立ち退き問題で揺れる小さな集落で生きる人々を描く 2018年初演の人気作を大幅改訂して、2026年版として新たに上演

立ち退き問題で揺れる小さな集落で生きる人々を描く 2018年初演の人気作を大幅改訂して、2026年版として新たに上演

 劇団HOTSKYによる『ミカンの花が咲く頃に』が3月18日から上演される。2018年に初演された本作は、九州の北東部に位置する小さな集落・猿ヶ実村を舞台に、高速道路建設に伴う立ち退き問題で揺れる人々と彼らの変化を描く。近年目覚ましい活躍を見せるムシラセ主宰の保坂萌が演出を担当。劇団主宰で本作の脚本を務める釘本光が大幅な改訂をして2026年版の新たな作品として創り上げる。
 釘本、そして演出の保坂、出演する鈴木里沙と福圓美里に公演への思いや役作りについてなどを聞いた。


―――最初に釘本さんから、本作を上演するに至った経緯やきっかけを教えてください。

釘本「(座・高円寺の年間ラインアップとして上演される)日本劇作家協会プログラムが2年前から動き始めるということもあり、この企画も2年以上前からスタートしています。
 2018年に初演され、2020年にザ・スズナリで再演する予定だったのですが、コロナ禍で上演が叶わず、いつかまた上演したいと思っていた作品でした。そこで、保坂さんにお願いして上演しようということで今回、企画が始まりました。そうこうしているうちに『令和の百姓一揆』があって、これは物語に取り入れないといけないなと思い、今、改訂を行なっているところです。この作品は、開発と保護と農業と環境を描いた物語でもあるので、今の時代の米にまつわる問題は入れるべきだと考えています」

―――今回、大幅な改訂があると聞いていますが、それがその「令和の百姓一揆」についてということでしょうか。

釘本「そうですね。基本的な内容や筋書きは変わりませんが、登場人物を少し入れ替えていたり、2026年の視点を入れたりして描いていきたいと考えています」

保坂「今回、どのように2018年版から2026年版にアップデートしていくかを釘本さんとお話をしていく中で、新たに拓未という女の子を登場させようと相談させていただきました」

釘本「2018年版には拓未は劇中に出てこないんですよ」

保坂「名前だけ登場するのですが、そのときは男の子という設定だったんです。今回は令和の、この2026年という時代に合わせたら、女の子の方が良いのではないかなと。そうすることで、アップデートの幅がすごく広がったなと私は感じています」

―――なるほど。そうした改訂もあるのですね。鈴木さん・福圓さんは出演が決まり、脚本を読んでどんなことを感じましたか?

鈴木「私は2018年の初演に違う役で出演していたんですよ。その後の2020年の再演も出演予定だったのですが、コロナ禍で中止になってしまって。なので、この作品のことが、ずっと頭の片隅にありました。
 今回、また(釘本)光さんからお声がけをいただき、二つ返事でお引き受けしました。光さんの作品に出演し、光さんの言葉をもう1回話したいという気持ちがずっとありましたし、この作品は私の中でも思い入れの深い作品だったので、今回、また違う役ではありますが出演できることをとても光栄に思っています」

―――2018年にご出演されたときに手応えを感じたからこその思い入れだったのでしょうか?

鈴木「正直なところ、2018年のときは無我夢中で終わってしまったという感じなんです。当時、『光さんの言葉をいかに間違えずに言えるか。光さんの紡いだ言葉をそのまま伝えたい』という想いが強く、やり切ったと感じていたのではないかと思います。
 本当に無我夢中だったので、記憶も曖昧なのですが(苦笑)。今回は、あれから年齢も重ねたので、いろいろな意味でもう少し丁寧に演じていきたいと思っています」

―――福圓さんはいかがですか?

福圓「私は、今回ラッキーでここにいさせてもらっています。もともと保坂さんの芝居が好きで、客として通っていたのですが、ある時ご飯をご一緒させていただく機会があり、それがきっかけで今回のお話をいただきました。釘本さん・鈴木さんとも今日が初対面なので、実は今も緊張しています」

―――最初に脚本を読んだ感想は?

福圓「『今やるべき戯曲だ』と思いました。私は、何もかも昔の方がいいとは思っていないですが、でもやはり母の実家の九州に帰ると、空気感が東京とは全く違うことを感じます。みんなでご飯を囲んで、血縁に関係なく近所の人と共に生きて、年を重ねて、弔って…という時間の流れは、やっぱり東京とは違うものです。
 私は東京出身、東京育ちだからかもしれませんが、他者と深いコミュニティを築いていくという経験があまりないので(この作品に登場する)拓未と同じような立ち位置なんですよ。今回、私が演じるのはその拓未の母である美羽という女性ですが、どういう選択をしてどう生きていくかが描かれた物語だと私は捉えたので、今、若い方に観ていただきたい作品だなと思いました」

―――福圓さんがおっしゃった「今やるべき戯曲」という点について、釘本さん、保坂さんも感じているところですか?

保坂「そうですね。福圓さんがおっしゃったように、少し遠いところのお話のような気がするけれども、実は実生活にも近い話という印象です。
 私の勝手な所感ですが、インターネット上で起こっている論争と似ているところが多いように思います。観ている方は(村人たちに対して)『早く出ていけば良いのに』という気持ちも絶対に出てくると思うんです。だけど、そこに生きている人たちに感情移入したら、『何もかもなくなったときに人はどう思うのか』と苦しくなる。だから『今』なのではないかと思っています。
 (今回、美術を担当する)美術家の加藤ちかさんが『私、街を1つ消したことがあるわよ』とおっしゃっていました(笑)。なくなることをどうやって自分ごとにするのか、それをどう感じるのかは『今』なのではないかと私は思っています」

釘本「このお話を書いたときの思いを少しお話しさせていただくと……以前、私は東九州自動車道をよく自分で運転して通っていたんですよ。途中で下道に降りて、また高速に乗らなくてはいけないので、いつも『面倒だな。なんでここだけ下道を走らせるの?』と思っていたんです。ですが、その高速の途中に土地を持っている農家の岡本さんという方の話を聞いて、私はこの人に『どけ』と言っていたんだと衝撃を受けて、それでこの作品を書きました。ただ、そのときは、村がなくなるという感覚がまだわかっていなかったんですよね。
 その後、私の住んでいた西東京市から練馬に行く抜け道があったのですが、ある日、その抜け道を通ったら、そこにあったはずのタバコ屋さんも酒屋さんも電信柱も、全てがなかったんです。再開発で公園になってしまったんですよ。そのときに、『なくなる』というのはこういうことなんだととても実感して、この作品に至りました」

福圓「実際に起こった話が元になっているということですか?」

釘本「そうですね。先ほどお話しした岡本さんという方は、『みかん畑のドン・キホーテ』というドキュメンタリー番組に出演されていた方です。『高速道路計画』が自身の持つみかん畑にかかっていて、行政と闘い続けてきたそうです。このお話を知ったとき、私の『どけばいいのに』という考えは、強制執行をする側に立っていたのだと気付かされました」

保坂「まさにそれがこの作品を演出する上でも目標になるのかもしれません。最初はお客さんに『早くどけ』と思わせて、最後にはその気持ちがひっくり返る。そうできたらいいなと思います」

―――鈴木さん・福圓さんが演じる役柄についても教えてください。

鈴木「私が演じるのは、佐伯実果という姉妹の長女です。東京で結婚し、教師をしていたのですが、子どもができなかったことを理由に離婚し、自分の実家に帰ってきて、父親と農業をやりつつ、猿ヶ実村に暮らしています。
 私自身は田舎暮らしの経験がなくて、どちらかというと便利さを求めてしまう人間だったので、2018年のときもこの脚本を読んで『便利な方が良いのに』と思ってしまいました。ただ、実果は東京にいたのに、いろいろな事情から便利な東京ではなく、実家に帰るという選択をする。その選択について、この役を通して自分もいろいろと考えていきたいと思います。先ほどの光さんのお話で言うと、私も『高速が走った方が楽だし、便利だ』と思ってしまう、いわゆる加害者側なのだと思うのですが、今回、村に生きる人たちの心情をしっかりと考え、勉強させていただこうと思っています。
 ただ、1つ気になっているのが、2018年の公演時、別の方が演じていた実果にはなかった設定が入っていて(笑)。どうしてなんだろうとは思っています」

―――その設定というのは?

釘本「アフリカに井戸を掘りに行ったという設定です。『一度、食事をしてしまえば、みんな家族なんだよ』という経験をアフリカでしたという設定だったので、それは実果が持っていた方が自然だと思ったんです。アフリカで触れたその思想や体験が猿ヶ実村でも生きてくるのではないかなと」

鈴木「なるほど。私が2018年に演じた役柄も、アフリカで井戸掘りをしたという設定があったので、当時も動画配信サイトなどでアフリカの井戸掘りについての動画を調べたりしたのですが、今回、改めていろいろと調べたいと思います。
 家族ではない人たちと食卓を囲むという経験も私はあまりないんですよ。一人っ子で兄弟もいないですし、家族がたくさんいるという感覚もあまりなかったのですが、今回、初めてご一緒する方も多いカンパニーですし、血が繋がっていなくても大家族だというところも役作りに取り入れていきたいと思います」

福圓「私が演じるのは、里沙さんが演じる実果の妹です。高校に入学するときに逃げるように上京して、そこからはずっと東京で生活をして家庭を築いて、今、高校3年生になる1人娘がいるという役になります。
 まだ戯曲との付き合いも時間が短いので今の時点での印象になりますが、きっとこの作品を東京で上演したときに、一番お客さんに感覚が近い役になるのかなと思います。この物語にあっては、少し浮いている存在です。
 近所の人たちを集めて『みんな家族だよ』という母親に反発心を抱いて、自分なりの形を模索していきます。村の人たちから見るとすごく異質で、東京に染まりきっていて、もしかしたらお客様から見たら少し嫌な印象に写ってしまうかもしれない。でもこの物語において村の人間ではない美羽の視点はとても大事なものだと思うので、良い橋渡しとしての役割になれたらいいなと考えています。お姉ちゃんとの関係性、母さん父さんとの過去の決着の付け方もぜひ観ていただきたいです。
 人とのつながりや暖かさ、生きるということが繊細に滲んでいて演者によってかなり変化していく作品だと思うので、できるだけ現場で作り上げていくことを重視したいなと考えているところです」

―――保坂さんは今、どんな演出プランを考えていますか?

保坂「今回、初めてご一緒する方が多いので、1回本読みをしてから現場で作っていこうと思っています。ただ、先ほど話したように、美羽と拓未の目線からどうやって村人たちの目線に入れ替えていくか。かなりシビアにやっていかないと難しいと思うんです。そうしないと、どちらも他人事になってしまいます。自分は加害者側だったのだという衝撃を感じてもらうためにもシビアに作っていきたいと考えています。
 それから、血縁ではないところで繋がる家族とはどういうものなのか、その関係性を皆さんと作れたらと思っています。無くしたものは戻ってこないということに、私たちがどう取り組むのかが本質的なところなのかなと思います」

―――釘本さんと保坂さんが、鈴木さん・福圓さんとご一緒する楽しみは?

釘本「鈴木さんは扉座の演出助手などもされてる方で、これまでもいろいろとご一緒させていただいてきたんですよ」

鈴木「そうなんです、めちゃくちゃお世話になっています」

釘本「私がうまく書けていないところもきちんと読んでくださるので、本当に頼りにしています」

鈴木「頑張ります」

釘本「福圓さんとは初めてです」

保坂「私が推薦したんですよ」

釘本「『美羽は絶対に福圓さんだと思う』と保坂さんに言われて。今回は、『保坂組』を作ろうと思って企画したので、保坂さんがそう言うなら間違いないと思って、お芝居を観に行ったんですよ。それがすごくよかった」

保坂「美羽がいたでしょう?」

釘本「本当に。美羽は決してチャーミングな役ではないですが、存在感が可愛らしい福圓さんが演じれば、嫌味にならないなと思いました。下手をすると美羽は嫌われ役になってしまうんですよ。福圓さんにはそれがないなと思います」

保坂「私は鈴木さんとは初めてですが、先ほどお話しされていた(鈴木さんの演じる)実果がアフリカで井戸を掘っている設定になったというのは、作家的にもすごく理解できます。井戸を掘っていてほしい(笑)。
 舞台の上での姿も拝見していますし、今日お話した印象でも、『実果と美羽は2人とも同じ東京に行ったのに、その結果が大きく離れている。故郷に戻ることを美羽は理解できないし、家族のことも実果は許せたけど、美羽はまだ許せない。そうした対立的な構図になっている』という2人の関係性が、この2人なら作れるなと改めて感じました。
 それに、じっと見ていると、2人が姉妹に見えてくるんですよ。家族であるという説得力が、お芝居の稽古をしていく中でより出てくるのではないかなと思います」

―――姉妹のようだというお話もありましたが、鈴木さんと福圓さんは今回、初共演ですよね。

鈴木「そうなんです。本当に初めてで、実は先ほどお会いしたばかりなんです(笑)」

福圓「すごく楽しみです。私があまり知らないだけかもしれませんが、こうした農村を舞台にしたお話を女性主体で作るということはこれまであまり多くなかったのかなと思うので、まず、それがすごく素敵だなと思います。そして、作家さんも演出家も女性でいらっしゃるので、そういう意味でまた違った切り口の家族の描き方になるのではないかなと思います」

保坂「いい意味で生々しくなると思います」

―――最後に読者へのメッセージをお願いいたします。

釘本「素敵な俳優さんたちがいっぱい集まっているので、稽古場でも、俳優さんを見ながら(脚本を)変えていけたらいいのかなと思います」

保坂「私は、釘本さんの言葉を損なわないように創り上げていきたいと思います。釘本さんはすごくお優しい方なので、険がない人物を書くこともできるのですが、今の俳優陣を見るとどのようにでも演じられる方ばかりなので、恐れないでひどいことも書いてくださいと以前から話していました。なので、それを損なわないように、座組一同で取り組めたらなってすごく思っています。ご期待ください」

鈴木「実は私も保坂さんの演出をすごく受けたかったですよ。光さんの本ももちろんずっとやりたかったですし、保坂さんの演出作品にも出たかった。なので、今回、これは絶対にやりたいと、『スケジュールがどうであれ、私は出ます』と劇団に言って二つ返事で決めました。
 今回、劇団の若い後輩たちが、保坂さんの演出を受けたいとオーディションを受けています。もし、落ちてしまっても光さんと保坂さんにまずは顔を覚えてもらいなさいと。それで、とにかく若い子たちにオーディション情報を流して、たくさんの子が受けました。私も保坂さんの演出を、いっぱい体中に浴びたいです。そして、光さんの言葉を話したい。自分はずっと演劇、芝居欲があって、舞台に立っていたいと言っているので、早く稽古が始まらないかなと思っています。変に苦しまず、楽しく演じようと思います」

福圓「今回、こうして稽古の前に皆さんのお話を聞く機会をいただけたことがすごくありがたいです。どういう作品になっていくかの可能性がたくさんあることを改めて感じました。私が本を読んだだけでは受け取れなかった情報をたくさんいただけましたし、まだまだ模索しなければいけないと思ったので、今から稽古が楽しみです。きっと皆さんの心の奥に届く作品になると思うので、ぜひ見にいらしてください」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

釘本 光(くぎもと・ひかり)
福岡県出身。劇作家・演出家。1982年、地元・北九州にて、劇団犯罪症候群(シンドローム)‘84の結成に俳優として参加。1985年の解散まで、ほぼすべての作品に出演。1998年、劇団HOTSKYを結成。2001年より、劇作も担当するようになる。場所から生まれる物語にこだわり、カフェや街角の温室・古い旅館・小学校の体育館など劇場以外の場所での借景芝居を多くプロデュースしてきた。

保坂 萌(ほさか・めぐみ)
兵庫県出身。2008年、演劇プロデュースユニット「ムシラセ」を旗揚げし、主宰として作・演出を手掛ける。近年の主な作・演出作品に、『つやつやのやつとファンファンファンファーレ』、『瞬きと閃光』、『眩く眩む』、『ナイトーシンジュク・トラップホール』など。『なんかの味』でCoRich舞台芸術まつり!2025春 最多口コミ賞・演技賞を受賞。KADOKAWAグループ”GeeXPlus”製作アニメ第1弾 『baan-大人の彊界-』で初アニメ脚本も手掛け、活躍の場を広げている。

鈴木里沙(すずき・りさ)
神奈川県出身。2000年、扉座研究所に第4期生として入所。2001年、扉座入団。以来、主な扉座公演に参加。2003年~2005年にはGIRL’S MUSICAL TEAM「東京メッツ」に参加。外部公演にも積極的に参加し、活躍の場を広げている。

福圓美里(ふくえん・みさと)
東京都出身。声優、俳優として活動。『スマイルプリキュア!』星空みゆき/キュアハッピー役をはじめ、『僕のヒーローアカデミア』のトガヒミコ役などの人気キャラクターを多数演じる。主な出演作に、JACROW #37『骨と肉』、あやめ十八番 第16回公演『雑種 小夜の月』など。

公演情報

劇団HOTSKY『ミカンの花が咲く頃に』2026

日:2026年3月18日(水)~22日(日)
場:座・高円寺1
料:一般5,000円
  ペアチケット[2枚1組]9,000円
  学生2,500円 ※要学生証提示
  (全席指定・税込)
HP:https://hotskystaff.wixsite.com/gekidanhotsky
問:劇団HOTSKY
  mail:hotskystaff@gmail.com

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