【「板尾のめ゙」第四回】いいへんじ『友達じゃない』/「さりげなく良い話で、ほんわかしました」

【「板尾のめ゙」第四回】いいへんじ『友達じゃない』/「さりげなく良い話で、ほんわかしました」

様々な舞台映像を、前に出ない天才 板尾創路 の眼(フィルター)を通して語る「板尾のめ゙」
第四回は、2024年3月に上演された、いいへんじ『友達じゃない』。「昨年の秋、一人で自分の部屋を掃除しながら、「友達がほしい」と泣いた夕方がありました。」と作・演出・出演の中島梓織のご挨拶にもあるように、この作品は友達についての話だ。

<作品紹介>

友達だと思える人がいないことがコンプレックスだった吉村は、北区周辺で路上ライブをしている売れないシンガーを追っかけることだけが生きがいだった。
ある日、いつものように赤羽駅前で彼の歌を聴いていると、偶然通りすがった真壁という女性に出会う。「また会えるかも」と軽やかに去っていく彼女と、吉村は「友達になりたい」と思う。

さりげなく良い話で、ほんわかしました

──公演はキャスト違いの3チームで上演されました。板尾さんにはBチームをご覧いただきましたが、いかがでしたか?

僕はこの作品に登場する、友達が上手く作れない人の気持ちはあんまり分からないんですけど、「そういう思いを持っている方はいらっしゃるな」とか「こういう気持ちを持っているんだな」と感じながら観ていました。
出てくる人がみんないい人で、何か事件が起こることもない。だからこの脚本に込められた、友達を上手く作れないとか、気ばっかり遣ってなかなか自分を上手く表現できないとか、それらを諦めちゃう人の思いみたいなものが、よく伝わってくる。丁寧に脚本を書かれているなと感じます。
やっぱりこういう人ってどうしても応援したくなりますよね。路上ライブやSNSで人と繋がるシーンを観ると「良かったな」と思うし、「これをきっかけに彼女の人生が豊かになっていくんだなぁ」と思いながら、温かい気持ちで見守っていました。
皆さん自然に演じられていて、描かれている事についてのリアリティもあるんでしょう。本当にいそうな、普通の人達が出てくる。そして、悩んでいる人がちょっと良くなる、人生がこれからちょっと変わっていく……という、ほんのちょっと弾んだところが穏やかに描かれているのがいいですよね。役者さんたちが丁寧に演じていらっしゃるので、ほんのちょっとの事だけなのにひとつの舞台を成立させるのは凄いなと思います。さりげなく良い話で、ほんわかしました。ずっと観ていく内にだんだん心地良くなっていくんですよ。

空間の使い方も、演劇ならではですよね。これだけの台詞とシーンを70分くらいで見せようとする時に、パッパッパッとテンポよく場面と時間が変わっていくのを上手に空間を使って表現されている。派手な演出とか装置とか美術とかで魅せる舞台もエンターテイメントだし迫力があっていいなと思うけど、こういうふうに、一枚の板の上でさらっと場面転換しながら、時間経過や心情を見せていく舞台の表現もいいなって感じがします。
観ている方の想像力、役者さんの台詞と動き、光、音楽が頭の中でミックスされて、物語の流れが上手く組み合わされて見ていられる。やっぱり演劇っていいですね。

友達って、人と人じゃなくてもいい

──板尾さん自身は「友達が上手く作れない人の気持ちはあんまり分からない」と言われていましたが……

僕にとってはSNSもだいぶ大人になってから出てきたものなので、状況も違いますしね。なので、この子が自分の身内だったり、知り合いだったり、娘だったりしたら……という気持ちで観ていました。人同士が出会って繋がっていくって、見ていて悪い気はしないですよね。
きっと今の若い人にはこういう事を思う人が多いのかな。でも、中学や高校に行くみたいに新しい環境に変わる時に、友達が最初にできた瞬間とか、人と仲良くなる瞬間とか、「友達欲しいな」と思っている感じは思い出しましたね。

──大人になると、「友達」という関係になるのは難しくなるかもしれません。社会に出てから「友達ってなんだっけ?」と戸惑う人は少なくないんじゃないかなと思います。

確かにね。仕事で出会って友達になるってなかなかないかもしれない。友達の定義も人によって違いますから、「私たちって友達なのかな」と気にしてしまう感覚はどの世代も一回は持つんでしょうね。それって結局、理屈じゃなくて関係性のケースバイケースなので、口に出す事でもなく、自然に確かめ合う事でもない。だから「こっちは友達だと思ってるけど、向こうはどう思ってるんだろう?」とか「今すごく気を遣われてるよなぁ」とか考えるのはわかりますよ。

──板尾さんは「友達」って何だろうと思っていますか?

何でしょうね。でも共通項はあるかな。数じゃなくて、共通するものが一個でもあれば友達になれるんじゃないですかね。そんな事言ったら人間同士だから共通しまくってますけど……。でも、年齢とか性別とか国籍は関係なく、立場や状況が同じレベルの人が友達になりやすいかな。
別に人と人同士でなくてもいい。長い時間過ごしていると友達みたいな感情になったりする。僕なんかタバコも友達やなって最近思います。まぁ、僕はタバコに何をしてあげてるのかわからないし、一方的な友達かな。身近な存在みたいに心を許してる相手という感じなのかもね。言葉がなくても癒してくれる感覚はありますね。
 

“決めごと”があるほうが、舞台はおもしろい

──今回ご覧いただいたのはBチームですが、上演はA、Cの3チームあり、出演者が異なるのでテンポや雰囲気の違う作品になっていました。

良い見せ方ですね。大きな起伏のないストーリーなので、人が変わることによって余計に見え方が違ったりすることもあるでしょうね。

──作・演出・出演の中島梓織さんが「友達がほしい」と泣いた日をきっかけにこの作品をつくり始めたと、公演にあたって書かれています。

そうなんでしょうね。やっぱりこれは当事者じゃないとなかなか作れないんじゃないかなと思います。

──いいへんじは、これまでも自身の悩みや気になっていることをテーマに、一作品について時間をかけて創作されています。「メンバーたちは『それぞれの生活をしながら演劇を続けていくこと』を目標にしている」と話されていた事もありました。劇団によって、創作やあり方やスタイルは様々ありますが、もし板尾さんが劇団を作るとしたらどういう団体がいいですか?

あんまり考えた事ないですけど……そうですね、ちょっと個性的な劇団だったらいいなと思いますけどね。歌舞伎みたいに全員男性でやるとか。そういう表現って舞台ならではの楽しみだなと思うんです。舞台だから、男の俳優が女性を演じていてもそう見えてくる。
何というか、舞台って「こう見てください」っていうものがちゃんとある方が面白いような気がするんですよ。一切小道具を使わないとか、衣装もみんな統一されているとか、決めごとがある中で演じるのが舞台の面白さじゃないかなと。もちろん空間を作り込んでリアリティを追求してる作品の面白さもありますけれど、制約があるとお客さんの想像力が刺激される。その上で表現されたものを見た時の気持ち良さはありますね。

──客席で「実際には舞台上にないモノや風景が見えた!」という瞬間はありますね。

見えたとか、感じられたとか、感動したっていうのがやっぱり舞台の面白さですよね。さらにナマで人間がその場で演じているという迫力もありますね。
今回は映像で舞台を観ていますが、「こういう見せ方をするんだ!」という面白さはありますし、「劇場で観てたらこうだろうな。もっと観てみたいな」と想像する楽しみもあったりします。

──この『板尾のめ゙』シリーズは板尾さんに公演映像を観て頂く企画です。舞台の映像に力入れている劇団も増えていますが、演劇を映像で観ていて感じる事はありますか?

実際の劇場での楽しみとは違うとは思いますが、映像でも十分面白いですよ。強いて言えば、台詞が聞こえづらい所ですかね。これは俳優のせいではなくて、舞台奥に向かって話している時とかはどうしても聞き取れない事があって……。
せっかく映像のクオリティが上がってきているから、音声がもっと良くなると嬉しいかな。劇場でマイクから声を出さなくていいから、録音用にピンマイクをつけるとか、もっと色んな声を拾えるように隠しマイクを仕込めたらストレスは減るとは思います。字幕という方法もあるのかな。なんか、知りたくなっちゃうんだよね。「今の台詞なんて言ったんだろう?劇場なら聞こえるんだろうな」って。なかには映像用に収録をしている団体さんもありますけどね。

 

(インタビュアー・文&撮影:河野桃子)
 

いいへんじ『友達じゃない』配信中!

カンフェティストリーミングシアターにて配信中!

いいへんじ 佐藤佐吉演劇祭2024参加作品 
『友達じゃない』
作・演出:中島梓織(いいへんじ)
出演:
◆Aチーム
飯尾朋花(いいへんじ)
冨岡英香(もちもち/マチルダアパルトマン)
小林駿
◇Bチーム
中島梓織(いいへんじ)
タナカエミ
てっぺい右利き(パ萬)
◆Cチーム
小澤南穂子(いいへんじ)
百瀬葉
藤家矢麻刀

[視聴券販売期間]
6月1日(土) 10:00~7月31日(水) 23:59
[配信期間]
6月1日(土) 10:00~8月30日(金) 23:59
※レンタル期間:30日 (720時間)
[視聴券]3公演セット券 2,400円(税込)
★視聴券1枚で3配信の視聴が可能です★
 

板尾創路プロフィール

1963年生まれ。大阪府出身。NSC大阪校4期生。相方のほんこんとお笑いコンビ=130Rを組み数々の番組で活躍。2010年には『板尾創路の脱獄王』で長編映画監督デビューを果たし、『月光ノ仮面』(2012年)『火花』(2017年)を監督。映画・TVドラマのみならず舞台作品にも多く出演し、2019年の初回から『関西演劇祭』のフェスティバルディレクターを務めている。

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※必ずしも作品が取り上げられるとは限りませんのでご了承ください。
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(第一回~第ニ回)


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【第二回】Hauptbahnhof(ハウプトバンホフ)『回復』

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