。話にフォーカスされていない瞬間でも、宴会のように会話やリアクションをするので息の合った空気感を作り、センシティブな題材を扱いながらも明るくしてくれる。
そこに、白石家の母であり「日和」の一人女将の白石茜（演・高橋志帆）、姉で明朗闊達の白石美紅（演・高良紗那）、そして蒼依ではなく男性として生きる決断し、就職もしている蒼太がこの店を切り盛りしている。
緊張しっぱなしの彩月を彼らが支え、笑いの絶えない明るい店内が日常として描かれる。各々が日常を生き、今の抱えている悩みを笑いのネタとして消化していこうとする様すら見えてくる。
大きく物語が動くのは、茜が体調不良で店を休むこととなったある日のこと。手伝いとして入った橙山琥太郎（演・津田恭佑）と彩月・白石姉弟が切り盛りしている店内に、桃井の取材相手で美容サロン社長の青山紫乃（演・德岡明）、彩月の姉で弁護士の谷原朱理（演・安未紗）、そして、蒼太の上司の緋田雅人（演・今井裕也）が来店して時のことであった・・・
この物語の時間軸は、蒼太が男として生きる決断をした後のお話だ。
つまり、性の違いに対しての悩みから解放された後の、いわば生きていく社会や環境から生まれた悩みに蒼太は対峙していく。
蒼太だけでなく、蒼太を女として生んでしまったことに悩む茜、FTMに弟を理解しようする美紅、不妊治療により少しずつ葛藤する紺野夫婦なども各々の問題に踏み入れる。また、彩月の父親であり市議会議員でなおかつ同性婚反対を唱える谷原玄太（演・山本佳希）もそんな彩月と蒼太を見ながら葛藤していく。
ただ、その中でも前向きにしてくれるのが、素直に目の前の人を想う彩月の存在だ。肯定や否定ではなく、それぞれの生き方に向き合おうとする姿は、作品の伝えたいメッセージとして具現化してくれる。
決して多数派・少数派、賛成・反対を主張するのではなく受け入れ想い合おうとする世界を、様々な人々が集まり交流の場となる居酒屋で描く。
性に対しての本人の問題だけでなく、夫婦・家族・恋人など様々な関係性で悩みながらも、「心のままに生きる」ために前を向く姿を感じ取ってほしい。きっとそのころには、晴れやかな気持ちで劇場を出ることができるだろう。
teamキーチェーン 第18回本公演「雨、晴れる」
■あらすじ：
赤提灯が立ち並ぶ下町の飲食街。その中でも老舗の居酒屋「日和」。
いつも明るい店主(白石茜)は亡き夫の残したこの店を切り盛りしている。
茜と家族を慕い集まる常連客は個性豊かな人々。
ご近所でもあるオカマバー「翠」のママ(みどり)と店員(チャコ)、
不妊治療中の夫婦(紺野泰久・紺野藍)、親権争い中の女性(赤木)、
片思い中の大学生(きなこ)、新聞記者(桃井)……
そして茜の娘、美紅と蒼依。
蒼依は身体の性と心の性のずれに違和感を感じて生きてきた。
ある雨の日、蒼依はそのことを家族に告白し
「蒼太」として生きることを選択するが……
それぞれの生き方。生きることの難しさと楽しさ。
「心のままに生きる」事ができる世界を描く。
■期間：2023年5月3日（水）～8日（日）
■会場：すみだパークシアター倉
■作・演出：Azuki
■キャスト：伊藤萌々香、三澤康平
山本佳希、高橋志帆、岡田奏、北澤友梨枝、高良紗那、森川梢、熊野仁、安未紗、マナベペンギン、德岡明、今井裕也、神谷康太、津田恭佑、岩出清志郎、川口知夏
■美術：仁平祐也
■舞台監督：松本仁志
■舞台監督補佐：宮島カズキ
■音響：香田泉(零’sRecord)
■音響オペレーター：吾犀秋吉(零’sRecord）
■照明：板倉葵(Light Vision)
■制作：夕貴羽、田中友梨奈
■撮影：yumeha shino
■フライヤー撮影：上野陽立
■演出助手：岡田奏
■宣伝広告美術：高良紗那
■Web宣伝広告：今井裕也
■稽古場制作：マナベペンギン
