心の琴線を掴んで揺さぶる名作『映像都市』を“STRAYDOG” が堂々再演! 観る方の感性で受け止め方が変わる物語世界をWキャストで楽しんで欲しい

 劇作家、脚本家、演出家として活躍する鄭義信の名作『映像都市』が、第20回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」特別賞受賞をはじめ、映画監督としても高い評価を得る森岡利行が主宰する”STRAYDOG”により、2025年2月赤坂RED/THEATERで再演される。2チームのWキャスト体制で、ある男の3つの時代を通して綴られていく作品で、共に女優のかおり役を演じる森岡里世と美澄衿依が、作品、そして共感するところが多々あるという役柄への想いを語り合ってくれた。


舞台を初めて観る方もきっと引き込まれる作品

───今回初めてご覧になる方もいらっしゃると思いますので、まず作品についてお伺いできる部分で、お話いただけますか?

森岡「鄭義信さんの戯曲なのですが、3世代の男の話になっていて、それが果たして1人の男の人生なのか? 幻想なのか? というところから、観て下さるお客様それぞれに受け取っていただける余地の多い作品かなと思っています。映画館に住んでいた少年時代、シナリオライターになっている青年時代、うだつのあがらない毎日を送っている映画館の館主の中年時代が、ランダムに描かれていくのですが、その3つの時代がつながっていった時に果たして……という物語になっています。でも時代を飛び越えて会話をもするんですね。なので本当にひとりの人生の三つの時代を描いているのか、こうなりたかったという憧れ、抱いていた幻想の話なのか、を観る方お1人おひとりが違って感じられるかもしれないんです。「僕はずっと夢を見ている」という台詞があるんですけど、それも自分がこうなりたいという意味での夢なのか、或いは寝ている時に見ている夢なのか、どっちにもとれるじゃないですか。1回目の観劇だともしかしたら疑問を感じるところもあるかもしれないのですが、2回観ると、より深く色々な考察がしていただける作品、脚本になっていると思います」

───それは今回Wキャストの2チーム体制の上演ですから、両方観ていただくのにはピッタリの物語ですね。その中で、お2人は同じ役を演じるということで、お役柄について伺いたいのですが、美澄さんはご自身のSNSでファンの方が嬉しい恰好をしているお役ですと発信をされていましたが。

美澄「私が演じるかおりは女優をやっていて、作品の中で下着姿になったり、脱ぐシーンに対して葛藤を抱いたりする役なんです。私はグラビアもやっているので、グラビアモデルとしての私しかご存知ないファンの方にも、是非興味を持って舞台を観にきていただけたらいいなと思って発信しました。私自身、はじめて作品に触れた時にとても不思議な感覚に陥りましたし、舞台は初めて観るという方もきっと引き込まれる作品だと思っていて。私自身、役者として活動しているなかで、かおりとちょっと重なるところがあります。女性がお芝居のなかで脱ぐということに関して、やっぱり難しいと感じることがあるので、そうした部分とも向き合いつつ、私らしく楽しんでかおりを演じたいなと思っています」

森岡「私もかおりに通じるなと感じるところがあるなと思っていて(美澄に)私27歳なんだけど、同い年だよね?」

美澄「そうです!」

森岡「27歳って、まだそこまで追い詰められているという訳ではないけど、自分としてはあっという間に20代も後半になってきた、と感じる年齢ではあって。かおりもずっと女優になりたかった人で、頑張って女優としてやってきているんだけれども、自分が目指していた女優像とはかけ離れてしまっている。求められるものに応えて頑張ってきた結果、いつの間にか芝居のなかで「脱ぐ」役どころしか選択肢がなくなっている、ヌードにしか自分の需要がないことに追い詰められて、自分のシワひとつまで気になるという結構切ない役なんです。女優としてやっていきたい限りは、やらざるを得ないことがあって、それが理想とは違うんだけれども、でも芝居はしたいというかおりの葛藤を、自分とリンクさせてうまく表現できたらいいなと思っています」

───お役柄の年齢設定としてはどのくらいなんですか?

森岡「実年齢か、ちょっと上くらいの感覚でいいよと言われていて、実際の脚本でもだいたいそのくらいの想定だと思います」

───その同年代のかおりについて重なる部分や、刺さるものがあるというお話でしたが、その辺りをもう少し言葉にしていただくとすると?

美澄「私はさっきもお話しましたが、グラビアもやっているので、お芝居のオファーがいただける時も『ベッドシーンや脱ぐシーン大丈夫ですよね?』という感じでお話されることがとても多いんですね。でもグラビアはグラビアの仕事としての誇りやプライドを持ってちゃんとやっていますし、だからと言って、役者としてお仕事をさせていただく時に、イコールで『脱ぎOKですよね?』と言われるのは、やっぱり私のなかでは全く違うことで」

───それは確かにそうだと思います。

美澄「特にひとつそういうお仕事をお受けすると、どんどんその方向ばかりになってしまうことがとても多くて、やりたいことから遠ざかっていくというのは、本当にかおりと一緒だなと思いますし、かおりが求められるものに応えてどんどん流されていっていることに葛藤している気持ちがすごくわかります。変わろうとして一歩を踏み出すってとても大変なことなので、台本に書かれていない部分までかおりのことをもっと深く知って、どう表現できるかを稽古のなかでどんどん深めていきたいです。私は舞台で下着姿になるのは初めてで、今まで避けていたことでもあるので、今回のお話もお受けするかすごく悩んだのですが、森岡監督に自分のお芝居を観ていただいた上で『出演お願いします』と言っていただけたので、そういう部分も楽しんで演じていきたいです。お仕事や立場は違えど、なりたい自分といまの自分に対する悩みや葛藤って、生きていればきっと誰しもあることだと思うので、観る方々にかおりに共感してもらえたらいいなと思います」

森岡「変わっていきたいけど変われない、変えようと思えばいくらでも変えられるのにその勇気がない、というのは本当にあることですよね。私も子役からこの世界に入って、経歴としては0歳で映画デビューをして、これまで200本以上の舞台に立ってきているんですが、その道のりで大きな事務所さんにお世話になっていた時期もあって、キャラクターとして求められているものに向かって突っ走っていると、おいそれと後戻りできないんですよ。やりたい芝居と違うからと言って、そう簡単には変えられない。そんなかおりのもどかしさには本当に共感しますし、その一方でとても芯の強いところがあるから続けられているんだ、というところもきちんと伝えたいです」

───デビューが0歳ということは、ご自身の意志ではなかったところからのスタートだと思いますが、ご自身もこういうお芝居がやりたいなと思われた時に、なかなかその方向に行き難いというような、葛藤や悩みがおありになりましたか?

森岡「ありましたね。家は父が映画監督、姉も女優という芸能一家だったので、親の七光り的な、そういうお家に生まれていいねとか、逆に、やらされて大変ねとか、色々な見方をされたんです。でもそれこそ赤ちゃんの時は別ですけど、物心ついた頃からは、自分からお芝居がやりたいと思ってやっていた、という強い記憶があるんです。それくらいお芝居が好きなんですけど、でも好きだけじゃ続けられない世界でもあって。進むのも辛いし、じゃあ辞めたらもっと辛いのはわかっているし、という葛藤はとても大きかったので、かおりの気持ちが刺さるんです」

観てくださった方に『明日も頑張ろう、もっと生きよう』と思って帰っていただける

───そうしたシンパシーを感じるかおり役を演じるこの舞台をプロデュースしている“STRAYDOG”の魅力をどう感じていますか?

森岡「パワーですね。生きる力へのパワーが半端じゃない作品が本当に多いんです。とにかく劇場に来て舞台を観ていただけたら、必ず心の琴線に触れるというか、むしろ琴線を掴んで揺さぶるというくらいのパワーを発しているとわかっていただけると思います。私達もそれに共鳴して作品創りをしているので、何から何までかなりパワフルで、すごい体力を使うんですけど、そのぶん大きなパワーをお届けできると思っています。演出の森岡さんが唐十郎さんの状況劇場でアングラ芝居をやっていて、お芝居が大好き、舞台が大好きで、わかりやすいアングラ、誰が観てもわかりやすいアンダーグラウンドの世界観の作品をやっていきたいという気持ちを持っていて、それが年月を経てどんどん発展して“7歳から70歳まで楽しめる演劇”を目指しているんです。観てくださった方に『明日も頑張ろう、もっと生きよう』と思って帰っていただける作品創りをガッツリやっている、仕込みからバラシまで、全員でその舞台を創っているマンパワー全開なので、その熱いもの、暑苦しいくらいのものがお客様に届くようにという想いでやっていますね」

美澄「私は今回初めて参加させていただくのですが、舞台は拝見していて、その時は会話劇だったのですが、おっしゃったように本当に心を掴まれて、すごいものを観たなと思いました。家族や人間関係を描いていた作品で、とてもよくわかるぶん、自分の嫌な部分だったり、駄目な部分が重なって、共感し過ぎて怒られているような気持ちにさえなったんですけど(笑)、それくらい内容を知らずに観にいって、最後には自分もこの作品にいたのかな? という気持ちになりました。舞台から自分に話しかけられている感覚があったんですよね」

森岡「それすごく嬉しい! あ~、鳥肌立ってる!」

美澄「今回の作品は映像や歌や踊りもあるので、どうなっていくのかなというワクワク感、ドキドキ感もあり、既に魅了されています」

劇場に降りる階段から『映像都市』の世界観がはじまっている

───とても良い刺激を受けながらのWキャストになりそうですが、今回の劇場が赤坂RED/THEATER、それこそ作品世界に共にいる感覚になれる濃密な劇場ですが、劇場の魅力についてはいかがですか?

森岡「私は過去に3回立たせていただいて、すごく綺麗で、お芝居をしていて包まれている感じのする劇場です。今回は映画館のお話ですが、劇場が地下なので、階段を降りてくる段階からちょっと映画館っぽい雰囲気を出して、『映像都市』の世界観に没入できる、既にお芝居がはじまっているという仕掛けができたらいいなと思っています」

美澄「それはすごく素敵ですね!私は初めて立たせていただく劇場なので、お客様がとても近いとお聞きしていますから、そうしたことも含めてとても楽しみです」

───お聞きしていてもワクワクしますが、ちょうど年末から新年に向かうところなので(※取材は11月末)2024年がどんな年で、2025年をどんな年にしたいかを、お話いただける範囲で教えていただけますか?

美澄「私は今年たくさん舞台をさせていただけて、初めて主演も務めさせてもらったので、とても刺激的な挑戦の年でした。来年は今年経験したものや、こうしてご一緒させていただく『映像都市』で出会える方々をはじめ、新たな出会いやお仕事からまた更に様々なことを吸収して、もっと成長できる年にしたいなと思っています」

森岡「私は今年“STRAYDOG”の中の派生ユニットで、2回目の演出をやらせていただいたんです。ずっと演出をやりたいと思いながらなかなか踏み出せなかった一歩を踏み出した年だったので、来年は、さあここからどっちをどう残していくのか、両立で行くのか、演出家と役者のどちらかに定めるのかを含めて、考えることがいっぱいある年になるだろうなと思っています。最終的にはどちらもやりつくしてみないと答えは出ないと思いますが、やれることがまだまだたくさんあるなと思えていて。プライベートでも大変なことが色々起きつつも、乗り越えられたのはお芝居があったからで、周りにいる人たちに支えられた感謝の1年であり、お芝居が本当に好きだからやっているんだと改めて感じられた1年でもあったので、感謝を忘れず、怖がらず、2025年はもっとガツガツ進んでいきたいなと思っています」

───どちらかに決めるのは20年くらい先でもいいと思いますので、どんどんやりたいことをやっていかれて欲しいなと思いますが、まずこの作品『映像都市』を楽しみにされていたる方たちにメッセージをいただけますでしょうか?

森岡「2025年第1弾の出演作になるので、これが“STRAYDOG”だという作品をお客様にお届けできるように、赤坂RED/THEATER劇場空間の全てを使って、美澄さんはじめ新しいキャストの皆さんを含めたマンパワーで作品をお届けしますので、楽しみにしていて下さい!」

美澄「私は初めての“STRAYDOG”さんへの参加、初めての劇場なので、楽しみばかりなのですが、Wキャストなので同じ作品でも演じる人が変わるとガラッと雰囲気も変わると思いますから、是非2チームをご覧いただいて、色々な解釈をしていただけたらいいなと思っています。同じ作品を2回楽しめるのがWキャストの醍醐味だと思いますし、私にとっても2025年最初の舞台になりますので、是非観に来ていただけたら嬉しいです。劇場でお待ちしています!」

(取材・文&撮影:橘 涼香)

プロフィール

森岡里世(もりおか・りよ)
東京都出身。芸能一家に育ち、0歳から映画に出演。出演舞台作品は200本を数えるほか、映像でも活躍している。2024年Papillon Presents『心は孤独なアトム』、株式会社ファンファーレ主催W&COMING STAGE vol.1『どりーむぼっくす』にて演出家としての活動もスタートした。

美澄衿依(みすみ・えりい)
福岡県出身。集英社ヤングジャンプ主催 ギャルコン2021 準グランプリ受賞。グラビアモデルとして、また俳優として多くの舞台で活躍している。近年の主な出演舞台作品に『商店街グランドリオン』『Funky ナース〜きばらんか!〜』『50minutes 2024』『motel』『MIANEYO』などがある。

公演情報

“STRAYDOG”Produce『映像都市』
日:2025年2月5日(水)~9日(日)
場:赤坂RED/THEATER
料:S席[特典付・枚数限定]10,000円 A席 一般6,000円 高校生以下3,000円
  ※他、初日割あり。詳細は下記HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.straydog.info
問:STRAYDOG PROMOTION mail:s-pro@straydog.info(平日11:00〜18:00)

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