2021年、コロナ禍の影響で僅か5公演のコンサートバージョンとして上演された『イリュージョニスト』。4年という歳月を経て、英国演劇界の奇才 トム・サザーランドのもとに前回のプリンシパルキャストが再び集結し、念願のフルバージョン上演が実現しようとしている。
19世紀ウィーンの退廃的な香りを漂わせる魅惑的な音楽、息もつけない物語展開、そして、舞台上で巻き起こるイリュージョン! 目の前に見えているものは、果たして真実か幻か……。主役のイリュージョニスト アイゼンハイムを演じる海宝直人に、本作への思いと意気込みを聞いた。
―――フルバージョンの上演が決定したお気持ちをお聞かせください。
「とても嬉しかったです。2021年のコンサートバージョンは、あの時ならではの緊張感と集中力の中で生み出された『イリュージョニスト』でした。今回はある種、別の作品をまた新しく生み出すような感じだと思っているので、すごく新鮮な気持ちで臨めるなと思っています」
―――『イリュージョニスト』という作品の魅力は?
「まず、やっぱりミュージカルなので、音楽がとても魅力的だと思います。オーケストレーションが豪華で美しく、スケール感もありますし、ミュージカルらしくキャラクターたちの思いや感情が楽曲で爆発する瞬間がたくさんあって、そこは見どころです。衣装もすごくゴージャスで美しく、見応えがあります。また、物語とイリュージョンの融合というのは新しいと思いますし、いろんな意味で今までにない感覚を体感していただける作品になると思います」
―――今回演じるアイゼンハイムという役について教えてください。
「アイゼンハイムは、子どもの頃にソフィという公爵令嬢と身分違いの恋をして引き離されながらも、その思いをずっと胸に秘めながら腕を磨き続けてきたイリュージョニストです。非常に完璧主義で、自分のイリュージョンを必ず成功させて、ソフィともう一度一緒になりたいという思いを抱いています。
彼が、イリュージョンの直前に非常に緊張しながらも『でもやるんだ!』と切り替えるところが、すごく人間らしいなと思って。役者としても通じるものを感じるというか。僕自身も舞台が始まる前はすごく緊張するんです。『自分にやれるんだろうか、でもがんばるんだ』みたいな感覚はわかるなぁと思いますね」
―――演出のトム・サザーランドさんは、どんな方でしょうか。
「とてもクレバーというか、洞察力のある方だと感じました。今回久しぶりにまた一緒の空間で作品を創れるのがすごく楽しみです。トムさんはとにかくギリギリまで演出を変えられるんです。前回も、初日の直前にソロの楽曲の動きを全部変えたいと仰り、『今変えるんかい!』って(笑)。
でも、皇太子役の成河さんと『よくなるのはわかってるんだよね』、『そうですよね』って話して、『じゃあがんばろう』ってギリギリまでみんなで調整しました。決して妥協せず、最後の瞬間までいいものをお客様に届けようという思いが溢れているのを感じましたね」
―――この舞台は長い時間をかけ、紆余曲折を経て、今回ようやく幕が上がろうとしているわけですが、海宝さんがこの舞台に関わったことで変化したところなどはありますか。
「出演者の皆さんが、役者としても素晴らしいですし、クリエイターとしての能力が高い方たちなので、前回は翻訳や演出、音楽に関してもそれぞれ自分自身の意見を出してディスカッションすることができました。
他の公演では時間的になかなかそういった余裕がない場合があり、また海外の作品はそもそも演出や台詞を変更できないことも多いんです。でもこの作品では、脚本のピーターさんも、作曲のマイケルさんもzoom越しではあったけれども一緒にいてくれて、その中でみんなで意見を出し合いながら創っていくことができました。
僕自身、やっぱりこういう風に作品を引っ張っていける役者になりたいという思いがすごく強くなりましたね。出演者ではあるけれども、言われた通りに受け身で動くのではなく、クリエイターの1人として意見を発信しながら、皆さんとディスカッションしつつ1つの作品を創っていく。そういう責任感みたいなものが、この作品に参加したことでとても強く芽生えました」
―――改めて、『イリュージョニスト』という作品は一体どんな作品でしょうか。
「現代を生きている人間にとって、すごくハッとするというか、改めていろんなことを考えさせられる作品だと思います。自分たちが生きている中で、果たして何が真実で何が幻なのか、そして本当に自分たちは真実を知りたいと思って生きているのか。
特にSNSとか、いろんな情報が氾濫している世界で、この作品を観て感じていただけることはすごく大きいのではないでしょうか。今回改めて台本を読み直してみて、そういうパワーを持った、ものすごく現代にマッチする作品だなと感じています」
―――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
「クリエイターの皆さん、役者陣、スタッフの皆さんが、とにかくいいものを、今まで観たことのない素晴らしい作品をお届けしたいという熱量は、本当に強いものがあります。お客様も、舞台と客席の垣根があって傍観者としてご覧いただくというよりは、出演者たちとの共犯関係を結ぶような、そういう作品になるかと思います。ぜひ体感しに来てください!」
(取材・文:前田有貴 撮影:河西沙織)
「昔はルーティーンやゲン担ぎをやっていた時期もありますが、今は極力そう言ったものを作らないようにしています。何か予期せぬことが起きた時に、それが出来なかったりすると余計に緊張したり脳裏によぎったりしてしまうので……。
出演前やオーディションの前がどんな状況でも落ち着いて臨めるようにそのようにしています」
プロフィール
海宝直人(かいほう・なおと)
1988年7月4日生まれ、千葉県出身。7歳の時、ミュージカルに出演していた姉の姿に触発され、劇団四季のオーディションを受け合格。同年『美女と野獣』のチップ役でデビュー。近年は、ミュージカル『レ・ミゼラブル』マリウス役、『ジャージー・ボーイズ』ボブ・ゴーディオ役、劇団四季『アラジン』アラジン役、『ノートルダムの鐘』カジモド役など、子役時代から培われた確かな演技力が高い評価を得ている。また、ヴォーカリストとしても様々なスタイルで音楽活動を展開。2012年よりロックバンド「CYANOTYPE」としても活動、2018年1月にはメジャーデビューを果たす。ソロとしても、2019年1月に「I wish. I want.」でメジャーデビュー。
公演情報
ミュージカル『イリュージョニスト』
日:2025年4月8日(火)~20日(日)
※他、東京公演あり
場:梅田芸術劇場メインホール
料:S席 土日祝16,000円 平日15,000円
A席 土日祝11,000円 平日10,000円
B席 土日祝6,000円 平日5,500円
(全席指定・税込)
HP:http://illusionist-musical.jp
問:梅田芸術劇場
tel.06-6377-3800(10:00~18:00)