佐野瑞樹が主催するsitcomLabの第7弾公演『ご町内デュエル』が3月7日から開幕する。佐野の人気脚本の1作でもある本作は、町の集会所を舞台にした90分間のワンシチュエーションコメディ。今回は「Right」「Left」という2チーム制で上演される。「Left」チームの演出を担当する佐野、「Right」チームで出演する長谷川哲朗、「Left」チームで出演する速川大弥に公演への意気込みなどを聞いた。
―――これまでにも上演を重ねてきた『ご町内デュエル』ですが、この作品を今、再び上演しようと考えたのはどういった思いからだったんですか?
佐野「僕のプロデュース公演であるsitcomLabでは自分の作品をリメイクしながら決定版を出していくプランを行っています。2025年の1作目となる作品なので、今回はバカバカしい、お祭り騒ぎのような作品をやってみようと思い、『ご町内デュエル』になりました。お芝居の中に立ち回りがあったり、ショーがあったりするので、僕の作品の中ではエンタメ性がすごく強い作品なんですよ。2025年はこの後にまだ2本続くので、景気づけのようなところもあります。勢いをつけたいし、これを新年1発目に上演したら盛り上がるのではないかなと」
―――今回は、「Rightチーム」と「Leftチーム」の2チーム制での上演です。そこもまた楽しい取り組みですね。
佐野「見比べても面白いと思います。先ほども言ったように、お祭り騒ぎにしたかったので、2チーム制にしたということもあります。総勢24名になるんですよ。なので、より賑やかな感じが出るのかなと思いますし、パーっとやりたい。演出家も違うので、2チームの特色が出ると思います」
―――長谷川さん、速川さんは、今回ご出演決まっていかがでしたか? それぞれのチームを引っ張っていく立場になるのかなと思いますが。
速川「僕はそもそも経験がまだ浅いので、引っ張っていくというよりは、引っ張っていただく感じだと思いますが……。舞台に立ち始めて3、4年の自分が言うのもおかしいですが、初々しさをいい感じに主演として出していければと思います。台本を読ませていただき、主演が振り回されるという物語だったので、そういう意味では自分ともリンクしているところがあると思いますし、いい感じに相乗りできるのではないかと思っています」
長谷川「僕も引っ張ってもらえれば」
佐野「あなたはもう歳いっているでしょ(笑)」
長谷川「あはは。そうですね、でも、共演の木村(公一)さんたちに引っ張っていってもらいたいと思います(笑)」
―――脚本を読まれて、この作品のどんなところに魅力を感じていますか?
速川「とにかく振り回されているなというのが最初の感想です。僕たちが演じる夫役は、お笑いでいうところのボケ。ツッコミに寄ってはいるけれども、ところどころにボケを挟んでいくキャラクターだと思いますが、天然ボケなところは自分と似ていると思いました。普段、僕は、意図せずにボケてしまうんですよ。なので、素の自分を出せたらいいのかなと思っています」
長谷川「僕は以前にも同じ役を演じたことがあるんですよ。妻役の人に振り回されたり、いろいろな出来事に巻き込まれていくというストーリーですが、そこにいるだけで楽しい空間なので、楽しんで演じていけたらと思います」
―――再び同じ役を演じるということで、前回にはない深みなども出てくるのではないでしょうか?
長谷川「そうしたいという思いは強くあるのですが、出せるかどうかはちょっと(笑)」
佐野「でも、最近はシチュエーションコメディに造詣が深くなってきているのは感じるよ?」
長谷川「本当ですか?」
佐野「いつもノープランだったけど、最近は色々と考えてやっているよね」
長谷川「そうですね。一応、考えるようにはなりました」
―――シチュエーションコメディは、やはり演じるのは難しいですか?
長谷川「最初は難しかったですね。特に、巻き込まれる側の役は難しいです。ただ演じればいいだけでなく、周りを見ていないといけないので。次々といろいろなことが起こるので、最初は妻役の人に頼り切ってました(笑)」
佐野「でも今は、『こうした方が良いよ』と教える立場になってきていますからね」
―――速川さんはコメディのお芝居はどのように感じていますか?
速川「僕はsitcomLabさんの昨年7月の『リバースヒストリカ』にも出演させていただきましたが、そのときは、周りでどんなことが起こっても動じずにいるという役だったんですよ。出演させていただくのは2回目ですが、前回は自分自身ではあまりドタバタをやっている感覚がなかったので、そういう意味では、ほぼ初挑戦になると思います。ただ、脚本を読んでいるときになんとなくここはこういう感じになるのかなとイメージができたので今、すごく楽しみです。お祭り騒ぎだと思うので、とにかく楽しんで演じられたらと思います」
―――佐野さんは、速川さんが出演する「Left」チームの演出も手がけますが、速川さんのご出演で楽しみにされていることは?
佐野「前回は振り回す方の役柄で、ズシンとしている役だったので、せっかくコメディに出てもらったのに、あまりコメディパートがなかったと思います。本人が『コメディをやってみたい』と言ってくれていたのに、どちらかというと真逆の役でしたので、コメディの中心にいて笑いを取りにいく役を演じてもらいたいという気持ちがあって。それで、今回の役柄を演じたらどうなるのかと、僕自身も見てみたいと思ってお願いしたので、すごく楽しみです」
―――長谷川さんへの期待は?
佐野「てっちゃん(長谷川)は、以前にも演じているのを観ていますが、これまでの雰囲気にプラスα、積んできた技術がどう乗ってくるのかが楽しみです。前は言われるままにやっていたもんね(笑)? 演出家や共演者に言われること、全て『分かりました』って。今度はきっと自分発信で作っていくと思うので、期待しています。この作品は、前回、演劇集団イヌッコロで上演した『かげきなデイリープレイス』と同じ世界観なんですよ。そのときにてっちゃんが『シチュエーションコメディとは?』を熱く語っていたので、これはと思いました」
長谷川「あははは」
―――ぜひそのシチュエーションコメディの面白さをお伺いしたいです!
長谷川「物語の最初で起こった出来事が伏線となって、最後に回収されるというそのプロセスが面白いと思います。ああ、ここでこうなるんだと、観ている人も楽しいところかなと思います。出る方はすごく頭を使うんですが」
―――なるほど。速川さんはシチュエーションコメディはどんなところに面白さを感じますか?
速川「軸となるストーリーとコメディタッチな部分の2軸で物語が進んでいく感覚があります。土台としてストーリーがあって、その隙間にコメディ要素が入ってきて、最後に全部回収される。哲さんも先ほどおっしゃっていましたが、本当に出演している側は頭を使います。今、何をしているんだろうと分からなくなることがよくあるのですが、それでも演じていてすごく楽しいですし、観ている方も面白く観ていただけて、最後は伏線が回収されてスッキリするんじゃないかなと思います」
―――佐野さんからもぜひ、「シチュエーションコメディの面白さ、魅力」を教えてください。
佐野「コメディの中にもいろいろなジャンルがあって、シチュエーションコメディは、1番役者が力を発揮できるコメディだと僕は思っています。例えばギャグコメディやスラップスティックコメディは、役者というよりはその瞬間の爆発力を出せる人の方が面白さを追求できます。なので、芸人さんに役者が負けてしまう可能性がすごく高いんですよ。ですが、シチュエーションコメディは、ストーリーの中に笑いが組み込まれています。
ギャグコメディは、ストーリーの合間合間にギャグを突っ込んでいくスタイルですが、シチュエーションコメディは役者が演じることでお客さんが笑う。でも、そうしたことをいかに意識せずに、お客さんに『ここで笑いをとるよ』ということがバレないように狙っていかなくてはいけない。2人が頭を使うと言ったのはまさにそれで、爆発力ではなく、役者がしっかりと自分でプランを立てて、どうやって笑いを掴んでいくかをみんなで考えて、作り上げていかないといけない。個人ではなくて、みんなで笑いをとるというのが僕は大きな魅力だと思います。僕はそれが好きです。
それから、舞台製作の裏側を話すと、脚本を作るのはめちゃくちゃ大変ですが、コスパは抜群です。ワンシチュエーションだと、特殊なギミックもいらないし、衣裳もそれほど変えることはない。会話劇なので、全体的なコストを抑えられます。稽古時間も普通の舞台よりも短くてすみますし、場当たりもすごく楽になります。そういう意味では、非常に優れているのがシチュエーションコメディかなと思います」
―――ただ、演じる難易度は高い?
佐野「めちゃくちゃ高いです。初めて出演する人はパニックを起こすと思います」
長谷川「なります(笑)。自分に何が起こっているのか分からないって」
佐野「『あれ?今、笑いはどこだっけ?』って分からなくなって。しかもどんどん関係性が複雑になっていくんですよ。勘違いとすれ違いで物語が進んでいくので、演じる方もこんがらがるし、演出指導もこんがります(笑)」
―――そうすると、キャストさん同士のコミュニケーションが大事になっていくんですね。
佐野「大事ですよ。せっかく面白いシーンなのに、1人が違うことをやってしまうと全然面白くなくなるということがありますから。シチュエーションコメディは、その名前の通り、シチュエーションで笑わせるので、全員でその状況で笑いを取りにいくんです。なので、1人、状況を壊す人がいると全然笑えなくなってしまうんです。難しいですよね、その壊している人も自分で分かっていないことがあるから」
―――これからお稽古が始まると思いますが、今の時点で、Rightチーム、Leftチームそれぞれ、どんなチームカラーが出てくると感じていますか?
佐野「おそらく僕の演出の方がシチュエーションコメディということにこだわると思います。こいづかくんよりも緻密に、より計算をして、ギュッとシチュエーションコメディの良さを思いっきり詰め込んでいく感じです。なので、スタイリッシュになると思います。こいづかくんのチームは芸人さんもいますし、お祭り騒ぎ感が強くなるのではないかなと思います。全体的な派手さがある。根っからのお祭りだと思います。僕は、シチュエーションコメディの良さをメインに押し出していきながら、それに全体的に枝葉をつけてお祭り感を出していく。そうした違いかなと思います」
―――2025年の1作目の作品ということで、2025年の抱負や目標を教えてください。
佐野「sitcomLabで僕のワンシチュエーションコメディを1人でも多くの人に知ってもらうというのが、今の演劇人生の目標になっています。今年は『ご町内デュエル』から始まって、『恋するアンチヒーロー』と『いえないアメイジングファミリー』という僕の人気作をずらっと並べました。なので、これまで認知度が少しずつ上がってきたところを、ここで一気にぐっと押し上げたいと思います。そのためにも宣伝は大事。今年は、宣伝にも徹底的にこだわりたいと思います。もちろん面白いものを作る、笑わせるというのはマストでやらなくてはいけないことだと思っていますが」
―――おふたりはいかがですか?
長谷川「僕の場合は、コロナ禍になってから舞台に立つ機会も少なくなってきましたが、昨年、出演したらすごく楽しかったので、今年もまた何回か舞台に立てるようにしたいですね」
速川「僕は、『ご町内デュエル』の後も舞台が続くので、体調に気を付けて、公演を飛ばさないっていうのがまず1つです。それはマストでクリアしていく抱負です。それから、もう役者も4年目でそろそろ『初々しさ』と言えなくなってしまうので、それをいう機会を減らしていこうと思っています。テクニックなどしっかりと身につけていきたいです」
―――最後に公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。
佐野「1人でも多くの方にワンシチュエーションコメディの面白さを知っていただきたい。そのために2000円の席もご用意しておりますので、迷っている方はぜひそちらのチケットで観に来ていただきたいなと。2000円だったら、映画見に行くのと変わらないですから。とにかく観やすいことに徹底してこだわっているので、上演時間も90分です。いかに楽しくて分かりやすく、面白くて笑えるように観てもらえるかを考え抜いて作っています。できたら両チーム観に来ていただいて、同じ舞台、同じ作品でもこんなにも違うんだということを感じていただけたら嬉しいです」
長谷川「観ている人に楽しんでもらえるように演じたいです。何も考えずに楽しいと思ってもらえる作品だと思います。演じる僕たちも難しいこともあるとは思いますが、楽しんでやっていきたいと思います。初々しさはないですが(笑)」
速川「僕のチームの皆さんは本当にシチュエーションコメディの玄人たちばかりなので、みんなで力を合わせて面白い作品を作り上げたいなと思っています。ぜひ2000円のチケットで会場に足を運んでいただけたらと思います」
(取材・文&撮影:嶋田真己)
プロフィール
佐野瑞樹(さの・みずき)
静岡県出身。1993年にミュージカル「美少女戦士セーラームーン』で初舞台。その後、 数々の話題の舞台・ミュージカル・ドラマに出演し、高い評価を得る。2011年、弟の大樹 と兄弟プロデュースユニット 「WBB (WATER BIG BROTHERS)」を結成。2013年、 舞台『川崎ガリバー』で初演出。
演出を担当する舞台『もしも彼女が関ヶ原を戦ったら』が、2025年2月16日(日)開幕予定。
長谷川哲朗(はせがわ・てつろう)
東京都出身。演劇集団イヌッコロには立ち上げから参加し、第1回公演から出演している。個人では、舞台『発明BOYカニパン』、*pnish*vol.10『サムライモード』、プロスパードッグス『まわれ!無敵のマーダーケース2023』などに出演。
速川大弥(はやかわ・だいや)
京都府出身。ミュージカル『テニスの王子様』4th シーズンで真田弦一郎役を演じ、注目を集める。主な出演作に、sitcomLab『リバースヒストリカ』、Reading Musical『BEASTARS』など。4月には舞台『青のミブロ』への出演が決定している。
公演情報
sitcomLab 第7弾
『ご町内デュエル』
日:2025年3月5日(水)~16日(日)
場:中野 ザ・ポケット
料:プラチナ席[特典付]15,000円
S席[特典付]5,000円
A席2,000円(全席指定・税込)
HP:https://lit.link/sitcomLab
問:sitcomLab mail:info.hanipro@gmail.com