
「第30回読売演劇大賞 大賞・最優秀作品賞」を受賞した劇団チョコレートケーキ『生き残った子孫たちへ 戦争六篇』の新作として2022年に上演された『ガマ』が再演される。
数々の悲劇を生んだ太平洋戦争の「沖縄戦」が舞台。地元の方言で「ガマ」と呼ばれる自然で作られた防空壕に逃げ込んだ5人の男と1人の少女が、忍び寄るアメリカ軍に追い詰めらながら生と死の選択を迫られる物語。
劇団チョコレートケーキの主宰で演出の日澤雄介と、引き続き少女役で出演する清水緑(うさぎストライプ)に本作に掛ける思いを聞いた。
―――『ガマ』は2022年に6作品連続同時上演『生き残った子孫たちへ 戦争六篇』の新作として上演されました。今回約3年ぶりの再演に至った経緯などありましたら教えて下さい。
日澤「『生き残った子孫たちへ 戦争六篇』は、6演目あったので『ガマ』を演出しながらも探りきれていなかった印象が正直ありました。もちろんちゃんと作りましたが、“もう1回”という気持ちがどこかにありました。昨年別の仕事で沖縄に行った際に、ガマを巡ることができまして。実際に見たガマの感覚や島民の方々とのふれあいの中で、初演でやり残したことというか、自分の中でモヤっとしていたものが形になったことが、再演を決めた1番大きい要因ですね。あと初演の際に、お客様や関係者から様々な感想をいただきましたが、その内容がなかなか興味深かったんです。今年は戦後80年という節目でもありますし、沖縄での感触や初演の感覚などを参考にしつつ、もう1回クリエーションできたら面白いなと思って、今回この作品を選びました」
―――清水さんは初演でもひめゆり学徒の安里を演じられましたが、当時を振り返っていただけますか。
清水「当時はコロナ禍だったこともあって、誰か1人でも体調不良にでもなったりしたら、全て上演中止になってしまう状況の中、『ガマ』は最後の演目だったので、絶対無事に終わらせるんだという熱気がすごくあったことがとても印象に残ってます」

―――初演は劇団チョコレートケーキ作品、初出演でもあったんですよね。
日澤「清水さんが高校生の時に、うちの座付き作家の古川(健)が外部に書いた作品に出演していたんです。その演技を古川が印象深く覚えていて、安里を演じるなら清水さんしかいないという事でお願いしたいという流れです」
清水「初演の会場は東京芸術劇場シアターイーストでしたが、あの規模の広さで演じたことも、たくさんセリフがあったのも本当に初めてで、しかもチョコレートケーキさんの作品が全部面白くて、私にとってプレッシャーで本当に緊張しました」
―――再演では初演キャストが全員続投となります。
日澤「清水さん含めてみんな気心が知れていて、お互い手の内が分かってる状態でスタートできるのは非常にやりやすいと思っています」
―――清水さんが劇団チョコレートケーキ公演に出演するのは今回が3度目となります。この劇団にどんなイメージを持たれていますか。
清水「すごくバランスがいいという印象です。重厚で人間をちゃんと描かれている古川さんの脚本を、日澤さんが俳優と同じ目線で、ディレクションしてくれるというイメージがすごくあります」
日澤「情報量が多く、文体が固いというのが古川の脚本の特徴ですので、その文体の良さを残しつつ、俳優さんと共有していくためには、台本の目線というより俳優に寄り添う演出を心がけていますね」

―――本作では“新演出で再演”と銘打っています。
日澤「昨年訪れた沖縄では、様々な大小異なるガマを見てきて、ガマという存在が沖縄の方にとってどんな存在かということを考えた時、自然壕という本来の機能以上のものをちょっと付け足していきたいなという思いはあります。また現地で沖縄戦の話を伺って、加害と被害だけでは割り切れない葛藤みたいなものを感じました。この作品は、清水さん演じる安里が、いわゆる皇民化教育を受けて、日本のために美しく死ななければいけないというキャラクターで、その彼女と5人の男がどう向き合って行くか?というものなのですが、再演では僕の感じた葛藤を、各々の男が持っている後悔や生への活望という形で入れ込んでいきたいです」
―――約3年ぶりの再演となる本作の見どころを教えていただけますか。
日澤「まず舞台セットが違います。今回は東京の他の地域での公演も決定していることもあって、よりブラッシュアップした舞台セットを作ることになりました。今回は可動式でいこうかなと思っています。確定ではないのでどうなるか分かりませんがね(笑)」
清水「可動式ですか? 今初めて知りました(笑)」
日澤「きっと台詞はほとんど変わらないですけど、雰囲気はかなりが変わるんじゃないかなと思います」
清水「3年時が経っているので、私も大人になっていますし、根本は変わらないですけど、自然と解釈も違ってくるのかなっていうのはあります。初演では、私が演じる安里と彼女を見守る大人で、役割分担がはっきり分かれていて『1対5』の構図だったような感じでしたが、再演にあたって改めて台本を読んだ際に、もっと安里にも迷いがあっていいのかも、という感想を持ったので、3年が経って安里の変化がどうなるのかを見届けていただけたらなと思います」

―――公演に先立ってビジュアルが公開されました。清水さん演じる安里の衣装がガマと同化しているような色合いで、中央から光が差し込むという素敵なビジュアルに仕上がったなと感じました。
日澤「ありがとうございます!」
清水「私もいいビジュアルだと思いました。初演の時の作品のイメージが湧いてくる印象で、もし稽古に迷ったら、このビジュアルを見直そうと思っています(笑)」
日澤「作品の世界観が凝縮されていて、説得力のある1枚になりました。デザイナーさんとのビジュアル打ち合わせで、再演ではどこにフォーカスを当てていこうかという時に、『安里の内的な葛藤というイメージとガマのイメージが重なるよね』という話をした結果、あのビジュアルが生まれました」
―――観劇される方の中には、『生き残った子孫たちへ 戦争六篇』が「第30回読売演劇大賞 大賞・最優秀作品賞」を受賞したことがきっかけで、初めて劇団公演をご覧になる方もいらっしゃるかと思います。
日澤「僕の中では、作品のクオリティもさることながら、コロナ禍の中で6作品連続上演したという企画が評価されて受賞したのではと思っています。もちろん受賞したことがきっかけで劇団を知っていただける事は本当にありがたいことです。受賞したことに奢ることなく新たに作品をクリエーションすることによって、今回は“しっかりと1本に絞って作ったらこうなります”といった作品を提示したいです」
―――劇団チョコレートケーキは2000年に旗揚げして、今年で25周年を迎えました。日澤さんにとって、2025年は節目の年と位置づけていますか。

日澤「今年で創立25周年という感覚があまりないんですよ。年齢だけ重ねてきちゃってますが、まだ20代~30代ぐらいの感覚ではいるので、正直変な感じですし、25年なんてあっという間でしたね(苦笑)」
清水「私の年齢とほぼ同じですね」
日澤「何年に生まれたの?」
清水「1998年です。なので私が2歳の時に旗揚げしたことになります」
日澤「清水さんが赤ちゃんだった頃、僕は大学生で麻雀と競馬に明け暮れていました。しっかり大人だったなぁ……」
一同「(笑)」
日澤「ということは、清水さんのお父さんやお母さんと同じ年代ということか」
清水「そうなりますね」
日澤「(深くため息をつきながら)そうですか……」
清水「私もそろそろアラサーに近づきますし、いつまでも若さをアピールするつもりはありませんから」
一同「(笑)」
―――最後に公演を楽しみにされている方に向けてメッセージをお願いします。
清水「元々劇団のファンの方もいれば、初めて劇団公演を観劇される方もいるかと思います。歴史モノの作品をあまり観られない方にもきっと伝わるように演じられたらと思っていますので、是非とも観に来ていただきたいです」
日澤「3年ぶりの再演です。今年が『戦後80年』という節目の年でもあるし、沖縄で起こったこと、もしくは戦争で行われたことがそのまま今に続いてるような感覚が僕にはあります。今日本や世界で起こっていることというものの延長線上にある作品にしたいですし、実感を持って演出したいと思います」
(取材・文&撮影:冨岡弘行)

プロフィール

日澤雄介(ひさわ・ゆうすけ)
東京都出身。劇団チョコレートケーキ主宰、演出家・俳優。2000年に劇団チョコレートケーキを旗揚げ。劇団作品の演出を手掛ける傍ら、俳優としても出演。近年は『蜘蛛女のキス』『アルキメデスの大戦』『十二人の怒れる男』『おばぁとラッパのサンマ裁判』といった外部作品の演出を数多く手がけ、8月には舞台『WAR BRIDE 一アメリカと日本の 架け橋 桂子・ハーン一』(演出)を控える。2013年&2017年&2021年に読売演劇大賞 優秀演出家賞を受賞。

清水緑(しみず・みどり)
東京都出身。うさぎストライプ所属。2015年、『裸電球に一番近い夏』で舞台デビュー。主な出演作に、『あたらしい朝』、『外の道』、映画『シュシュシュの娘』、『A la Marge(外の道)』、『ブラウン管より愛をこめて~宇宙人と異邦人~』、ドラマ『パーセント』など。
公演情報
劇団チョコレートケーキ『ガマ』
日:2025年5月31日(土)~6月8日(日)
場:吉祥寺シアター
料:前売5,000円 当日5,500円
U25[25歳以下]3,800円 ※要証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://www.geki-choco.com
問:劇団チョコレートケーキ
mail:info@geki-choco.com