受け継がれてきた能・狂言の演目に、分かり易い解説やトークを加えて 狂言方に野村万作・野村萬斎が出演

 能楽は日本文化の根幹の1つであり、誇るべき文化だ。海外の識者から高く評価される一方で、現代の日本人にとっては距離がある文化になってしまった。そのため能楽師たちは、人々に興味を持ってもらえるよう、様々なアプローチを試みている。宝生流シテ方 佐野登が、一般社団法人未来につながる伝統と共に主宰する『未来につながる伝統』公演もそのうちの1つ。今年の12月で8回目の開催となり、今回も能と狂言に加え、演目の解説やスペシャルトークが盛り込まれる。

 「普通の公演といえばそれまでですが、その中に工夫をしています。1つは演目の解説で、進行役がお客さまの代表となって質問をする形式にしています。もう1つ、トークパートでは毎回ゲストをお迎えしています。今回はお互いに長野県・小布施に深い縁があるということで、日本画家・中島千波さんにお願いしました」

 狂言『萩大名』でシテを務めるのは野村万作。

 「野村家とは古くからご縁があり、万作先生に狂言をお願いしました。お互いに同郷(どちらもルーツは金沢)なもので昔から親しくしています」

 2023年に文化勲章を受章し、現在93歳の万作の舞台は、それだけでも眼福だ。そして、能の演目は『八島』。源平合戦における屋島の戦いを題材にした作品だ。

 「能の演目の中で義経の一生を追っていくものは沢山ありますが、『八島』は唯一義経が主役で出る曲です。さらに今回は『奈須與市語』という小書を加えています」

 “小書”とは公演チラシなどで演目の横に小さい文字で書かれているもので、特別に施される演出を指す。今回は屋島合戦での「扇の的」の逸話でよく知られる奈須(那須)與市の物語が、間狂言として盛り込まれる。この部分は狂言方が演じるが、今回は野村萬斎が務める。

 「僕が高校生くらいの記憶を辿ると、能楽の公演は演目の間に休憩時間すら無かったですし、もちろん始まる前の解説終わった後の質問タイムもなかったです。それでもお客さんが自ら感じ取ったり考えたり、時には予習したり。そんな関係性が出来ていたのですね。私たちの活動名である『未来につながる伝統』という視点から考えると、分かり易いように演出を変えてしまうのではなく、本来の形を見せた上で興味を持ってもらえるように話や解説をつけるべきだし、それが私たちの役割だと思います」

(取材・文:渡部晋也 撮影:友澤綾乃)

プロフィール

佐野 登(さの・のぼる)
東京都出身。宝生流能楽師シテ方。18代宗家宝生英雄に師事。全国各地での演能活動と並行して、積極的に謡曲・仕舞を指導している。「生きる力」をテーマにした学校・幼児教育でのワークショップや、謡つながりのコミュニティ創出と新たな価値観の創造、能を実際に体験していく中長期的プログラム、能楽謡隊を全国で組織する。さらに海外公演への参加や他ジャンルのアーティストとの交流も多く、現代に活きる能楽を目指した積極的な活動を展開する。2024年に団体名を一般社団法人日本能楽謡隊協会から、「一般社団法人未来につながる伝統」に変更。

公演情報

『未来につながる伝統』―能公演―

日:2024年12月22日(日)14:00開演(13:00開場) 
場:宝生能楽堂
料:S席[正面]10,000円 A席[脇正面]8,000円
  B席[中正面]7,000円(全席指定・税込)
  自由席[脇正面後方]一般5,000円
   学生3,000円 ※要学生証提示(税込)
HP:https://www.nohgaku.jp
問:一般社団法人未来につながる伝統
  mail:shihoukai202@gmail.com

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