【「板尾のめ゙」第九回】20歳の国『長い正月』/「いつのまにか、この家族の一員みたいな気持ちで見ているんですよ。」

【「板尾のめ゙」第九回】20歳の国『長い正月』/「いつのまにか、この家族の一員みたいな気持ちで見ているんですよ。」

さまざまな舞台映像を、前に出ない天才 板尾創路 の眼(フィルター)を通して語る「板尾のめ゙」。第九回は、2023年年末~新年に上演された、20歳の国(ハタチノクニ)の『長い正月』。とある家族の1923年の大晦日から2024年の元旦にかけてそれぞれの正月を定点観測する。「100年の正月」を描く事によって、観る人はその家族に、そして自分に、どんな歴史や人生を感じるだろうか。

<作品紹介>

「人生は短い。この正月は長い。」

東京。とはいえ多摩村。神社のとなりのちっぽけな酒屋。
時代の流れも生も死も、受け入れた時にはちょっと遅い。
戦争が終わってカラオケが流行っても、バブルが終わってコロナが流行っても、
歌い明かせなくとも、踊り明かせなくとも、
いつだって家族は、新年を迎える。家をどうにか守りながら。

20歳の国、6年ぶりの劇場公演は、
とある家族の100年を定点観測する、ささやかな大河劇。

人間って、こういうものなのかなって

──20歳の国の『長い正月』は、まさにお正月の、年末から新年にかけて上演されました。

皆さん一人一人が凄く丁寧にお芝居をしていらっしゃるので、少しずつ家族のことが分かってくる。
家族の関係性が浮き彫りになってくる感じが凄く良かったです。終盤になるほど「もっと見てみたいな」という感覚になる作品ですね。

あと、演劇の特徴の一つとして、一人の役者がある人物の人生を何年も演じて表現する所がいいですよね。
特に衣装や見た目の何かを大きく変えているわけじゃないから、役者が年を取ったり若返ったりと切り替えていく。数年経った人物の変化を、台詞や動きで表現しているのは凄い。役者の醍醐味ですね。

──印象的なシーンはありましたか?

みんなで舞台でくるくる回る所の演出が巧みだなと思いました。一家族の何十年という歴史の重みがちゃんと伝わってくるのが気持ちいいですね。ほぼテーブルと畳しかないのに、細かい所まで演出されているし、長い時間を感じさせていく。
いつのまにか、この家族の一員みたいな気持ちで見ているんですよ。少しずつ、この家族の子どもみたいな、親戚の一人みたいな感覚になっていくんですね。

──100年の正月を定点観測している事によって、自分もまた、毎年正月に帰省している親戚の一人になったような。100年を通して見て、いかがでしたか?

ありきたりなようですけど、幸せってなんなんやろなって思います。切っても切れない身内という関係性の中で、茶の間に集まればいい話も悪い話も悩み事も色んなことがあって、みんな話し合ったり、自分の思いをぶつけたり、解決したり……それでもずっと関係性は無くなるわけではないから、こうやって何十年も家族として向き合っていく。
人間ってこんなものなのかもな、みたいな気持ちになりました。こういうことが大事なのかな、これが生きていくって事なのかな、と。
そして、やっぱり家族だと思える相手とは一緒にいた方がいいのかもな、とも感じましたね。なんだかんだ言うても、それぞれの事を思いやって向き合っていかないとダメなのかなと思いました。

はちゃめちゃな事が起きるわけでもない。ドラマチックな事が起こるわけでもない。淡々と過ぎていく。みんなぽつりぽつりと亡くなっていく。それをみなさんが丁寧に、それぞれの登場人物の思いをちゃんと演じている。

──板尾さんご自身と、何か共感する所はあるんですか?

あんまり僕の家族とは重ならないんですけど、特定の誰かという事ではなく、いわゆる日本の家族なんだという感じがします。最近では家族の形も変わってきていて、大家族じゃなかったり、たくさんの兄弟姉妹がいなかったりする事もあると思うので、そういう人はまた違う感覚で観たのかもしれないんですが。

──『長い正月』というタイトルのように、チラシも細長かったりと長い事にこだわり、上演も正月をはさむ年末年始でした。

やっぱりそうですよね、正月に上演するのがいいと思います。正月って特別だなと思いました。

「自分の満足だけでやっても、絶対満足しません。」

──20歳の国は、旗揚げから12年。今回は6年ぶりの劇場公演です。

頭が下がりますね。やっぱり現役って大変ですよ。自分で立ち上げて自分で続けていくって、相当パワーいると思う。こればかりをやっていれば安心だということもないでしょう。期待されることが決まってきたり変化することもあるし、それでもお客さんに喜んでもらわなきゃっていう事は大事だし。行き詰まる時期もあるでしょうし……。こうやって公演していくのも大変だと思いますよ。それでもやり続けていく。

──板尾さんも、舞台に立ったり、お仕事を続けることが大変だと感じますか?

僕らはね。そんなキラキラもんじゃない。脚本を作ったり演出したりする方の方に呼ばれているだけですから、作るだけ。そして作ったものをやればいい。
そして、お金を払って見ていただいて「楽しかった」とか「来てよかった」と思ってもらわないとやっている意味がない。自分の満足だけでやっても、絶対満足しませんからね、人間って。

「ここでやるんだ」と思える劇場がいい

──上演されたアゴラ劇場は、都内に限らず様々な劇団が上演をしてきた小劇場の重要な場所ですが、残念ながら2024年5月末で閉館しました。また、最近ではより、劇場以外の場所で公演をする劇団も増えてきたように感じます。
板尾さんにとって、劇場はどういう場所ですか?

そうですね……劇場が持っている力みたいなものって、とても強い気がするんです。そこで色んな人たちが積み重ねてきたお芝居が、劇場に染みているような。劇場にはそういう魅力があると思います。

そして、色んな劇団や色んな演目があって、それがその劇場にハマる事があるなと思うんです。元々劇場が持っている佇まいに、バチッと合う劇団がそこで公演する事がある。稽古場で作ったものがその劇場の空間に合うというか、稽古場で作ったものを劇場に合わせていくというか。
劇場のサイズ感とか、客席と舞台との目線の高さとか、音響の響きとか……劇場が持っている元々の魅力みたいなのを上手く使える劇団が公演すると、凄くいいんじゃないでしょうか。僕は自分で公演を主催したことは無いですけど、演出家や主催者は「ここでやるんだ」という思いが無意識だとしても根底にあったうえで、作品を作っていくでしょうから。

──お客さんにも、劇場のファンっていますよね。好きな劇場や自分に合う劇場があって、「この劇団がここで上演するんだ」という喜びもあるのかもしれません。

「ここで観る芝居がなんかいい」とかね、ありますよね。

──板尾さんは、好きな劇場はありますか?

具体的にじゃないけど、いつも何がしかの演劇をやっている劇場はいいですよね。本多劇場もそうですけど、演劇専用の場所みたいな所。そういう劇場は見やすさも作りやすさもあるので、自然に人気が出て、公演もお客さんも絶えない。綺麗で大きくて新しい設備のある劇場もいいですけど、「ここでやるんだ」という楽しみがある劇場はいいですね。

──先程言われた「色んな人たちが積み重ねてきたお芝居が劇場に染みている」というのに近いかもしれませんが、昔ここで凄くいいお芝居を観たという記憶が、お客さんの中にもある気がします。

そうですね。そこでの思い出も積み重なりますもんね。その劇場での記憶というか。

──板尾さんは、もう一度立ちたい劇場や、思い出深い劇場はあるんですか?

ここに立ちたい、というのはないんですけど、一番よく出たのは本多劇場かなぁ。あそこの空間はいいですよね。ちょっと古いですけど見やすいですし、舞台も広くてやりやすいし、いろんな演劇人がここを目指しているんだなと思います。やっぱり演劇をやっている役者さんから「本多劇場でやるのが夢やった」とか「今度初めて本多の舞台に立つんですよ」ってすごくキラキラと話を聞く事がありました。昔はその感覚がよく分からなかったけれど、今はよく分かりますよ。場所も便利だし、街の雰囲気もいいですし。お客さんとして観に来て「いつかあそこに立ちたい」って思うだろうなと思います。そういう、演劇のための場所って、いいですよね。
 

(インタビュアー・文&撮影:河野桃子)
 

20歳の国『長い正月』配信中!

カンフェティストリーミングシアターにて配信中!

 
20歳の国『長い正月』
​作・演出:石崎竜史
会場:こまばアゴラ劇場
公演期間:2023年12月29日(金)〜2024年1月8日(月・祝)

出演:
菊池夏野、Q本かよ、熊野晋也、櫻井成美、田尻祥子、
埜本幸良(範宙遊泳)、藤木陽一(アナログスイッチ)、山川恭平(Peachboys)

スタッフ:
美術:坂本遼 音響:池田野歩 照明:松田桂一 
舞台監督:久保田智也 宣伝美術:藤尾勘太郎
スチール:金子愛帆 マイム指導:細身慎之介(CAVA) 
配信:ニュービデオシステム
制作協力:新居朋子 企画協力:佃直哉(かまどキッチン) 
劇団員:古木将也・湯口光穂
企画制作・主催:20歳の国

[視聴券販売期間]
2024年12月15日(日)10:00~2025年1月26日(日)23:59
[配信期間]
2024年12月15日(日) 10:00~2025年2月9日(日) 23:59
※レンタル視聴可能時間 14日間(336時間)
[視聴券]2,000円(税込)
 

板尾創路プロフィール

1963年生まれ。大阪府出身。NSC大阪校4期生。相方のほんこんとお笑いコンビ=130Rを組み数々の番組で活躍。2010年には『板尾創路の脱獄王』で長編映画監督デビューを果たし、『月光ノ仮面』(2012年)『火花』(2017年)を監督。映画・TVドラマのみならず舞台作品にも多く出演し、2019年の初回から『関西演劇祭』のフェスティバルディレクターを務めている。

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(第一回~第七回)


【第一回】□字ック『剥愛』
【第二回】Hauptbahnhof(ハウプトバンホフ)『回復』
【第三回】画餅(えもち)『サムバディ』
【第四回】いいへんじ『友達じゃない』
【第五回】南極ゴジラ『(あたらしい)ジュラシックパーク』
【第六回】ウンゲツィーファ『動く物』『旅の支度』
【第七回】劇団スポーツ#10『略式:ハワイ』

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