盟友でありながら今回初タッグを組む制作陣と贈る 演劇に真正面から取り組む2人が、恋愛をテーマにした作品に挑む

 2.5次元舞台からストレートプレイまで幅広い舞台を手がけ注目を集める演出家 田邊俊喜が、昨今ではテレビドラマの脚本でも脚光を浴びている谷碧仁と初めて組んで2人芝居を創り上げた。谷にとっては初めて“恋愛”を扱ったというこの作品に挑むのは、田邊をして“演劇怪獣”と言わしめる生駒里奈と小松準弥の2人。否応なしに濃密になるこの作品『バイアス』について、4人に語ってもらった。


―――この作品『バイアス』ですが、これはもともと田邊さんの企画ですよね。まず脚本に谷さんを選んだ理由から伺います。

田邊「自分がやりたいものを自分で創りたい気持ちがすごく増してきました。やりたい事をやりたい人とやりたいように。そう考えたときに、ずっと頭の中にあった谷さんの脚本を演出したい、このタイミングだ。そう思いました。今年のお正月ぐらいの話で、ちょっとカフェで話したんですが、そこで二人芝居をやろうとなりました。誰に出てもらおうと考えたときに浮かんだのはこの2人で、生駒さんと小松さんでした。だからこの3人は僕の夢を叶えてくれた面々なんです」

谷「としくん(田邊)がやりたいことがあるってことで話をしました。僕は自分の劇団をやっていますが、そこで書くものとは違う形を考えたときに出てきた案が二人芝居。2人というミニマムな世界での物語は描いたことがなかったんです。もう1つは“恋愛”というワードで、としくんに恋愛を描いて欲しいと言われたのが始まりです。そんなオファーをいただいて、嬉しい気持ちよりも先に、どうやって描こうかなという気持ちが強かったです」

―――お2人の出逢いは15年前に遡るそうですが、いままで一緒に作品創りはしてこなかったんですか。

谷「僕等は事務所の養成所で同期だったんです。その当時は2人とも俳優志望で、そのうち僕が劇団を始めて脚本・演出にシフトしていきました」

田邊「虚飾なく365日のうち350日は、彼の家で養成所の台本と課題を読んでたし、一緒に映画を観てました。そんな感じでまず2年間。そこから13年です。まず碧仁(谷)が自分で劇団を作って、自分の表現を突き進んで磨いていくことになって。その時はショックでした。俳優もうやらないのか。そっち側に行っちゃうのかというね。でも本当に楽しそうで。そして気付いたら僕もそっち側にいってました。出会って15年間、面白いものでお互い全く別々の道を進んでいる中で、周りから色んな“谷碧仁”を聞くわけです。その度に嬉しい気持ちや誇らしい気持ち、こっぱずかしい気持ちにもなってました」

―――そんな関係性だったんですね。それで15年経ってようやく一緒に作品を創った。

田邊「どのタイミングで一緒にやるかをすごく考えちゃって。やっぱり自分でやりたい時に自分の企画でっていうのがありましたね」

―――こうして生まれた作品を託す2人の俳優が生駒里奈と小松準弥。田邊さんは“演劇怪獣”と称してますが。

田邊「変な2人なんです(笑)。二人芝居という話が出て頭に浮かんだ理由は、もう直感ですね。色々な俳優さんと仕事をしてきましたが、ここはこの2人でした」

―――生駒さん、小松さん。直感だそうですが、いかがですか。

生駒「出会ったのは去年の7月で『青野くんに触りたいから死にたい』という朗読劇でした。アイドルとしてデビューして、タレント・俳優という肩書きはあるけれど、才能があるかどうかもわからないし、それでも諦めが悪いので何とかしたいともがいていた時期でした。そんな時に声を掛けてもらって、私はこのために頑張ってきたんだなって思えるぐらい、田邊さんはいろんな言葉をくれました。名言集が出来るくらいにです。あるときなんか、それは『青野くん……』の稽古1日目で、初めて通したのにとしさんがむちゃくちゃ泣いていたんです。それにはびっくりしました。そこまで読み込んでいるんだと思って。あと終わった後のダメ出しで、としさんは『ありがとう』って書いてたんです。そんなのを見て、あ、好きだなこの人、と思ってそこからすごく仲良くなりました」

小松「なんだか素敵な関係ですね。僕は田邊さんと2作品でご一緒しましたが、本当に褒めてくださって、そこに信頼の気持ちを感じました。印象に残っているのは、僕のお芝居を観た後に、『自分が俳優辞めてよかったわ』、みたいなことを言われたことですね。田邊さんが求めたものを出せたのかな、と感じました。自分の力だけではなく、環境作りや演出、作品に向かうベクトルが一致していたからこそ、僕もそれだけのお芝居ができたのだろうと思います。その時の感覚っていうのは今も覚えてます。だから今回お話いただいた時はすごく嬉しかったですし、これから解決しないといけないことは多くても田邊さんとなら大丈夫だろうと感じています。生駒さんとご一緒するのは初めましてですけど、『いつか一緒にお芝居やりたいね』なんて話してたので、今回それが叶って嬉しいです。谷さんの脚本も、あちこちから噂を聞く度に緊張しますが、それ以上に楽しみですね」

―――この作品は“恋愛”を描くそうですね。

田邊「谷碧仁が描く“恋愛”を見たいと思った。そんな直感でした。別に“恋愛モノ”がやりたいわけでははなく、碧仁が思う恋愛を演ってみたい」

谷「概念として、世間一般では“恋”と“愛”を混ぜて“恋愛”という言い方をしますが、そこに昔から違和感を覚えていました。何故、“恋”と“愛”が混ざっているのだろうと。その漠然とした概念の“恋愛”とはナニカを知る為にも脚本を描き始めました。そしてその答えを端的に表す言葉は存在せず、登場人物2人が互いの関係性の中で揺れ動く気持ちや葛藤という”過程”こそがそのナニカなんだと思い始めました。ですのでお客様には、その”過程”を見て貰い、お客様だけの「恋愛とはナニカ」を見出して頂けたらと、今では思っております」

―――演出プランの目処は立っていますか?

田邊「もう“どやってやろう?”って感じ(笑)。まぁ楽しく頭が悩んでくれてます。挑戦状を叩きつけられた気持ちというか、演出家としては本当に腕が鳴りますね。しっかりと読み込んで挑みたいなっていう気持ちになる、夢が詰まった戯曲です」

―――脚本を読まれてお2人はどんな印象を?

生駒「“どやってやろう?”ですね(笑)。大好きな谷さんの脚本でできるなんて、これができたら絶対自分は1つ上に行けるんだと思ってます。恋愛は自分もそれなりに30年生きてきて、わからない感情でもないですしね。でも今の自分はお仕事が好きなので、それを通して恋愛ができることが好きなんですよ。私生活の恋愛よりも、お芝居でやる恋愛がすごく好き。だからこういった人生経験を自分の中に落とし込める嬉しさがありますね」

小松「むしろ一体どうなるのかなって思います。脚本を読んでさらに稽古場に臨んだ時に、色々なサプライズが起きると思いますが、どうなったとしても、良い作品になることは間違いない。そういう気持ちはあるので、しっかり準備して臨むのみだなって思ってますね。恋愛について、脚本を読むと狂気じみた部分も生まれていると思いました。相手を想い過ぎていて、一歩引いてみるとぶっ飛んだことをしている。でも当人はそれが正しいと思って行動している。そういうところを、しっかり読み解いて準備したいですね」

―――それにしても、濃密な会話劇になりそうですね。

生駒「すごいセリフ量です。シェイクスピアかと思った(笑)。毎晩音読して寝ます(笑)」

―――最後に、皆さんからのメッセージをお願いします。

生駒「30代1発目で来年はデビュー15周年。すごく大切な1年になりそうだなって思いますし、ファンの皆さんに『生駒は俳優になっちゃった!』と思っていただけるような作品にしたいです。『バイアス』という作品が本当にいろんな人に、観たお客さんの中で言い争いが起こるくらい、いろんな見解で観てほしい。乞うご期待です」

小松「恋愛っていろんな人の中にいろんな感覚や答えがある。脚本を読んで自分自身でも考えましたが、自分と登場人物との答えも食い違う訳だから、そこをしっかり見つけていかなきゃいけないなと思っています。自分にとっても挑戦で、登場する2人の気持ちに全力で向き合っていきたいです。この作品を通して僕自身も人として勉強したり、新しい知識や感覚を得るのかもしれません。観ていただいた方が抱くその感情・感覚を大切にしたいと思ってもらえるような作品創りをしていきたいと思っています。乞うご期待です」

谷「ご自身が感じたモノを、隣の人と合わせることなく自由に感じていただき、大切にしていただけたらと思います。よろしくお願いします」

田邊「演出家にとっての本番とも言える稽古がここから本格的に始まっていくんですけれども、全力で苦しみながら、逆に言うならば楽しみながら、大切に大切に深めていけたらなと思っています。皆さんにとっては来年1発目の観劇になるタイミングかと思いますので、まず1発目に選んでいただけたら幸いです。しっかりとお届けします。劇場でお待ちしております」

(取材・文:渡部晋也 撮影:平賀正明)

1/24~30は「全国学校給食週間」だそうです。
あなたが好きだった給食のメニューを教えてください。

生駒里奈さん
「もう給食も何年の話⁈ってなる歳になったなぁ。笑
私が特に好きだったのはソフト麺です! ラーメンの日もあったけど、給食のソフト麺は色んな汁に合うから和風から洋風まで色んな味が大好きでした。昔から少食の私でしたが麺類大好きなのでこの時ばかりはおかわりじゃんけんに参加しました。周りからはびっくりされた事を覚えています。」

小松準弥さん
「焼きそばとフルーツポンチが大好きでした。夏祭りのような特別感を感じることができて、給食に出る時は毎回心が躍っていました。すみません、ここにきて心変わりが……それ以上にカレーライスが大好きでした!(笑)焼きそばとフルーツポンチの記憶を思い返していたら、『どうにか大盛りのカレーライスを食べることはできないか』と葛藤していた小学生の自分を思い出してしまいました。自分でもよく作るくらいカレーが大好きになったのは、もしかすると給食のカレーライスが美味しくて、たくさん食べたいという気持ちを持ち続けていたからかもしれません。また懐かしい給食のカレーライスを味わってみたいです」

谷碧仁さん
「食パンとシチュー
シチューは単体で食べる物だと思い込んでいた中、友人からシチューに食パンを浸すよう勧められ、知らない世界と出会いました」

田邊俊喜さん
「きな粉揚げパンは給食界のスーパースターでした。彼が学校にやってくる日は、あの甘い香水の香りを教室に広げると、みんなの士気を一気に上げ、いつも静かなクラスも、その日ばかりはお祭り騒ぎでした。握手して欲しいと願いを込めた手で、幾度と争いあったおかわりジャンケン。あんなにも強くなりたいと、自分の無力さを嘆いたことはないです。おかわりジャンケン無敗のノー・デフィートマンの異名を持っていた高橋。元気にしてるかなぁ」

プロフィール

生駒里奈(いこま・りな)
アイドルグループ 乃木坂46のメンバーとしてデビューし、センターを務める。2014年からはAKB48でも活躍。2018年の卒業後は、ドラマや映画といった映像作品から舞台まで、幅広く出演。

小松準弥(こまつ・じゅんや)
ツキノ芸能プロダクション 新人養成プロジェクト「ツキクラ」メンバーとして活動を開始。劇団アルタイルの渋谷ヨウスケ役として、声優・CDデビューを果たす。2021年、『仮面ライダーリバイス』の門田ヒロミ/仮面ライダーデモンズ役でドラマ初出演。

谷 碧仁(たに・あおと)
2013年に劇団時間制作を旗揚げ。以降、全作品の作・演出を手掛ける。2020 年からは映画・ドラマのシナリオも手掛け、話題のテレビドラマも手掛けている。

田邊俊喜(たなべ・としき)
俳優養成所を経て、俳優として活動を開始。養成所の同期・谷碧仁とはそれ以来の盟友となる。その後、演出家に転身。2.5次元舞台からストレートプレイ、朗読劇まで幅広いジャンルの作品を手掛けている。

公演情報

二人芝居『バイアス』

日:2026年1月6日(火)〜11日(日)
場:新宿シアタートップス
料:S席10,000円 A席8,000円 B席6,000円(全席指定・特典付・税込)
HP:https://x.com/bias_stage
問:toshiLOG mail:info.bias2026@gmail.com

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