江戸川乱歩の作品を朗読劇の形で上演し、人気を博してきたCCCreationが満を辞して名作『黒蜥蜴』を舞台化。『黒蜥蜴〜Burlesque(バーレスク) KUROTOKAGE〜』と銘打ち、かつてないバーレスクという形態で上演する。脚本はドラァグクイーンで作家、脚本家、歌手と多才な顔を持つエスムラルダ。演出に劇団鹿殺しの丸尾丸一郎を迎え、キャストはオールメイル(全て男性)という刺激的なラインナップ。主演の黒蜥蜴を雷太と島田惇平のダブルキャストで、しかも雷太は明智小五郎も演じるという多彩な組み合わせも見どころだ。
脚本が渡ったタイミングで主演2人に話を聞いた。
―――今回の「黒蜥蜴」は、全て男性で演じられると聞いてどう感じましたか。
島田「僕は普段シェイクスピアなどで、女性役を男性がやる舞台も経験していますし、オールメイル、全て男性が演じる舞台も経験があります。黒蜥蜴に関しても黒蜥蜴を男性が演じるのは自然に感じます。でも早苗や他の役も全て男性が演じるというのは面白いなと思いました」
雷太「僕も表現としてはチャレンジングだと思いますし、すごく面白いものになると思います。きっとドラァグやバーレスクなど色々なカルチャー的な側面も関わってくると思います。そこにはリスペクトを持って関わっていければと思っています」
―――エスムラルダさんの脚本を読んだ最初の印象を教えてください。
島田「思ったより3倍歌があるなと(笑)。もちろん歌があるとは事前に聞いていたんですけど、実際に台本呼んだら『あっすごい歌うな!』というのが正直な感想ですね。ただエスムラルダさんの書いた歌詞が素敵で、いわゆるリプライの曲で、ものすごく黒蜥蜴の気持ちや明智との関係性がわかるんです。歌唱のところですごく繊細に大胆に描いているなと。より稽古して、これを具現化していったらどうなるのかという妄想が広がる台本だと思いました」
雷太「乱歩版、三島版などとは、またちょっと違う匂いが燻ってくるというか、今作では『歌』というものがあるので、今までの黒蜥蜴とはまた違う新しい形に仕上がっていくのかもしれない、と感じています」
―――そうなんですね。雷太さんは、ご自分なりの黒蜥蜴をどんな人物にしたいと思っていますか。
雷太「『孤独』というものがひとつキーワードになってくるのかなと思います。僕らの世界でも通底するものですけど、華やかに着飾っている人たちって、何か隠したいものがあるというか……多分、表向きはすごく華やかなものになると思うんですけど、そういう部分もある人物像を表現できればと。これは丸尾さんが得意とされているところなのかな、と勝手ながら思っています」
―――お2人は丸尾丸一郎さん演出の舞台に出られたことがあるのですか。
島田「去年、サルバドールダリを描いた舞台で雷太とも丸(丸尾)さんとも出会いました」
雷太「そうか、それ去年なんだ!」
島田「まだ、そんな経ってないんだ」
―――丸尾さんの演出方法はどう感じましたか。
島田「丸さんは『鹿殺し』とプロデュース公演とで、たぶんやることを全然変えてるなという印象があります。僕は『鹿殺し』さんの本公演とプロデュース公演の両方に出させてもらっているんですが、丸さんはプロデュース公演の場合は、ご自身で演出をされていて、その時はすごく丁寧で、反面、本公演でやられる時はすごくエネルギッシュで、それほど細かいことを表現せずにとにかく人間のエネルギーでお客さんを黙らせる。彼がやりたいことをやられることが多いのかなという。
人をしっかり見ていて、その人がやるから意味があるという演出をする。どういう風にこの人を導いたら面白くなるかとか、人をちゃんを見て会話を大切にしてくださる方だと思います」
雷太「ちょうど今、自分の一人芝居(2024年12月上演)も丸尾さんにお願いしていて、『黒蜥蜴』も丸尾さんがやるということで丸さんの演出で芝居をするのは4回目になります。逆に僕は『鹿殺し』さんの本公演には出たことがなくて、でも芝居を見て感じるところがあります。
個人的には丸さんには感謝をしているところがたくさんあって、それこそ導いてくれるというか、自分にないものを試してくれる。
人間って一色じゃないよね、ということを感じられる演出だと思います。人間ってそんなに綺麗じゃないじゃん、みんなどこかに闇があって、それが人間だもん。逆に言えば悪い人には光があってとか、単色じゃなくて、キャラクターに彩りを与えてくれるというか本質的なものを捉えてくれる。
それって役者にも通じるものがあったりするので、そうしたものを探せる現場を作ってくださる方だと思います。『黒蜥蜴』も音楽も込みでどういう形になるか楽しみです」
島田「すごく自由にやらせてくれるもんね。好きにやってって、まずはそこから色々見てくれるような印象」
―――今回、雷太さんは黒蜥蜴も明智も演じられますよね。それに関してどう思いましたか。どんな明智にしようと思っていますか。
雷太「僕が明智を演る時はJPさんが黒蜥蜴になってという感じなので、どうなるか楽しみですね。正反対の2人なので、その両面を演じることでわかることがあると思いますし、役者としても自分との戦いになるのかなと思います。明智のような正統派というか硬派なタイプを演じる機会は実は少なくて。自分は正直、飛び道具的な役が多くて、最初から何かが外れているとか見た目がすごいとかそういうキャラクターばかりなので、そこは自分としても楽しみです。
明智に関しては他にも魅力的な役者さんが演じられるので、そこは皆さんとのバランスを見ながらにはなるとは思うんですが、その中で自分なりの明智を演じられればなと思います」
―――本作はバーレスク黒蜥蜴ということで、舞台上の両脇にもバーレスク席があって、そこからもお客さんが観劇できるそうですが、この三方から観られるという配置についてはどう感じましたか。
雷太「いわゆる仮面舞踏会とかショーバブとかそういった雰囲気になるんでしょうか。僕もそういったショーを観に行くことはあるんですが、表現が難しいんですが、何かいけないものを覗いているような感覚になるんです。今回のバーレスク席も、ものすごく距離が近いので、日常生活ではない感覚に没入していただけるかなと。すごく背徳的であったり、その世界観には少しエロティシズムも含む『黒蜥蜴』という作品を、目の前でローソクが置いてあるようなテーブル席で仮面をかぶって観る……というお客さんにとってはより濃密な時間になると思っています。今回の作品ならではの席の配置だなと思います」
―――(配置図を見て)バーレスク席に座っている人は、前方に座っているお客さんから見られているという構図なんですね。
雷太「そうなんです。ここに座っている人は、見ているのか見られているのかわからなくなる。そうした時に仮面というのがいい働きをするのかなと思うんですよね。自分にひとつフィルターをかけるというか、もはやこれも込みでひとつの舞台装置というか」
―――バーレスク席のお客さんもおしゃれして来るといいですよね。
雷太・島田「ねー、そうしてもらったら嬉しいよね」
―――ダンスのシーンも多いようですが、お2人はダンスに関してはいかがでしょうか。
島田「僕は、6年くらい前の30(歳)手前あたりから急にダンスを始めて」
雷太「もう、すごいんですよ」
島田「ダンス、というのかな? 共演した森山未來さんの影響で始めました。いわゆる身体表現というものから始まって、それがすごく面白くて、そうしたら未來さんから『イスラエルに行って来い』って言われて、イスラエルに行って向こうで身体表現の勉強をして、そこから独学で始めたっていう経緯があるんですけど」
―――ジャンルはコンテンポラリーダンスにあたるのでしょうか。
島田「コンテポラリーに近いところもあるし、精神的には舞踏に近いと思います。色々なものがミックスされているので、ジャンルは何かと言われるとパッと言えないんですが、自分の人生から形が出てきた踊りを今、演っているのかなということになります」
雷太「僕はジャズダンスから始めてミュージカルに参加したり、中学生の時にマイケル・ジャクソンさんに憧れてストリートダンスを始めて、舞台芸術の学べる高校に進んで授業でジャズダンスやバレエ、日舞などを総合的に学んで、そのまま日本大学芸術学部の洋舞コースに進学しました。そこではいわゆるジャンルというくくりで言うとコンテンポラリーやモダンダンスを勉強して、学外ではストリートダンスをやって……みたいな感じで。色々やってきたなとは思うけど、僕もJPさんと同じで『ダンスやってるんです』と言って『どういうダンスですか?』と聞かれた時に説明するのが難しい(笑)」
島田「島田惇平というダンスです、と言うしかないんですよね(笑)」
―――JPさんとは島田さんのことなんですか?
雷太「そうなんです。惇平さんのことをJPさんって呼んでます。JPさんのお芝居とかダンスを拝見してても思うんですが個性ってすごく難しいですよね。JPさんがダンスを始められて、積み重ねていらして、それがすごく、平凡な言葉になっちゃいますけど、個性的な表現になっていて。ずっとダンスをやっている人だと凝り固まるところもあると思うんですよ。それがはたして観て面白いのかというと、それはちょっと何とも言えない。JPさんの奇跡はよく聞いてましたね」
島田「僕は逆に雷太が羨ましいと思って。それこそ子どもの頃から色々なダンスに触れてきて、あらゆることをやってきて、行き詰まるところまで来ている。そこからどう脱却するのか、もがいたり苦しんだりしても時間は進んで行ってしまうから。凝り固まってしまう時期があっても、その時間を経たのちの身体表現には、やっぱりその人の人生の厚みが出る。
踊りでも芝居でもそうです。5、6年だけちょっと付け焼き刃でやった人には出ないものが絶対にそこに出ると思っているから。僕はそういうのが羨ましくて、もっと幼稚園とか小学生から踊りをやっていれば良かったなと」
雷太「そこは無いものねだりなのかも(笑)」
―――こうして聞いていますと、お2人のお互いへのリスペクトがすごいですね。
島田「そうですね。まだ1年の出会いとは思えないんですけど(笑)。僕たち持ってるものは全然違うんですけど、僕らを良くわかってる丸さんもいらっしゃるので、そこはまた面白くなるんじゃないかと、そういう予感がしています」
―――丸さん、丸尾さんにもお会いしたかったです。
雷太「なんでしょうね、ユニークな方ですよ(笑)」
―――最後に「黒蜥蜴」の見どころを教えてください。
島田「黒蜥蜴という役についてですけど、人は自分とはかけ離れている存在、才能とか美しさであったり、そういうものに惹かれるところがあると思います。黒蜥蜴という女性は人が絶対に飛び越えられないタガというものを軽々と飛び越えて、その先で楽しく闊歩している存在です。普通は、こういう欲があっても人は押し留まる。それはやっちゃいけないよね、というところを彼女は自由に軽々とやってしまう。
そういう圧倒的なカリスマ性がある主人公がいるから、長年に渡ってこの作品は読み続けられていると思うんです。黒蜥蜴という役を通して日常、見てはいけないものを見るというか、空間がトリップする瞬間とか、そういうものを期待してほしいです」
雷太「もちろん内容と、あとはカンパニーとしての試みとか色々なものを含めて楽しんでいただけると思います。これまで演劇を始めとした舞台はもちろん、映画でも色々な『黒蜥蜴』がある中で、こういう表現の『黒蜥蜴』もあるんだよ、というか。誰も言えないけれど私は知っているという特別感がアンダーグラウンドの良さというか、自分だけが知ってしまう世界というか、そういった背徳的な世界を楽しんでいただければと思っています」
(取材・文&撮影:新井鏡子)
プロフィール
雷太(らいた)
1993年12月16日生まれ。幼少からジャズダンスやコンテンポラリーダンス、ストリートダンスを学ぶ。ファッションモデルやパフォーマーとしての経験を重ね、俳優として本格的に活動を開始。出演作に、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』、OFFICE SHIKA PRODUCE Operetta『YAMA-INU』、『ダリとガラ』等がある。
島田惇平(しまだ・じゅんぺい)
1989年10月21日生まれ。役者業を行う中、身体表現と出会い、森山未來、辻本知彦、山田うん氏に師事を受ける。2024年にはCCCreation Presents 『白蟻』、ミュージカル 『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』、G.GARAGE/// ✕ 紫テント『リチャード三世』等に出演。
公演情報
CCCreation Presents
舞台『黒蜥蜴〜Burlesque KUROTOKAGE〜』
日:2025年2月8日(土)~16日(日)
場:こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ
料:【公演前半 2/8~11 13:00】
S席9,500円 A席7,000円
【公演後半 2/11 19:00~16】
S席11,000円 A席9,500円
※他、席種あり。詳細は下記HPにて
(全席指定・税込)
HP:https://www.cccreation.co.jp
問:CCCreation mail:contact@cccreation.co.jp