
2020年に森永理科を中心に、高田ゆか、國崎馨で結成された元気なオルタナ系演劇部・PSYCHOSIS。アンダーグラウンド(アングラ)を背景に、会場に響き渡る高音質サウンドや、ホラーパンクな衣装ビジュアル、そして物語の世界にいつの間にかのめり込んでしまう演出で、これまで月蝕歌劇団の高取英(2018年逝去)の戯曲を中心に上演してきた。
そんなPSYCHOSISが次に挑むのは、寺山修司の「盲人書簡◉上海篇」。この公演は、公益社団法人日本劇団協議会による「日本の演劇人を育てるプロジェクト」新進劇団育成公演として採択され話題となっている。
今回はPSYCHOSISの森永理科、國崎馨、そして本作のスーパーバイザーであり寺山修司、高取英とも親交が深い流山児祥(流山児★事務所)、日本劇団協議会より中原恵の4名による対談を行った。寺山作品を作るうえでのPSYCHOSISのクリエイションの仕方から、今回の採択のポイントなど、特にこれから演劇界を盛り上げていく若い劇団・役者たちにとって見逃せない話となった・・・
――まずは、今回の「盲人書簡◉上海篇」を上演するに至った経緯を教えてください。
森永 「テラヤマ・ワールド代表の笹目浩之さんに2025年は寺山修司生誕90年をやる事を聞き、2023年に「疫病流行記」を没後40年記念認定事業で上演したご縁もあったので、再び挑戦してみようという話になりました」
國崎 「寺山作品の中でも、今のPSYCHOSISに合っている「盲人書簡◉上海篇」を選びました」
森永 「「阿呆船」や「奴婢訓」といった、寺山作品の後期作品がPSYCHOSISで描きたいスピード感に合うんじゃないかなと思っていました。その中でも、登場人物のバランスや、疫病流行記とは毛色の違うものをやりたいと思い「盲人書簡◉上海篇」になりました。作品の流れや構成は変えていませんが、セリフの順番だけ少し変えています。ただ、ト書上にいた人物は少し減らしてはいます…二人組のオリーブ油をぬった裸の男は、泣く泣くカットしています」
流山児「闇の分量(暗闇の比率)ってどうなるの?台本上でも、「この劇は、「見えない演劇」であり、半分は真暗闇で上演される。」と書かれているよね」
森永 「へへへ。現地でみてください〜〜」
流山児「あとは影の表現はポイントになるかもね。新しいことをやってみると面白くなりそう」
森永 「稽古中でも影実験室と名付けて色々と試行錯誤していますね」
流山児「理科がどんな表現で物語を作るか興味をもっています。今回の作品は物語性もあり、理科はその物語を大事にしながら演出しているように見える。あと、國崎が演じる小林芳雄は大変で難しい役なんだけども芝居が良くなっている。面白い芝居をやれる國崎には期待しています」
―――今回は「日本の演劇人を育てるプロジェクト」新進劇団育成公演として採択されていますが、実際に採択においてPSYCHOSISに感じた点はどういったところですか?
中原 「選考は、外部の方複数名に行っていただいていますが、劇団として今どういう状況・状態にいるか、今回の公演で目指したいことが何か、が鮮明に見えていたのが印象的でしたね」
森永 「書類選考の後にプレゼンをやってきたのですが、開口一番に高取さんについて聞かれたのが嬉しかったです。「高取さんがここにも顔を出してくれるんだ」って。PSYCHOSISは、助成金も含めてこういった審査に通ったことがありませんでした。ですが、書類の段階で分からないことを聞くと、丁寧に誠意をもってご返答をいただいたりしていたので、この時から、ご一緒できたら良いのにな〜と思っていました。」
中原 「できるだけお答えできるようにしていました。また、今後の劇団としての方向性も重要視されています。ありがたいことに毎年若い劇団の方々にご応募いただくのですが、まだ方向性が定まる前の段階の方々も多いです。本プロジェクトは劇団の方向性を定めるためというよりは、今この方向に進もうとしている劇団に対してのバックアップをするものになります。PSYCHOSISは、方向性と自身の強み・弱みを把握されていて、作品の目指したいところが明解だったんですね」

流山児「今まで採択されてきた劇団は劇団内に劇作家がいることが多かったですよね。でもPSYCHOSISは劇作家がおらず、面白いところだと思っています。ましてや、世間的にアングラと呼ばれている作品をやるんだから面白いよね。日本の演劇の歴史をちゃんと担って、次の世代へバトンタッチしていってほしい。ただ、次の若い世代が「理科さんが取れるなら、僕らも応募しよう!」って絶対出てくるわ(笑)」
森永 「たいへんだ〜」
―――ちなみに、劇団協議会さんからの支援の内容ってどういったことになるんですか?
中原 「文化庁の助成を受けて「日本の演劇人を育てるプロジェクト」」を行うので、他のプログラムも含めてこちらで助成金の応募等を行っていきます。財政的な支援となるので、次のステップにつながるように予算を強化していただきます。助成金のルールも共有することになるので、今後助成金を活用していく際の糧にもなってもらえたらと思っています。また新進劇団の方々には、劇団協議会正会員団体の中からスーパーバイザーをマッチングさせていただきます。今回は、すでに深い関係であった流山児さんにお願いをしております」
森永 「本当にいろいろと教えていただけるのと、一代表者、団体としての在り方を的確に導いてくれます。例えば、盲人書簡はマッチがキーアイテムとして出てくるのですが、火気の使用に関して、消防を通さなくてはならず、今回の環境と条件的に使用不可能でした。そういった部分を若さとインディーズ魂だけで疎かにすることはできないんだぜと言うのを劇団協議会は真っ向から伝えてくれます。当然の事を改めて突きつけられて、快適なクリエイションができなくなった気持ちになって、一旦拗ねたけど、一晩寝たら、良い仲間に恵まれてるし、これ乗り越えられたら強くなれるかも〜ってすぐに気持ちが切り替わって、照明デザイナーの松田桂一さんや中原さんともお話しして、面白い空間創りしましょうとなり今に至ります。勝負ですね。」
流山児「マッチの話もそうだが、火がダメなら他の計画を考えられる。劇場がダメだったら、稽古場でやる、それでもだめなら、外でやるとか。昔も、ダメだったら他の手を考えていくというのは変わらないね。あとは、しっかりと身の丈にあったことをやっていくこと」
森永 「助成金も身の丈に合った予算感でやりたいという話をお互いにしていました。大きな金額の助成金が出ても、次回も同じ予算でやれるわけではないし、自分の感覚もバグってしまうのは嫌だなとは思っていました。」
中原 「助成金があるからと言って単に贅沢に公演をやってしまっては、次回に活かすことは難しいと思っているので、次につながるためのお金の使い方を考えてもらうようにしています。例えば、内製していたスタッフ業を外注スタッフを入れて安定した座組体制を経験するとか、稽古場を少し充実させ、より実りのある創作期間を経験するとか」
森永 「今回の1回だけの関わりでなく、育成対象者の追跡調査として今後5年間、私たちの活動に注目してくれるので、それもありがたいですよね」
流山児「若い劇団は、まずは続けることが難しく解散してしまうことも多くあるんですよね。そうならないように、そして新しい演劇人が育ってもらいたいから、やっぱり5年間見てくれるのはいいことだよ。理科の場合は、僕らの世代から色々とバトンタッチされているから続けていってほしい。高取もそうだけど、J・A・シーザー(演劇実験室◉万有引力)とも一緒にやっていたよね」
森永 「高取さん逝去後の月蝕歌劇団で何作品かやっていますね〜、シーザーは監修で入ってくれました。毎日ケンカしながらやってましたね(笑)」
流山児「理科のいいところは、分からないことや苦手なことをオープンにするよね」
森永 「そうですね、演出家・プロデューサーだからといって、100%完璧な人間ではないので、寺山修司の言葉の中でも読み解けない言葉や知らないことはやっぱりあるんですよね。その時に、「教えてほしい」って言うし、みんなでディスカッションを交えながら進めます。流山児さんからも「誤読」があってもいいんじゃない?というアドバイスももらっています」
流山児「寺山作品の言葉は詩的言語でもあるので、それを具体化するのはとても大変な作業。自分の中でその言葉を取り込んで、キャラクターに投影していく、そこから出演者同士でお互いに話し合い、誤読もしながら、試行錯誤をしていくんですよ」
森永 「今、私自身が新しく知ることもあっていいと思うので、座組内でシェアをしあえる環境はいいなと思います。なんなら、お客様にもシェアしてネタバレしていいよ!ってめちゃくちゃなことも言っていますから(笑)」
流山児「ちょうど、出演者のnoteを読んでいたんだけど、分からない言葉や人物を説明していて面白かったんだよね。台本の中にある分からない言葉を調べると思うんですけど、そのことをオープンにして、出演者みんなでディスカッションしてシェアしているんですよ。それってすごく大切なことなんですよね。
演出家の頭の中で意味や理由が完結されて、一部の人たちにしか伝わっていないと、やはり演劇としては難しい。集団を率いる以上、役者・スタッフ全員が情報や問題意識を共有していることが大事ですよ。特に理科や月蝕歌劇団周りの人たちは、寺山修司・高取英の言語解釈をある程度の共通認識として持てるけど、そうじゃない人もこのカンパニーには多いよね。そのごった煮感が面白い」
森永 「現代では放送禁止用語や死語、禁止ワードになっていることが本作では多いんですよ。「私窩子(しかし)」「盲目(めくら)」「啞(おし)」とかがそうです。独特な言葉をPSYCHOSISのメンバーではない出演者が自分のnoteにアップしているんです。でもそれは、こちらがお願いしたことではなく、自発的にどんどんやっているんです。
例えば、出演者の中にはこの作品においてのトリガーアラート(トラウマ体験を連想する可能性のある表現について、あらかじめ周知すること。)を重要視したいなと思っていたら、その子の発信でやってくれるんです。PSYCHOSISの中でも、自由に言ってもいい雰囲気を出しているので、自発的に発信しやすい環境ではあるかもしれませんね」
流山児「稽古の初日に「ちゃんと話しましょうね。会話しながら作りましょうね」って言ったんですよ。寺山修司の作品は誤解されたまま進めると全く違う作品になっちゃいます。作品にはしっかりとした物語があるので、作る者同士で認識をすり合わせていかないと、誤解のあるアングラになってしまうんですよ」
國崎「出演者同士で話す時間は他よりも多いかもしれませんね。昨日は、寺山演出と理科さんの演出の違いについて話していました。大きな違いは登場人物の物語をちゃんと際立たせていることだと思うんですよ。個性が均一化された集団の美というよりは、登場人物が尖って個性が際立ってる演出をしているので、高取さんが持っていた物語性に近いんじゃないかって話になりました。そんな話を20代前半の子たちが盛り上がって言ってたんです、嬉しくなりますよね」

流山児「うん、僕たちが生きた時代の作品を上演することはやっぱり嬉しいですね。言葉を吐くということは、歴史と出会うってことなんですよ。高取もその考えを大事にしていた作家で、言葉の向こうには歴史があり、歴史の中には人々の生活があると。言葉を大事にしている理科は、きちんと理科なりにアングラを継承しているし、僕も信頼もしている。
でも理科と僕とでは、センスが全く違うんですよ(笑)面白いと思うこともあるけど、「もっと役者の芝居に任せれば?」って思うこともあるわけです。月蝕歌劇団の時なんかは、毎日言い合いですよ(笑)高取とは20代のころからの長い付き合いだから分かるけども、そんな理科が今こうやって継承して演出をしていること、高取は喜んでいると思います。」
森永 「やった〜(笑)」
國崎 「20代の頃に月蝕歌劇団で寺山作品をやったときは、詩的な言葉をかっこ良く言うぐらいのことしか考えてなかったんですね。でも今PSYCHOSISでは相手と会話する作り方をしてるので、物語がわかりやすく伝わると思います。」
流山児「高取が物語を伝えたかったのと同じように、寺山さんも物語を伝えたかったと思うんですよ。それをやっぱり正統に引き継いでいるから、新しいアングラの子供たちが誕生する予感がしていますよ。そういえば、今回脚本とか戯曲ではなく、【言葉】ってクレジットされているよね。寺山さんだから【言葉】、これがPSYCHOSISにとっての方向性でもあると感じるんですよね」
森永 「これはやっぱり【言葉】ですよ。寺山さんの言葉をきちんと落とし込めたら、そこからは自由だと思うんです。脚本という言葉にしちゃうと、台本に縛り付けられちゃう感じがあって。でも言葉であれば、想像力を無限に広げられると思っています。昔から寺山作品を愛し目が肥えていらっしゃる方からしたらPSYCHOSISの表現って、「なんてことをするんだー!!」って怒られそうですが(笑)」
流山児「それでいいと思うんだよね。ちょっと話が変わるけども、僕が20歳ぐらいのときに、寺山さんから電話がかかってきたことがあるんですよ。「寺山修司ですけど・・・」って言って。で、実際にお会いした時に「君は演劇で革命ができると思うか?」って聞かれたからね」
森永 「「演劇の革命」か「革命の演劇」かっていう話ですよね?」
流山児「そうそう、俺は「革命の演劇」だって言ったね。寺山さんは「演劇の革命」だって。まずは「革命の演劇」を作ってから、演劇の革命が行われるんだって言いました。あの頃は、全然怖いものがなかったから」
森永 「素敵ですよね。高取さんも反逆や革命をテーマにしている作品が多かったので、PSYCHOSISもそうなっていくのかなって思っています」

流山児「あとは、理科の良いところの一つに音楽性のスキルがあるんだよね、その才能がすごいよね。演劇だけではなく、他ジャンルとコラボレーションというのがとっても大切です」
森永 「知らなかったけど、向いていました〜。PSYCHOSISをいろんなジャンルの人に見て欲しいと思っています。多分、お互いが勘違いしているんですよね。音楽が好きな人は「演劇って難しいものでしょ」と感じて、演劇が好きな人たちは「音楽だけだから物語はないんでしょ」と思う人もいるんですが、決してそうではないと思っています。見方や楽しみ方さえ覚えてしまえば、ジャンルを超えて楽しめる。実際に自分で実感してきたことなので、それを体現していきたいなと思っています。
あと、本でしか読まない人たちにも観に来てほしいです。書かれた言葉がどうやって人から発せられるのか、人から発語されるエネルギーを実際に体感してほしいなとは思っています。色んなジャンルの人たちに出会いたいです。」

―――それでは、最後に今回の意気込みなどをお願いいたします。
國崎 「私達のオーディションは「応募条件:元気な人」としているんですが、キャスト一同、稽古中に自発的に筋トレをしだしているんですよ(笑)関わってる人が元気になる団体でもあり、作品になると思います。今まで俳優としてお芝居だけをしてきたから、あまり演劇がどう社会に貢献するかとかも考えてこなかったけど、このプロジェクトに参加したことで、関わる人が楽しんでいることが大事だと分かりました。演劇活動を通してひとに活力を与えることがあるんだなって感じることができました。
観に来た方が、何かを始めたくなったり、何か衝動をもちたくなるような、作品になると思うので、そういったことを楽しみにしていただきたいです」
森永 「いろんなジャンルの方が老若男女参加しています。また今回の稽古では、オープンリハーサルと称して、演劇を志す方は見学できるという企画を行いました。劇団の代表の方、演出の方、俳優、学生など、たくさん参加してくれました。 私たち自身、隠すものがなくオープンにしていきたいというスタンスなので、ぜひとも今後も続けたいなと思っております。みんなでシェアし合えていければと思います。」
(取材・文:カンフェティ 撮影:安藤史紘)
公演情報
PSYCHOSIS 「日本の演劇人を育てるプロジェクト」新進劇団育成公演
寺山修司生誕90年記念認定事業
盲人書簡◉上海篇

公演期間:2025年7月24日 (木)〜7月30日 (水)
会場:ザムザ阿佐谷
出演
高田ゆか/國崎馨/小坂知子/南雲美香/嬉野ゆう/大島朋恵(りくろあれ)/永野希/油絵博士/福地教光/武田治香(深海洋燈)/麻草郁/仲良挨拶/鳥居志歩/松永彩羽/斎藤ゆう(劇団ペトリコール社)/るい乃あゆ/高橋弘幸/大津澄怜(八角家)/三坂知絵子/森永理科
※出演決まった順
スタッフ
言葉◉寺山修司
構成・演出◉森永理科(PSYCHOSIS)
音楽◉長嶌寛幸/Dowser
絵◉上野顕太郎
音響プラン◉大貫誉(SE SYSTEM)
音響オペ◉加藤一博(深海洋燈)
音響監修◉國崎晋(RITTOR BASE)
照明◉松田桂一
写真◉イマイトシヒロ
舞台美術◉深海洋燈
制作◉高田ゆか・嬉野ゆう
撮影◉studioGIFT
衣装◉Praesepe/りくろあれ
演出助手◉國崎馨
MERCH◉小坂知子
劇場協力◉ザムザ阿佐谷
広告デザイン◉森永理科
アシスタントプロデューサー◉イビケイコ
プロデューサー◉森永理科
スーパーバイザー◉流山児祥(流山児★事務所)
制作協力◉PSYCHOSIS
主催・制作◉公益社団法人日本劇団協議会
チケット状況
7月24日(木) 19:00完売
7月25日(金) 14:00 / 19:00完売
7月26日(土) 14:00 完売/ 19:00完売
7月27日(日) 14:00完売 / 19:00完売
7月28日(月) 14:00 / 19:00
7月29日(火) 14:00 / 19:00
7月30日(水) 14:00完売
配信情報
カンフェティストリーミングシアターで配信決定
「日本の演劇人を育てるプロジェクト」新進劇団育成公演
寺山修司生誕90年記念認定事業
PSYCHOSIS 『盲人書簡◉上海篇』ON BROADCAST
言葉 寺山修司
演出 森永理科
音楽 長嶌寛幸/Dowser
絵 上野顕太郎
撮影 StudioGift
販売期間 2025年8月1日(金)19:00~8月31日(日)23:59
配信開始日時 2025年8月17日(日)19:00~
配信視聴期間 14日間
STREAMING TICKET 3000円