2015年に始動した劇団かもめんたるは、かもめんたる・岩崎う大が「主宰・原作・脚本・演出」を務め、かもめんたる・槙尾ユウスケ、もりももこ、土屋翔、野口詩央、宮下雄也の6名が在籍。
本作は岩崎う大による完全書き下ろしの新作コメディで、劇団メンバーに加え、ゲストに高佐一慈(ザ・ギース)、尾関高文(ザ・ギース)、成松修、平岡純米、平田敦子、酒井若菜を迎える。
旗揚げ10周年のオーラスを飾る最新公演に出演する岩崎う大、槙尾ユウスケ、酒井若菜に話を伺った。
―――まず「劇団かもめんたる」の主宰・う大さんに今回のテーマを教えていただけますか。
う大「『奇跡かな』というタイトルなので、奇跡について自分なりに思うこと、どんな小さなエリアにも奇跡が起こりうる、どんな些細なポイントに関しても奇跡が起こるという、この宇宙の仕組みみたいなことを表現できたらいいかなと思っています。奇跡と言うと壮大な感じはするんですけど、『実はこんなことも奇跡じゃないの?』みたいな感じに思える話にしたいです。インタビュー時点ではまだ台本は出来上がっていませんが、今のところ決まっているお話は、『かわず』というカエルの飛ぶ飛距離を競わせるという“架空”の競技です。でもジャンプの競い合いではなく、闘牛の様にカエル同士を戦わせるの方がいいのかな・・・・・・」
―――酒井さんが心配そうな表情をしていますが(笑)。
う大「既に酒井さんにはカエルが出ることを伝えてあります。『どうしてもカエルが出るのでお願いします』という感じで」
―――今回に酒井さんに出演オファーをしたのはどんな理由だったのでしょうか。
う大「昨年、朗読劇『美幸』で共演した際、今まで劇団かもめんたるに出てくれた方と比べて、違うパワーというか、激しいパワーではなく、気づいたら“酒井若菜ワールド”色に染まってるようなパワーを持っている方だなと思っていて、お力を借りれたらなと今回オファーしました」
―――酒井さんはこれまで朗読劇には出演されていましたが、本格的の舞台は約11年ぶりになります。う大さんからのオファーを受けた時はどのように感じましたか。
酒井「昨年の朗読劇でう大さんとご一緒した時に、『いつか劇団かもめんたる公演に出てくださいね』と言っていただきました。なので、実際にお話が来た時は、『やっと声をかけてくれた』という気持ちでした」
う大「そんな感じだったんですか?」
酒井「打ち合わせの時に言ったじゃないですか!」
(一同笑)
う大「オファーの話をしたら、『ちょっと考えさせてください』のような反応だったので」
酒井「もちろん二つ返事というわけにはいかなかったんですけど、『また舞台出演をすることがあるなら劇団かもめんたるがいい』『う大さんの元がいい』とは思っていました。でも、出演するにあたって、現実的な不安要素があったので、オファーを快諾する前に、う大さんとお話をさせていただいたんです。その時に、う大さんから『いつか劇団かもめんたるに出て欲しいとは思っているけど、別に今回じゃなくてもいい』みたいなことを言われました」
(一同笑)
う大「無理にハンコを押させるわけにはいけません。酒井さんのお話を聞いて“出演するに相応しいタイミング”が今回かどうかは言い切れないなと思ったんです」
酒井「そう言ってもらえたことで、私に対する期待は凝り固まった“何か”じゃないんだなと分かって、だったらむしろやってみよう、と気持ちが固まりました」
う大「これは“ゴリ押ししないのがいい”と思って、押すだけじゃなく、少し引いてみようというのが今回の戦法でした。話を冷静に聞いていたら、酒井さんが言っている“出るタイミング”が、まさにこの回じゃないのという空気感があって。きっと俺がズバッと言うより、一旦引いた感じで伝えれば、きっと酒井さんが自ら出演を決めてくれそうだなっていう感覚はありました。もし説得の方法が違っていたら、今回の出演はなかったと思いますし、既に僕には今回の成功が見えていたので、あの場はお互いのための駆け引きの場だったんです。1つの作品を作る時、いくつものハードルを超えていかなければいけませんが、酒井さんへのオファーが成功することが一番重要かつ大きな壁だったと千秋楽終了後に言えるといいですね」
―――ちなみに酒井さんは劇団かもめんたるの公演をご覧になったことがありますか。
酒井「観に行ったこともありますし、う大さんが毎回配信のURLを送ってくださるので、ここ数年の作品は全部観ています」
―――酒井さんから見た劇団かもめんたるの公演はどのように映っていますか。
酒井「独特ですよね。発想が面白いですし、劇団員さんのお芝居もクリアで。う大さんの演出がすごく細かいという話をよく聞くんですけど、う大さんの頭の中を具現化されている演者さんたちのスキルも良いなと毎回思います」
―――かもめんたるさんから見た酒井さんの印象も教えていただけますか。
う大「表現に度胸があるという印象です。出演オファーの話の時にも感じましたが、『出演する気持ちにならないとやれない』という思いをアプローチするのって、物事に対しての肝が必要だと思うんですけど、そういうことを実行出来る強さが、芝居にこそ出てる感じがします」
槙尾「劇団かもめんたるは好き嫌いがはっきり分かれると思うんですけど、毎回チェックして『面白い』言ってくださっていて、う大さんの書くものを楽しむ感性はすごく嬉しいですよね。なので、せっかく出ていただくんだったら、そういう方に出ていただくのがいいと思いますし、今回う大さんの書いた脚本を、酒井さんがどう演じて、う大さんがどう演出して仕上げていくのか、すごい楽しみです」
―――今回の会場は、第6回公演以来の本多劇場です。第6回公演は1日2公演のみですが、今回は5日間7公演で、本多劇場として2025年最後の公演となります。かもめんたるのお二方は“演劇人にとって憧れの劇場”とも呼ばれる本多劇場に対しての思いなどございますか。
槙尾「最初の頃に『いつか本多劇場でやれたらいいな』みたいな話をしたような気がするので、第6回公演が本多劇場になった時は、思ったより早く実現したなって感じでした。自分たちの劇団で本多劇場というのは、プレッシャーですし、すごく変な感じではあります」
う大「本多劇場は好きな劇場の1つなので、嬉しい気持ちはありますが、特別な思いというのはあまりないですね」
―――まだ台本がない段階ではありますが、本作の見どころや注目ポイントを、初めて観劇する方向けと常連さん向けに挙げていただけますか。
う大「今年が劇団10周年で、その最後の大イベントとしての本多劇場での本公演で、しかも酒井さんゲストで来てくれるっていうことで、最高傑作になるというお膳立てが全部揃い過ぎちゃっているんですよ。初めて観劇される方に向けて、野球で言ったら、9回裏ツーアウト満塁みたいでホームランが出るところを見たいですよね、みたいな話にしようと思ったんだけど、よく考えるとすげえピンチでもあるしな……」
―――わたしもそう思いました(苦笑)
う大「でも、そう思っていいかもしれないです。まだ台本が出来上がっていないので、もちろん三振する可能性もあるんですが、プレッシャーの度合いから言ったら、9回裏ツーアウト満塁の状態で、打席に入る『奇跡かな』くんがホームランを打てるかどうかというのを見届けて欲しいです」
槙尾「ドジャースなら大谷翔平選手が打席に回ってきたっていうことですよね」
う大「それでいいです」
(一同笑)
う大「常連さんに向けては、もちろん毎回最高傑作を狙っているんですが、今回も多分ホームランになるでしょうから、常連さんにはそのホームランの飛距離を観に来てもらいたいですね。初めての人は『ホームランだ!すごい嬉しい!!』。しかも常連の人も驚く飛距離と思っていただければと思います」
槙尾「まだ1回も観に来ていない人は、今回酒井さんが出てくださったりしますので、ぜひ観てもらいたいですね。それとお笑い芸人のザ・ギースの2人も出演します。いつもより笑いの部分もパワーアップしますし、酒井さんが出ることによって感動もパワーアップするんじゃないかなと思います。
常連さんの方はご存じかもしれませんが、今まで芸人さんをゲストに呼ぶことはありませんでした。それはう大さんのこだわりもあったと思うんです。それが第15回公演で、僕らと同年代で学生お笑いからずっと一緒にやっていたザ・ギースさんをゲストとして呼ぶということは、すごい新しいことだと思いますし、酒井さんのような“ザ・ヒロイン”のような方を中心に据えるのも初めてで、そういう意味で言うと、この布陣を見てめちゃめちゃ期待できると思うんですよ。
今までずっと応援してくださった皆さんのおかげで、今年で結成10周年を迎えたことに対しての感謝の気持ちもありますし、一緒にこの10周年の記念すべき本多劇場での公演を楽しんでいただければと思います」
酒井「私個人の話で言うと、約11年間舞台に立ってないので、どうなるかなという心配はあります。でも、かもめんたるのお2人をはじめ、いい仲間になってくださる方たちがたくさんいそうなので、みなさんの胸を借りながら演じたいなということですかね。それと、私は元々コメディがやりたくて俳優になったので、かもめんたるさんやザ・ギースさんがいる座組に加わる機会をいただけて、すごく嬉しいです」
―――酒井さんがコメディをやりたくて俳優になったというのは驚きです。
酒井「若い時はいろいろな作品でコメディをやらせていただく機会が多かったです。今もドラマや映画でもなるべくコメディを率先してやるようにはしているんですけど、当時は『酒井さんにお任せします』みたいなことが多かったんです。
常連の方たち向けのおススメポイントだと、この出演情報が出た時、“ついに!!”とか“出演を待望してました”みたいなリアクションが一番多くいただいたんですよね。“かもめんたる×酒井若菜”って相性が良さそうに見えているんだと実感したんです。だからこそ気合いを入れて頑張ります!」
―――先程もおっしゃられましたが、今年で旗揚げ10周年を迎えました。かもめんたるお二方にとって、この10年は長く感じられましたか。
う大「旗揚げ当初は年1回の公演だったのが、途中から年2回に増えたことを考えたら、この10年はあっという間でした」
槙尾「今回で第15回公演になりますが、僕も体感的にはあっという間ですね」
―――では劇団かもめんたるとして今後こんなことをやってみたいという野望がありましたら教えて下さい。
う大「今後の野望となると、全国ツアーを回るとかになっていくのかな。ただもっといろいろ人に対して、劇場に足を運んでもらったり、配信を購入してもらえるという存在にはなりたいです」
槙尾「全国ツアー楽しそうですよね。呼んでもらえるようになったら有難いです。地方の劇団や劇場さんが『来てください』と言ってもらえるような存在になれたらすごいですよね。あと、本当に続けるっていうことが大変で、周りの劇団さんも途中で難しくなったりする劇ケースが多い中で、僕たちは10年続きましたけど、今後も無理しない程度に続けられるというのを大事にしていきたいです」
―――現在劇団員は、かもめんたるさん以外に4人いて、いずれも本公演出演がきっかけで劇団員になられました。酒井さんにもいずれ劇団入りして欲しいという気持ちはありますか。
う大「そんなことはさすがに考えたことはなかったです。それに酒井さんはそんなに縛るべき人じゃないですよ!! まあ、名前だけでも貸してもらえたら……」
(一同笑)
酒井「仮に今回オファーを受けず、1~2年後にオファーをいただいたとしても、その時に「はい」と言えるかどうかはわかりません。まず今回の公演をやってみないと。でも籍だけおかせてもらえるなら(笑)」
槙尾「嫌なら辞めればいいですし」
酒井「劇団員になって欲しいと言ってもらえるように、まずはこの公演を頑張ります!」
―――さて「奇跡かな」というタイトルにちなんで、皆さんには「最近起こった奇跡エピソード」を披露していただきたいと思います。
槙尾「インタビュー前日のお話になります。僕は三軒茶屋で『カリガリマキオカリー』というカレー店の店長をしていまして、仕事がない時は店に立っています。前日は熊本でお仕事があって、店を立つことが出来ず、後輩の芸人さんが切り盛りすることになっていて、その日のシフト希望が営業する上で最少人数の3人だったんですが、1人体調不良でお店に入れず、結局看板娘の牧野ステテコと新人の子の2人で切り盛りで何とか乗り切ったんです。
翌日、仕事現場で一緒だった牧野ステテコのマネージャーさんから『昨日大変でしたよ』と言われ、前日のカリガリマキオカリーが大変だったことだと思っていたら『違うんです。『R-1ぐらんぷり』の1回戦をすっ飛ばしたんですよ』って。12時の出番にいなくて、大会事務局から電話が来て、急いでステテコさんに電話をしても全然出なくて。で、お店の公式Xで出勤シフトを見たら『牧野ステテコ出勤中』になっていて。
どうやら1回戦の出番を1か月間違えたみたいで。幸い大会事務局の配慮で失格にはならず、別日に変更出来たんですけど、もし牧野ステテコの勘違いがなければ、スタッフは新人さん1人のみで営業出来なかったし、あとは牧野ステテコが1回戦を突破できればありがたいですけど」
※牧野さん、『R-1ぐらんぷり』1回戦突破しました!
う大「僕も熊本での仕事の話になります。普段羽田空港までアクセスは、品川から京急で移動するんですが、最後尾に乗ると第1ターミナル(JAL系)に近く、先頭車両に乗ると第2ターミナル(ANA系)に近いというのをよく忘れるんです。最近はCHAT GPTをよく利用するので、熊本に行く際にも『品川から羽田に行きます。JAL便に乗るけど、京急で先頭と後ろどっちがいい』と質問しました。
正解は後ろですけど、Chat GPTの答えが“先頭”だったんですよ。僕としては完全に信じているから、そのまま先頭車両に乗って、第2ターミナル口の改札を出て、出発ロビーで飛行機の離陸状況を確認したら、僕が乗る便がなくて、そこで間違いに気づいたんです。
『これのせいで乗れなかったらどうすんだよ』とCHAT GPTに文句を言いながら、急いで走って第1ターミナルに向かって、チェックインに間に合うことが出来ました。実は僕の勘違いで、行きの便の出発時間と帰りの便の出発時間と間違えて、予定より早く羽田に着くスケジュールになることを移動中に気づいて、もし予定通りのスケジュールで自宅を出発したら、きっと間に合っていませんでした。些細なことかもしれませんが、僕にとってはある意味奇跡だなと思いました」
酒井「最近のことを振り返ってみましたが、やっぱり今回の出演が決まったこと自体が奇跡だと思います。お声がけいただいたタイミングといい、う大さんが一歩引いて説得してくださったことといい、出演を決めるべき条件すべてが揃ったことが奇跡です。
そして、11年前に出演した前回の舞台が、今回と同じ本多劇場だったことも安心できる理由にはなりました。出ない理由がなかったというのが本音です。1つでも条件が欠けていたら・・・・・・。恐ろしいぐらい全ての条件が合いました」
―――奇跡エピソードありがとうございます。最後に公演を楽しみにされている皆様にメッセージを酒井さんからお願いします。
酒井「現時点ではどういうことになっていくかわからないんですけど。とにかく楽しい作品になることは確実なので、クリスマスから年の瀬に向けて忙しない時期ではあると思いますが、ぜひ2025年最後の思い出を作りに、本多劇場に来て欲しいです」
槙尾「このインタビューを読んで、劇場に来てくださって、酒井さんをはじめ、僕らの舞台を観てもらうのも、僕らがお客様と会うのも奇跡だと思います。その出会いの奇跡、楽しみにしています」
う大「今年最後の自分へのご褒美に、この作品を選んでいただけたら幸いです。奇跡を体験させてやるよ! 」
(取材・文・撮影:冨岡弘行)
プロフィール
岩崎う大(いわさき・うだい)
1978年9月18日生まれ、東京都出身。劇団かもめんたる主宰。
劇団全作品の作・演出を務める。
槙尾ユウスケ(まきお・ゆうすけ)
1980年12月5日生まれ、広島県出身。劇団かもめんたるでは全作品に参加。女性役から老人役まで変幻自在に演じる。
酒井若菜(さかい・わかな)
1980年9月9日生まれ、栃木県出身。主な出演作に、ドラマ『木更津キャッツアイ』、映画『恋の門』、ドラマ『透明なゆりかご』、ドラマ「恋愛禁止」など。また作家としても、小説『こぼれる』、エッセー『心がおぼつかない夜に』などを出版。
ブラウス¥39,000(ティーチ mail:info@teechi.jp) パンツ¥40,700(yori HP:https://yori.jp) 左耳ピアス¥46,200 右耳ピアス¥28,600 左手リング¥18,700(リューク mail:info@rieuk.com)右手リング¥176,000(プライマル mail:support@prmal.com)
かもめんたる
岩崎う大と槙尾ユウスケによるお笑いコンビで2007年結成。キングオブコント2013王者。2015年『劇団かもめんたる』を旗揚げ。第1回ダブルインパクト(2025年)ファイナリスト
公演情報
劇団かもめんたる 第15回公演『奇跡かな』
日:2025年12月25日(木)~29日(月)
場:下北沢 本多劇場
料:前売6,000円 当日6,500円
U-25シート[25歳以下]3,500円
※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://gekidankamomental.com
問:サンミュージック プロジェクトGET
tel.03-3355-1664