『プレミア音楽朗読劇 VOICARION XIX ~スプーンの盾~』キャスト対談シリーズその④ 緒方恵美×朴璐美

『プレミア音楽朗読劇 VOICARION XIX ~スプーンの盾~』キャスト対談シリーズその④ 緒方恵美×朴璐美

フランス革命のあと帝王となった二人の男、皇帝ナポレオン・ボナパルトと、料理の帝王と呼ばれたアントナン・カレーム。その右腕である盲目の女性マリー・グージュ。そして、天才外交官モーリス・ド・タレーラン。彼らが繰り広げた、王侯貴族たちを料理で饗(もてな)し説得する「料理外交」を通じて、一滴も血を流すことなくフランスを守った、世界一”美味しい”戦争の物語である『プレミア音楽朗読劇 VOICARION XIX ~スプーンの盾~』が、日比谷シアタークリエで上演中だ(30日まで)。

「プレミア音楽朗読劇 VOICARION」は、音楽と物語が絶妙に絡み合ったオリジナル音楽朗読劇創作の第一人者である藤沢文翁が原作・脚本・演出を手掛け、東宝とタッグを組んで創作が続けられているシリーズ。「朗読劇」が非常に広義に捉えられるいま、役柄の扮装をしたキャストがマイクの前に立ち、台本を持って演じる「VOICARIONシリーズ」のスタイルは、むしろ古典の風格を漂わせている。そこにはキャストの声の力を信じた演劇的想像力の膨らみと、こだわりのオリジナル楽曲による生演奏、豪華なセット、多彩な照明など、聴覚と視覚に訴える、ここにしかない「藤沢朗読劇」の趣深さがある。今回上演される『スプーンの盾』は、2022年4月、2023年12月と、上演を重ねてきた人気作品の三演目で、日本を代表する声優界のトップランナーたちが日替わり、回替わりで登場する贅沢な1ヶ月興行となっている。

そんな作品に出演するキャストの中から、シアターウェブマガジン カンフェティでは4回に亘って多彩な対談をお届けしているが、その最終回に登場するのは緒方恵美朴璐美。数々の当たり役を持ち、声優界のトップランナーとして走り続けながら後進の指導にも当たっている緒方と、声優としてはもちろん東宝演劇作品でもおなじみの顔である朴が、作品の魅力、役柄のこと、更にお互いの魅力までを語り合ってくれた。

本を読むのではなく、本を演じている

──今回三度目の上演の決定を聞かれた時の気持ちから教えて下さい。

緒方「再演から1年ですから、早いなと思いましたが、世界中で戦争が増えている、この時に、外交問題をバトルではなくて料理で解決するこの作品をやれるというのはすごくいいことだな、お声がけいただけてありがたいなと思いました。(朴に)良かったよね」

朴 「本当ですね、全く同じ気持ちです。去年、シアタークリエで朗読劇の1ヶ月ロングラン公演をやるという、前代未聞のことを成し遂げられたのは、スタッフの方々に素晴らしい力量がなければできない公演だったと思うんです。あれだけ多くの役者が入れ代わり立ち代わり舞台に立ち、ほとんど同じ組み合わせがないというくらいの公演でしたから。でもそれが無事終わった時に「また再演があると思います」と伺ってはいたんです。でもこんなに大変な公演は少なくとも2年、3年先の話だろうと思っていたのに、まさかの1年後ということで「VOICARION」のスタッフさんたちって、ドMなの?!とちょっと思いましたね(笑)。でもそれだけお客様が待ち望んでくださっているんだと思いますし、この作品に関わる全ての方が「この物語を届けたい」という熱い想いに溢れているからこそ実現していると思いますので、私も心してやりたいなと思っています」

──いま核心だな、というお話も出て参りましたが、改めて作品の魅力をどう感じていらっしゃるかを言葉にしていただくとすると?

緒方「先ほどもお話しましたが、まず料理というものですよね。私はひとりで飲みにいくのが好きなので、馴染の店に行って凄い美味しいものをひと口食べた時に、どんなに1日ヘロヘロになって疲れていても、「あぁ、今日もお疲れ様」とやっと言える。料理ってそういう力があるなということを日々心と身体で実感するわけです。その料理を作る側の人が、ひと口で色々な人の心を溶かしていくことが、直接的に国の外交にも繋がっていく、という壮大なお話ではあるんですよ。でも、それが確かにないわけではない、と感じられるのは、私が一杯飲み屋のカウンターで、ひとりでちょっとだけつまむ出汁巻き卵が美味しいと思うのと同じように、同席した人達が美味しいものを食べて、そのひと口で心がほどける瞬間みたいなものがきっとあるんだろうと思えるんです。しかもこうした優しい感じの解決策がイメージされる作品というのは、なかなかないですよね。もちろんコンパクトにご飯を食べるシーンが出てくる作品は山ほどありますけれども、まず予算が限られる現場が多いですから、どうしてもすごく強烈なシーンでインパクトを出そうとしてしまう。それをこれだけの大きなステージで、「料理」というとても身近な世界で、こういう物語が提示できるというのは、すごくいいことだなと思います」

朴 「作品の魅力は今ほぼほぼアニキ(緒方)が言ってくださった通りだと思いますので、私の方からは音楽朗読劇「VOICARION」というものの魅力をお伝えしますね。カンフェテイさんでも朗読劇のことはたくさん告知なさっていると思うのですが、朗読劇っていま本当に多種多様で、コロナに見舞われてからは様々な形で試行錯誤されているじゃないですか。でもそもそも、最もオーソドックスな朗読劇の形というのは、演者も照明も音も前に出ることはせず、お客様に客観的に文字、言葉を想像してもらうために、すごくシンプルに本を読むということだった、それが朗読劇の定義だったと思うんです。でも「VOICARION」は全く真逆の方向にいっていて、本を演じているんです。演者はあくまでも本を手にしていますが、照明も音もすごく心情を表してくれていますし、演者が身につける衣裳を見ただけでその時代背景に飛べるように作られてもいる。もちろん生演奏の音楽も日々演者の呼吸に合わせて変化していって、全てのセクションが物語を、一緒に演じて創っているんです。ですからこの「VOICARION」は“本を演じる”というところにすごく重きを置いた作品作りになっていると思います。だから役者も本番ではどんどん熱が入っていきますし、ミュージシャンの方ももちろん同じです。なので私は前からプロデューサーさんに申し上げているんですけど、朗読劇という名前を「VOICARION」の場合はちょっと違うものに変えられないかな?と。そう思うぐらい、本を読むということでなくて、本を演じているのが、この「VOICARION」の魅力だなと思います」

相手役の声って魂の音なんだなと

──そうした作品のなかで、特に朴さんは4人の登場人物すべてを演じられていますが、その全役の目で作品をご覧になって、印象に残られていることはありますか?

朴 「私はあんまり考えないようにするんです。役としてその場に立った時に計算しないように、なるべく自分が考えてきたことや、思案したことをできるだけ忘れる努力をするんです。なので、あまりこの役をこう演じたい、というところではやっていないんですね。それぞれの相手役の方々の声って、本当に魂の音なんだなあと思うんです。ですからその声を聞いて、自分が奮い立つものがあって、『スプーンの盾』の世界で生きている気がしています。なのでその役、その回によって、全く想像もしていないものが自分の中からポロッと出てきたりすることがとても印象深くて。全ての役をやらせていただいたからこそ、それぞれの役の見えてくる景色も、愛の持ち方の違いも痛いほど感じましたし、改めて相手役から受けとるものの違いもすごく分かりました。なので、最後に出てくるスープもね、それぞれの味が全く違っていて、ナポレオンをやった時のスープはもちろん美味しいんですけどすごく苦いんです」

──そうだったんですね。

朴 「あれは大変な役だなということをしみじみ感じました。他の役ももちろんそうなんですけど、何かしら解消されないものが残ってしまう役がナポレオンだったなと、それは自分がやってみたからこそ感じたことでした」

──緒方さんはカレームとタレーランを演じられましたが、今回はそこにナポレオンも加わるということで、期待のお声もたくさん聞いておりますが、ナポレオン役についてはいかがですか?

緒方「いや、ちょっとそれについてはですね、どうやらうっかり伝言が間違ってしまった結果、私がやることになってしまったということらしいので(笑)。個人的には全く向いていないと思っている役なので、どうしようかなと思っています」

──ご自身でナポレオンは向いていないと思っていらっしゃるんですか?

緒方「はい。だからどうしようかなと」

朴 「そんなことないですよ!」

緒方「いやいやいや、1回試しに、とかだったらいいんですけど、6公演あるのでね。特にまだ稽古に入っていなくて(※取材は11月下旬)台本もいただいていないんですよ。もちろん去年のものを見ればいいんですけど、そこにはカレームとタレーランとして作業したものがたくさん書き込んであったりしますので、今それを読んでもな、という気持ちもあって。今年はまたなにがしかの修正も入っているでしょうから、改めて新しい気持ちで開こうと思っているので、いまはよりわからないという気持ちなんですよね」

朴 「私はめっちゃ楽しみにしてますよ!」

──私もです!と声を大にさせていただいて、朴さんから本を演じているというお話もありましたが、そこにある「VOICARION」独特の魅力というのは?

朴 「「VOICARION」の面白さって、LIVEであるということなんですよね。お芝居ですと決まった尺があって、例えばこの台詞の終わりまでにここまで移動しておかないといけない、などがありますけれども、「VOICARION」は本を持っていることによってそのLIVE感の自由度が増すんです。例えば椅子に座って水を飲むことひとつをとっても、ここで飲むと決めている方もいらっしゃるかもしれませんが、私の場合は演じるというよりその人物になっている、という感覚の方が近いんじゃないかと思っているので、お芝居として水を飲んでいるのではなくて、喉が渇いたから水を飲むという感じなんですが(緒方に)どうですか?」

緒方「演じようとしてそこにいる訳ではないからね。その役としてそこにいるだけなんで、ここにいるだけですね」

朴 「この一言ですね、あーやっぱりアニキはキメるなぁ」

『スプーンの盾』は一期一会のお芝居の集合体

──今日はせっかくお二人にお集りいただけたので、是非お互いに感じている魅力も教えていただきたいのですが。

緒方「前回ナポレオンが朴さんで、タレーランが私だったように、基本的に朴さんは割と熱い役が多いじゃないですか。もちろん色々な役をやられる方ですけれども、なかでも熱い役が多い。私は逆にデビューの時からずっと参謀の役がとても多くて、誰かの二番手で策略を練って支える役みたいな役が、今に至るまでずっと続いていて。ですからそういうところが染み付いてる部分はあるなと思うんですけど、朴さんは熱い役をやっている人だから、という以上に本人の熱量が高いので。沸点に達する時の速度が人より3倍くらい速いような沸騰の仕方というか、爆発的な熱さみたいなものを持っていらして、そういう朴さんがナポレオンをやっていらっしゃるから、自分にこれはできないと思ってしまうんですけど(笑)。役に対しても、物づくり全般に対してちょっとおかしいぐらい(笑)熱量の高い人ですね。そこは最大の魅力だなと思います。でも意外と繊細なんで、傷ついていたりもするよね」

朴 「なんだかすごく恥ずかしくなってきたのでやめてください…」

──すみません。朴さんからも是非緒方さんに感じる魅力を。

朴 「私は全面的にアニキを信頼しています。役者としてももちろんですし、物事の見方がすごくはっきりされている方なので、リスペクトを持って接しています」

緒方「これでもそうなんだ(笑)」

朴 「だから~もう、ホントにこの方いじりの天才なんですよね!(笑)でもこうして「VOICARION」シリーズをはじめ、色々とご一緒させていただいていて、私はとにかく空気を揺らさないとお芝居じゃないなと思ってしまうところがどうしてもあって、額縁に収まっちゃうのが本当に嫌なんです。ですからどうやって額縁を、プロセニアムを壊すかというところに重きを置いてやっているところがあるんですけど、アニキはもうその気分を全部分かってくれて、受け止めて返してくれるので、やっていてすごく楽しいです。あと役者として「こいつ、今ここで踏み込みたいんだろうな」というところを瞬時に察してくれるので、アニキとやる時はもうアクセル全開で行けるのが、本当にありがたくて。なかなかアクセル全開で臨める人っていないので、アニキこそ熱い人間だと私は思っています」

緒方「私はかき混ぜるだけだからさ」

朴 「いえいえいえ」

緒方「餅つきの合いの手で、こいつが杵を奮ってるから、俺はちょっと水をつけて返す、とそんな感じだよね(笑)」

朴 「うまい!」

──こうしてお話を伺っていると、お二人の関わる回だけでも、どの組み合わせで観ようか、と悩ましいのですが、では改めて楽しみにされている方たちにメッセージをいただけますでしょうか?

緒方「色々なキャストを追いかけようと思ってくださっている方は本当に大変だと思うんですが、1ヶ月公演とうたってはいるものの、この『スプーンの盾』は毎回違う、全部違う一期一会のお芝居の集合体なんですね。色々な組み合わせによるお芝居が集まってひとつの公演になっているので、一つひとつのステージが全部違います。ですからその時限りのもの、その組み合わせにしかできないものというのはたくさんあるので、是非そういうところを観ていただけたら。きっかけはなんでも構わないので、まず一度観に来ていただいて、別の角度から観たらこれはどうなるのかな?と、また観たくなったら違うステージに来ていただけるといいなと思います。私自身も同じ役で登壇する時はありますけれども、おそらく毎回違う芝居になると思うで、そのその日に生まれる気持ち、その日に生まれる役として舞台にいられるワンステージずつを楽しみに、舞台にいたいと思います。是非いらして下さい!」

朴 「『スプーンの盾』、「VOICARION」って命がけでこの役を生きてみたいと思っている人たちが集っている舞台だと思うんですよね。なのでいまアニキが言ってくれたように、その日、その場限りにしか生まれない何かが、この作品には潜んでいます。確かにどの公演を選ぶかが難しいのはわかりますが、この熱量みたいなものはどの公演でも感じられると思います。また色んな演じ方をみんながそれぞれ自分にチャレンジしながらやってくると思うので、あなたのナポレオン、あなたのカレーム、あなたのタレーラン、あなたのマリーが、どの回にもいると思いますから、まずは是非一度観ていただいて、その後また違う回を様々な角度からも観ていただく、2度、3度、いや全ステージつまみ食いをしていただけたらなというふうに思っています(笑)。みんなそれぞれ毎公演熱く生きてお届けすることだけは確かなので、つまみ食いがメインディッシュになるかもしれまのせん。決して損はさせないと思います。是非来て下さい!」

取材・文/橘涼香 撮影/友澤綾乃
ヘアメイク/タナベ コウタ (atelier  decopa LLC.) スタイリスト/山下麻希
衣装協力・パンツ/ANOGH アクセサリー協力・ピアスリング/ ABISTE(アビステ)〈朴璐美〉
ヘアメイク/杉浦なおこ〈緒方恵美〉

公演情報

プレミア音楽朗読劇
『VOICARION XIX~スプーンの盾~』

■日程:2025年1月4日~30日
■場所:日比谷シアタークリエ

■原作・脚本・演出:藤沢文翁
■作曲・音楽監督:小杉紗代

■出演:
石井正則 伊瀬茉莉也 井上和彦 井上喜久子 上田麗奈 内田真礼 江口拓也 榎木淳弥
大塚明夫 緒方恵美 岡本信彦  置鮎龍太郎 小野大輔 梶裕貴 河西健吾 寿美菜子
斉藤壮馬 佐倉綾音 沢城みゆき 島﨑信長 諏訪部順一  関俊彦 瀬戸麻沙美 高垣彩陽
高木渉 武内駿輔 立木文彦 豊永利行   中井和哉 浪川大輔 朴璐美 畠中祐 濱田めぐみ
潘めぐみ 日笠陽子 日髙のり子 平田広明 細谷佳正 牧島輝 松岡禎丞 三石琴乃
村瀬歩 安原義人 安元洋貴 山口勝平 山路和弘 山下大輝 山寺宏一 吉野圭吾

ミュージシャン:
Piano 斎藤龍 福岡拓歩
Violin レイ イワズミ 橋森ゆう希 印田千裕 滝 千春
Violoncello 堀 沙也香 西谷牧人 村岡苑子 印田陽介
Flute 久保 順 森岡有裕子
Percussion 山下由紀子 稲野珠緒 服部 恵

VOICARION XIX ~スプーンの盾~ キャスト対談シリーズ

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