ドラマCDを起点に活動の幅を広げ、音と声による創作を行なう作家・二宮愛。ここ数年は、実力派声優による朗読とバンドの生演奏を組み合わせた音楽朗読劇を「リーディックシアター」と名付けてコンスタントに上演している。その最新作『THE∞×Family』は、音楽が溢れるアイリッシュパブ「ジ・エイト」を舞台に繰り広げられるファンタスティックでファンキーな物語。
2月に上演される『THE∞×Family team.Future』を皮切りに、4月、6月と続く三部作となっている。今回は『team.Future』の話題を中心に二宮へメールインタビューを実施。彼女の作品のファンなら期待が膨らむこと間違いなしのコメントをたっぷりと綴ってもらった。
音楽朗読劇=リーディックシアターの強みを再確認できる作品
――『THE∞×Family』の原案は、生沢佑一さん(1990年代から活動するシンガーソングライターで、2015年にはアニメ『妖怪ウォッチ』の主題歌「ゲラゲラポーのうた」に参加)によるものだそうですが、そもそもどのようにして始まった作品なのでしょうか?
「かれこれ5年以上前になりますが、オリンピックに向けて『海外の人も楽しめる、ジャパニメーションから飛び出て来たキャラクター達が経営している(という設定の)お店を作りたい』というお話を生沢さんから頂きまして、世界観やキャラクターを作るお手伝いをしました。
残念ながら、その企画自体は無くなってしまったのですが……どのキャラクターにも愛着があり私の方から生沢さんに『もし良かったら、このキャラクター達を使って朗読劇を作らせてもらえないか』とお願いをしました。『好きにやってくれて大丈夫だよ』と快く了承頂き企画を進めていたところ、今度は生沢さんの方から『魅力的な作品なので朗読劇に関わらせて欲しい』と連絡があり……それならば、と「原案」という形で入って頂くことになりました。
「THE∞×Family」は最初に決めたキャラクターの名前や設定を大きく変えておらず、やっぱり生沢さんのお話があったからこそ、私もこの子達を産み出せたので…作品のパパとして、いてもらえて安心しています。作品の雰囲気にバッチリな主題歌も作って頂き、とてもとても感謝しております」
――三部作というスタイルも最初から想定されていたのですか?
「そもそもの作品コンセプトが“お店”だったこともあり、チームを分けるという想定は一切していませんでした。ただ、朗読劇として物語を構築するにあたり8名ものキャラクターのエピソードは1回の朗読劇では消化しきれないので、今の形になりました。三部作、ではありますが、何処のチームのお話を観ても楽しめるようにしています。また、今後はチームの垣根を越えてキャラクター達が活躍出来るような展開も考えています」
――タイトルや登場人物の名前など「F」づくしです。その理由を尋ねるのは無粋かもしれませんが、観客の皆様がより楽しくなるようなヒントというか、ネタ元などをお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?
「血の繋がらないギャングのファミリー……ということで、国籍も年齢もバラバラなので、何かお揃いのものを用意してあげたかったんだと思います。作品のコンセプトもあり、また朗読劇ということで、見た目というよりは耳から聞こえて来るものがお揃いの方が良いかなと思い“F”だらけにしました。
あとなんとなく“ファ”って音階的に真ん中っぽいな…とか(笑)。作品の中でジ・エイト以外のキャラクターも登場するのですが、名前の頭文字がEだったりGだったり……“Fに届かなかった、または通り過ぎてしまった”というイメージで名前を付けたりもしています」
――物語の舞台がアイリッシュパブで、店で働くファミリーの人数が7人=7音階、そこにやって来る少女の名前が「ドレミ」というように、音楽を直接的にイメージさせる要素が散りばめられています。公演のキャッチコピーにも「音塊揺さぶる~」という言葉があります。音楽(音)というモチーフを、より前面に出してきた狙いがあれば教えてください。
「作品の構想は、リーディックシアターの1作目である『I’m ふたりぼっち』が終わった頃からありまして(生沢さんに朗読劇として作らせて欲しいとお願いしたのもこの頃です)、やっぱりせっかくの生演奏だし、音楽主体の作品を作りたいなぁという気持ちが初期の頃から強かったんだと思います。
前作の『お憑彼サーカス』シリーズは、主人公のフィリップがモンスターも舞台上の音楽すらも自在に操ってしまうという設定だったのですが『THE∞×Family』はその部分をさらにレベルアップさせて“全キャラクターを音楽に紐付けること”に重きを置きました。声優さんの声に合わせてキャラクターの担当楽器が鳴る……という試みも今作が初めてですが、生演奏でやるからこその表現で、リーディックシアターシリーズの強みを私自身も再確認出来る作品になっているんじゃないかなと思います」
思いを込めてキャスティングされた実力派声優達
――パブのオーナーで、ストーリーの中心人物として三部作全てに出演するフレディー役を中尾隆聖さんが演じます。中尾さんと言えばたくさんの代表作をお持ちですが、今回はどのようなイメージで起用されましたか?
「実は中尾さんの舞台の立ち姿、お芝居の雰囲気がとても好きで、私の作品のキャラクターをお願いするとしたらダンディーなおじさまがいいなって…長年の夢でした(笑)。渋さと可愛さが共存されていて、フレディーのイメージそのままなんです。あとはやっぱりみんなの愛すべき敵キャラだったり、絶望感を取り巻く悪役だったりするところから“ダークヒーロー”という設定は外せないな……と。フレディーは子供達、次の世代に音楽を託して繋いでいくというキャラクターなのですが、中尾さんはお芝居をしている時すごく楽しそうで、一緒にお芝居をしている方も幸せそうなんです。それを生で見せて、聞かせてもらえるなんて、こんなに素晴らしいことはありません」
――2月上演の『team.Future』には、ドラマCD『停電少女と羽蟲のオーケストラ』でも好演された下野紘さんと山口勝平さんが参加されます。それぞれが演じるキャラクターとの関連性や、お二人の魅力について教えてください。
「『停電少女と羽蟲のオーケストラ』の橘というキャラクターで下野さんとは初めましてで、それがもう13年前とかになりますね…ドラマCD原作という若干ニッチな媒体で、本編も2~3年ぐらいで完結しているのですが、ご本人も、下野さんのファンの方も未だに記憶に残っている作品だと言ってくださって、大切にしてくださって……嬉しいです。作者冥利に尽きます。
今の下野さんは有名人過ぎて、近付くことすら恐れ多いのですが(笑)ご本人はいつも気さくで若々しく、出会った頃と何も変わっていなくて、逆にすごいなって。朗読劇原作の『THE∞×Family』では、橘とはまた別の命をしっかり吹き込んでくださると信じています。橘はあてがきじゃないんですけど(当時は下野さんのことをほとんど知らなかったので……)フミヲは完全に“下野さんの声がするキャラクター”だと思って書きました。ザ・主人公的な元気印の男の子ですが、それだけじゃ終わらないので……そこをどう演じて頂けるのか、今から楽しみです。あと、実は勝平さんも中尾さんも下野さんの大好きな方々で、熱烈ラブコールをしていたので同じチームにしてあげました……感謝してください(笑)。
勝平さんとも初めましては『停電少女と羽蟲のオーケストラ』だったのかな……多分。私の作品にほぼ出演くださっている、恐れ多くも実家のような安心感がある声優さんです(笑)。私は勝平さんに“似たようなキャラクターをお願いしない”という謎のルールがありまして、勝平さんも私の作品に出てくださる時に『なにかひとつ特殊なことをやるって決めている』と仰ってくださって……フルフルは“ヒキコモリ毒舌誰にも心を開かない系ぼっち”という絶対的に勝平さんにお願いしないだろうというキャラクターを持ってきました。ただ、フルフルは絶対勝平さんじゃなきゃダメな理由がありまして、それは公演を観て頂けると、なるほどなと納得して頂けると思います。相当な無茶振りをしました……(笑)。
『停電少女と羽蟲のオーケストラ』で、下野さん演じる橘と勝平さん演じる橙馬は太陽と星のような関係性で「家族になれず、想いが通じず、すれ違ったまま散る」キャラクターでした。お互い分かってるよ、大丈夫だよって、周りのキャラクターも、お客様も知っているのに、それを伝える術は無い……という、世界の理のようなものを現したような関係性で、私の作品における下野さんと勝平さんって仲良くなれそうでなれないので……(笑)『team.Future』でも苦労すると思いますが、そこは乞うご期待!! です。
――フレディーと同じく三部作全てに登場するドレミ役は明坂聡美さんが演じます。彼女も二宮作品への出演歴がありますが、今回の起用の狙いを教えてください。
「『ゴミ溜めPEACE』という作品で、カレンというお掃除ロボットな女の子を演じて頂きました。洋画の吹き替えのようなドラマCDを作ろう……という企画で、ただそこに「異物」を入れたくて、それが明坂さんにお願いしたカレンです(笑)。『THE∞×Family』でも少し“異”の香りがしたり、全キャラクターとがっつりと絡む重要なポジションをお任せしてしまって……緊張するーと毎回言わせてしまっていますが、若くて可愛いだけじゃなく、お芝居にかける情熱が好きで、お声掛けさせて頂きました。
そして実は、明坂さんには私から直接お願いしてしまったこともありまして……どうしても今作でやりたかったことなんですが、これをやってくださる声優さんは、ほぼいないんじゃないかな……なので、無理だったら早々に作品の根幹から考え直そうって思っていたぐらいです。この作品が存在する意味みたいな……重いんですけど……(笑)お客様と“音楽”を共有出来るようにドレミがいてくれるので、ぜひぜひ可愛がってあげて欲しいです」
キャラクター全員に楽器を割り当てる演出もポイント
――リーディックシアターの見どころ(聴きどころ)である生演奏について、編成や曲調など、今回ならではのポイントがありましたら教えてください。
「そうですね、今回はキャラクターひとりひとりに担当楽器があるっていうのは、ポイントかなって思います。たとえばフミヲは担当楽器がベースで、フミヲが中心になってお喋りをしていたり、お掃除をしているシーンでベースが鳴るんです。その楽器を中心としたアレンジで、おなじみの音楽が聞こえてくる、なんてこともあります。もし三部作全部観てくださる方がいらっしゃったら、多分“この曲、あの時の……!!”と驚いてくれるんじゃないかな。
あとはキャラクターの楽器に対する想いも物語のキーポイントになっていますので、フルフルのキーボードも一筋縄ではいかない感じで、面白い仕掛けになっていると思います。『team.Future』は“未来に向けた音楽”がテーマです。ベースとキーボードが主役ですが、ドラム、サックス、ギターといった他チームの楽器も全公演生演奏となっております。だんだん音が集まって、重なっていって…逆に一切の音を鳴らさず、声(お芝居)をとことん堪能して欲しいといった演出もあったり。生演奏だからこその適材適所、声も楽器になってしまう朗読劇になるように、作っていきたいと思います」
――4月の『team.Fancy』、6月の『team.Fight』まで含めると長い物語になります。この長さだからこそできることも色々あると思いますが、どんな気持ちで取り組んでいこうと考えていますか?
「それぞれ独立したお話ではありますが、3つのチームのお話を通して解決する事件もあるので、大切にバトンを渡していきたいなって思っています。『team.Fancy』はフレディーの過去を中心に、そこにフータローとフランソワが関わって来て。『team.Fight』は家族、音楽の在り方を中心とした、ラストに相応しい物語となっています。ただ『THE∞×Family』は基本的にスカッと出来るお話なので(当社比ですが・笑)後半に行く度に重くなると気を張らず、笑えるシーンも、ほんわかするシーンもありますので、ギャング達の日常を気軽に覗いて頂けたらと思っています。
私は普段、世界観から作品を作るので、キャラクターを先行して作った今作は今まで以上にキャラクターの癖が強くて……暴れん坊達で手を焼いていますが、朗読劇だから……と一日で愛情が冷めることなく、ずっとずっと大切にしてもらえるように、彼らの生き様をしっかりと描きたいと思います。もし『team.Future』を観て“続きが気になるかも”と思ってくださった方がいましたら、残りの公演にも興味を持って頂けたら幸いです。どうぞよろしくお願い致します」
(取材・文:西本 勲)
プロフィール
二宮 愛(にのみや・あい)
音と声の世界を愛する作家として、ドラマCDから展開される作品を多く発信。作詞、漫画原作、舞台やゲームのシナリオなど活動の幅を広げる。
主な作品に、ドラマCD『Are you Alice?』、『停電少女と羽蟲のオーケストラ』、朗読劇『錻力のマリ・アンペール』、音楽朗読劇『I’m ふたりぼっち』、リーディックシアター『お憑彼サーカス スターダストビオレット』、『お憑彼サーカス スターダストビオレット』、『お憑彼サーカス 心音スノードロップ』などがある。2月11日には『〜心音スノードロップ』のBlu-rayが発売予定。
公演情報
リーディックシアター『THE ∞ × Family team.Future』
日:2022年2月13日(日)13:00/17:30開演
場:恵比寿 ザ・ガーデンホール
料:特典付き指定席16,500円
指定席8,800円(全席指定・ドリンク代別・税込)
HP:http://re-no.co.jp/8mf/
問:レノ mail:readictheate@re-no.co.jp