おぶちゃの大部恭平が新作を書き下ろし、上演するという。ここしばらく旧作の再演やイベント的な特別公演やリーディング、ダンス公演などが続いたので、ファンにとっては探訪の新作になるはずだ。主演にはアイオケのメンバーとして活躍する“じん”を起用。これまでに本公演への客演のほか、さまざまな公演に出演し関わってきた彼女だが、今回は大部とガッツリ組み合って作品作りに参加しているという。
さらに今作では音楽を音楽監督の西山宏幸が率いる5人編成のバンドが引き受けるという。なんとも贅沢な話じゃ無いか。おぶちゃらしいユニークさ満載の新作公演。大部とじんに話を聞いてみよう。
―――『Gemini Notes,Gemini Lines』。さて、どんな作品ですか?
大部「久しぶりの新作です。主演がじんちゃんだということは今年の1月ぐらいには決まっていましたが、主演としてガッツリ向き合うにあたり、何をやりたいかを聞いて、そこで得たヒントから僕なりの会話劇を作れたらなと思いました。また彼女が参加しているアイオケも、プロの奏者が在籍するグループで音楽との親和性が高い活動をしているので、生演奏の会話劇に行き着きました」
じん「大部さんの作品は『LALL HOSTEL』(2023)と『Bittersweet Flowers』(2025)。に出ていますが、それ以外でも声を掛けてもらっています。脚本・演出家の方とお話しする機会ってなかなかないのに、大部さんには作品のことだけでなく、それ以外についても話せるんです。凄く気にかけてくださっていて、 一人ひとりを役者以上に人として見てくださっているっていうのが印象的でした。だからこれからもずっとご一緒していきたいな、ついていきたいなって思える存在で、ご一緒できているのが嬉しいです」
大部「彼女は人柄や役者としての能力だけでなく、地元と誕生日が近い(笑)。座組にいてくれると非常に頼りがいがあるので全体を見る役を求めがちでしたが、今回はそれを越えて、じんちゃんが主演だったからこそ実現できた作品だった、といえる仕上がりにしたいです」
―――さらに今作には生演奏が入ります。これもユニークですね。
大部「その前にタイトルの話をしたいのですが、僕は長ったらしい英語タイトルをつけがちで今回は『Gemini Notes,Gemini Lines』としました。“Gemini”は双子ですね。そして“Notes”はCDアルバムのライナーノーツ、あれがすごく好きなんです。音楽好きな父親の影響ですね。それで今回じんちゃんの話を聞いて物語を書くのも、ある意味ライナーノーツ的な部分がある気がしました。その人の裏面を1度見て表面を作る工程だったりするわけで、そこを知れるのってすごく良いなと思います。
今回はこの物語にも音楽を使う意味として、このライナーノーツ的な部分がいわゆる“ストーリー =僕の脚本”になります。双子の話にしてみようと思ってるんですけど、双子が歩んできた軌跡みたいなものが 旋律=ラインズになるといいなと」
―――その旋律はユニゾン(同じ音)では無いかもしれませんよね。
大部「そうです。いわゆる双子と聞いて思い浮かぶのは同性の一卵性双生児だと思いますが、実はそうじゃない双子がいるわけで、そこで今回の作品ならではの 家族像みたいなものを作れたらなって思ってます。3年前に『葬送曲』という作品で自分の半生を演劇にしてみたんです。その時も結構音楽を取り入れましたが、ちょっとシリアスすぎてしまったので、今回は温かみのあるようなものを大事にしたいと思ってます。音楽を取り入れていいことは、どうしても出てくる現実的な残酷さを、音楽が超越、飛躍してくれるところだなぁと感じてます」
―――そんな話を聞いたじんさんの印象は?
じん「今回は企画段階からお話をさせていただいて、タイトルを決める時も一緒でしたが、よくこんな素敵ものを思いつくな、と感動したしワクワクもしました」
―――もちろんじんさんが歌うシーンも盛り込まれるんですよね。
大部「すでに数曲出来てます。音楽監督の西山さんがとにかく仕事の早い方なもので。でもミュージカル的にではなく、人間の生きる営みの一部として歌うみたいな落としどころを考えたいです。上手い歌を聴いてほしいっていうよりも 心が乗っている状態がずっと続いているという状態にできるといいなと思ってますね 」
―――生き様をみせつける歌になりそうですね。今回は生バンドをバックに歌うわけですね。
じん「アイオケでもクラシックイベントというのがあって 楽器組の生演奏で歌う機会はあるんですけど、バンド形式に乗せての歌は初めてです。ドキドキです。贅沢ですよね」
―――音楽担当の西山宏幸さんはどんな方でしょう。
大部「大先輩だし、以前は劇団(ブルドッキング・ヘッドロック)を主宰されていたり。脚本を書けて音楽も作れて、さらに演者もやる希少な方です。僕自身も結構いろんな立場を股に掛けるタイプですが、西山さんのようなケースの方とお会いしたことはなかなかないです。今回も一緒にやりたいと結構早めに伝えましたね」
―――さて、話は戻りますが、会話劇なんですよね。
大部「会話劇です。音楽を沢山盛り込むと途端に音楽劇という冠がつきがちですが、それはちょっとイメージが違います。フラットに見てほしいというか 音楽を堪能したい人もいれば 物語を堪能したい人もいていいんじゃないかと思うから、会話劇としてまずは作ります」
―――座組のメンバーは大部さんからのオファーか、オーディションからの参加か、どちらでしょう。
大部「半々ですね。でもオファー組もまだおぶちゃに出たことのない人をなるべく選んでいます。しかも今回はじんちゃんがオーディションにも立ち会ってくれました。そういうのもなかなかないですね。別に審査するわけではないですが、一緒に経緯というか、座組を作る根っこから共有できました」
じん「今までいつも受ける側ですから、審査する側が気になる部分の発見がありました。皆さんがこの作品に賭けてくれてることが伝わってきました。こんな素晴らしいキャストさんたちの主演を張るという責任感を同時に感じているところです」
―――それはいい経験になったはずですが、そんなお2人からメッセージをお願いします。
じん「この作品は自分にとって初めての経験をさせてもらってます。そして自分の人生も織り込んでいますから、ちょっと苦しいところもでてくると思います。今までとは違った気持ちで 取り組んでいきたいので、そういう苦しいところも 皆さんに観てもらい、新しく気づいていただければ良いなと思います。また、会話劇だけど音楽も盛り込まれているので比較的観やすいと思います。たくさんの方に観ていただきたいなという気持ちです」
大部「おぶちゃは9年目になりますが、気づいたらイベントも含めて相当な数の公演をしてきました。でも今後は小劇場とかで一生懸命何かをやれる機会というのも少なくなる、限られてくるという感覚があるんです。そう考えていくと今回は大切な1作品になります。だからこそお客さんの心に確実に残る作品にしますので、ぜひ素敵なキャストと演奏者さんたちのパフォーマンスを劇場で体感していただけたら嬉しいなと心から思います」
(取材・文・撮影:渡部晋也)
プロフィール
大部恭平(おおぶ・きょうへい)
神奈川県出身。俳優としてキャリアをスタートさせ、脚本・演出家としても活躍するようになる。2017年に個人企画ユニットとしておぶちゃを立ち上げる。以降、おぶちゃの全作品で作演出・プロデュースを担当するほか、『ほむら先生はたぶんモテない』(演出)、『今夜、きみの声が聴こえる』(作・演出)、『サトラレ the reading』(作・演出)など外部作品も多数手がけている。作風としてリズム感のある台詞回し、人間味、温かみのある雰囲気・空間づくりの演出に定評がある。
じん
神奈川県出身。高校卒業後に、『アリス~不思議の国の物語』におけるチェシャ猫のミーシャ役で舞台デビューを果たす。2017年に「アイドルオーケストラRY’s」(現・アイオケ)のメンバーにボーカル担当として加入する。2020年から2024年まで浜松オートレース場のイメージガール「浜松オート レースヴィーナス」の7代目として活躍。おぶちゃ作品は2023年の『LALL HOSTEL』が初舞台。
公演情報
おぶちゃpresents『Gemini Notes,Gemini Lines.』
日:2026年1月15日(木)~18日(日)
場:萬劇場
料:SS席[特典付]9,900円
S席[特典付]7,700円
A席 特典付6,600円
特典なし5,500円(全席指定・税込)
HP:https://ofcha.biz/gngl
問:おぶちゃ mail:staff@ofcha.biz