リアル脱出ゲームなどを手掛けるSCRAPが持つブランド、「体験する物語project」の第4弾『カジノ・シュレディンガー』が11月より開催される。「物語」に参加し「体験」することでストーリーが変化していく「体験する物語project」はこれまで、人気アニメの世界に没入できる体験や、東京ドームシティにて延べ来場者数1万人越えのイマーシブシアターを開催するなど、日本のエンターテイメントに大きな話題と影響を与えてきた。待望の第4弾となる本作は、とあるカジノを舞台に、1枚のチップを使いながら、ゲームを楽しんだり、登場人物と関わることで物語が広げられていく。
今回はディレクターの橋本栄二(SCRAP)、脚本・演出の山崎彬(悪い芝居/愛しのボカン大作戦)に、作品の成り立ちから楽しみ方まで伺った。
──まずは、第4弾『カジノ・シュレディンガー』の企画の成り立ちを教えてください。
橋本「第1弾から第3弾までは、弊社のきださおりが陣頭指揮をとり、私がサブとして企画をしてきたのですが、第3弾の『黄昏のまほろば遊園地』を開催後、きだが産休に入ることになったんです。そこで、次回作まで期間が開いてしまいそうというのと、社内では「体験する物語projectでできた火は消したくないね」という想いもあり、私がディレクター、プロデューサーとして弊社の中倉で企画ができないかと模索をしていました。話の中で、カジノをテーマに自社で持っているホールで開催してみたらどうだろうか?というところから企画が始動した感じです。今回は仲間になってくれる人も探していて、イマーシブシアターの経験がある山崎さんにお声がけをさせていただきました。」
山崎「今まで劇団公演などでも、“お客様がその場にちゃんといる”ことを意識した作品を多く作ってきました。(イマーシブシアターは)楽しく、新たな発見がたくさんあるので、ずっと関心を持ちながら取り組んできました。僕としても新たな出会いとして、これまでにないイマーシブシアターが作れるのではと思い、お受けしました。」
──企画段階でなぜ、カジノが出てきたのでしょうか?
橋本「どういうシチュエーションだったら面白いかを考えた際に、日本人にとってカジノはファンタジーと同じようなものではないか?という話が出たんです。実際に日本にはカジノが存在しませんが、映画ではよく出てきて、様々な物語が繰り広げられて…という風にイメージは刷り込まれているけれども体験をしたことがない。体験はしてみたいけども、海外旅行でカジノに行くにはちょっと勇気がいる、そんなハードルの高さも含め、もう少し気軽に体験できたらいいなっていうのもあり、カジノをテーマにしました。」
山崎「実際、「カジノゲームも体験しながら、物語も点在し、そこに参加できる」という企画段階での話を頂きました。ただ、カジノというテーマは、ドラマを起こしやすく仕掛けやすい反面、お客様をどのように物語に引き込むかが、今回の課題になりそうだなと最初に話した記憶があります。カジノゲームを楽しんでいる人を、物語に引き込んだら「ゲームがしたいのに…」というジレンマが起きそうだなと。」
橋本「実際に当初は、自由にカジノゲームを遊んで、卓に座っているだけで登場人物に突然話しかけられるような、割とシンプルでスマートなものを想定していました。ただ、カジノゲームの面白さってすごく強くて、テストしたときには、お客様がカジノにハマってしまい、物語を追えないという事がたくさん発生しました。」
山崎「そんな中で、物語のキーとなるチップの設定をどうするかを話しましたね。勝ったら増えるし、負けたらなくなる存在なので、具体的に最初に何枚持っていて…を考え、このカジノの物語でチップを使って、どういうことができるかという話から広げていきました。」
橋本「その話を経て、1枚のチップをお客様が持つという設定になりました。チップの枚数が少ないからどうしよう…というスタートが、物語に焦点を絞り引き込めるし、増えたら遊びに行ってもいいし、という広がりが作れるのでは?と。増やしてもよし、負けても良し、誰かに託しても良し。」
山崎「1枚のチップをどれぐらい増やせるかが、物語のベースになっています。実際にテストを重ね、物語を追いかけている人もいれば、ただチップを増やす人もいます。お客様自身が、その日のチップを巡る物語の主人公になるんじゃないかなとも思い、今は稽古をしていますし、だんだん思惑通りになってきてますね。」
橋本「なので、めちゃくちゃ、この物語においてチップは重要です。」
山崎「実はそのチップの存在が一番悩ましいところではありますね。お客様がどれぐらいチップを持っているかで、その日の物語が変わる仕組みになっています。枚数だけではなく、どんな経緯で集まったかとか、直前にすごく減ってしまったとかでも、最後の味わいは変わると思います。」
橋本「皆さんの運次第では、チップが多く手元に入るので。多分キャストたちも「あそこ、チップが多いぞ!!」って思いながら、やることになりますね(笑)」
山崎「いろんなことを想定しながら稽古を進めていますが、その日、皆さんの運がよければ、キャスト陣もスリリングになると思います。」
──今回、リアル脱出ゲーム原宿店という常設ホールが会場ですが、その会場ならではのこだわりはありますか?
橋本「今回、ホール構造(ワンフロア)になるので、遠くで何かが起きているということもわかるようにしており、興味が向いたところへ動きやすくしています。第2弾の『ALICE IN THE NIGHT MYSTERY CIRCUS』であれば階層が分かれているので、別の階で何が行われているか分からない、第3弾『黄昏のまほろば遊園地』なら東京ドームシティやひらかたパークといった広い地域が舞台なので、自分たちが追っている物語以外を見ることはできないという状況でしたが、今回は興味が向いたところへすぐ行けるという狙いはありました。」
山崎「カジノの雰囲気も海外にあるようなラグジュアリーな感じで進めています。もちろん服装は自由ですし、ドレスコードがあるわけではないですが、その空間に合うような服装で来ても楽しめると思います。もしそういったドレスコードデー的なものがもしあったら面白そうですね。出演者含めて、誰が誰だかわからなくなるかもだけど(笑)」
※今後HPでは楽しみ方などが更新されていく予定なので、ぜひともご参考に。
橋本「カジノゲームのルールも、最初にルールブックもお配りしますし、現地でキャストやスタッフがレクチャーするので、カジノゲームを初めてやる方も大丈夫です。」
山崎「ゲーム自体は難しくないと思いますので、ぜひ積極的に参加してほしいです。また、ホール空間なので、気になる人物と一緒にいながらも、横では別の人物が何か揉めてるとか、あっちでもこっちでも気になることは起こるかもしれません。横から突然話しかけられて物語に巻き込まれるかもしれません。一人の人物についていき、一緒にミッションをクリアして、その人物を助けることで面白くなる部分もあるので、楽しみ方は色々とあると思っています。」
──今回橋本さんがディレクターで山崎さんが作・演出と、通常の舞台ではあまり見ない形ですが、明確な役割の違いはあるのでしょうか?
山崎「橋本さんはコンテンツディレクターとしてお客様の“体験部分”を作り、僕が物語の脚本・演出をするというので分かれています。例えば、全体のあらすじを橋本さんが作り、その上で僕が登場人物の提案をしたり。あとは、ゲームでチップを賭ける以外にも、チップを使って何かを作り手に入れる、何かを調べて誰かの手助けをするといった、お客様の動きやミッションを橋本さんが提案し、僕が作業になりすぎないように事前に物語の中にミッションを入れ込む演出を考えています。」
橋本「リアル脱出ゲームを作るときには、“どういうゲームや謎にするか”を決めながら、同時にストーリーを考えるのですが、どうしても「この謎が面白いので優先したい」などが生まれると、ストーリー的な違和感が生まれる時があります。そこをどれだけ自然にできるかをいつも考えているのですが、山崎さんがいることでそこの相談はしやすいです。例えば「この状況でこのセリフだと、現実の人はこういう行動しないですよね。」というシチュエーションでも、「その上で、これをさせたら面白くないですか?」って相談することも多いです(笑)」
山崎「橋本さんも「急にそれをやるのは難しいと承知で…」と分かった上での提案をしてくれますが。出していただいたアイデアを繋ぎ、そこから見えてきた「だったら、こんなことも!」という新たなアイデアも生まれるので面白いです。あとは、脱出ゲームであれば、お客様自身が謎を解き進める主人公になるのですが、今回は物語の一部で主人公になる場面もあれば、登場人物を後押しする脇役になっていく場合もあります。そんなときも作ってきたものの違いが合わさるってことによって、より自然に能動的に参加できる工夫が生まれるので、それは楽しいところですね。2人の役割が分かれることで、選択肢は無限に広がっていきますね。」
──今回はオーディションで選ばれた俳優が出演するとのことですが、実際に稽古をしてみての俳優陣の印象を教えてください。
山崎「イマーシブシアターだからとは関係なく、視野の広さや想像力の深さが演技する上で大事になってくるので、その感度が高い人たちが集まりましたね。(いい意味で)変な人たちばっかりですね…。今回はダブル・トリプルキャストであり、似ている人たち同士で同じ役にはしていません。性格や動機は同じでも、俳優が変わるだけで、こんなにも変わるのかという演劇的な面白さも体験できると思います。なので、一度体験した方が、もう一度来て、同じ人物について行ったとしても味わいが違うと思います。」
橋本「例えば、一方の出演者は説得力の強い一言だけで物語が進む場合もあれば、もう一方は言葉を尽くしながら全てを言い切って物語が進む、みたいなことがあるので、同じ役だとしても味わいが全然違うなっていうのは稽古でも感じていますね。」
山崎「稽古も作りながら壊させてもらって、また作っての繰り返しで作品を作っています。物語が最終的に一筆書きになり話を成立させていくので、純粋に時間がかかるんですよね。ただ成立するだけだと機械的に進んでしまうだけなので、どうやったら目の前にいる人が存在しているように感じさせるかを試させてもらいながら作っています。」
──今回の作品の演出において、大事にしている部分はどういったところですか?
山崎「自分で勝手に進めないっていうことは大事にしてますね。目の前の人(お客様側)がいて、俳優がただのキャラクター・記号じゃなく、一人の人間と思ってもらう必要があります。そのためには、やはり目の前の人とやり取りをして、「私はこんなことを思っています」というのをちゃんと伝わってるかを気にしてもらいたいなと思っています。“毎公演、共演者(お客様と出演者)が変わる”という考え方で稽古は進めているので。
また、1個の目的・行動のためだけに動き出すと、記号だけになってしまうことがあります。例えば、目の前にいる登場人物が悲しんでいる芝居だけだと、これは結末に向かう途中の悲しむという行動だと見られてしまうと、人として扱われてないと思うんです。お客様が「どうしたの?」って一緒に想ってくれるかが重要なので、しっかりと稽古して準備してきたものを、どこまで自由にやれるかっていうとこが大事だと思います。」
橋本「山崎さんにこうなってほしいですっていう意味でお伝えをしてるのは、何か答えを出さなきゃいけないときに、お客様から自然とその言葉が出るようにお願いしています。例えば、Aという答えがあった際に、俳優が「Aだよね。」って伝えるよりも、お客様から「Aってことですか?」って言葉が出た時点で、そのお客様がこの登場人物を動かすきっかけを作ったことになると思っていて。「あなたがAという結論を言ったから、物語動いたんだよ」ということを実感してもらう、すごい絶好のチャンスになるんです。お客様からその答えを出してもらいたいし、答えが出るまでのアシストをキャストの皆さんには頑張ってもらいたいです。」
山崎「それって、アンテナを張っておくことですよね。お客様とちゃんとコミュニケーションするっていうことが大事ですね。その上で、何分以内に時間を収めることを意識したり、周りが何をしているとか、裏側の仕掛けを動かしたり…と色々やっていますが。」
──イマーシブシアターといった体験型が初めてで少し不安に思う方もいらっしゃると思うのですが、そういった方々への工夫などはあるのでしょうか?
橋本「体験的なところでは1枚のチップからスタートすることによって、ある程度の選択肢が絞られ、興味を持ったところについていくと、そのまま物語に引っ張られていくような作り方になっています。自分と物語が切り離された存在になってしまう気持ちにならないような工夫を常々考えるようにしています。」
山崎「たしかに、初めての体験は怖いとは思いますが、とはいえ、一歩目を踏み出していただけることで、見える世界があると思います。また、橋本さんがおっしゃったように、何もわからないままでも楽しめる形にはなっているので、いつもは躊躇してしまうようなことでも、体験中はその勇気を出してみると、より楽しめる部分はいっぱいあると思います。」
橋本「演劇にせよ、音楽にせよ、映画やテレビドラマといった代替手段があるじゃないですか。それでも、現地に来ないと体験できないものがここでは待っていますし、リアルになると全然感触が違います。“体験する物語”なので、体験には重きを置いており、“体験”をどういう形で“体験”させていくかを一生懸命になっています。そこがリアル脱出ゲームで今まで培ったノウハウが活きる箇所になるだろうなとも思っています。」
──ありがとうございます。それでは最後に、この記事をご覧いただいている方にメッセージをお願いいたします。
橋本「イマーシブシアターなど体験型が初めての方にも参加のしやすい気軽さのある作品だと思います。でも、その先では深く濃い体験もできるので、本当に素敵なエントリーモデルになる作品なんじゃないかなと思います。興味はあったけどなかなか行けなかった方々に来てもらいたい公演になっているので、ぜひお越しください。」
山崎「普通の自分の人生を生きているだけだと体験できなかった世界に飛び込めると思います。その体験を経て会場を出たとき、新たに日々が良い方向に変わるようなものになればいいなと思っています。非日常の世界に飛び込みたいという目的など動機は何でもいいので、気になるなと思ったら、ちょっと勇気を出して、ぜひ来てください。」
プロフィール
橋本栄二(はしもと・えいじ)
コンテンツディレクター。2018年SCRAP入社。代表作に『偽りの楽園からの脱出』、『勝利できないレースからの脱出』、『ふしぎバスターズ』シリーズなど。
山崎彬(やまざき・あきら)
12月10日生まれ。立命館大学入学と同時に演劇活動を開始し、卒業とともに劇団「悪い芝居」を旗揚げ。 2023年12月に第一幕を終演させ、悪い芝居は幕間休憩に入る。
『駄々の塊です』で第56回岸田國士戯曲賞最終選考ノミネート。『メロメロたち』で第24回OMS戯曲賞大賞を受賞する。その他、脚本家・演出家・俳優としてストレートプレイからミュージカル、イマーシブシアターや2.5次元演劇など、 多岐に渡る外部活動も精力的に行っている。悪い芝居以外での主な作品に、「HUNTER×HUNTER」THE STAGE(脚本・演出)、 LIVE STAGE「ぼっち・ざ・ろっく!」(脚本・演出)、 舞台「リコリス・リコイル」(演出)など。これまで、テーマパークなどでイマーシブシアターを書き下ろしてきており、今回、体験する物語projectに初参加となる。
公演情報
体験する物語project
『カジノ・シュレディンガー』
日:2024年11月29日(金)~12月15日(日)
場:リアル脱出ゲーム原宿店
料:■一般チケット
平日 13:00回/日曜 20:10回 限定料金 5,000円~
通常料金 5,500円~
■VIPチケット
平日 13:00回/日曜 20:10回 限定料金 8,000円~
通常料金 8,500円~
(前売・税込) ※U22チケットも販売中