こまつ座関係者が「全てはここから始まったんです」と話す、井上ひさし戦後“命”の3部作の1つである『父と暮せば』。広島で暮らす美津江の前に、原爆で亡くなったはずの父・竹造が現れることで、物語が動き出す。94年の初演から何度も繰り返し上演されてきたこの作品を、戦後80年となる今年に再演する。今回父娘を演じる松角洋平と瀬戸さおりにとって、並々ならぬ思い入れがある作品だという。
松角「まだ芝居を始めたての頃、台本に録音が付いたオーディオブックで作品に触れて、もう嗚咽するほど感動をして、いつか必ずやりたいと思っていました。だから、こまつ座さんに出演するようになってからは、機会を見て何度もお願いしていたんです。打診されたのは『紙屋町さくらホテル』の楽屋だったので、その場で大喜びするわけにもいかず、劇場を出たところにある踏切で『よっしゃー！』と叫びました。同時に本当に出来るのか、という緊張も生まれました」
瀬戸「戯曲を読んでこのセリフを言いたいと思ったし、舞台を観て美津江をやりたい、舞台で彼女として生きたいと思ったんです。こんなに心が動いたのは初めてだったので、インタビューの度に『美津江をやりたい』と言い続けました。だから話を頂いて嬉しかったけれど、やっぱりプレッシャーも凄かったです。二人芝居ですし」
歴代の竹造役の俳優たちは概ね50代後半だったのだが、松角は48歳でこの役に挑む。そしてそれは自分の強みだと話す。
松角「何度もご覧になっている方は年齢が引っかかるかもしれませんが、僕はむしろこのくらいの年齢で良いと思ってます。若いほど爆発させるエネルギーもあるから、これまでにない竹造が生み出せるのではないかと」
2人とも初めての二人芝居で、初共演となる。お互いの印象はどうだったのだろう。
松角「瀬戸さんをこまつ座作品で拝見した時、線が細いのに凄いエネルギーを放っているなと思いました。舞台を引っ張っているように見えましたから。本当に凜としていますよね」
瀬戸「最初は松角さんが本当に怖かったんです（笑）。でも宣伝撮影の時に変顔や変なポーズをしてくれるなど、凄くチャーミングなところを見せてくれて。その時に『おとったん（劇中で美津江が竹造を呼ぶときの呼び名）がいる』と思いました。その後も色々資料を見せてくださったり、凄く優しくて。だから稽古が楽しみです」
（取材・文：渡部晋也 撮影：間野真由美）
松角洋平さん
「ピアニストになってみたいとは思うが、変身が解けた時の喪失感が大きそうなので『絶対音感』がある人に変身してみたい。我々の仕事にはどうしても台詞という面倒なものが必要で、とても不自由に感じる。音楽やダンスは世界中の人とセッションできる点で非常に羨ましい。そういう意味では、全ての音が音階で聞こえるというのもそれが日常だとそれはそれで大変なんだろうが、1日くらいであれば楽しいだろう。その日は高尾山にでも登ってみようと思う。スレンダーな女性になって街を闊歩するってのもいいなぁ…」
瀬戸さおりさん
「魔女に変身したい。空を飛んだり魔法を使えたらいいなと子どもの時から思っていて、修行したら使えるようになるかな？とホウキに跨って『飛べ！』と念を込めたり、プラスチックの杖を振り回してみたりしていました。夢の中ではあんなに自由に飛び回れるのになぁ。まだまだ修行が足りないのかもしれません」
プロフィール
松角洋平（まつかど・ようへい）
長崎県出身。中央大学卒業後に映画配給の職を経て、文学座座員となる。2005年の舞台『焼けた花園』以降、舞台を中心に活動を展開。2012年、映画『The Flowers of War』でチャン・イーモウ監督に演技力を買われたのをきっかけに、映像でも活躍の場を広げる。こまつ座では、『神屋町さくらホテル』、『小林一茶』に出演。
瀬戸さおり（せと・さおり）
福岡県出身。2011年、オーディションを経て雑誌「non-no」の専属モデルとしてデビュー。2013年からは女優としての活動も始め、以降は舞台を中心に多くの作品に出演している。こまつ座では、『頭痛肩こり樋口一葉』、『きらめく星座』、『夢の泪』に出演。
公演情報
こまつ座 第154回公演『父と暮せば』
日：2025年7月5日（土）～21日（月・祝） ※他、地方公演あり
場：紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
料：7,700円 U-30［30歳以下］5,000円
高校生以下3,000円 ※こまつ座のみ取扱（全席指定・税込）
HP：https://www.komatsuza.co.jp/
問：こまつ座 tel.03-3862-5941
