「三人の会」記念公演は10周年の節目にふさわしい豪華なプログラム これまでの常識ではあり得ない組み合わせが随所に

「三人の会」記念公演は10周年の節目にふさわしい豪華なプログラム これまでの常識ではあり得ない組み合わせが随所に

 シテ方には5つの流派がある。その中でも一番大きな観世流は、さらにいくつもの“家”に分かれている。「三人の会」は、それぞれ異なる家に属する同世代のシテ方能楽師 坂口貴信(観世宗家)、谷本健吾(観世銕之丞家)、川口晃平(梅若家)の3人による会だ。その中から川口晃平に3月の結成10周年記念公演について話を聞いた。

 「異なる家に所属する3人ですが、同世代なので内弟子修行時代がほぼ被るんです。ちょうどその頃から師匠同士が一緒の舞台に出ることが増えて、楽屋で顔を合わせることが多くなり仲良くなりました。家は違っても良い能楽師になりたいことと、師匠の舞台が好きだという志は共通していましたから。その後に独り立ちしてから、家の垣根を越えて研鑽の場を共有したいと2016年に『三人の会』を立ち上げました」

 毎年春に定例の公演を行い、昨年秋までは足掛け3年でそれぞれが大曲『道成寺』を舞う特別公演を開催した。

 「同じ曲でも家によって若干やり方や雰囲気が違うので、三者三様でやろうと。せっかくだから鐘入りの後、蛇となって出てくるときの装束を変えるとか」

 そんな「三人の会」節目の記念公演。10周年にふさわしい豪華なプログラムが用意された。まず3人それぞれがシテを務める能ではこれまで同様、各人の師匠が地謡(または後見)に入る。そして狂言『口真似』は京都の茂山家と東京の山本家が共演するという、通常ならあり得ない構成になっている。さらに師匠方による仕舞まで予定されており、盛りだくさんだ。

 「かなり重量級な番組ですね(笑)。『自然居士(じねんこじ)』は観阿弥作の古い能で、台詞劇なんです。今の演劇に近い部分があります。『砧(きぬた)』は世阿弥の円熟期にできた名作で、こちらは心理劇で実に切ない名作。そして私が舞う『松山天狗(まつやまてんぐ)』は完全なエンタメ作品で、観世流では長く廃曲となっていましたが、平成6年に私の師匠 五十六世梅若六郎(現・梅若桜雪)の演出で蘇らせた曲なんです(能劇の座/シテ 大槻文蔵師)。なので私が舞うのが一番いいだろうということになりました」

 その『松山天狗』の演者をよく見ると坂口、谷本も名を連ねている。

 「最後は3人で舞いたいということになりまして(笑)」

 これからの能楽界を背負う3人による集大成というべき10周年記念になるだろう。

(取材・文:渡部晋也)

オーディション、本番前など……ここぞ!という時にやるルーティーンは?

「自分が持っている能面を使うとき限定なのですが、本番の2週間前くらいから能面を出しておいて、表情を見たり顔に着けてみたりして面と心を通わせるようにしております。そうすると自分では見ることのできない能面が、舞台上でどんな表情をしているか自分の中でイメージしながら演じられますし、面の着き具合や視界に前もって慣れておけますので安心です。また、能楽師にとって能面は単なる小道具ではなく、全てを託して演じるある意味信仰対象でもありますので、本番舞台に出る前、能面を着けるとき、必ず面に一礼してから顔にあてる作法があります。この祈りも能楽師ならではのルーティーンかもしれません」

プロフィール

川口晃平(かわぐち・こうへい)
シテ方観世流能楽師。梅若会所属。重要無形文化財総合指定保持者。東京都小金井市出身。昭和51年生まれ。漫画家・かわぐちかいじの長男。慶應義塾大学在学中に能に魅せられ能の道を志す。大学卒業後の平成13年、五十六世梅若六郎(現・梅若桜雪)に入門、復曲能『降魔』にて初舞台。平成19 年独立。今までに『翁』の千歳、『石橋』『猩々乱』『道成寺』『望月』を披く。三人の会、こがねい春の能、緑龍会を主宰。

公演情報

十周年記念 三人の会

日:2025年3月1日(土)12:00開演(11:00開場)
場:国立能楽堂
料:特別席20,000円 S席15,000円 A席12,000円
  B席10,000円 C席8,000円 D席5,000円 
  学生席2,500円(全席指定・税込)
HP:http://www.tessen.org/schedule/kikaku/250301_3ninnokai
問:オフィス能プロ.内「三人の会」事務局 
  mail:nohpro.9610mnod@gmail.com

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