男ばかりの6人兄弟による“家族模様”を芝居で描く 素敵なキャスト、制作陣で挑む初プロデュースの大舞台

 「劇団 ことのはbox」の主宰である原田直樹が設立した舞台制作カンパニー「LOGOTyPE」の新作公演『なるべく派手な服を着る』が2025年7月に上演される。本作は俳優・久下恭平のプロデュース公演となっており、少し変わった“ルール”が存在する久里一家の6人兄弟を中心とした物語だ。今回はプロデューサーだけでなく五男・久里一二三役としても出演する久下恭平と、演出を手がける酒井菜月にインタビューを実施。本作の見どころや初のプロデュースに至った経緯について話をうかがった。


―――本作は久下さん初のプロデュース公演となりますが、公演が決定するに至った経緯を教えてください。

久下「実は酒井さんからこのお話をいただいた時に1回断っていたんですよね。僕は演者としてずっとやっていきたいという気持ちがあったので、プロデュースとなると完全に支える側であり、お芝居に全振りできなくなるんじゃないかという気持ちになってしまって……。ですが家に帰って考えてみると『すごくありがたいお話をしてくださっているんじゃないか?』『光栄なことなんじゃないか?』と思い、次の日に『やらせてください!』と改めてお返事しました。皆さんに発表した時や、発表に至るまでもずっとソワソワしていましたね」

―――公演が決定してから皆さんに告知するまでの期間も、かなり長かったと聞いています。

酒井「久下さんへお話をした時に劇場は決まっていたんですけど、台本はまだ決定していない状態でした。この台本を決めるという作業が大変で、長かったですよね」

久下「そうですね。この世にはこんなに面白い作品がたくさんあるんだと感じました。今まで読んだことはあるけどやったことはない戯曲などをひたすら読み漁っていましたね。あとは今回プロデュース公演ということで“どのようなキャスティングでやっていくか”も考えなくてはいけないのがかなり難しかったですね。『この戯曲をやりたいけど、登場人物が男ばかりだな……』とか」

―――先ほども少しお話してくださったと思うんですけど、他にもプロデュースするにあたって、苦労した点や難しかったことはありましたか?

久下「上演する演目が決まった時に、酒井さんから『この作品をやるなら、久下さんはどの役をやるの?』と言われた時が一番困りました。僕が思い浮かべている人たちの役柄は大体決まっていたんですけど、『自分はどの役をやるんだろう……?』と考えていましたね」

酒井「大抵、台本を役者さんが貰う時は既に役が決まっているので、多くの方にとってはそこが出発点なんですよね。ですが今回久下さんは台本決めから関わっているので決まらないというか、はじめての感覚になったんだろうなと感じています。私は台本を読んだ時点で、久下さんは絶対に一二三だと思っていました」

久下「『なるべく派手な服を着る』はどの役もすごく面白いですし、自分だったらどんな配役でも楽しめる自信があったんですよね」

酒井「なので、私の意見を伝えつつ他の役回りの話をしていたら、見事にうまくまとまったんですよね」

久下「そうですね。これ以上にないキャスティングだと思っています」

―――おふたりは以前から交流があるとのことで、改めてお互いの印象を聞かせてください。

久下「もう演劇のお化けです(笑)。僕もお芝居や演劇はすごく好きなんですけど、そういう話で盛り上がれる人って限られてしまうんですよね。『何が当時流行っていて、この作品ができたんだろう?』といった話をできる人が少ない中、この世の戯曲で酒井さんが知らないものはないと思っています」

酒井「いやいや、そんなことはないですよ」

―――酒井さんから見た久下さんはいかがですか?

酒井「私が最初に久下さんとお仕事させていただいたのが『クロスフレンズ』というミュージカルなんですけど、キャスティングの時点では、私は久下さんを存じ上げず、”飄々と現場をこなしていく人”という想像でした。その後実際にお会いして、一緒にミュージカルを作っていく段階で『この人とストレートプレイ(セリフや芝居のみの演劇)を作りたい!』と思い、2024年に『見よ、飛行機の高く飛べるを』を上演させていただきました。
 『見よ、飛行機の高く飛べるを』で久下さんが演じた役はすごく不器用な役だったので、体当たりで挑まないとつまらないんですよね。そこで彼にどうやってダメ出ししたら良いか相談したりと、たくさん演劇の話やそうじゃない話なんかもたくさんして、久下さんと話すのは楽しいなと。
 今回プロデュース公演を実施することになり、原田さんと誰にお願いするのが良いか話し合っていて私が真っ先に名前を挙げたのが久下さんでした。自分が一緒に芝居を作っていて楽しいと思えるのは誰か考えた時、頭に思い浮かんだのが久下さんだったんですよ。本公演の上演にあたり、話す機会がかなり多くなったんですけど、台本に関係ある話から関係ない話まですごく喋っていたので、私の中では楽しい人だなと思っています」

―――おふたりが思う本作の見どころを教えてください。

酒井「『なるべく派手な服を着る』は作品自体が不思議な話で、何か大事件が起こるわけではないし、久下さん演じる一二三には皆意識が向かない。しかも、その意識が向かない理由も明らかにならない……。なので今回チケットを買ってくださった方の中には、観た後に結局何が起きたのかわからなかったり、理解できなかった部分が出てくる人もいるんじゃないかなと思います。でも、それも含めて観劇後のさまざまな気持ちが自分の好き嫌いに触れるような経験をしてほしいですね」

久下「本当にそう思います。中には作品を通してこういうことを伝えたい!と銘打っているものも多いと思うんですけど、僕は物語の中にある“よくわからないけど”という部分が大好きですし、まさにこの作品って本当によくわからないんですよね。僕は脚本を読んだ時、実家にある壁を思い出したんですけど、皆さんもこの作品を観て思い出す予定のなかった“何か”を思い起こしてくれたらいいなと感じました」

―――最後に、観劇を楽しみにされている皆さんへメッセージをお願いします。

久下「作品としてもすごく面白いと僕は思っていますし、そこに原田さんや演出の酒井さん、そして素敵なキャストの皆さんが力を貸してくれました。もう完全に最強の布陣だと感じているので、公演を楽しみに劇場へ足を運んでいただけたら嬉しいです」

酒井「気楽に観に来て、気楽に観た以上の“何か”を持ち帰っていただけたらとても嬉しいなと思います」

(取材・文&撮影:渡辺美咲)

プロフィール

久下恭平(くげ・きょうへい)
1991年9月13日生まれ、兵庫県出身。近年の主な出演作品に『カミシバイ -開-』神楽アキ 役、『THEATER ~君に会いたい~』カイト役、ミュージカル『忍たま乱太郎』鉢屋三郎役など。舞台を中心にドラマ、映画と幅広いジャンルで活躍している。

酒井菜月(さかい・なつき)
1987年10月4日生まれ、愛知県出身。演劇団体「ことのはbox」の主宰であり演出家。近年の主な演出作品に第21回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』、第19回公演『独りの国のアリス〜むかし、むかし、私はアリスだった……〜』、第17回公演『ムーランルージュ』など。

公演情報

久下恭平プロデュース『なるべく派手な服を着る』

日:2025年7⽉25⽇(⾦)~28⽇(⽉)
場:吉祥寺シアター
料:6,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.logo-type.org/kugeproduce01
問:LOGOTyPE mail:info@logotype.tokyo

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