演技様式は古典のままで、衣装や美術は現代風に 秋元松代の名作戯曲が“現代の心中劇”として待望の上演

演技様式は古典のままで、衣装や美術は現代風に 秋元松代の名作戯曲が“現代の心中劇”として待望の上演

 劇作家・秋元松代の代表作で、1979年に蜷川幸雄演出の初演以降、多くの劇場で人気を博した舞台『近松心中物語』が、10月18日よりKAAT神奈川芸術劇場にて堀越涼(あやめ十八番)の演出で上演される。飛脚問屋の養子・忠兵衛と遊女・梅川、傘屋の婿養子・与兵衛と妻・お亀という境遇の違う2組の男女の愛の行方が描かれる本作では、台本のセリフを一切変えず、衣装や美術といったビジュアルを現代風にアレンジ。新たな世界観を描き出す本作の演出を手がける堀越涼、忠兵衛役の渡部豪太、与兵衛役の松島庄汰、お亀役の木﨑ゆりあに見どころや意気込みなどを聞いた。


―――まず、演出の堀越さんに本作の上演が決まった経緯を教えてください。

堀越「主催のCCCreationさんとは、これまで3回組ませていただきまして、そのうち『沈丁花』『白蟻』は、今回と同じKAATさんの大スタジオでの上演でした。これらの過去作品をご覧いただいた縁から、秋元松代作品に挑戦する機会をいただきました。『近松心中物語』は知っていましたが、他の作品は存じ上げなくて、さまざま読ませていただきまして。そこからどの作品にしようかと、プロデューサーの宮本さんと相談した結果、『やっぱり近松心中物語がいいんじゃないか』という宮本さんの鶴の一声で決まりました」

―――本作は、これまで幾度となく上演された元禄時代を舞台にしたものではなく、台本はこれまでと一切変えず、ビジュアルや時代背景は現代的という設定は、堀越さん的にはかなりの挑戦だと思うのですが。

堀越「きっとそういう風に見られがちですが、僕自身はそんな風に考えていないんですよ。僕が大学を卒業してから約15年ほど在籍していた劇団が「花組芝居」というところで、歌舞伎や古典作品といった演目を自由にアレンジして上演していたんです。例えば泉鏡花の作品に出てくるカニやナマズをピエロの格好で演じたりして、台本と見た目とを分けて考えることのできる劇団でした。そういう観点からいくと『現代風にやろう』というのは、むしろ“自然な流れ”でして。僕の中では“現代風にやることがむしろ王道”だと思って演出するつもりです」

―――ありがとうございます。次に渡部さん、松島さん、木﨑さんに出演が決まった時の心境を伺いたいと思います。

渡部「以前、近松門左衛門の『女殺油地獄』『曽根崎心中』をモチーフした『GS近松商店』という作品に出演したことはありますが、今回すごい大役をいただいたなという思いでした。忠兵衛本人は明るい未来を選択したつもりですけど、実際は悲しい選択をしてしまう役どころを豊田エリーさんとご一緒出来てとても楽しみだなと思いました」

松島「堀越さん演出の舞台は今回が3回目で、また出演させていただけることはとても幸せだと実感しています。堀越さんの作品に出ると、毎回大変なことがあって。1作目の時は、冒頭から30分ぐらい1人だけ喋るというシーンで、毎回ミスが出来ないというプレッシャーと戦っていました。でも終わった時の達成感が素晴らしくて、役者としてもやりがいを感じる作品という印象です。稽古中でも堀越さん自身が非常に楽しんで演出されているのを感じていて、今回もご一緒できることが楽しみですし、名作に出演することが出来て、役者としても成長できるんじゃないかなと思っています」

木﨑「本当に恥ずかしい話ですが、作品自体聞いたことがなくて、調べて初めて歴史のある作品だということを知ってビックリしました。最近は一度お仕事をしたことある方とお芝居を作る機会が多かったんですけど、30歳手前で何の知識のない場所に飛び込むので、私にとって“挑戦”いう感じですね」

―――実は堀越さんと松島さん以外の組み合わせは、このインタビューが初対面なんですよね。

堀越「木﨑さんに至っては、今回キャストとスタッフ含めて50人ぐらいいるんですけど、知り合いが1人ぐらいしかいなくて。ほぼ知らない人の中でお芝居をされるんですよ」

木﨑「本当に知らない方ばかりですし、知識がない状態の作品なので、人一倍勉強させていただく気持ちで稽古に行きます」

堀越「古典を重んじて所作をやるとなったら、いろいろと勉強しなきゃいけないことがたくさんあるじゃないですか。でも、木﨑さんのような方がこの作品に取り組むことで、新しいものが引き出せる可能性があると思うんです。現代の感覚で作りたいという意図で、メインキャスト以外の方は、オーディションで選ばせて頂いたんですけど、落語家やバレエダンサー、それにヒップホップダンサーという感じで、色とりどりのジャンルの人が、たくさんが来てくれました」

渡部「尼崎の方もいらっしゃいますし」 ※松島さんが尼崎出身

松島「僕のことじゃないですか!」

一同「(笑)」

―――実は、インタビュー前から渡部さんがボケて松島さんが突っ込むという場面が多くて、本当にこの日が初対面とは思えないくらいのコンビネーションでして。

堀越「渡部さん演じる忠兵衛と松島さん演じる与兵衛は、仲のいい友達という設定ですけど、2人のシーンはひとつしかないんですよ。不思議なもので、これも劇作の妙だと思います」

―――2人が出てくる唯一のシーンは見どころのひとつかもしれませんね。

堀越「忠兵衛があることをするため、資金を求めて与兵衛を訪ねるという場面で、お金の受け渡しをするところは“お金で翻弄される”という今回のテーマにおいて、すごく重要なシーンになります」

渡部「きっと古典では、小判を受け渡すと思うんですけど、現代版だとどうするんですか? 例えば“PayPay”とか」

一同「(笑)」

堀越「それ、めっちゃ面白い!!」

松島「台本にある“100両”という言葉は変えられないから、どう演出するんですかね」

渡部「スマホで支払って、『PayPay!』と決済音が鳴れば、セリフを変える必要なないし」

堀越「これから考えますが、“PayPay”はいただく可能性あります」

一同「(笑)」

松島「でも遊びすぎてKAATさんに怒られて、二度と公演できなくなる可能性だってありますよ」

堀越「一応、上演権利者様からは舞台を現代にする事はお墨付きをもらっていて、逆にPayPayぐらいの演出がないと、満足してもらえない可能性があるんです」

―――では、周りのご機嫌を伺いながら演出するんですね。

堀越「もちろんです。僕はいろいろな方の顔色を伺う令和の演出家ですから」

一同「(笑)」

―――実際に採用されるかどうかは、是非劇場で確かめていただければと思います。続いて本作は1979年の初演以降、幾度と上演されている名作ということもあり、公演をご覧になったことがある方もいれば、木﨑さんのように作品自体知らなかったという方もいらっしゃいます。そこで観たことがある方と観たことがない方に向けての見どころを挙げていただけますか。

堀越「本作は“現代の心中劇”という設定で、観たことがない方でも、スッと観られるんじゃないかなと思うんです。むしろ、観たことのある方は、『これは私の知ってる近松心中物語とは違う』と思うかもしれません。でもいろいろなパターンがあってもいいと思うし、素晴らしい戯曲というのは、いろいろな解釈や演出が生まれて残っていくもので。僕らの世代でさえ未だにシェイクスピアの作品をやるというのもそういうことだと思うんです。もちろん作品の素晴らしさもありますが、いろいろな演出をしてもOKという懐の深さがある。それが世界中でいろいろなパターンで上演している理由だと思うし、こういう素晴らしい日本の古典戯曲もそういう風にして残していかなきゃいけないので、その辺は今までとは違うんだなというところを楽しんでいただければなと思います」

木﨑「初見の方も、過去に観劇された方も、この作品の基礎になっている“愛の深さ”や“心中するまでに至る愛の物語”という部分を、現代版でもしっかりとお届けしたいです」

松島「愛するが故に最善の道を選んだ結果が心中というのは、今の松島庄汰では考えられません。正直、これから理解できるのかもわかりませんが、この作品自体が長年上演されてきたということは、今に通ずるものが確実にあるはずなので、そういったものを日々の稽古の中で見つけていき、考え抜いて形にできたらと思います。ぜひ僕たちの思いを劇場で受け取ってもらえたら嬉しいです」

渡部「先程堀越さんもおっしゃっていましたが、大作にはそれだけ演出を寛容する懐の深さがあって、どんな演出にも耐えられると思うんです。本気でチャレンジすればきっと光が見えてくると思うし、上手くいかなかったとしても引き返せばいいだけで、これから稽古場で現代を生きている我々のアイデアで立ち向かっていきたいですね。往年の近松心中物語のファンの度肝を抜かすと同時に、演劇を観たことがない方々にも興味を持って観ていただける作品じゃないかなと思っています。プロデュース公演の醍醐味として、フィールドの違うキャストと、いろいろなファンの方々が、KAAT大スタジオに集まって近松心中物語を共有、体感できる機会は今しかないですし、今回成功できたら海外に持っていけるかもしれないという夢も広がります。『今の日本の演劇はこんなのをしているんだ』と海外に向けて発信できるプラットフォームになれればと思います」

―――ありがとうございます。それとTHE CONVOY SHOWの舘形比呂一さんが振り付けを担当するところも見どころのひとつだと思いますが。

堀越「舘形さんとは今回が初めましてになります。俳優さんも初めての方が多いので、エンジンがかかる最初の1歩目ぐらいまでは、少し時間がかかるかもしれませんが、軌道に乗ったらすごく相乗効果としていいものになるだろうなと思っていますし、舘形さんも出来るだけ稽古に参加して、チームがやろうとしていることを汲んだ上で振り付けを作りたいとのことなので、そこは信頼してお任せするつもりです」

―――メインキャストのダンスシーンも期待していいでしょうか。

堀越「現時点でメインキャストの皆さんが踊るかどうかはわからないですけど」

渡部「えっ? 俺、ダンサーとして呼ばれたと思っていたのに」

一同「(笑)」

松島「ちょっと待ってください! 僕、踊れないんですよ。ミスキャストです!」

堀越「でもどうしても踊りたければ踊る可能性はあります」

松島「じゃあ、僕は見るだけにしておきます(苦笑)」

堀越「みんなで相談しながら作っていくのが僕の演出スタイルでして、みんなで納得した演出にしたいと思っていますし、30人以上のキャストがいたら僕より面白いことを思いついている人って、絶対1人ぐらいいるはずなんですよ。別に演出家じゃないからってそのアイデアが死んでしまうのはもったいないと思うんです。もちろんアイデアを取りまとめたり、バランスをとる担当は僕がしますし、責任は全部僕が取りますけども、とにかく活発な意見を出し合いたいという思いですね」

松島「時間をかけてつくりあげる堀越さんの演出を何度も経験していますが、話し合う時間がなによりも大切だと毎回感じています」

堀越「早い段階で顔合わせしたりと、僕の演出スタイルを変えずにやっていこうと思っています。よく多数決をとったりしますよ。『2パターンの演出を思いついたんだけど、どっちがいい?』みたいに」

松島「そうそうそう!」

木﨑「面白い!」

渡部「そのような演出をするのは初めてです。風通しの良い座組になりそうですね」

―――では最後に本番に向けての意気込みをお願いします。

木﨑「本当に歴史のある作品なので、逆にいい意味で裏切れるように作っていきたいですし、『愛とは何ぞや』ということを深掘りして、皆さんと楽しくお芝居を作っていけたらなと思っています。タイトルだけで観に行くのをためらう方もいるかもしれませんし、知識がないとダメかなと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそんなことはありませんので、気軽に観に来ていただけたらと思います」

松島「堀越さんの作品は『どこから人が出てくるの?』と言いたくなるような、目でも楽しめる作品ですし、今回の衣装は現代、言葉が古典というところも面白いです。ダンスもあり、音楽は生演奏と生音のみというように、五感で楽しむような作品になると思いますので、難しいことは考えず、KAATでの演劇の帰りは横浜中華街で美味しいご飯を食べて帰っていただくくらい、気楽な気持ちで来ていただけたら嬉しいです」

渡部「素晴らしいキャストやスタッフの皆さんが汗をかきながら大立ち回りするくらいのエネルギーを感じにKAAT大スタジオへいらしてください。古典だからと気負わずに、皆が楽しめる演劇になると思います」

堀越「意図して作るわけではないですが、多分、新しい近松心中物語が出来ちゃうような感じがします。今の我々が作る精一杯の近松心中物語をお見せしたいと思いますんで、楽しみに劇場まで足を運んでいただけたらと思います」

(取材・文&撮影:冨岡弘行)

プロフィール

堀越 涼(ほりこし・りょう)
1984年7月1日生まれ、千葉県出身。劇団ユニット「あやめ十八番」主宰。主な脚本・演出作に、『沈丁花』(演出・脚本)、『女中たち』(演出)、『白蟻』(演出・脚本)など。

渡部豪太(わたべ・ごうた)
1986年3月8日生まれ、茨城県出身。主な出演作に、『ハムレット』(レアティーズ役)、『セツアンの善人』(ワン役)、『LAZARUS-ラザルス-』(ザック役)など。

松島庄汰(まつしま・しょうた)
1990年12月26日生まれ、兵庫県出身。主な出演作に、『白蟻』(新渡戸役)、『Silent Sky』(ピーター・ショー役)、『昭和から騒ぎ』(荒木どん平役)など。

木﨑ゆりあ(きざき・ゆりあ)
1996年2月11日生まれ、愛知県出身。主な出演作に、『熱海連続殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』(水野朋子役)、『パンセク♡』(緒方景子役)、WOWOWドラマ『東野圭吾 さまよう刃』(村越優佳役)など。

公演情報

CCCreation Presents 舞台『近松心中物語』

日:2025年10月18日(土)~26日(日)
場:KAAT 神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
料:S席10,000円 ※他、各席種あり。詳細は下記HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.cccreation.co.jp/stage/chikamatsushinjyu/
問:CCCreation mail:contact@cccreation.co.jp

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