脚本家・演出家の福原充則を中心に結成され、永福町駅屋上庭園・さっぽろ東急百貨店屋上・中富良野の畑のど真ん中などで野外公演を行ってきたスリーピルバーグス。『リバーサイド名球会』は、兵庫県豊岡市にある野球場・こうのとりスタジアムにて上演された作品だ。
<作品紹介>
草野球チームが集まって作った名球会に、かつて八百長で地元を追われた男が帰ってくる。しかも不思議な“なにか”を引き連れて…。
役者5人だけで、こうのとりスタジアムの駐車場、放送室、グラウンドと場所を変えながら物語は展開。野球へのLOVEが、すべてのLOVEへとつながっていく70分の喜劇。
地域と連携している場だから実現した作品
──豊岡演劇祭2024参加作品ということで、上演の振り返りからお伺いしたいです。
豊岡にある火山口や滝などをいろいろと下見して、最後に訪れたのがこうのとりスタジアムでした。野外公演の上演場所選びは時間がかかることが多いのですが、豊岡演劇祭は市との協力関係ができていることもあって、今回、初めて演劇が行われる場所だったにもかかわらず、球場の方にもとても良くしていただきました。
豊岡市の皆さんも協力的で、すごく楽しんでくれまして。市役所の草野球チームの皆さんを中心にシークレット出演していただいたんですけど、一緒に野球の練習をやって、開演前のグランド整備もしてもらって、豪快に台詞を飛ばしながら本番をやってくれて、で、みんなでいっぱい美味しいもの食べてっていう(笑)
お客さんだけでなく、出演した草野球チームのみなさんも楽しんでくれているのを見て、これからお客さんに何を届けていけばいいのかのヒントにもなりました。演劇の原点に戻るといいますか、演劇を日常生活にとっての特別なお祭りとして機能させていきたい、と改めて思いました。
3話構成で、1話ごとに舞台も客席も移動するという特殊な芝居だったのですが、制作チームもこの特殊な誘導の経験がなかったので、どうやってお客さんに移動してもらって、席に座ってもらうかを何度も打ち合わせしました。こんなこと通常の劇場公演ではないことですからね。そうやって何をするにも、考えて、発明して、共有して、実行するっていう…、みんな疲れてましたけど、充実もしてたと思います。
──映像を拝見しましたが、お客さんの反応の良さに少し驚きました。
(平田)オリザさんとも打ち上げで話しましたが、豊岡演劇祭に集まるお客さんがすごく楽しそうに見てくれるんですよね。よく笑ってくれるし、手を叩いてくれるし、歌ってくれるし(笑)。あと本編を見てもらえばわかりますが、特殊な参加の仕方をしてもらったり。そうだ、永島敬三君が段取りを間違えた時に、リピーターの方が「そうじゃなくて、○○でしょ?」なんて教えてくれたりもあって(笑)。あと、丘の上から球場が見渡せるので、そこから見ている人がいたり、何かやっているらしいと聞きつけた暴走族が集まってきたのもいい思い出です。
見たことのないものを見てもらえるはず
──スリーピルバーグスさんは野外公演を行う団体ですが、本作ならではの挑戦もあったんでしょうか?
僕は散歩が好きなんですが、夜に歩いているとカーテンを閉めていない部屋の中が見えたりするじゃないですか、夏とか。あれが好きで。今回、〝外から見る明るい部屋〟という絵を作れたのが嬉しかったですね。あとは、野球場を借りたからにはやっぱりグラウンドを使わないといけないわけで。野球場であることを最大限に活かすにはどうしようかなと悩んで、なんとかどよめきがあがるようなシーンが作れたのでホッとしてます。挑戦という意味では、そもそも本番は豊岡で、稽古は東京ですからね。おまけに東京の稽古場で、野球場の実寸なんて取れるわけないし…。何か思いついても簡単に下見もできない。野球場の管理人の方とリモートでつないで、「あ、医務室に冷蔵庫あるんですねぇ」なんて下見をしたり、すべてが大変でしたね。
6公演全て撮影して、いろんな回を繋ぎ合わせて映像を作るつもりだったのですが、雨が降った回は結局ほとんど使えなくて。そもそも後半は野球の展開により毎回ストーリーが変わるような台本だったので、全ステージ、役者の立ち位置も違うのでつながるわけがない。配信までこぎつけたのは、撮影・編集チームの魔法です!
──福原さんの作品を知っていてもスリーピルバーグスは知らないという方もいるかと思うので、改めてスリーピルバーグスの作品の魅力を教えてください。
僕は野外劇を何回かやってきましたが、今までの野外劇でやってないことがいっぱい詰まってるので、「また野外か」とか思わず見てください(笑)八嶋(智人)さんも「長いこと演劇をやっているけど、この歳になって、こんなにやったことがないことばかりやるとは思わなかった」と言ってましたし、お客様も見たことのないものがきっと見られると思います。もし「いや、似たものを見たことあるよ」という方がいれば返金してもいいくらい(笑)。後半の野球のシーンとか、突っ込んでくるアレとか、打ち上がるアレとかとか、とにかく見て欲しいです。
──豊岡演劇祭で見た方向けのポイントとしては、1塁・3塁両方のお芝居が見られるというところでしょうか。
そうですね。第3話は1塁側と3塁側に分かれて観劇してもらいましたが、それぞれ目の前で展開される物語が違ったんです。映像にはどちらも収録しているので、反対側はこんな物語が展開していたのかと楽しんでいただけると思います。あとはヒットを打つかどうかでも物語の展開が変わるのですが、本編に収録されていない方の展開は特典映像として入れているので、それも楽しんでいただけるかなと。
──皆さんが本当に野球を始めたのにも驚きました。
あの暑い夏に、外で野球の練習をしてましたからね。本当に暑くて、座って演出してるだけの僕もすごく汗をかいてデトックスできた気分です。いや、本当に自分がすごくいい人になったなと感じてますから。汗と一緒に毒素が抜けたせいで(笑)。
野球についてはキャストみんなが相談し合って、良いチームワークが生まれました。久保(貫太郎)くんは小学生まで野球をやっていたそうですが、他のみんなはほぼ初心者からのスタートでした。平井(まさあき)さんは公演後の今でも芸人さんたちと集まって野球をやっているくらい楽しんでくれて。衣装のユニフォームはプロ向けも作っているようなユニフォーム会社さんにお願いして特注で作っていただきました。
芝居と現実の境目が曖昧になる感覚を味わえた
──豊岡市の皆さんも含めて、キャストさんの印象を教えてください。
草野球チームの皆さんとは、豊岡入りしてからの合流だったのですが、みなさんいい方で、一瞬で仲良くなりましたね。東京での野球練習を手伝ってくれた方たちともすぐ仲良くなれたので、それも野球の魅力のひとつなのかもしれません。野球ってピッチャーとバッターの対戦を敵も味方も見守ってる時間があるじゃないですか。あんな感じで、誰かがなにかやると、みんなでじっくり見て、その上で意見言ったり、冗談言ったりする時間が幸せでしたね。
久保さんは「役者がやる野球とは何か」を稽古序盤からずっと考えてくれていました。豊岡入りしてそれをつかんだのか、少年漫画のような野球をしてヒットを打っていましたね。
永島くんはシンプルに役を立ち上げてくれて、その上でちょっとづつアクセルの踏み方を間違えてくれるところが好きです。あと運動神経が抜群で。野球の上手さがここまで芝居の良さに直結する企画もないなと思います。
平井さんは一番野球が上手かったです。芸人さんですが大学で演劇サークルに入っていたからか、演劇とお笑いのいいところをすごく理解している。ストーリーや関係性の面白さを考えてくれた上で、台本通りじゃうまく成立しない時は芸人パワーでなんとかしてくれるので、すごく頼りになりました。
佐久間(麻由)さんは野球をするのが一番大変だったと思います。野球の試合をほぼ見たことがなく、ボールを触るのも初めてというところからだったので。そこから運動神経の良さを生かして帳尻を合わせてくれました。田上という役を演じたのですが、お客さんからすごく愛され、芝居を終えて街に繰り出しても、豊岡市の人が「佐久間さん」じゃなく「田上ちゃん」と呼んでいるのがすごく良かったですね。
そういう意味では八嶋さんは〝地元のスター〟という役でしたが、本番中はもちろん、芝居から離れたところでも、「豊岡に八嶋智人が来ている」と話題になっていて。飲み屋をはしごして散々盛り上げて、道を歩いていると「うちにも寄ってって!」と声かけられて。物語の設定である〝地元のスター〟というのを、豊岡のみなさんが補足してくれた感じがあります。そんな八嶋さんが終盤で〝スター〟として登場するシーンは、芝居と現実の境目が曖昧になっていく不思議な感覚があって、「今、見たことないもの見てる!」と思いました。
「第3話は球場の座席の位置によって、見れる芝居が違った」と言いましたが、1塁側から見れるお芝居は、〝八嶋さん演じる八百長スターが本当はいい人だった〟というもので、3塁側では「八百長スター、許せないぜ」という話だったんですね。3塁側の人には〝本当はいい人だった〟というのは最後まで伝えないので、試合のシーンでは1塁側のお客さんは本当に八嶋さんを応援していて、3塁側のお客さんは〝八百長スターを恨んでいる〟平井さんを応援していて。それぞれ声だして応援してる姿が、とても面白かったです。
とにかく役者陣は野球経験ないところからはじめたので、ストライクを投げるのも大変だし、ストライクでも打てるかはわからないし。4人打席に立って全部三振とか、全部フォアボールだったらどうしようとか。その課題を抱えたままお客様の前に立つ恐怖はあったと思います。
──その不安を抱えながらリアルに野球をした理由はなんでしょう。
もちろん、棒の先にボールをつけて、演劇的に表現することも考えました。でも、一番大変なことをやりたいというか。野外公演で夏の虫の鳴き声や風や雨の音を感じながら芝居をして、野球だけ嘘というのは違うなと。それに、お客さんに本気で野球シーンを応援してほしかったんです。そのためには…、っていう。まぁ役者さんは本当に大変だったと思います。
──最後に、皆さんへのメッセージをお願いします。
繰り返しになりますが、見たことのないものが見られると思います。新鮮なものを見たい方や、今更見たことがない芝居なんてないだろうと思っているベテランの演劇ファンの方にも新しい楽しみを提供できると思います。あと、芝居をあんまり観ない方にも「こんなものがあるんだ」と感じていただけると思います。
お芝居自体はシンプルで、「何かを好きでいていいんだよ」というお話。スマホの小さな画面で見ても楽しいと思うのですが、年末年始にお家でテレビやプロジェクターに繋いで見るのもおすすめです。大画面でみる野球シーンは格別なので!
(インタビュアー・文&撮影:吉田 沙奈)
スリーピルバーグス 第2回 野外公演inスタジアム!『リバーサイド名球会』配信中!
カンフェティストリーミングシアターにて配信中!
スリーピルバーグス 第2回
野外公演inスタジアム!
『リバーサイド名球会』
作・演出:福原充則
出演:
八嶋智人
平井まさあき(男性ブランコ)
久保貫太郎
永島敬三
佐久間麻由
[視聴券販売期間]
2024年12月28日(土) 10:00~2025年1月4日(土) 21:00
[配信期間]
2024年12月28日(土)10:00~2025年1月4日(土)23:59
[視聴券]2,500円(税込)
福原充則(ふくはら・みつのり)プロフィール
脚本家・演出家。
「ピチチ5」「ニッポンの河川」「ベッド&メイキングス」「スリーピルバーグス」など、複数の演劇ユニットを立ち上げ、幅広く活動。1000人規模の劇場や野外劇場と、劇場の条件を問わず強烈な個性を発揮する。『あたらしいエクスプロージョン』で第62回岸田國士戯曲賞を受賞。
代表作に、『墓場、女子高生』、『俺節』、『衛生〜リズム&バキューム』、『音楽劇 浅草キッド』、『ジャズ大名』など。また、NTV『あなたの番です』など、テレビドラマの脚本も多数執筆。
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