
イギリスを拠点に活動する新進気鋭の劇作家 レイチェル・ガーネットの密室会話劇『スタンダード・ショート・ロングドロップ』。19世紀のイギリスに実在した死刑執行人を題材にした本作の登場人物は、馬泥棒の罪で捕らえられた青年のラドリーと自分の罪や過去を多く語らないアリスターの、死刑囚2人。同じ牢獄に投獄され、その時を待ち続けていたある日、ラドリーはアリスターの死刑執行人を務めることを条件に、自身の死刑判決を免除されるという内容の取引を持ち掛けられる、という物語。
日本初演となる二人芝居に出演する松田洋治と松田凌、演出を務めるタカイアキフミの3人に話を聞いた。
―――まずは、オファーが来た時の心境を教えていただけますか。
洋治「これまで何度も二人芝居をしましたが、今回は“意味がよくわかる二人芝居”で良かったなと思いました。それと初めて台本を読んだ時、最初に浮かんだのが、『BENT』という芝居だったんです。『BENT』は別に二人芝居ではありませんが、主要人物のマックスとホルストの印象がすごく残る芝居なんです。『BENT』に出演したいと昔から思っていたんですけど、なかなか出来る機会がない中で、『スタンダード・ショート・ロングドロップ』を読んだ後に『BENT』が出てきて。「お前、『BENT』よりこっちをやっておいた方がいいよ」と上から師匠の青井陽治さんが言っているような気がして、すごく楽しみになりました」

凌「正直に嬉しかったです。二人芝居に近いような作品の出演はありますが、舞台上で2人だけという作品は初めてです。自分が経験してない作品でもあるし、洋治さんやタカイさんをはじめ、皆様初めましてということもあって、そういう場所に飛び込んでいくこと、そして知らない世界を経験出来ることが、僕にとって一番嬉しいことの1つです。
台本を読んで自分が惹かれるものが多かったので、『ぜひやらせていただきたいです』とお話をさせていただきました。宿命的、と言うとちょっと大きな表現になりますが、出会うべくして出会った作品じゃないかなと思っていますし、役者として、人として、惹かれるものがあるのかもしれないと思って、参加させていただくことが出来て嬉しいと思っています」
タカイ「まずこの戯曲を翻訳家が見つけてこられたみたいで、今回の戯曲に僕が合うんじゃないかということで、プロデューサーからお話をいただきました。読ませていただいたら『あぁ、なるほどな』と腑に落ちたというか、僕が普段新作を書く際に大切にしている“切実さ”と“その切実さの裏にあるユーモア”が表裏一体な感じがこの戯曲にはあって。おふたりの力をお借りして初演が出来たらと思いましたし、19世紀のイギリスを描いていますけど、今もまだ死刑制度が残る日本において、上演する意味があるんじゃないかと。そして日本初演となる本作を任せていただけるのであれば、ぜひやりたいと思ってオファーを受けました」
―――あらすじだけでも面白そうなストーリーだなと思いましたが、皆さんは台本を読んでどんな感想を持たれましたか。
タカイ「人間がしっかりと描かれていると思いました。彼らがいる環境は本当に劣悪で起こることは悲劇ですけど、ただただ悲しいものを悲しいと見せるわけではなく、いかに人間らしく描くかということをこの作家さんは描かれていますし、そこに僕たちもチャレンジすることが出来るのが、今はとても楽しみです」
洋治「僕の偏見と言ってもいいかもしれませんが、『実にイギリスらしい戯曲』だなと思いました。アメリカの戯曲とは違う、イギリスの匂いがすごいするなという感じが一番大きいですね」
凌「僕も洋治さんとほぼ同じですね。イギリスに憧れを抱いていた少年期を過ごしていたこともあって、決してイギリスの知識が豊富なわけではありませんが、僕もその匂いをすごく感じました。それに演じる役者さんや演出される演出家さんによってだいぶ印象が変わる作品だなとも感じました」

―――洋治さんと凌さんのお互いの印象についても聞いてみたいです。見たままになりますが、“同じ苗字”ですよね。
洋治「最近、松田が苗字の役者さんって多いよね。それこそ昔は優作さんぐらいしかいなかったんだけど」
凌「おそらく増えてきた中の1人です」
一同「(笑)」
洋治「(インタビュー時点で)まだ稽古が始まったばかりですけど、優しくて真面目な子だなという印象です。今のところは」
凌「怖いですね(笑)」
洋治「本格的に稽古が始まったらすごい意地悪になっているかもしれないし、セリフが詰まるたびに舌打ちされるかもしれません」
凌「そんなことないです!! 僕が初めて洋治さんとお会いさせていただいたのはビジュアル撮影で、その時からずっと感じているのが、すごくジェントルだなという印象です。人としても、役者としても、ジェントルな姿勢というのは、僕が幼少期にイギリスに憧れを持った1つの理由でもあるんですよね。そういう印象がとても素敵な方だろうなと今も思っています」
洋治「もし二人芝居で2人の仲が悪かったら、想像しただけでも怖いよね(笑)。我々が知っているような昔の芸人コンビの中には、ある種完璧なお芝居に近いものをやっているけど、実は仲が悪かったという話をよく聞きます。例えば二人芝居でも、“仲の悪い二人芝居”だったらまだいいけど。でも凌くんは本当に好感度があって安心しました」
―――二人芝居の魅力とは何でしょうか?
洋治「舞台の出演人数は2人がミニマムだと僕は思っています。お芝居は“相手がいてなんぼ”で、キャッチボールでもあるし、やり取りが出来るのがお芝居かなと。落語をやるというのであればアリかもしれませんが、僕は相手役とのやり取りが楽しくて、ぎゅっと凝縮される究極の形が二人芝居だと思っています」

タカイ「僕も洋治さんと一緒のことを考えていました。社会の最小単位が2人だと思っていて、その2人が対極な立場になったり、同じ方向に向いたりできるのが、二人芝居の魅力ですし、最小公倍数的な面白さがあるかなと思います」
凌「二人芝居は何度か観劇していますが、僕も皆さんとほぼ一緒です。例えば、めちゃくちゃキャッチーで、ポップな二人芝居というのはあまり想像出来なくて、お芝居を楽しめる一番の形の1つだと思うんです。いろいろな作品の枝葉はありますが、この1つの最たるものが数なのか、凝縮された空間お芝居なのか、きっとこれから知ることとなると思います。そういったものが一番の魅力の1つとして皆様に届けなければいけないという責任と期待が入り混じっています」
―――本作の見どころや注目ポイントを教えてください。
洋治「普通はお客さんに楽しんでいただくんですけど、いい意味で『嫌な芝居だな』、『疲れたな』と観終わった後にグッタリして欲しいかも」
凌「すごくわかります! 『疲れたい時』ってありませんか?
それは物理的な疲れたいということではなく、例えば失恋した時に失恋の曲を聴くとか、泣き疲れたら晴れやかな気持ちになるとか、気持ちが沈んでいった先が仮にコンクリートの地面だとしても、意外とそのコンクリートって温かかったりもするじゃないですか。きっとこの作品を観ればそのような感覚を味わえると思うし、味わって欲しいですし、観終わったらぐっすり寝られるんじゃないでしょうか」
タカイ「多分“嘘のないもの”になるんじゃないかなと思っています。戯曲上には嘘だったり、本当だったり、それがどうなのかわかんないこともたくさんあるんですけど、そういう意味ではなく、あまりニセモノが入り込める余地がないというか、ニセモノだと思った瞬間に全部バレる気がしていて。だから僕たちが真剣に向き合った結果が多分立ち上がる気がしているので、変に『ここはこうしておけば、お客さんが楽しんでくれるだろう』みたいな擦り寄りはなく、本当に僕たちが真剣にこの戯曲と向き合ったものがお届けできる気がしますし、嘘のない本物みたいなものがお届けできるのではないかと思ってます」
―――先程、洋治さんが「稽古が始まったばかり」というお話をされていましたが、今回の稽古では、とことんディスカッションをしてから進めていくのか、板の上に立ちながら進めていくのか、どういった形で進行していく予定でしょうか。
タカイ「実はこのインタビューが終わった後に、進行方針を決めようと思っていたんですよ」
一同「(笑)」
凌「最初に翻訳家の方も含めて、この台本のディスカッションを2日間ほどしたんですけど、皆さんとお話しした上でセリフやシーンの意図の共有が出来て、僕はすこぶる楽しかったです。早く立ち稽古をしたいなと早くしたいなと思いつつ、セリフ量が多いことによる恐ろしさも感じてるんですけど(苦笑)。今はとても楽しい気持ちです」

洋治「いろいろ解釈が出るのが楽しいよね。『えっ、そっち考える?』みたいな新たな発見があるし、あるセリフが1つ置き換わるだけでもちょっと印象が変わるし。でも、タカイさん的には『これは外したくないんだよね』と話してくれて、そういった擦り合わせってすごく重要ですし、とても楽しいです。
今回は二人芝居なので、きっと初めから立ち稽古をしていたら、めちゃくちゃ集中力と頭が痛くなるような出来事が起きて、長時間稽古は取れないと思うんですよ。9時間、10時間と稽古なんて出来ないだろうし、二人芝居ならではの稽古がこれから繰り返されていくのかなと思います」
タカイ「トライばかりしていくのと、ちゃんとディスカッションで埋めていくのと、両方の良さがあると思うんです。でもおふたりはしっかりと多くの作品に出演されている経験がありますし、ちゃんと会話ができる先輩方なので、僕としてはしっかりお話しすれば、あとはセリフが馴染んだら大丈夫なんじゃないかなって思います。いや、わからないですけどね」
一同「(笑)」
洋治「凌くんは、僕みたいなおじさんとセリフ合わせに付き合わされる時間が延々と長くなると思うので、きっと大変になると思います」
凌「大変だなんてとんでもないです。ぜひ、いつでもお付き合いさせてください!!」
―――ありがとうございます。では最後に、公演を楽しみにされている方に向けてメッセージをお願いします。
洋治「出演が発表になってから『二人芝居は大変だね』、『セリフを覚えるのも大変でしょう』と周りからよく言われるんですけど、そう言ってくれる方に『確かにセリフも多いし、覚えなきゃいけないし大変だよ。でもセリフを覚えることよりも、二人芝居で一番大変なことは、2人で客を呼ばなきゃいけないことなんだよ!!』と言い返しております(笑)。本当に大変なんですよ!
まず1人でも多く劇場に足を運んでいただきたいですし、特に若い世代の方々に、エンターテインメントではないストレートプレイのお芝居を観に来ていただきたいなと思います。ご観劇の特典として、間近に“東京スカイツリー”を見ることができます(笑)」
凌「今回2人だけのお芝居なので、なかなかお話自体も広まりづらいし、大きく謳うキャッチーな宣伝も出来ないと思うので、是非このインタビューを誰かに伝えて欲しいです。あらすじ・ビジュアルだけでなく、いろいろ方向から面白い作品なので、少しでも興味をお持ちになられましたら、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいですし、こういう作品があるみたいだということを周りの方にお勧めしていただけたらなと思います。
今回はすみだパークシアター倉さんという、ある意味“特殊な劇場”での上演となります。おそらく2026年最初の観劇になる方が多いと思いますが、新しい扉を開けるきっかけになればと思います。劇場にてお待ちしています」
タカイ「このカンパニーとこの戯曲を通じて、豊かな時間をお届けします。イギリス戯曲なので難しいのではと思ってもらう必要はありません。もちろんセリフの裏に書かれている深さは多分にあるんですけど、とはいえお客さんを置いてきぼりにするような物語でもお芝居でもありません。単純に楽しみにして来ていただければと思いますし、おふたりの芝居の熱をしっかりとお届けられるものになると思います」
(取材・文&撮影:冨岡弘行)

プロフィール

松田洋治(まつだ・ようじ)
1967年10月19日生まれ、東京都出身。5歳で子役としてデビューし、石井ふく子プロデュース作品や、ドラマ『家族ゲーム』、『深夜にようこそ』、NHK 連続テレビ小説『おしん』など、多数の作品に出演。主な出演作に、水戸芸術館プロデュース公演『世界のすべては、ひとつの舞台 ~シェイクスピアの旅芸人』、『ロミオとジュリエット』、舞台『赤塚不二夫スクラップブック』など。

松田 凌(まつだ・りょう)
1991年9月13日生まれ、兵庫県出身。主な出演作に、舞台『刀剣乱舞』シリーズ、『東京リベンジャーズ』シリーズ、映画『舞倒れ』、江戸川乱歩没後60周年記念作品「RAMPO WORLD」『3つのグノシエンヌ』、『追想ジャーニー リエナクト』など。

タカイアキフミ
1992年7月27日生まれ、大阪府出身。劇作家・演出家。個人ユニット「TAAC」主宰。主な演出作に、『ダム・ウェイター』、『狂人なおもて往生をとぐ』、『not only you but also me』、『金魚の行方』など
公演情報

スタンダード・ショート・ロングドロップ
日:2026年1月14日(水)~19日(月)
場:すみだパークシアター倉
料:S席[前方2列以内]8,500円 A席7,000円
U-24[24歳以下]4,500円 高校生以下1,000円
※U-24・高校生以下は要身分証明書提示
(全席指定・税込)
HP:https://spacenoid.jp/stage/04/
問:Spacenoid Company
mail:info@spacenoid.jp
