東京マハロ リバイバル公演 produce by テッコウショの2024年を締めくくる作品として、矢島弘一が率いる劇団「東京マハロ」の代表作でもある『余白を埋める~エリカな人々2024~』の上演が決定した。
物語は、野球部OB達があることをきっかけに集まるところから始まる。学生時代は共に成長したチームメイトだったが、卒業から久しぶりに会うと全く異なる背景を背負い、それぞれ人生というグラウンドで戦っていて……。人生の折り返しをむかえた人々の過去と現在の葛藤をワンシチュエーション会話劇で描いていく。
作品を代表して、脚本・演出を務める矢島弘一、出演するお宮の松、南圭介、松村彩永に話を聞いた。
過去には劇場にコーヒーの匂いを漂わせたことも
―――まず矢島さんにお尋ねしますが、少し振り返って作品を書くきっかけをお聞かせください。
矢島「『エリカな人々』という作品を14~15年前に1回やって、そのあと何回かリメイクや改稿を経て、今に至ります。そもそもこのエリカという場所が実在する喫茶店で、神田の神保町と水道橋の間に2店舗ほどある映画にもなっている有名な所で。子供の頃から父によく連れられて行っていて、そこの名物マスターが“じじ”って言うんですけど有名な方で、うちの両親の仲人さんなんですよ。
なんとなく思い入れがあって、マハロを立ち上げて何年かした時に、やっぱり自分の昔をたどった物語を書きたいなっていうところから、この『エリカな人々』が生まれた気がします」
―――ライフワークのような作品ですね。はじめに書いた頃よりも人生経験を重ね、作品も変化していくと。
矢島「当時は“松坂世代”とか関係なく書いたんですよね。その喫茶店が印刷屋さんや製本屋さんとか町工場の人たちが集まる場所で。朝、親父と一緒に行くと、そこには同業者の社長たちがいてモーニングを食べてスポーツ新聞を読んでて、僕はコーヒー飲めないんでココアを飲んで……そういう風景を見ていました。
最初はその界隈にいる人たちが職をなくし、そこで弱音を吐く物語を書いたんです。それから恋愛ものにうつって、途中で松坂世代という要素を入れて進化を遂げてきた感じですね」
―――テーマは変わらずにエリカを中心に物語が展開されるということですね。ありがとうございます。そしてお宮(の松)さんは前作から続投されます。
矢島「役は違いますが初期から出演していまして、2019年の『余白を埋めるエリカな人々』になった時の役と同じ段田役を演じます。キャッチャー役がいなくて、知り合いにキャッチャーっぽい人はいないかと相談しまして……」
お宮の松「お笑い枠です! 2回目の時に声をかけていただいたのが初めての出会いです。それからずっと参加していますね。
喫茶店エリカは閉店していますがお店は残っていて、雰囲気だけ味わおうとお店にも行きました。思い出したけど僕が初めてエリカをやった時は、劇場にコーヒーの匂いを漂わせてね、凄かったよね」
―――実験的なこともあってこのシリーズはとても印象深いですね。
お宮の松「思い出はいっぱいありますね。2019年の時にちょうどある舞台で車掌さん役をやっていまして、セリフ量を調整してもらってね」
矢島「そうですね。当時、急遽公演が決まったんです。うちの福澤重文とお宮が本番前で重なってて。それで改稿して後半に出てくるボスキャラ的な存在にして、でもそれが逆にすごくはまって、とってもいい嫌な奴みたいな感じのキャラクターになったのがとても印象的で、作品としては質が上がった感じがしましたね」
お宮の松「その時、いっぱい逃げ場を作っとくから安心してこっちに来てよって、いざ劇場見たら四方から客が見える状態で(笑)。逃げ場ないじゃん!って言いながらやったことを覚えています」
―――でもやれてしまうお宮さん! その時の舞台を松村さんは観劇されていたそうですね。
松村「そうなんです! その時に初めてマハロさんを拝見して、矢島さんにも初めてお会いしました。印象的なタイトルで最初はどういう意味だろう、観たらこういう意味か!と。すごく感動してずっと出たいと思っていたんです。
今回、オーディションで読んだ台本が『余白を埋める』の一部だったのですが、あくまでオーディション用に過去の上演作品を代用していると思っていたので、実際の上演作品も『余白を埋める』だと知らされた時には本当に驚きましたし、とても嬉しかったです」
―――台本が手元にあると思いますが、作品に出会った頃の印象から変化はありましたか?
松村「そうですね、何も考えずにただ楽しく観ていた5年前と違って演じる側になったので、ピリッと緊張しています。しかも難しい役をいただいたので今からワクワクしています」
―――そして南さん、マハロ作品は初(出演)です。
南「はい、オーディションを受けました。マハロさんはまずオーディションの時からすごく温かくて。僕はオーディションが苦手で、空気感とかどうしてもアウェイを感じてしまうんですけど、矢島さんはじめすごく温かくて、オーディションだけれど一緒にワークショップをしながら1つの作品を作っていくような空気感があったので、僕もすごくリラックスしたことを覚えています。
自分が受かる受からないよりも、よりよくするにはどうすればいいのか考え、その場で起きているこれを作り上げたい、という感覚になる空間だったんです。その瞬間から、長い時間一緒に作品作りをさせていただけたら、絶対楽しいだろうなって思っていました」
―――オーディションから雰囲気作りをされていたと。
矢島「嫌われたくないのでね」
一同「(爆笑)」
お宮の松「マハロ全員そうです。明らかに年下だとわかっていても敬語から入ります。僕の場合、おごってくださいと言われないように敬語から入ってますから(笑)」
新しい私が爆誕すると思います
―――人生の折り返しをむかえた人々の過去と現在の葛藤は、誰にでも当てはまります。歳を重ねたことによる人間関係のザワつきをリアルに感じました。役どころについて意識していることなどお聞かせください。
お宮の松「僕は自分の人生観とか今までのことを全部(矢島さんに)話しているんですけど、ことごとく180度違うことをやらせるんですよ。感情も心境も言ったことと全然違うじゃない!と。
違う方向でやってくださいって言われるので、自分とは別人を演じてる感じですが、なるべく自分の方に寄せようとするんですよ。でも『はい、お宮さんの方に寄せないで』って怒られる。もうどうしていいのこれって」
矢島「明確にお笑いの人とは分けてますね。俳優さんたちは本が俳優さんに寄っていくんですけども、お笑いの人に関しては寄ってもらう」
―――段田は元キャプテンという役柄ですが、かき回す役どころです。
お宮の松「ちょっと情けなくてね。そこは矢島ワールドに委ねる感じで楽しみです。またどうなるのか、台本が毎回少し違うんですよ。キャラクターも多少変わってる感じもするし」
矢島「前回から6年経ってコロナ前でしょ。キャラクターも変わるし、どういう心境になるか、たぶんセリフ回しも変わってくるので、そのあたりをもう一度修正をして、大まかには変わんないけど劇場も違うので、そこも踏まえて印象は変わってくると思います」
―――今回も新たな段田さんを楽しみにしております。松村さんは先ほど難しいお役とおっしゃっていました。
松村「子供がいる役ですが子供を産んだことはないし、私と役に共通する境遇はないんですけど、まずそこをできる限り重ね合わせていって、イメージを膨らませて稽古に臨めたらなと。
ただ私はめちゃくちゃ真面目で考えすぎるところがあるので、そうならないように矢島さんに委ねつつ煮詰めていきたいと思います。とにかく今回、矢島さんの演出を受けられることがすごく嬉しいです」
矢島「知り合ってからは長いけど、演出はしたことないですもんね」
松村「マハロ作品は出会ってからほぼほぼ観てるんですよ。この間の『スープラに乗って』の(お宮の松が演じた)ダメ男も最高でした。お宮の松さんが本当にダメ男なのかなってちょっと錯覚するぐらいダメ男で。
今回は私も知らない自分が出てくるかもしれない。こんな私がいるんだ!となったらとても嬉しいし楽しみです。新しい私が爆誕すると思います」
―――そして南さんですが、この中ではちょっと成功した背景を持つ宮西役を演じます。
矢島「まあまあバカなキャラクターなんですよね。かっこよくて背が高くてスタイリッシュな人がやらないと意味がないので、南さんにピッタリです」
南「その中で生まれるものがあると思うので、楽しみながら演じていけたらと思っています。僕もバスケットボールをずっとやっていたので、現役の時もそうですが、大人になってから集まる感覚っていうのがすごく共感がありまして。
実年齢が30後半になって物語に近く、割と身近で起きてることもあったので、すごく共感というか、自分のことのように心にスッと入ってきました。役どころはいい意味で、空気を読めない感じを出していけたらと」
―――実際に運動部のメンバーと久しぶりに会うことはありますか?
南「同級生は何十年ぶりに会っても当時の感覚のまま会えますね。確かにいろんな役職とかお仕事の幅も違うんで、そこはちょっと気になります。機微に触れるので探り探り話して。
当時のままでいても一瞬そのままではいられないような瞬間もあるなっていうのが、家族ができて最近わかってきたというか。まさに僕の中ですごくタイムリーな話題でありテーマです。僕もいろんな要素をお渡しして新たな南を産み出していけたら」
キラーワードが詰め込まれています
―――先ほども出ましたが、出演者のオーディションをされたとのこと。南さんと松村さんの魅力についてお聞かせください。
矢島「松村さんは出会って6年ぐらいで、お仕事はこれからですがプライベートでご飯行ったり、知り合いの舞台で会ったりとかありますが、本人の言うように真面目だと思います。真面目さって、人からすると厄介だったりすることとかあるじゃないですか。もしかしたら人を傷つけるかもしれないし、嫌われる要素かもしれないし、でも本人にとっては長所であって。今回の役はそういう感じです。
元々お芝居ができるのは知っていたので、今回改めてちゃんと自分の目で確かめて、とても合うだろうなと思っています。新たにもう1つステージが上がったこの本で1番最初の先頭を走ってもらう、彼女がキーパーソンになってくるので、そういう意味ではとても楽しみです。
南さんはオーディションでしか拝見してなかったので、まだその場の印象しかないんですけど、役としてとってもぴったりだと思っています。ずんぐりむっくりな先輩たちが多い中で1人、ちょっとズレてる。彼の栄光が、物語のズレでもあるので、南さんがやったら面白いだろうなと思って、今回お声をかけさせてもらいました」
―――そして安定のお宮さんです。
矢島「彼はこの役を1回やっています。普通に生きてるキャラですが、その普通の熱心さがちょっとおかしくなって笑ってしまうというか、なんかムカついてしまうところがあって。中盤から出てきますがボスキャラ的な要素で出すつもりでいるので、最後に引っ掻き回してほしいなと思っています」
―――ワンシチュエーションで進んでいく、キャッチボールの回転が速い会話劇ですが、印象的なセリフが詰め込まれています。ご自身の注目ポイントなどをお聞かせください。
お宮の松「丁寧に丁寧にセリフを紡ぎ出して、相手に渡したいなと思っております。セリフを出す時に、出すことよりも出した時にどうキャッチしてどう返すんだと。矢島くんが感情や空気感を感じる完全な演出をつけてくるはずなので、そこに乗りたいと思います」
松村「私が一番印象的なのは、最後に私が言う言葉です。あれはみなさんに刺さるんじゃないかと思っています。あんなことを言っておいて、実はそこまで思っていない気がする。もちろんそれは嘘ではないんだけど、みたいな。
誰しも一度は感じたことのある、自分でもはっきり把握できない気持ちがセリフに散りばめられていて、あの人間味が出るシーンをみなさんがどう受け止めてくださるか楽しみです。それが伝わるような表現を構築していけたらいいなと考えています」
南「ある意味マイペースに突き抜けていきつつ、それがズレの一部を担えたらなというところと、あとはワンシチュエーションの中でセリフがないところの空間のつながり方も楽しみなので、お客様とも繋がっていけたら」
新たなチャレンジとなる作品に
―――ブラッシュアップを重ね、今回こだわっていきたいところは?
矢島「逆にこだわりは捨てなきゃいけないなとは思っています。6年前はまだ書けてたんですが、僕自身がワンシチュエーションというものが書けなくなっていて。
ドラマや映画の映像を重ねると、ワンシチュエーションの作品がなくなるんです。映像ってやっぱり自由自在で次のシーンに飛べるんですよね。翌日にも変えられるし、1年後にも変えられる。ある意味そこが難しさでもあるんだけども、演劇をやってきた人間からすると、それが逃げになるんですよね。
だから舞台でワンシチュエーションをやろうとセリフを長くして、シーンを伸ばせば伸ばすほど、自分が時間稼ぎをしているような感覚に襲われるんです。今自分がワンシチュエーションというものが書けるかというと、そこのメンタルが難しいというか、許せないというか、ワンシチェーションって無理が生じてくるんです。こんなタイミングで人は入ってこないだろうとか、こんな偶然はないだろうっていっぱいあって、そこが作家として許せなくなるんですよね。
でも今回はそれに久しぶりに挑みます。自分の作品で新たなチャレンジでしょうか。いかに今、長セリフを原稿用紙を黒くしないようにするかが課題と思っています」
―――そうなると、「斎場スタッフの小池さん」というキャラクターが、場面転換と空気を変えていくキャラですね。
矢島「そうですね。余談ですが、なぜ小池役の江藤萌生さんが受かったかっていうと、オーディションの終わりに彼女が『傘を忘れた』と入ってきて、その入り方が面白かったんです。彼女だったらこの役が合うかもと。オーディションを久しぶりにやりましたが面白かったですね。
6年経ってまた新しい物語になっていると思うので、ぜひいらしてください」
(取材・文&撮影:谷中理音)
プロフィール
矢島弘一(やじま・こういち)
1975年8月26日生まれ、東京都出身。2006年11月、劇団「東京マハロ」旗揚げ、主宰・脚本・演出を手掛ける。2016年には、2作同時上演を決行し、北九州芸術劇場でも公演を成功させる。更に同年放送のTBS『毒島ゆり子のせきらら日記』で第35回向田邦子賞を受賞。関係者から“女性の気持ちを描ける男性劇作家”として注目を集めている。劇団公演では、不妊治療や震災直後の被災地など現代社会が目を背けてはならないテーマを多く取り上げ、コメディ作品にもチャレンジするなど脚本の幅を広げている。
お宮の松(おみやのまつ)
1973年6月24日生まれ、福岡県出身。ビートたけしに弟子入り、漫才師として10年活動を行う。コンビ解散後、坂上忍作・演出の舞台『溺れる金魚』への出演をきっかけに本格的に舞台の世界へ。東京マハロ作品の出演は10作以上。現在は劇団員として活動する傍ら、ドラマや舞台出演、TBSラジオ「爆笑問題の日曜サンデー」サンデー中継くんや、テレ玉「RIZIN魂」ほか格闘技関連のMCなど、幅広く活躍中。
南 圭介(みなみ・けいすけ)
1985年7月3日生まれ、東京都出身。俳優活動のほか、ウズベキスタン観光大使、白神山地魅力発信アンバサダー、世界遺産検定マイスターや、世界遺産アカデミー認定講師など、幅広い活動で注目を集めている。朝日放送「朝だ!生です旅サラダ」海外リポーターも担当。幻冬舎「GINGER」WEBコラム「南の旅」連載中。2025年3月より、MANKAI STAGE『A3!』ACT3! 2025 栗生善役での出演が決定している。
松村彩永(まつむら・さえ)
1987年7月7日生まれ、東京都出身。劇団新派に入団し、波乃久里子に師事する。大役への抜擢も多く、6年間で40作品1,500ステージ余りに出演し退団。舞台出演のほか、スキンケアモデル、ピラティスインストラクターなど活躍は多岐に渡る。主な出演作に、演劇ユニットnu-ta『父と暮せば』主演、演劇ユニットnu-ta『杏仁豆腐のココロ』主演、松竹×梅芸 浪漫活劇『るろうに剣心』雪代巴役など。
公演情報
東京マハロ リバイバル公演 produce by テッコウショ『余白を埋める〜エリカな人々2024〜』
日:2024年12月18日(水)~22日(日)
場:赤坂RED/THEATER
料:前売6,000円 当日6,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.tekkosho.jp/stage/yohaku2024/
問:テッコウショ制作部
mail:tekkosho.staff@gmail.com