劇団☆新感線の高田聖子が立ち上げたユニット「月影番外地」の公演『暮らしなずむばかりで』が2023年1月18日(水)から下北沢 ザ・スズナリで上演される。
同居していた母が亡くなり、一人暮らしを始めた能見(高田聖子)。今まで母の介護に使っていた時間を使って習い事でも始めたいが、「『これを最後の趣味として一生続けたい』と思うと、簡単に選べない」と思っているうちに人生に迷い、散歩の途中で立ち尽くしてしまうことが増えた。しかし、いざ立ち尽くしてみると、道を聞かれるなど忙しい。それで能見は“立ち尽くす”を趣味にしてみた。そして、アパートの大家の逆巻(宍戸美和公)、隣の部屋に住む庄司(松村武)らと出会って――。
脚本は福原充則、演出は木野花。その他、森戸宏明・信川清順・田村健太郎が出演する。今回、出演する高田聖子と松村武に話を聞いた。
―――演出は木野花さん。どんな雰囲気の稽古場なのですか?
高田「木野さんは、いろいろなことが更新されていて、年々パワフルになっている気がします。いつも稽古場の中心で、核になっています。
いろいろな演出家がいらっしゃいますが、木野さんはもう見方からして前のめりで、部族の首長のよう(笑)。時々ご自身が演じられることもあって、それがものすごく面白いんですよね。同じようにはできないんですけど」
松村「僕は木野さんの演出を受けるのは初めてですが、木野さんは、よくうちの劇団(※カムカムミニキーナ)を観に来てくださって、厳しいことも仰るんです。厳しいことも仰るけど、時には褒めてくれて、それがすごく嬉しい。
木野さんは一緒に喋っていて楽しいし、勉強になるし、適度に怖い。特に『怖い』というのは自分にとってそんなにたくさんいるわけではないですから。僕はすごく好きな人です」
―――下北沢 ザ・スズナリでの上演です。改めてどんな劇場だと思いますか?
高田「客席に入っていく階段も舞台も、黄金比率だと思うんですよね。
演劇の神様がいる気がして、特別な場所です。公演をやっているときは“お参り”というか“奉納”というか、そんな気分になります」
松村「分かります、聖地ですよね。スズナリで公演をするだけで、作品の面白さが割増される気がしますし、不思議と名作になる気がします。少し改装されましたけど、改装されてもなお歴史を感じるし、楽屋が四畳半のアパートの一室なんですよ」
高田「なかなかないですよね(笑)」
松村「ちょっと昭和にタイムスリップしますよね(笑)」
高田「窓を開けると、煙草を吸っている人が見えたり、ギターを弾いている人がいたり」
松村「いろいろな人たちが使ってきた“執念”みたいなのが絶対ありますから。それがやっぱり味方してくれる感じですよね」
高田「継ぎ足しのタレとか、味が染みている鍋とか、そういう大事なものが染みている器です。スズナリで公演をするというだけで、何か1つ達成している気がしますよ」
―――お二人とも50代で、本作のチラシには「五十路の逆噴火物語」とあります。50代は楽しいですか?
高田「今の50代、元気ですよね?」
松村「そうですね。特に我々の周りにたくさんいる、演劇界の五十路は元気ですよ」
高田「私が20代の頃にご一緒していた50代の先輩は落ち着いていましたけどね。わーっと走り回るところも『私はちょっとゆっくりでもいいかしら?』と仰っていた。でも、今、私はわーっと走り回っている(笑)」
松村「例えば普通に働く同級生なんかには、“終わり”に向かう感が漂い始めてるというか、やっぱり疲れてきてはいるんですよね。病院とか保険とかそういう話題になりがちですし(笑)。我々の業界は引退や定年がないから、元気なのかもしれません」
―――高田さんは劇団☆新感線に所属されていて、松村さんはカムカムミニキーナを主宰されています。改めて劇団とはどういうものなのか、長くやられているお二人に聞いてみたいです。
松村「劇団って、だいぶ減ってきたじゃないですか。公演もその都度のユニットやプロデュース公演が増えて。若い人が入ってきて、辞める人もいるという動きはありつつも、うちのようにずっと同じメンバーがいる劇団はかなり減っている。
なので、僕らはその文化を大事にしようと思っていて、劇団ならではというところにこだわっているんです。大げさな言い方ですけど、劇団は教育機関のような側面があるんですね。若い俳優が1つの集団に入って、先輩や演出家にずっと見られて、課題みたいなものを言われて、それに取り組んで、成長していく。外国に比べて、日本には演劇の養成機関がしっかりしていないですから。今までそうした教育を劇団が担っていたような気がしないでもないんですよね。
一方で、ユニットやプロデュース公演を渡り歩くだけで、果たしてどれだけ役者が成長するのだろうとも思うわけです。すごく吸収力がある人は上へ行けると思うのですが、都合がいいことにしか目がいかないのではないかなと思うんですよね。集団にいると、都合が悪いことも出てくるじゃないですか。嫌なことを指摘されたりもするじゃないですか。“成長”ということを考えると、そういう環境もあっていいと思う。
また、新感線もうちも外では絶対やってないことをやっている唯一の集団という自負があると思います。そこも劇団としては大事なことな気がしますね」
高田「そうですね。(新感線は)もうすごく特殊な劇団。劇団というかジャンルだと思っていて」
松村「もはや文化ですよね」
高田「そうなればいいなと思います。新感線は、本当に新しい人を入れないんです。だから教育は全くしない。教育する元気もないのかもしれないですけど(笑)。では何で繋がってるかというと、共通言語なんですよね。ずっと長い年月作品を作ってきたからこその共通言語がある。
劇団員ではないけれど、オーディションで入った若い人やゲストの人によって、ため池のような我々を攪拌してもらう。そうして活性化してもらっていると思うんです。
一方、月影はもっと新しく常に回っている川や海のようなところ。そこでいろいろ見たり聞いたりして新しく手に入れたものを、またため池に帰って、ちょっとかき回す。そういう動きをしているなと思っています」
―――月影を始められたのも、いい意味で「外の空気を吸いに行きたい」と思われたから?
高田「そうですね、もうため池しか知らなかったから。ため池の中の蛙だったから。単純に外の水はどうなっているんだろうと思ったんです。
新感線の場合は、みんなが面白がって、内に内にいって、ため池にいっぱい溜め込んで、最後、溜め込んだものを外に出している。お客さんもそういう姿を喜んでいただけている気がします。一方、月影は、外に向かって出て行って、いろいろなものを見たり、触ったりしている感覚です。私はその両方を味わえているので、すごく幸せ者ですよ」
―――改めてお客様へのメッセージをお願いします!
松村「今我々が感じている現実の閉塞感を打ち破れるのが、虚構の力。しかも、生の役者が目の前で演じるわけですから。ある種の使命感みたいなものを感じています。
きっとそうした思いを汲み取った作品を福原くんが書いてくるだろうし、木野花さんがしっかりと演出されるでしょう。共演者も面白い人ばかりで、確実に面白い作品になると思いますし、そうせなあかんと思います」
高田「まさに松村さん仰った通りですね。『今夜、合言葉なしで集まるよ!』とチラシにあるように、同じ志を持つみんなが元気に集まれることを目指して、頑張りたいと思います」
(取材・文&撮影:五月女菜穂)
プロフィール
高田聖子(たかだ・しょうこ)
1967年7月28日生まれ、奈良県出身。1987年、『阿修羅城の瞳 BLOOD GETS IN YOUR EYES』より劇団☆新感線に参加。1995年に自身が立ち上げたプロデュースユニット「月影十番勝負」に続く「月影番外地」では、さまざまな演劇人とコラボレートするなど新たな挑戦を続けている。2016年、月影番外地 その5『どどめ雪』で第51回紀伊國屋演劇賞 個人賞を受賞した。
松村 武(まつむら・たけし)
1970年10月24日生まれ、奈良県出身。早稲田大学在学中の1990年、カムカムミニキーナを旗揚げ。自ら役者として出演しつつ、劇団の全作品の作・演出を担当。2003年には、史上最年少で明治座の脚本・演出を手掛けた。
公演情報
月影番外地 その7
『暮らしなずむばかりで』
日:2023年1月18日(水)〜29日(日)
場:下北沢 ザ・スズナリ
料:6,000円(全席指定・税込)
HP:https://twitter.com/bangaichi2012
問:サンライズプロモーション東京
tel.0570-00-3337(全日 1200〜15:00)