
二部構成で上演される『HINOTORI 火の鳥・山の神篇/火の鳥・海の神篇』は、2022年から世界を巡った「火の鳥プロジェクト」の集大成だ。30年に渡り「パパ・タラフマラ」を牽引し、2012年の解散後も意欲的に作品を発表し続けてきた小池博史の最新作。ポーランド、マレーシア、ブラジルで生まれた三作品を基盤に、日本、ポーランド、マレーシア、ブラジル、インドネシアのアーティストが集い「死」と「再生」をめぐる「火の鳥」の物語を描く。インタビューの前に『山の神篇』の通し稽古を観せてもらった。
巨大なスクリーンを前に、仮面をつけた様々な人種の男女が自然災害に翻弄され、祈り、互いに対立する。その様子は神話のような壮大なスケールを感じながら、どこか現代の世界とリンクする。セリフは各国の言葉で、音楽も東西様々な国の楽器が響き合い、とてもエキサイティングだ。
冒険家になりたかったし、新しい世界をずっと求めてきた
―――今回の作品は、現在の社会情勢を表していると感じるシーンがたくさんあったのですが、そのあたりは意識されているのですか。
「そもそもの話をすると本当に長くなるんですが、元々、社会と芸術との関係から作品を作っていこうとしているんですよね。僕は中学校の終わりくらいから高校生の時は建築家を行いながらジャズ評論家をやろうと思っていました。そうしたところから始まってフェデリコ・フェリーニの映画を観て、これは面白いなと思って映画監督になろうと思って、じゃあ社会学をやっておきたいなと思ったんですよ。社会学が大事だと思っていたんですけど、大学に入ったら友達から『演劇も似たようなもんだよ』と言われて、始めたのが舞台なんですよね。ただ、演劇と言うより、建築、美術的な空間性だったり、音楽や映画的な時間性だったり、格闘技をしていたこともあっての身体性だったり、そういったことが全部合わさってる舞台芸術を創りたかった。それで作ったのがパパ・タラフマラというカンパニーです。演劇をやりたかったというよりも、元々は冒険家になりたかったという意識もあって、新しい世界をずっと求めてきたことはあります。
さっきの(稽古で)最後の『海だ!』と言った場面も、まさしく自分の原風景と言うか、自分の世界でもあるんですよ。日立(ひたち)というところで育ったこともあります。高台に登るとわかるんですけど、周りが山なんですね。山が切れると海になるんですよ。海になって、また山が始まるという感じなんです。つまりどこか見たことのない向こう側に行きたいと思って、一番わかりすいのは海の向こうに行くということ。だから海の向こうに行きたいなという思いがいつもありました。今でも演劇というものがあんまり好きじゃない(笑)。演劇というよりは舞台芸術ですね」
―――独特なリズムの中で繰り広げられているのが印象的でした。
「もちろんリズムが要です。舞台に限らず全て世界はリズムで出来ていると思っているので。リズムが狂った時に何かが起こり、狂っていくんですよ」
―――さまざまな国籍のアーティストがいて、ますます排他的になっている日本や、分断を深めている世界と逆行するような世界を感じました。

バラバラな状態から、いかにして調和できるような世界を創れるか
「一番大事なのはそこだと思っています。結局いかにして調和できる世界を創造できるか、これが今後の社会を考える上で、絶対的に必要なことだと思います。そこで最初からポーランド、マレーシア、ブラジルが選定の対象となりそれら国々で創作し、そして今回はさらに選別されたアーティストが参加しています。
ポーランドはヨーロッパの長い歴史の中で最も侵略を受けてきた国で、同じくアジアの中において最も他人種が混ざり合っているのがマレーシアです。それがさらに加速したのがブラジルなんですね。あとは、それぞれのバックグラウンドもみんな異なってバラバラで、やっていることもみんな違う連中が集まり、そんなバラバラな中で一つの調和を保つ。
舞台の何が面白いかというと、それだけバラバラな状態なのにバラバラにならないということ。それが一番やりたいことです。ただの寄せ集めではなくて、非常にメルティングしていく可能性が、それゆえのダイナミズムが生み出せるということを示していきたいと思っています」
―――現実的に文化やバックグラウンドも違う人たちと舞台を作るのは大変ではないですか。コミュニケーションにおいて何か心がけていることはありますか。
「大変なことと言えば、一番は資金ですよね。圧倒的に資金です。それが最大であって、あとはコミュニケーションに関しては、まあ今まで色々なアーティストやスタッフ、外国人を相手にしてますから。多分、500人じゃきかないですよね。そのぐらい多種多様な人たちと18ヵ国で作品を作ってきていますし。いわゆるジャンルレス的な、ジャンルがない中でやってきているので。
日本だとこういう縦割り社会なので、演劇は演劇、踊りは踊りみたいな、本当につまんない分け方をされる。よってなかなか取り上げられにくい。もっと言えば日本が浮上していかない一番の原因はそこにあります。既得権が強すぎる。だから新しくなっていかない。いつまで経っても同じ状態が続いている。それが経済でも政治でも同じ。遅々とした進み方しかしない」

―――観客の方も、演劇を観る人は演劇を観る人で固まってしまっている気もします。ロックは聴いても、演劇は観ないとか。
「つまんないですよね。つまんないと僕が言ってしまうとアレですけど(笑)。ただ海外の反応はすごいですよ。例えばサンパウロでは3週間、もう毎日オールスタンディングでしたから。そういう状態っていうのは当たり前ですね」
―――熱狂を持って受け入れられる。
「ただもう日本国内だと『何これ』みたいになってくる」
―――日本人は『これはどういう意味なんだろう?』と頭で考えすぎてしまうところがありますよね。
「だからもう3歳児からOKだと言っているんですよ。僕の舞台は」
―――泣いたりしても大丈夫なんですか。
「泣かないですね。こうやって(目を見開いて)じっと観ています。まあ泣く子がいても、それはそれでいいんじゃないかと(笑)」
(取材・文・写真/新井鏡子)

プロフィール

小池博史(こいけ・ひろし)
1956年、茨城県日立市生まれ。一橋大学卒業。1982年〜2012年、「パパ・タラフマラ」、2012年~「小池博史ブリッジプロジェクト-ODYSSEY」主宰。 演劇・舞踊・美術・音楽等のジャンルを超えた作品群を18カ国で創作。 42カ国にて公演。『HINOTORI 火の鳥-海の神篇』は100作品目となる。2020年~2023年、武蔵野美術大学教授。
公演情報

『HINOTORI 火の鳥・山の神篇/火の鳥・海の神篇』
日:2025年10月11日(土)~14日(火)
※他、京都公演あり
場:なかのZERO 大ホール
料:S席10,000円 A席7,000円
※他、各種割引あり。詳細は下記HPにて
(全席指定・税込)
HP:https://kikh.com
問:サイ/小池博史ブリッジプロ
ジェクト-ODYSSEY
tel.03-3385-2066