松山バレエ団の『くるみ割り人形』は、今年で43年目の上演を迎える同団の人気レパートリー。少女・クララが王子との出会いと別れを通して心の成長を遂げる姿が描かれていく。今年もクララを踊るのは、日本を代表するバレリーナ・森下洋子。
「通常、ファンタジーとして描かれることが多いですが、松山バレエ団の『くるみ割り人形』は少女の心の成長と機微をとても丁寧に描いています。楽しい作品ですが、観終わった後に“涙が出ました”という声も多くいただきます。クララはどんなことがあっても明るく前向きに考え、良い方向に導いていく、どこまでも純粋で前向きな少女です。私自身に少しでも重なるところがあるとするならば、前向きで物事をプラスに考えるようにしているところでしょうか」
その根底には自身の祖母の姿があるという。
「私の祖母は広島の爆心地近くで被爆をしました。でも、彼女はとても明るく、一切愚痴を言いません。そんな祖母の心の強さと輝きに通じる、人間の心の美しさをバレエを通して少しでもあらわせられるようにと思い、日々稽古に努めています」
初演以来、演出・振付は総代表の清水哲太郎が務め、毎年のように手が加えられているという。成長し続ける本作を「全ての場面が愛おしい」と森下は語る。
「“グラン・パ・ド・ドゥ”の場面の曲の素晴らしさなどは毎回、稽古のたびにつくづく心深くしみわたるように思います。また、松山バレエ団だけにある“別れのパ・ド・ドゥ”。人と人が出会い、別れる、でもその別れは永遠に魂に刻まれる。それは出会いの喜びそのものでもあるという、人生の切ないけれど美しい大切な真理を描いており、多くの方の心に生きていること、出会うことの輝きなどを感じていただけたらと願って稽古に取り組んでいます」
毎年必ず足を運ぶファンも多いという本作。最後に舞台への想いと、メッセージを聞いた。
「松山バレエ団は“芸術は人々の幸せのためにある”という想いをもって活動を行ってまいりました。『くるみ割り人形』もただ綺麗なだけではない、心深い感動をお届けできるようにと毎年心を込め作品を磨いています。今年もクリスマスにみなさまにお目にかかれますことを嬉しく思っています。明日への活力になるような希望や勇気、あたたかい愛や信じることの確かさをバレエ団全員で心を合わせて紡ぎ出せればと思います」
(取材・文:小野寺悦子 撮影:エー・アイ)
プロフィール
森下洋子(もりした・ようこ)
1948年、広島市に生まれる。3歳よりバレエを始める。1971年、松山バレエ団入団、松山樹子に師事。芸術選奨文部大臣新人賞受賞。1974年、ヴァルナ国際バレエコンクールに清水哲太郎と出場し、金賞受賞。1年間の文化庁在外研修員としてモナコに留学、マリカ・ベゾブラゾヴァ女史に師事。1976年、『白鳥の湖』で文化庁芸術祭大賞を受賞。以後、世界各国に活躍の場を広げる。1976年の初共演をきっかけに、1977年にはロンドンにてエリザベス女王戴冠25周年記念公演でルドルフ・ヌレエフと踊る。同年、文化庁芸術祭大賞を『ジゼル』で清水哲太郎と共に受賞。1978年、芸術選奨文部大臣賞受賞。1982年、日本人で初めてパリ・オペラ座に出演。1985年、日本人唯一となるローレンス・オリビエ賞受賞。現在、舞踊歴70年を超え、なお一層表現を深める活動を行っている。
公演情報
松山バレエ団『くるみ割り人形』全幕
【東京文化会館 大ホール】
日:2024年12月8日(日)15:00開演(14:15開場)
料:GS席16,000円 S席14,000円 A席10,000円
B席6,000円 C席4,000円(全席指定・税込)
【神奈川県民ホール 大ホール】
日:2024年12月20日(金)18:30開演(17:45開場)
料:GS席15,000円 S席13,000円 A席9,000円
B席5,000円 C席4,000円(全席指定・税込)
※他、子供券・学生券あり。詳細は下記HPにて
HP:https://www.matsuyama-ballet.com
問:松山バレエ団
tel.03-3408-7939(10:00~18:00)