痛快&新感覚な音楽朗読劇三部作! その第二弾は「ファミリー」の過去に迫る物語

 作家・二宮愛が脚本を手掛ける、実力派声優の朗読とバンドの生演奏を組み合わせた音楽朗読劇=リーディックシアターの最新三部作『THE∞×Family』。音楽が溢れるアイリッシュパブ「ジ・エイト」を舞台に繰り広げられるファンタスティックでファンキーな物語だ。
 その第二弾として4月に上演される『THE∞×Family team.Fancy』について、第一弾公演直後のタイミングで二宮へメールインタビューを実施。前回のインタビューと同じく、作品世界へのイントロダクションとして楽しく読んでいただければ幸いだ。

前作の公演を無事に行えたことには感謝しかありません

――まず前作『team.Future』を振り返って、公演までの準備や稽古等のプロセスで、思い出深いエピソードがありましたら教えてください。

 「情勢的なこともあり、なかなか揃ってのお稽古が出来ず、私なんかよりも舞台に立たれるキャストさん、ミュージシャンの方々がハラハラされていたとは思うのですが……正直、『朗読』に関しては声優さんに対して何の心配も無く、バンドさんの演奏に不安に感じることも無かったので、私はとにかく良いシナリオを書くということに、いつも以上に集中しました。前向きに、作品を創り上げることを第一に考えていたので、この規模の公演にしてはひとりでああでもないこうでもないと思案する時間が長かったなぁと……なので、正直準備期間の思い出はあまり無く……  
 ただ、だからこそ、それぞれのプロのパーツが組み上がる繋ぎ目を前日からの小屋入りでしっかりと確認しながら、むくむくと平面が立体になっていくことに改めてワクワクして、生だからこその作品だという手応えを『team.Future』を通して強く感じることが出来ました。改めて公演を行えたこと、会場に足を運んでくださったお客様には感謝しかありません」

――本番の手応えはいかがでしたか?

 「フレディー役の中尾隆聖さんをはじめ、皆さん『これはもう朗読じゃなくて舞台』と仰っていたのですが、確かに朗読劇にしては小道具や動きがあまりにも多く……(笑)。演者さんにはいつも大変な思いをさせてしまっておりますが、こちらがお願いしていること以上のものを返してくださって、ありがたい限りです。中尾さんがフルフル役の勝平さんの肩をぽんっと叩くシーンがあるのですが、その動きは台本には入れていなくて……でも、そのきっかけがあるから次の台詞が活きてくるんだなって思ったりもして、私の一番好きなシーンです。
 あと中尾さんは、もしや台詞を暗記していらっしゃるのかな……と思うぐらい、台本から目を離して周りを見通してくれていたのが印象的です。さすがドン……!! このキャスティングをした数年前の自分は本当に偉いなぁと思っていました(笑)。
 『team.Future』は、自宅警備員と掃除屋が主人公の、パブ要素もギャング要素も少なめの”未来に向けた音”がテーマになっていて、フミヲ役の下野紘さん、フルフル役の山口勝平さんから溢れる良い空気が、このチームの良い味になっていて、ドレミ役の明坂聡美さんが『一公演目がフミヲとフルフルで良かった』と仰った時に、頷きが止まりませんでした(笑)。語りたいことだらけではありますが、今回はこの辺りにしておきます」

二宮作品初出演となるキャストとの化学反応が楽しみ

――4月の『team.Fancy』では、新キャラクターのCVとして斉藤壮馬さん、羽多野渉さんが出演されます。それぞれどんなご縁があり、どのような狙いで起用されましたか?

 「実はお二方とも、私は初めましてなんです。フレディー役の中尾さんがいらっしゃる事務所さんからご紹介頂き、私も斎藤さんと羽多野さんのお声は存じておりましたので、ぜひぜひ!! と、お願いさせて頂くことになりました。中尾さんとお芝居が出来ることをすごくすごく喜んでいる、と聞いて、私までニコニコしてしまいました。
 なので、どんなキャラクターになるのか……化学反応が今から楽しみなチームです。メルヘンちっくで可愛い絵本のようなエピソードを交えながら、ずぶずぶと闇に漬け込んでいくような……その一方でドレミの恋物語も見え隠れしたりしなかったりして、可愛らしいエピソードになると……いいなぁとは思っています(笑)」

――音楽メインの舞台を作る上では、共にシンガーとしても活動する斉藤さん、羽多野さんはまさに適役ですね。お二人からのフィードバックを楽しみにしている部分もありますか?

 「斎藤さんの演じるフータローはピアニストで、このキャラクターのテーマは“王子様”なので、私が思う斎藤さんのありったけの王子様成分(笑)を出してもらえたらいいなと思っています。フランソワはサックス奏者で“イイ女”がテーマです。オカマちゃんではなく、すんっとキレイな女性なのですが、何故羽多野さんにフランソワをお願いしようと思ったのかは公演を観てくださると分かるかと思います。『頑張って声高くします』と言ってもらったのですが『そのままでお願いします』と伝えました(笑)。この見た目で、低音の魅力を活かしたキャラ……に仕上げています。誰よりもフレディーの音楽に寄り添いたいのがフランソワなので、その辺りもポイントになってくるかなと思います」

――お二人が演じるフータローとフランソワは、team.Fancyのタイトルに相応しいビジュアルですが、やはり「過去」に大きな何かを抱えたキャラクターのようです。今回の三部作で、キャラクターの過去はどのような意味を持つのでしょうか?

 「今作はフレディーの過去に迫る物語で、フータローもフランソワもそこに深く深く関わってきます。他のファミリーの過去に関しては、フレディーが導いてくれたり、拾い上げてくれたり、たくさん助けてくれるのですが、『team.Fancy』はその関係性が逆転することあるかも……しれません。
 フレディーは戦争で多くのものを失くしてしまっているので、その辺りのお話は少し辛いものにはなりますが、“ジ・エイト”らしいかっ飛ばし方で、スカッと爽快に音楽を楽しめるものになっていると思います。主題歌の歌詞に“どんな過去だって”というフレーズを入れているのですが、フレディーは過去にしがみつくより、今を楽しく生きていこうというキャラクターですが、その分“ジ・エイト”のファミリーになるまでに至った、闇や、それぞれの音楽に対する想いは、きちんと描いてあげたいなと思っています」

最初から8人だったと思えるような統一感を大切に

――前回のインタビューでは、それぞれのキャラクターに担当楽器があり、楽器に対する想いも物語のキーポイントになるとコメントされていました。今回の「フータロー=ピアノ」「フランソワ=サックス」という割り当てにはどんなこだわりが?

 「フータローはピアノを弾くと王子様、それ以外はダメンズという……記憶喪失の男の子です。彼が“ピアノを上手に弾いていない”時が物語のキーポイントになります。フランソワはサックスを吹く為に“稼いだ金を全て使って女になったけど、声帯だけは取り替えなかった”ところに、彼女の決意の表れというか、気持ちが全部詰まっていると思います。担当楽器とそれぞれが奏でる音楽は、シリーズ通してど真ん中を貫く柱になっているので、ぜひぜひ注目して聞いて頂けたら幸いです」

――三部作であると同時に、それぞれ独立した作品としても楽しめるように考えられていると思いますが、これまでにもシリーズものを手がけてきた二宮さんとしてはどんなことを意識して取り組んでいますか?

 「この作品には、8人のメインキャラクターが常に存在している、ということを意識しています。今作でしたら、アイリッシュパブ“ジ・エイト”にいるファミリーなので。出演していないから出ない、のではなく“キャラクターが何らかの理由で店に顔を出していないだけ”ということを常に意識していると言うか……(笑)。シリーズもののドラマCDでも、一言二言の為にキャストさんをお呼び出来ないお財布事情もありますので、その辺りは“今はそのキャラクターをカメラが追っていないだけ”という気持ちです。
 『THE∞×Family』はチーム毎に分かれているので、もちろんそのチーム内で解決出来るエピソードを選んでいますが、他のキャラクターの名前はチラホラ登場しますし“ああ、他のチームも面白そう”と思ってもらえたらそれが何よりなので。いつか8人が一堂に会した時に“はじめまして”ではなく“最初から8人でした”と自然に入っていけるような統一感を大切にしています」

――最後に、公演をご覧になる皆様へ一言メッセージをお願いします。

「『team.Fancy』で、はじめて本作に触れてくださる方のほうが実は多いのでは……と思っています。逆に『team.Future』を観てくださって他の公演も気になると足を運んでくださる方がいたら、こんなに嬉しいことはありません。現実を忘れられるような、パブに遊びに来たお客様をお迎えするような気持ちで物語を紡いでいきます。公演は特に、お客様に足を運んでもらえること……それを演者さんが一番楽しみにしているのではないかなと思っています。
 様々な状況があり、全ての皆様が同じ環境では無いとは思いますが、この作品に触れている時だけは“ドキドキ”と“しあわせ”を感じてもらえる空間になったら嬉しいです。どうぞよろしくお願い致します」


(取材・文:西本 勲)

プロフィール

二宮 愛(にのみや・あい)
音と声の世界を愛する作家として、ドラマCDから展開される作品を多く発信。作詞、漫画原作、舞台やゲームのシナリオなど活動の幅を広げる。主な作品に、ドラマCD『Are you Alice?』、『停電少女と羽蟲のオーケストラ』、朗読劇『錻力のマリ・アンペール』、音楽朗読劇『I’m ふたりぼっち』、リーディックシアター『お憑彼サーカス スターダストビオレット』、『お憑彼サーカス 心音スノードロップ』などがある。

公演情報

リーディックシアター 『THE∞×Family team.Fancy』

日:2022年4月10日 (日)
場:恵比寿The Garden Hall
料:特典付き指定席16,500円 指定席8,800円
  (ドリンク代別/価格は全て税込)
HP:http://re-no.co.jp/8mf/
問:レノ mail:readictheate@re-no.co.jp

インタビューカテゴリの最新記事