赤坂レッドシアターでお馴染み、強烈なルール縛りに挑む朗読劇! 約1時間、出ずっぱりの真剣勝負 3人のキャストが合計60役を演じ切る

 3人の男性キャストが約1時間で20役ずつを演じ、さらに配役が回替わりになることから、1人の俳優が合計で60役を演じることになる“役替わり”朗読劇『5 years after』(ファイブ・イヤーズ・アフター)。脚本・演出の堤泰之が朗読劇ならではの面白さを追い求めて執筆した本作では、主人公・水川啓人の20歳・25歳・30歳の人生と、彼を取り巻く個性豊かな登場人物たちが描かれる。5月に行われる本公演はなんと14回目の上演。今回は3度目の挑戦となる松本幸大とともに、田中尚輝、嶋崎裕道が初出演する。共演作がありそうでなかった田中と嶋崎(日替わりゲストでたった1日共演したのみ)。意外にもじっくり話すのは今回が初めての機会となった。そんな2人のインタビューを公演に先駆けてお届けする。


―――田中さん、嶋崎さんはともに本作『5 years after』を過去にご覧になったことがあると伺いましたが、いつのことでしょうか。

田中「僕は先日公演されていたver.13の前半チーム(高田翔さん・結城伽寿也さん・本間一稀さんの回)を観劇しました。実はver.13に出演していた翔くんと、今回のver.14でご一緒する(松本)幸大くんの2人とは、以前同じ舞台に出演したことがあって……ご縁を感じました。翔くんのお芝居が凄く好きなので、久しぶりに生で観られたことも嬉しかったですし、その上、1つの舞台で20役も演じている彼の姿を観ることができて、大満足の観劇体験をさせてもらいました。僕のファンの方々にも、いつもは1作品で1役を見てもらうのが普通だと思いますが、今作では1作品で20役、3パターン違う役を演じる回に来ていただけたら60役を演じる自分を見てもらえるわけなので、色々な顔を楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。物語にも凄く感動したんですよね。いっぱい笑って、最後は泣けて……60分とは思えない濃密な作品でした。沢山張り巡らされた伏線が回収される達成感も心地良かったので、ぜひ今作を初めてご覧になる方は一緒にその達成感を味わってほしいです」

嶋崎「僕は事務所の先輩でもある杉江大志さんが出ていたので、実は2020年に公演されていたver.2(納谷健さん、杉江大志さん、長江崚行さんの回)を見ています!」

―――『5years after』古参ですね!(笑)

嶋崎「そうなんです(笑)。朗読劇の迫力じゃなかったので強く心に残っていました。コロナ禍以降、朗読劇って増えましたけど、最近の朗読劇はキャストが動いたり、派手な演出がついたりしているじゃないですか。でもこの『5years after』はほとんど動かず、台本から目を離さないのが印象的で……。それでも、あれだけ伝わってくる感情があるというのは、本当に凄いことだなと思います。動きを封じられても登場人物たちの真意が伝わるというのは、役者の底力だなと。魂を感じました。その時から、いつか絶対にこの作品に出たいって思っていたので……まさに『5years after』、5年後にそれが叶うことになってとても嬉しく思います」

―――もともとコロナ禍が始まった2020年に、ソーシャルディスタンスを保ちながら公演をする必要があったことから、椅子からお尻を離してはいけない、台本から目を離してはいけない、といった独自ルールが生まれたのだと聞いています。まだ稽古はこれからということですが、座ったままの芝居だからこそ、普段以上に意識しようと思っていることや、お客様に注目してほしいポイントはありますか?

田中「普段のお芝居よりは“聞いてもらう”という作業が多くなると思うので、いかにお客様の脳内に映像を作り出せるかが、今作において役者に求められることかなと思っています。台本から目を離してはいけないという制約がある以上、客席側に全面的には顔を見せられないし、表情に頼ることもあまりできないと思うので……。そのためにも台本をしっかり読み込みたいと思います」

嶋崎「尚輝くんが全部言ってくれちゃった……」

田中「申し訳ない……!」

嶋崎「いやいや、これは仕方ない(笑)。そうですね……でも動きを制限されることで、これまで出演してきた他の作品も含めて、自分が日ごろどれだけ動きに頼って芝居をしているのかが見えてくるのかなって思うんですよ。過剰に動いて表現しすぎていることに気付けるというか……例えば人間って安心感を求めて何かを触ることがあるので、普段は無駄に舞台セットに触ったり、共演者の肩を叩いたりしているんじゃないかなって。身振り手振りで伝えようとしちゃうこともありますし。そういう不要な部分をそぎ落として、声のお芝居だけで勝負できるというのは難しいことではありますけど、大きな挑戦なので、ぜひ観ていただきたいなと思います」

―――60役の老若男女を演じ分けることになります。ホームページにはどんな役があるのか一覧が掲載されていますが、演じるのが楽しみな役、これは挑戦だなと思う役はありますか?

田中・嶋崎「おおー!(ホームページに掲載された一覧を見ながら)」

田中「難しいな……どれだろう……」

嶋崎「あ、ギャル! ガングロギャルの役! マジでやってみたい」

田中「今の言い方がすでにギャルになってる(笑)」

嶋崎「本当だ(笑)。普段は絶対やらないような役なので、どうなっちゃうんだろう、どういう気持ちになるんだろう?というのが自分でも未知数で、楽しみです」

田中「確かに、僕らが女性の役を演じる機会ってそもそもあまりないので……。その上、1作品のなかに色々なタイプの女性が出てくるから、やり甲斐があります。他の人がどういう演技プランを持ってくるか、言ってしまえば3人の中で誰が1番面白く作り込んでくるか、稽古も楽しみですよね」

嶋崎「そうだよねぇ」

田中「役者って多かれ少なかれ、共演者に対するライバル意識みたいなものはあると思うんですよ。今回の“役替わり”朗読劇っていわばトリプルキャストみたいなものなので、同じ役を演じる他のキャストの演技は気になります。しかも本来のトリプルキャストなら自分が出演しない公演はあえて観ないという選択肢もあるけど、今回は観ざるを得ないわけですから」

―――そうですよね。田中さんが気になる役はありますか?

田中「やはり……暗黒の不思議ちゃんでしょうか(笑)」

嶋崎「気になるよねー‼」

田中「すでに台本も読みましたけど、いい役ですからね、彼女も。他にも、一言しか話さない、一見いわゆる“モブ”かなと思った登場人物が5年後、10年後にもまた登場したり、それぞれの人物のその後の姿が描かれていたりするのもこの作品の面白いポイントなので、全部の役を大事に届けたいと思います」

―――田中さんと嶋崎さんのお2人は舞台『鬼神の影法師』シリーズで共演していると思っていたのですが、実はすれ違いだったそうで……。

嶋崎「僕はシリーズ2作目からの参加で、尚輝くんが2作目には出ていなくて」

田中「今年1月にあった3作目では、僕は日替わりゲストだったんですよ。なので1日だけ」

嶋崎「でも、役としても全く絡みがないから、がっつり共演するのはほぼ初めてだよね」

―――現時点でのお互いの印象はいかがですか? このインタビューを読んでいる頃にはガラッとその印象が変わっている可能性もありますが……。

2人「確かに(笑)」

嶋崎「尚輝くんの第一印象は、(日替わりゲストとしての)出演日に楽屋で1人1人に丁寧に挨拶をして回っていて、なんてしっかりした方なんだ!って思いました。だから、こんな丁寧な人が舞台上であんな……パッパラパーな大騒ぎをするなんて(笑)」

田中「あははは!(笑)」

嶋崎「でもそれもちゃんと計算してやっているというか、ロジカルなところも垣間見えるから、凄いなぁ、器用だなぁって感心しました」

田中「嬉しい、ありがとうございます。僕はあの時は他にも初めましての方が多くて、楽屋でも実は緊張していたので、軽くご挨拶させてもらうのが精一杯で……(嶋崎さんとは)今日ようやくゆっくりお話できて、その印象になっちゃうんですけど。同じ目線に立ってくれる先輩だな、というのが第一印象ですかね。凄く優しくて……本当はどんな人かまだ分からないけど(笑)」

嶋崎「ちょっとちょっと! いや、でもまだ分からないよね? ここから怖い先輩に変わっちゃうかもしれないし(笑)」

田中「でもきっと優しいですよ。なんて呼んでいいか聞いたら、『年下からは“みちにい”って呼ばれることが多いから、そう呼んで』って言ってくれたので。朗読劇って舞台と違って1ヶ月ガッツリ稽古をするわけではないので、キャスト同士の関係値をどう深めるか難しいなって思うんですけど、こういう気さくな先輩がいてくださると、楽しい稽古になるなって思います」

嶋崎「僕、松本さんは初共演なんだけど、どんな方?」 

田中「僕が共演した時は、幸大くん、東京出身なのに関西弁の役だったんですよ。それに苦戦しつつ、とにかく毎日ずっと方言指導の先生の関西弁を聞き込んでいたストイックな姿が印象的でしたね。公演中も何度か一緒にご飯に行ったし、終演してからも連絡をくれたことがあって、芝居に熱いのは勿論、人懐こいというか、“人”のことを愛してくれる先輩という感じです」

嶋崎「素敵な方だ!(共演できるのが)楽しみだな~!」

―――60役あっても舞台上は3人だけなので、助け合って頑張ってください! 助け合いといえば、公演終了後にある反省会『3 actors talk』では1幕1場からそれぞれの役作りや演技プランを、プロデューサーも登壇して、舞台上で振り返っていくというイベントもございます。普通なら楽屋でやるような芝居の振り返りをお客様の前でやるわけですが……普段は公演終了後、楽屋で反省や振り返りはする方ですか?

嶋崎「例えばミスをしちゃって引きずりそうになることもあるじゃないですか。そういう時、僕は引きずらないように気持ちを切り替える派です。逆に『1度ミスしちゃったんだったらもう、ここからは何も怖くないな!』くらいのテンションで。舞台は生物(なまもの)で、本番は1度始まってしまえば終演するまでずっと続くわけだから、例え序盤でミスをしたとしても、そこで止まることはできないので……いっそそれを足がかりにして、次のシーン頑張ればいいんじゃない?っていうマインドです」

田中「……僕は2時間の公演でたった1文字だけ噛んでしまったり、一瞬だけ詰まってしまったりしただけでも、結構、引きずっちゃうんですよ」

嶋崎「え! 真逆! そうなんだ」

田中「本番中は一旦意識から外しますけど、終演後に『自分が許せない!最悪だ!』って自己嫌悪しちゃいます。今、凄く自分でハードル上げるんですけど、僕、めったに噛まないんですよ」

嶋崎「凄いハードル上げてる‼(笑)」

田中「ああ、プロデューサーさんが笑ってこっちを見ている!(笑)いやでも、言っておきます。僕、噛まないんです! ある意味『噛まないぞ!』っていう枷を自分にかけてやっているんですけど……。そのぐらい注意深く本番に臨むタイプなので。舞台に上がる前にアップも沢山しますし、舐めてかかって失敗したんじゃないぞって思いたいがために、めちゃくちゃ入念に準備をしてから舞台に上がるタイプです。なので反省会も……反省することがない出来栄えであるように、しっかり稽古をして臨みたいと思っています‼」

―――どんな本編、そして反省会になるのか、楽しみにしています! では最後に、観に来てくださるお客様にひとことお願いします。

田中「演劇を始めて約15年経つのですが……これまでで最多の役を同時に演じます。この作品に出演する人はおそらく皆がそうだと思いますが、こんなに登場キャラクターが多い作品は初めてです。稽古・本番の中で新しい自分を見つけるのも楽しみですし、自分だけでなく、共演者の方々と60通りのセッションができるのも凄く楽しみにしています。お客様が観る回によって全く異なる劇場の空気感になっていくのかなと思うので、まさに、舞台は生物(なまもの)ですよね! そんな舞台ならではの空気感を、ぜひ僕たちと一緒に楽しんでもらえたらなと思います。劇場でお待ちしています」

嶋崎「……以下同文ってわけにはいかないですか?(笑)でも本当に、自分にとって大きな挑戦になるので、僕自身も楽しみですし、その挑戦をファンの方々に見守っていただけることを凄く嬉しく思います。新しい“推し”の一面が見られる可能性がある……いや、絶対に見られる作品なので、ぜひ何回も……欲を言えば全公演観てほしいです! だってA・B・Cで組み合わせも変わるから、1度として同じ公演はないので! 全公演、とんでもないことが起きるんじゃないかと思うので、僕ら3人の化学反応を楽しんでほしいです。配信がないそうなので、ぜひ劇場で! お待ちしています」

(取材・文&撮影:通崎千穂)

プロフィール

田中尚輝(たなか・なおき)
1995年9月26日生まれ、兵庫県出身。所属するブルーシャトルプロデュースの公演をはじめ、得意のダンス・アクションを生かして活動中。近年の主な外部出演作品にハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」シリーズ 菅原孝支 役、舞台『僕のヒーローアカデミア』The “Ultra” Stage 切島鋭児郎 役、2.5次元ダンスライブ「ALIVESTAGE」シリーズ 桜庭涼太 役など。

嶋崎裕道(しまざき・ひろみち)
1994年1月3日生まれ、神奈川県出身。近年の主な出演作品にジュエルステージ「オンエア!」シリーズ MAISY・森重優那役、舞台『リーマンズクラブ』ユニシックス・荻野目大樹役、舞台「鬼神の影法師」シリーズ 青龍役など。サンリオピューロランドにて公演されていた『MEMORY BOYS~想い出を売る店~』ではラルゴ役(チームフォルテ)として活躍していた経歴も持つ。

公演情報

役替わり朗読劇
『5 years after -ver.14-』 ~enjoy your life !~

日:2025年5月16日(金)~18日(日)
場:赤坂RED/THEATER
料:7,000円(全席指定・税込)
HP:https://no-4.biz/5yearsafter/ver14
問:エヌオーフォー【No.4】 
  mail:no.4.stage@gmail.com

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