アニメーションの名場面を巧みに織り込んだ、本格ミュージカルを実現 ミュージカル『ロミオの青い空』公演レポート

大薮丘、新里宏太ほか、キャストが躍動した新作ミュージカル『ロミオの青い空』が、池袋・東京建物Brillia HALLで上演された。

 ミュージカル『ロミオの青い空』は、リザ・テツナーの小説「黒い兄弟」を原作に1995年フジテレビ系列の『世界名作劇場』シリーズの第21作目として放送されたテレビアニメ「ロミオの青い空」を初ミュージカル化した作品。19世紀後半のイタリア・ミラノを舞台に、煙突掃除夫として働く少年・ロミオの成長が、アニメーションの名場面を巧みに織り込みつつ、ダイナミックに展開されている。

【STORY】
19世紀後半・イタリアの国境に近いスイスの小さな村で暮らす少年ロミオ(大薮丘)は、貧しいながらも家族に囲まれ幸福に成長していた。だがこの時代でも違法である人買いを生業にし、死神と恐れられるルイス(和泉宗兵)に目をつけられたロミオは、その陰謀から畑を失い目に傷も負った父親と家計を助けるため、自らを人買いに売りミラノへ煙突掃除夫としてやって来る。その道中ロミオは同じ境遇ながら、読み書きもできる美貌の少年アルフレド(新里宏太)に出会い、固い友情で結ばれ、再会を誓いながらそれぞれの雇い主の元へと別れていく。

ロッシ親方(中本雅俊)の元で煙突掃除として働きはじめたロミオは、想像以上の重労働と、親方の妻エッダ(あべこ)や息子のアンゼルモ(大野瑞生)に疎まれる辛い生活が続く。それでも煙突のてっぺんから見る青い空や、ミラノの街並みの美しさに力を得、読み書きができるようにと力を貸すカセラ教授(クラウス)とも出会ったロミオは懸命に働き続ける。そんなロミオを親方の娘アンジェレッタ(北澤早紀)が密かに励まし、ジョバンニ(塩田康平)を団長とする地元の不良少年団「狼団」との争いで受けた誤解から着せられかけた濡れ衣も晴らし、遂に念願のアルフレドと再会。「狼団」に立ち向かうためアルフレドを団長に煙突掃除の少年たちと「黒い兄弟」を結成して……

 全30話を越える長大な原作アニメーションのエピソードをテンポよくまとめた鄭光誠の脚本による舞台は、和田俊輔の全28曲に至るミュージカルナンバーを効果的に用いて怒涛のように進んでいく。特に演出の西森英行が透明なカーテンに映し出される映像と、周り舞台を多用して転換していくセットとを効果的に使った舞台作りをしていることが、全体のスピード感を高めた。
 特に、この場面で誰を見るべきか?という観客視点の誘導に優れた演出が、大人数を登場させる舞台面の迫力と、物語進行を無理なく両立していて、この名作アニメーションを本格ミュージカルに仕上げようという、製作側の本気度が伝わってきた。

 そんなエネルギーを受けたキャストたちも、役柄の造形がそれぞれにくっきりしていて、ビジュアルイメージに役者本人の個性がうまく乗った、人が演じる『ロミオの青い空』のパワーを感じさせる。

 タイトルロールのロミオの大薮丘は、あくまでも真っ直ぐで正義感に厚い少年をキラキラした瞳で演じている。自分の利益にならないとわかっていても神様に恥じない行動をとり続ける曇りのないロミオの造形は、無条件で応援したくなるもので、物語全体がロミオの成長譚である作品を支えていた。煙突の上からロミオが見ている景色を、客席にも見せてくれる豊かな感情表現もいい。

 その親友アルフレドの新里宏太は、読書を好む完璧な美少年というアニメーションの役柄設定を見事に体現。ロミオとは全く異なるタイプの、だからこそ二人が真の友情で結ばれる、互いが互いを敬意の目で見ていることにストンと納得がいくアルフレド像が美しい。ロミオに対してはもちろん、妹のビアンカ(田上真里奈)、「狼団」の紅一点ニキータ(七木奏音)など、関わる人々への接し方にもリトルプリンスの雰囲気があり、登場するだけで場の空気を変える存在感も光った。

 二人を中心にした「黒い兄弟」に加わるダンテの南部海人、アントニオの小波津亜廉、ミカエルの輝山立、アウグストのおでぃ、ベナリーボの八巻貴紀、エンリコの佐藤弥益、バルトロの米澤賢人、ジュリアーノの吉元祐典が、集団芝居のなかでうるさくなり過ぎずに個性を発揮しているし、対立する「狼団」を率いるジョバンニの塩田康平の如何にも敵方のリーダーのプライドの高さの表現を筆頭に、やはり美少年と設定されているリナルドの鈴木凌平のビジュアルの良さが強烈に目を引く。他にも前述のニキータの七木はもちろん、タキオーニの吉田英成、リオの山内涼平、ファウスティーノの辻本将平は、「黒い兄弟」に立ちはだかる存在として、ひとり一人が強烈にアピールしてくるのが効果的だった。

 他にもロミオが住み込むロッシ一家の親方・中本雅俊が、ロミオに好感を抱きながら妻に遠慮してそれを表せない様や、絵に描いたような敵役を臆せず表現したアンゼルモの大野瑞生と、その息子を溺愛する母エッダのあべこの造形が色濃いからこそ、アンジェレッタの北澤早紀のあくまでも楚々とした佇まいが際立つ。宝塚出身者であるイザベラの久世星佳、ロミオの母ジェシカ他数役を演じる大月さゆらベテラン勢が舞台を引き締めたし、ロミオを導くカセラ教授のクラウス、全ての発端を作るルイニの和泉宗兵をはじめ、グラゼーラの永咲友梨、イタリア国王の鬼束道歩、シトロンの鈴木たけゆきら、大人を演じる面々が非常にしっかりしていることも作品の力を高めた。

 総じて未だコロナ禍に揺れる現状のなか、今回の上演だけでは終わらせない、上演を重ねるミュージカル作品のレパートリー生み出そうとする熱意が漲る舞台になっていて、早い時期の再演を期待したい。

(取材・文・撮影/橘涼香)

公演情報

ミュージカル ロミオの青い空

日:2022年3月30日(水)~4月3日(日) 
場:東京建物 Brillia HALL
HP:https://www.romisora-musical.com/
問:サンライズプロモーション東京 tel.0570-00-3337(平日12:00~15:00)

※千穐楽 4/3(日)17時公演の配信については【コチラ】よりご確認ください

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